東方遺骸王   作:ジェームズ・リッチマン

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「おお?」

 

 地震発生。

 震度はそこそこ。

 森からは鳥達がはばたき、空に向かって逃げてゆく。

 

 鳥達の洗練された羽ばたきが青空の中に遠ざかり、消える。

 

「震度4くらいか」

 

 具体的な基準は忘れたが、体感では先ほどの地震は、きっとそのくらいであろうと思う。

 予兆らしいものもなかったのだが、大きめに揺れた。

 意外と震源は近いのかもしれない。

 

 まぁ地震くらい、長く生きていればいくらでも経験するものだ。

 これもまた、そのうちの一つである。

 

「さて……それにしても」

 

 近頃はなかなか面白い現象が、地上を覆っているようだ。

 それは、地質や気候の変動ばかりではない。

 

 

 

 私は数年ほど地上を歩きながら、ちょっとした環境の変化と、生態系の変動を観測していた。

 テーマは当然、“穢れ”に関する調査である。

 高天原の神族、ヤゴコロが作ろうとしていた、不思議な人工植物の用途を掴むため、私はこうして旅を続けているのだ。

 

 ……といっても、実のところ、既になんとなくではあるが、予想として“こうだろうな”というのは考えついている。

 そして、私が見つけた環境の変化は、おそらく私の推論を裏付けるものであるに違いない。

 

「なるほど、これもまた“穢れ”なのかもしれないな」

 

 私は小高い丘の上から、遠方にある廃墟群を眺めていた。

 

 おそらく、地上に降りた神族たちが建てたであろう建築物だ。

 それらは打ち捨てられ、今ではそのほとんどが形を崩している。

 建築物の跡は非常に多いので、そこそこの規模の町だったのだろう。

 

 だが、町はどういう要因でか、滅んでしまった。

 そこには一人の神族の姿もない。

 

 唯一あるのは……廃墟群一帯を緩やかに漂う、非常に魔力的な力の残滓だけだ。

 

「ふーむ」

 

 特に危険は無いと判断した私は、廃墟へと降り立った。

 私が辺りを見回すと、廃墟に住み着いていたのだろう、小動物達が慌ただしく離れ、隠れてゆく。

 

 動物が住み着くくらいだ。もうここは、人が離れて随分と経つに違いない。

 

「……それに、これだ」

 

 先程からふわふわと漂っているこの魔力。

 これは、高次自由魔力だ。

 

 私が巨大隕石によって地球に埋め込まれ、どうにか這い上がって来た時には、こういった存在が多く見られていたものである。

 

 高次自由魔力。いわば、ゴースト。幽霊。

 これらは基本的にほとんど魔力のようなものであるが、我々術者によって扱うことができない、ある意味で“使えない燃料”である。

 性質は魔力と同じで、精霊として辺りをきままに浮遊し漂っているだけなのであるが、我々術者によって縛られず、それゆえに他の魔力と混合されない点で、高次、と名づけておいた。

 魔力的破壊耐性も強く、ちぎれてもすぐに修復して結合するので処理は難しいのだが、消えないというわけではない。強い力であれば、あっさりと消滅してしまう、脆弱な存在だ。

 

 だが、どうもここに浮遊する高次自由魔力は、私がかつて見てきたものよりも、数段上の性能を持っているようである。

 

「……幽霊みたいに、意志を持っているのかな」

 

 ここに存在する……まぁ、もういいや。幽霊は、どれもきままに動いてはいるが、どこか動きのパターンが生き物のようである。

 朽ちたドアを潜ったり、他の幽霊の後を追ったり、立ち止まったり……。

 まるで、この町で亡くなった神族を思わせるような振る舞いだ。

 

 これは、無害なのだろうか。

 いや、無害というわけではない。高次自由魔力が多く存在する場合、それらは次々に合体し、大きくなって原始魔獣へと進化するのだ。

 ここに集まっている霊達も、今はまだどれも漂ってはいるが……時とともに合体を始めることは、有り得なくはない。

 その証拠に、こうして見ているだけでも、既に数倍単位のサイズの霊も見受けられる。

 

 ……彼らが合体すると、どうなるのだろうか。

 かつてのように、原始魔獣となるのか?

 

 ……いや、だがこれらは、多少なり意志を持っている。

 もしもこれらは意志を持ち、それらが集まり原始魔獣となったのなら……一体、何が起こるのだろう。

 

 

 

「おお、このような危険な場所にやってくるとは……これ、早く立ち去るのじゃ。この地は穢れに満ちておるぞ」

「!」

 

 私が浮遊する霊を見ながら考え事をしていると、背後からしわがれた声がかけられた。

 

 


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