東方遺骸王   作:ジェームズ・リッチマン

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 石塔の平原。

 かつてライオネルが魔界の大地から切り出した石材を組み、幾つもの塔を乱立させた過去がある場所だ。

 塔といっても、意匠を凝らしたものではなく、ただの直方体の石を縦長に組んだだけの建造物である。

 入り口もなければ、内部に何が安置されているわけでもない。

 そんな無意味な塔が、いくつも並んでいるのだ。

 

 コンガラは丁度、その領域の端まで吹き飛ばされたのだろう。

 彼の周囲には、いくつかの懐かしい石塔が見られた。

 

「……来い」

 

 瓦礫の上で、コンガラが剣を構える。

 先ほどの殴打も、大してダメージはなかったようだ。

 もう少し痛めつけてやらないと、不敵な態度も改まらないのかしらね。

 

「じゃあ遠慮無く」

「!?」

 

 私はコンガラの目の前に瞬間移動し、彼の脳天に手を翳した。

 来いと言われた後だ。準備をしていなかったほうが悪いに決まっている。

 

「えい」

 

 掌から原初の力により、強大な力の塊を構築する。

 凝集された力は、発現と同時に崩壊し、膨張する魔光の爆発となって、コンガラを呑み込んだ。

 

「あら、本当に頑丈。まだ死んでない」

 

 しかし、コンガラは死んでいなかった。

 莫大なエネルギーに飲み込まれてもなお、彼は内に宿す炎を弱めず、ボロボロになった外側の身体で踏ん張っている。

 

「わ」

 

 そればかりか、剣まで突き出してきた。

 未だ吹き荒れる破壊の炎と嵐の中で、彼はほとんど使い物になっていないような身体を酷使し、私に歯向かってくる。

 

 鈍らない剣の動きは、私の打ち出す魔弾を弾きながら、攻撃に転じようという速度で振られている。

 こちらも魔弾の配置や量を増さなければ、すぐさま剣の一撃を食らってしまいそうだ。

 

 頑丈。それに、私を倒そうという強い意志が感じられる。

 半分近く壊れた顔面からは、恐怖も躊躇いも無い、水のような冷静さが見て取れた。

 

 正確かつ鈍らない動き。折れず揺らがない精神。

 

 それは、まるで……。

 

「ゴーレムね」

「ぐあ」

 

 両翼に込めた力を収束放射し、形成されたレーザーでコンガラの胴に赤熱の×印を刻む。

 まともに直撃したレーザーは彼を切断しないまでも遠くへ吹き飛ばし、地べたに這いつくばらせることに成功した。

 

 うつ伏せに倒れたコンガラは、意識が残っているようではあるが、動かない。

 そろそろ戦意も削れてきたかしら。

 

「ねえ。地獄の人って、貴方を殺せばもうここに来ないのかしら」

 

 コンガラのすぐ傍に瞬間移動し、私は訊ねた。

 

「それとも、貴方が“来るな”って、伝言を頼まれてくれるのかしら」

 

 手の中に、石製の楔を生成する。

 もしこのままだんまりを貫くというのであれば、これを一発ずつ打ち込んでやろうと思う。

 私は、この男のために待ってやる必要など無いのだ。

 

「言っておいてほしいのよね。“魔界は魔界、そちらの世界の都合を押し付けるな”って……」

「……“焦熱”」

 

 楔弾を手の中で弄んでいたその時、コンガラを中心に巨大な火炎が発生した。

 炎はあっという間に辺りへ広がり、私までをも包み込む。

 

 手中にあった石製の楔は一瞬のうちに融解し、消えて無くなった。

 

 この……炎。普通のものでは……。

 

「そこまで拒むのあれば、致し方ない! 貴女も地獄の坩堝で熔かされるが良い!」

 

 視界のすべてが炎に埋まる。

 赤い熱の暴力だけが、五感を焼きつくす。

 

「地獄へ来なさい! 魂を洗いなさい! そうすれば、来世の貴女は……!」

「くどいわね」

「グッ!?」

 

 いい加減に面倒な男だ。

 

 私は炎に焦がされたまま、地べたに這いつくばるコンガラを思い切り蹴り上げた。

 

 コンガラは、巨大な炎の尾を引きながら宙を飛び、鋭い放物線を描いて遠ざかってゆく。

 発生源であるコンガラが付近から消えたためか、私に纏わるしつこい炎も消え去ったようである。

 

 すると、飛んでゆくコンガラの姿がよく見えるようになった。

 

「無様ね。魔界に喧嘩を売るからそうなるのよ」

 

 遠くで小さくなるコンガラに向けて、指を向け、意識を集中させる。

 

 空間接続。

 イ座標は七百三メートル向こう側の上空二十メートル。

 ロ座標は直列呼び出し倉庫塔。

 

「潰れて死んじゃえ」

 

 私はコンガラの飛んでいった遠方の上空に、塔のように巨大な鉛製の柱像を出現させ……。

 

 そのまま、そろそろ地面に打ち付けられそうになっていたコンガラを、真上から押し潰してやった。

 

 


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