東方遺骸王   作:ジェームズ・リッチマン

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 アリスの兵士ゴーレムは五十体。指揮官人形も五体いるが、あれは手元で兵士の操作を行うコントローラーのようなものだろう。

 ゴーレム全てを独立して操作するのをマニュアルと呼ぶならば、あの人形を介した操作はオートマと言えるのかもしれない。

 

「さあ、中央から食い破りなさい!」

 

 ゴーレムの軍勢が魚鱗の陣を形成し、突撃する。

 中央ほど突進の勢いが強く、端の方は防御を意識しているのか、慎重だ。

 ならばその特徴的な陣形も人形の動きに現れているのではと思い、アリスの方を見てみると……人形は五角形を形成するようにして、アリスの前でゆったりと回っていた。どうやら人形の並びや動きで相手に戦法を悟らせないようにしているらしい。

 

「ふむ、面白い」

 

 相手に術の運びを読ませない。当然のことではあるが、しっかりとそれを意識しているのは好評価だ。

 しかし、そのゴーレムが人間と同じような動きしかできないのであれば、少々落胆ものだぞ。

 

「“直進する氷塊”」

「!」

 

 虹色の書入門編、水属性単体単発。

 何の捻りもない実直にすぎる氷の塊が、最前線の兵士の頭上をすり抜け、アリス目掛けて射出された。

 

 だが、氷のサイズは直径二メートル。ぶつかればただではすまないだろう。

 重量にしてほぼ四トン程だ。速度は時速百キロメートルを越える。当然、この質量を人間の力で受け止めることはほぼ不可能であろう。

 さあアリスよ、どう防ぐ。

 

「ラム、2!」

「む?」

 

 アリスの指が目まぐるしく動き、同時に人形が、そして両端最後尾に控えていたゴーレムが大きく跳躍した。

 左右から三体ずつ飛び出したゴーレムは、それぞれが巨大な破城槌を手にしており……。

 彼らがその二つの破城槌を空中で振り下ろすと、重心を撃ち抜かれた氷塊は木っ端微塵に砕け散ったのであった。

 

「良いコンビネーションだ」

 

 跳躍、パワー、それぞれ良し。

 氷を打ち壊すために二体のゴーレムが変形し、破城槌となった。どうやらゴーレム自体を武器に変えることで、様々なトラブルに対処していくスタイルのようだ。

 面白い。だが、手持ちが48体に減ってしまったな。

 

「ならばこっちは12体だ」

「うえっ!?」

 

 ロードエメス多重生成、12体。忠実なる私の建築作業員が横並びになって現れた。

 アリスの兵士ゴーレムの丁度四分の一の兵数であるが、ポテンシャルそのものは向こうよりも上だろう。

 

「いけ、鶴翼の陣。包囲殲滅だ」

 

 本来鋭い中央突破を目論む陣形に鶴翼の陣を形成するのはあまりよろしくないのだが、それは中央を突破できたらの話。

 確かに破城槌やら兵数を凝集すれば通常のロードエメスを押し込むことはできるだろうが、今回の闘いはアリスの技術を見極めるためのものだ。

 悪いけども、そう容易く抜かせはしない。

 

「“ロードエメス・アダマン”」

 

 12体のロードエメスのうち、中央二体のロードエメスに魔法を重ねがけ。

 地面から更に多量の土を吸収したロードエメスは、その体躯を更に大きく膨らませた強化ゴーレムへと進化した。

 

 鎧騎士のような身体はたくましい大柄に。

 ずんぐりとした両手足は、巨大な建材を軽々運ぶことができるちょっとした重機だ。

 

「なんでこんな咄嗟に……いけ!」

 

 二体の大型ゴーレムを見て瞬時に火力不足を悟ったか、アリスは魚鱗陣の中央部からも複数の破城槌を生成した。

 陣と陣が互いに衝突し、土と土の兵士が轟音を上げる。

 特に大きな音が上がったのは、やはり中央二体のロードエメス・アダマン。

 アリスは一体につき二つの破城槌で襲いかかり、アダマンの太い両腕を鋭く殴り抜いてみせた。

 

「嘘、これ耐えるの……!」

「ふむ」

 

 が、アダマンを壊すには一歩及ばない。二体とも腕に罅は入っているが、逆に相手の破城槌を殴り壊すだけの力があったようだ。

 中央は問題なし。だが……。

 

「なら、左右から!」

 

 端からの攻めは、苛烈だった。

 元々ロードエメスを少なく出したので当然ではあるが、一度に三体以上のローマ兵に襲いかかられて厳しかったらしい。

 アリスの正確無比な操作によって、鶴の翼は瞬く間にもがれてゆく。

 そうなると孤立するのは中央二体の強兵、二体のロードエメス・アダマンだが、それでも何体かのローマ兵を殴って破壊するほどの働きは見せているらしい。

 

「あの二体最優先! 後ろからも波状攻撃よ!」

 

 ……いや、それも長くは持たないだろう。善戦してはいるが、後方から絶え間なく飛びかかってくるローマ兵士達の破城槌によって、次第に大きな身体が崩されてゆく。

 それに倒せば倒すほど、ローマ兵は動きがよく……ああ、なるほど。兵士ゴーレムは何体かをセットにして、一つの人形で指揮していると。

 破城槌は攻撃力の付け足しであると同時に、動かす兵士を減らすことによって機動力と攻撃力を底上げする役目も担っていたわけだ。

 

「よし、突破!」

 

 感心している間に、ついにロードエメス・アダマンまでもが打ち砕かれた。

 全滅だ。見事なものである。硬めの小型ゴーレムさえも突破してしまうとは……何よりその操作の手際が素晴らしい。

 

「行きなさい! そのまま本体ッ!」

 

 だが、ドラゴンはそれほど優しくない。

 もっと大型の、より強力なゴーレムが破壊できないようでは、合格点をあげるわけにはいかないな。

 

「見事だアリス、これを破壊できたら貴女の勝ちでいいだろう」

「喋ってる暇があるかしら!? いけ――」

「“ガシャガシャドクロ”」

 

 私の目の前の土が大きく隆起し、寸前まで迫っていたローマ兵達を吹き飛ばす。

 

「なっ……」

 

 兵士の勢いはそれはもう凄まじいものであった。

 だがそれも、勢い良く跳ねた地面には無力であったらしい。突撃に勢いはあったが、兵士たちは一気に中間距離まで転がされてしまった。

 

「なにそれ……ほ、骨……?」

 

 私の前に隆起した土は、人骨の腕。

 肘から指先までで五メートル以上の長さがあるだろう。

 

 それが地面に手をつき、力を入れるかのように震え……段々とその全貌を、ゆっくりと、地の底から這い上がるかように露わにしてゆく。

 

「わ、わ……え、ご、ゴーレム!?」

「“ガシャガシャドクロ”、今回は上半身のみだが――」

 

 それは巨大な人骨ゴーレム。

 怪獣特撮も真っ青になるようなサイズの上半身ゴーレムが、巨大な顎をガチガチと鳴らして、小さなローマ兵を威嚇する。

 

「操作に大きな手心は加えない。さあ、ローマの危機を救ってみせよ!」

「嘘!? あんなのどうしろっていうのよー!」

『ウゴォオオオオ』

 

 巨大な人骨ゴーレムが腕を振り下ろし、平原の一部が地響きとともに陥没した。

 同時に四体近くのローマ兵が原型すら残さず土へと還る。

 

「くぅ……! こ、こんなのっ!」

 

 アリスは潰れたゴーレムを見て身震いしたが、すぐに戦意を取り戻すと、数の減った兵士を再び操り始めた。

 

「さあ、いざ尋常に勝負だ」

「どこが尋常なのよ! 反則よ!」

 

 ごもっともである。

 

 


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