「さあ、どうだ! 前回の傾向を踏まえ、今日は魔術関連の品々を持ってきたぞ!」
クベーラを前と同じログハウスへ案内すると、また以前のような商品発表会が行われた。
今度はテーブルを三台も動員した、選り取りみどりの大風呂敷である。
私と神綺は、机上に置かれたそれらを眺めながら、天界産のめぼしい品物を見繕っている。
クベーラが胸を張るのも頷ける、錚々たる面々が連なっており、以前より質も量も段違いだ。
彼のような商人が活躍しているために、品物の供給も増えているのかもしれない。
しかし、魔術的に前回より上質とはいえ、並んでいるのは簡素な仕組みの品々ばかりだ。
作り上げた事自体は凄いと感心はするものの、私個人が欲しいと思えるような品物は、一見して見当たらない。
前回はオーレウスの著書というイレギュラーがあったから交渉に応じたが、はて、今回はどうしたものだろう。
「目移りするかね。するだろう。特上のものばかりだからな」
それだけに、クベーラに満ち満ちている自信を見ると、ちょっと申し訳なくなる。
だが、彼もあまり魔術に詳しくないのだ。自分でもあまりよくわかっていない物を売りつけるわけなのだから、相手が買い取ってくれないという可能性も考慮すべきだろう。
今回は丁重にお断りして、また数千年後に来てもらおうかな……。
「ライオネル、これを見てください」
「うん?」
私が眼力の強いクベーラに、どうお断りを申し上げようか悩んでいると、神綺が品物のひとつを指さし、私を呼んだ。
「これ、魔術的なものではありませんよね」
「うーん……?」
言われるがままに、神綺の指差す場所にあるそれを手に取った。
確かに、彼女の言うように、魔力的な機構があるとは思えない手触りだ。
杖のような棒きれだが、そこに触媒が備わっているわけではない。
魔力の消費機関のない、ただの棒。いや、むしろ節くれだった、ただの枝である。
それが、第一の感想であった。
「む?」
が、手は途中で止まった。
何気なしに枝の表面を撫でていただけだったのだが、指先が違和感を感じ取ったのだ。
「クベーラ、これは?」
「む、それか。それは確か、辺境の土地で手に入れたものだったな。穢れに対抗するための試作、だという説明を聞いたが」
「穢れに対抗……? 何かの研究の成果、ということか……?」
「うむ。まぁしかし、なかなか上手くいってないそうだぞ。それも、製作途中で諦めた物だそうだ」
「……」
穢れに対抗する道具。
それは、原始魔獣に対抗する道具という意味だろうか。
それにしてはこの枝切れは、あまりにも攻撃力に乏しいと言わざるを得ないのだが……。
「クベーラ、少しこれをいじってもよろしい?」
「……壊したら、買い取ってもらうが」
「わかった」
まぁ、壊したら壊したでそういう実験だったということだ。
試すことに価値がある。ともあれ許しが出たので、早速色々な反応を伺ってみよう。
「まずは魔力との反応」
左手に枝を握り、右手をかざし、様々な部分に力をあてがう。
予想通り、枝は魔力に対して何らかの反応を示すわけではなく、作動する様子は欠片も見られない。
しかし魔力自体の通り道はあるらしく、植物の持つ道管に近い部分を通るようにして、魔力は綺麗に流れていった。
反応するわけではない。しかし、これで魔力の経路が判明した。
経路があるということは、魔力を通す前提の道具であるということだ。
これはただの枝ではない。普通の枝では、ここまで綺麗な一方通行で魔力を運ばない。
繊維状の中に、人為的に造られた管があるに違いない。
この時点で、枝が只者の手によって生み出されたものでないことが判明した。
よしよし、こうでなくては。面白くなってきたぞ。
次は、出力方向の特定だ。
魔力の通り道がわかったなら、その正しい方向を理解しなくてはならない。
この枝に魔力を消費するための機関は存在しないが、通り道がある以上、正しい方向は定められているだろう。
「……魔力注入」
握った枝の根本から、魔力を注ぎ込む。
すると道管を通り、枝の全体を過ぎ去って、私の押し込んだ魔力は枝の上部からいくつかの穴を通り、抜けていった。
やはり、発動する様子はない。
しかし、おそらく植物の枝を模しているのであれば、魔力方向はこれで正しいはずだ。
「……興味深い」
私は総評として、一言、そう零した。
「気に入ったようだな、ライオネルよ」
「あっ……」
そして、呟きはクベーラにしっかりと聞かれていたのだった。
悔しい。でもお買い上げである。
仕方あるめえ。