東方遺骸王   作:ジェームズ・リッチマン

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 きっと、ヤゴコロの作ろうとしているものはもうちょっと単純なものだ。

 しかし、完成目標がわからないのでは、私としても考えようがない。

 私はこの数千年間で様々な魔力収集植物のサンプルを作ったが、どれもパッとしないものばかりだった。

 

 ヤゴコロは日本の神だ。

 日本の領土は、ちょっと前に生まれたばかり。

 彼女は日本の大地を浄化しようとしている。

 はて、彼女は一体何をどう浄化しようというのか。

 

「そうだ、聞いてみるか」

 

 もちろん日本神の住まう高天原ではない。

 この前訪れた、オーレウスの集落へと行くのである。

 

 あそこも、穢れ……原始魔獣や魔族達の被害から逃れてきた歴史がある。

 彼らなら、そしてオーレウスなら、何か知っているかもしれない。

 

 私はわずかなヒントを求め、再び魔界の地を後にした。

 

 

 

 

 

「ライオネルは、また外界に?」

 

 私がサリエルのもとを訪れると彼女は頷いた。

 

「オーレウスのもとへ行くのだという。行き詰っていたからな、賢明な判断だろう」

「オーレウス……そう」

 

 サリエルは魔界を見通す眼を持っており、誰がどこに居るのかがすぐにわかる。

 私も似たような力は持っているけれど、精度は彼女に遠く及ばない。

 何より、私は神綺。魔界の神だ。外界へ出ることができないので、サリエルとは違って外でライオネルの力になれない。

 これは、神として生まれた私の、唯一の欠点であるとも言えた。

 

 私はいつも、肝心な時に、ライオネルのお傍にいられないのだ。

 

「まぁ、彼もまたしばらくすれば帰ってくるだろう。そう落ち込むことはない」

 

 表情に出ていたのだろう。サリエルは励ましてくれた。

 

「ライオネル、今回の研究はかなり力を入れているように見えるわ」

「私も付き合いは長くなってきたように感じるが……いつもあれくらいではないのか」

「ううん、最近のは特に、という感じなの」

「ほう」

 

 確かに、ライオネルはいつも研究熱心だ。特に魔術が絡むと、時間を忘れて何年も同じ部屋に篭もることだって多い。

 今回の植物だってそうだ。彼は何百年も同じ建物の中に入ったまま、戻ってくることがなかった。

 

 ……ライオネルは、外界が好きなのだろう。

 前に恐竜をたくさん連れてきた時も、度々外界へと移動しては研究を続けていた。

 

 ……魔界が美しく、豊かであれば。

 ライオネルはずっと、こちら側にいると思ってたのにな。

 

「……ライオネル、桃の木で何を作りたいのかしら」

「さあな。それを外界へと探しに行くのだろうさ」

 

 外界。いつも、外界。

 

 ライオネル、あなたは最初から外の世界を求めていたけれど……では、この魔界は、あなたにとって、一体何なのでしょうか。

 私にはわからない。

 

 

 

「……神綺」

「え?」

 

 落ち込んでいると、サリエルが瞳に強い魔力を宿し、私の名を呼んだ。

 彼女の表情は、いつになく固い。

 

「魔界に誰かが来た」

「誰かって? ……ああ、確かにそんな感じがするわね。クベーラかしら」

「いいや、違う」

 

 私にも進入を感知する能力はある。けど、見通せるわけではない。

 サリエルは何を見通したのだろうだろう。

 

「今までに見たことのない奴がやってきた。……それも、堂々と威圧的な力を湛えてな」

「……あら」

 

 サリエルがその手に生命の杖を握り、六枚の翼を大きく広げた。

 

 ここは“堕ちたる神殿”。サリエルが作った、魔界の中の彼女の居場所。

 彼女はここで魔界のあらゆる場所を見通し、警戒し続けている。

 

 彼女の幽玄魔眼がその姿を、魔力を捉えたのだ。

 侵入者の特徴は、きっと正しいのだろう。

 そして、サリエルが警戒することも、きっと。

 

「魔界に侵入者だなんて、懐かしいわ」

 

 昔、原始魔獣が沢山やってきた時の事を思い出す。

 彼らは皆動けない者達ばかりだったけど、今回の侵入者は、まだ動く。それも、敵意を持っているらしい。

 

「神綺よ、私はライオネルとの盟約により、魔界の秩序を守るために出動する。お前は?」

「もちろん、一緒に行くわよ」

 

 私も背中に黒い六枚羽を広げ、宙へ浮かんだ。

 

「ライオネルの不在に魔界を守るのも、私の役目だもの」

 


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