東方遺骸王   作:ジェームズ・リッチマン

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『ロードエメス・アダマン3ポイント。強力な魔力打撃による圧壊ボーナス100ポイント。ノーヒントボーナス100ポイント。……ヒント無しで挑戦しゴーレムを倒すと、ボーナスポイントを取得できます』

「さっきと何が違うのかねえ」

 

 土人形は、岩より少し硬い程度の手応えだった。

 しかしその程度。あの細さ、動きの鈍さでは何の意味もない。

 鬼が相手するまでもなく、そこらの妖怪でもぶっ壊せそうなものだった。

 

 見かけが嵩増ししたから多少は手応えも出るかも思ったが、そうでもなかったらしい。

 最初のやつと同じで、これもまた一発だった。

 

『――第三形態“ロードエメス・ニグレド”』

 

 しかし、これだ。

 看板でもそうだったが、こいつはすばやく復活してのけるのだ。

 そればかりか姿を変えて……おそらくだが、さっきよりも強くなっているように見える。

 

 先程よりもさらに一周り大きくなり、黒っぽく、何より炎に近い熱を帯び始めていた。

 土人形にしちゃあ、随分と手間のかかりそうな細工に見える。

 

『挑戦前に弱点と攻略のヒントをお伝えできます。お聞きしますか?』

 

 癪だ。馬鹿にされている。

 そうは思うが、こんな芸を凝らしてまですることかね。とも思ってしまう。

 

「ふう」

 

 そう思うと、私は少しだけ冷静になれた。

 長い金の髪を後ろに流して整え、額の赤い一本角についた土汚れを指で払う。

 

「話すってんなら、聞こうじゃないか。ただし、手短にな」

 

 私は腰帯に括った土瓶を手にとって、その中身を呷った。

 中身は酒虫のものではなく、どこぞの職人らに作らせた強い酒だ。誰だったかは覚えちゃいないが、味は気に入っている。

 私は酒虫による酒の味が、いまいち身体になじまないのだ。

 

『ロードエメス・ニグレドは流体鉱の本体を持つ極所作業用ゴーレムです。様々な状況に応じて身体の形を柔軟に変化させることができ、かつ様々な用途に合わせて派生系へと変成します。打撃以外のあらゆる外部刺激に多少の耐性を持っているため、攻略には原始的な魔力打撃が有効です』

「……あー、なんだ? 言葉のいくつかがちっともわからないが、つまりは殴れば良いってのかい」

『その通りです』

「へえ。じゃあ、次はあんたがかかってきなよ」

『挑戦を開始しますか?』

 

 はっ。これだ。この言いぐさが笑えるんだよな。

 

「コケにするなよ。挑むのはそっちだろうが」

 

 私は酒を煽りながら、空いている方の手で土人形を挑発した。

 

「ただこっちから殴ってるだけじゃ芸がねえ。せっかくの喧嘩なんだ、そっちからもかかってこいよ」

『挑戦を開始します』

 

 その言葉を皮切りに、真っ黒な土人形は動き出した。

 たしか、ロードエメス・ニグレド、だっけか?

 まあいいや。別に何だって。

 

「どうせ、一発二発の間柄でしかないからねえ……」

 

 人形はそこそこの勢いで私の前までやってきて、重苦しい動きで拳を振り下ろしてきた。

 

 重さはあるのだろう。

 ちょっとした岩と同等か、そんくらいの覚悟は必要か。

 

 しかし。

 

「おせえんだよなぁ」

 

 私がちょっと首を傾け、額の一本角を振ってやるだけで。

 ただそれだけの角の一掻きで、土人形の振り下ろした拳は砕け散り、軌道を大きくずらし、顔から地面に突っ込んでいった。

 

「鬼に挑戦するってんなら、もう少しこっちを楽しませてほしいもんだが、ねッ」

 

 続けざまに、私は地面に向かって右足を叩き込む。

 白い床はひび割れ、その亀裂と衝撃はすぐ傍にいた土人形を巻き込み、全てを壊し尽くす。

 

 手を触れてやるまでもない。

 

『ロードエメス・ニグレド5ポイント。強力な魔力打撃による圧壊ボーナス100ポイント』

「さっさと続けてきな。何の妖術かは知らないけど、妖力が切れるまでとことん付き合ってやるよ。まぁ、切れたら……次は私が楽しませてもらう番だけどねえ?」

 

 最初にリッチモンドと名乗った奴も、おそらくは土人形と同じ存在だ。

 どうにもやつからは、心ってもんを感じない。理由はそれだけだが、十分だろう。

 

「さあ、殴らせな。人形らしく、大人しく首を差し出してな」

『第四形態“ロードエメス・アルベド”』

「いい子だ。食いでがあるね」

 

 こうして、私の一方的な暴虐(素振り)が始まった。

 

 

 

『ロードエメス・アルベド8ポイント。強力な魔力打撃による圧壊ボーナス100ポイント』

 

『ロードエメス・ルベド20ポイント。強力な魔力打撃による圧壊ボーナス100ポイント』

 

『ロードエメス・マグナ30ポイント。強力な魔力打撃による圧壊ボーナス100ポイント』

 

『ロードエメス・マグナ・マギア34ポイント。強力な魔力打撃による圧壊ボーナス100ポイント』

 

『ロードエメス・マグナ・デミメタリカ39ポイント。強力な魔力打撃による圧壊ボーナス100ポイント』

 

『ロードエメス・マグナ・サーヴァント46ポイント。強力な魔力打撃による圧壊ボーナス100ポイント』

 

『ロードエメス・マグナ・ハイエンド50ポイント。強力な魔力打撃による圧壊ボーナス100ポイント』

 

 

 

 弱い。弱すぎる。

 鬼を穴倉に閉じ込めておいて、その程度かい。

 違うだろうよ。まだやれんだろ? わかるぜ、あんたの余裕はよ。

 

「さあ来な! 膝ついてんじゃないよ、また甦れ! 私が酒を零すくらいはやってもらわないとねえ!?」

『第十一形態“グランドギニョール28号”』

「よし、さっきよりも楽しめそ――」

 

 土より現れた木立ほどもあろう鈍色の巨人は、私の言葉を待たずに横っ面を殴ってみせた。

 私の体は石ころのように吹っ飛び、白い地面に転がってゆく。

 

 ……危ない危ない。土瓶の酒を零すところだった。

 

「……良い度胸だ。次はこっちからいくぞぉッ!」

 

 だが、これこそ良い肴ってもんだ。

 願ってもない。さあ、いくぞ土人形!

 

 

『グランドギニョール28号71ポイント。強力な魔力打撃による圧壊ボーナス100ポイント』

 

『灰燼・ザ・グランドギニョール90ポイント。強力な魔力打撃による圧壊ボーナス100ポイント』

 

 

 まだまだ遅いし弱ェえ。

 でかくて硬いだけか!? その程度なら妖怪でいくらでもいるぞ!

 

 

『ガシャガシャドクロ 上半身形態100ポイント。強力な魔力打撃による圧壊ボーナス100ポイント』

 

『レアガシャドクロ 上半身形態120ポイント。強力な魔力打撃による圧壊ボーナス100ポイント』

 

『ウルレアガシャドクロ 上半身形態150ポイント。強力な魔力打撃による圧壊ボーナス100ポイント』

 

 

 なんだそりゃ。その場から一歩も動かないってのはどういうわけだい。

 的役かい? その程度なら岩山殴ってくるよ私は。舐めないでほしいねえ。

 

 

『ウルレアガシャドクロ200ポイント。強力な魔力打撃による圧壊ボーナス100ポイント』

 

 

 ぐっ……悪態ついた直後に立ち上がるたぁ気が利いてるね。

 だが、少しばかり手数を増やしてやっただけだ。動き回ったところで、頭を壊せば良いことに何も変わりはない。拳一発に変わりはない。

 でかくなっても動きは鈍いことに変わりはない。さあ、どうするつもりかね。

 

「終わりなら……」

『――第十七形態“離岩竜 頑強と筋交いの蛇”』

 

 人型の土人形が崩れたかと思いきや、今度は巨大な骨の大蛇が地面から現れた。

 土造り。しかし、柔な印象は全くない。ひたすらに強靭で、厄介そうな……そんな相手だ。

 

「……へえ、今までとは違うってわけか?」

『離岩竜 頑強と筋交いの蛇は再生能力を持たない代わりに多重の関節と外骨格を備えた蛇型のゴーレムです。防衛対象を持たないために行動パターンは自身の防御と積極的な近接攻撃に偏重しています。攻略の近道は――』

「ああ、もういい。かかってきな」

『挑戦を開始します』

 

 長話を聞くつもりも、助言を聞いてやるつもりもない。

 私の言葉を皮切りに、再び闘いが始まった。

 

 

 

『離岩竜 頑強と筋交いの蛇530ポイント。ボーナスなし』

 

 

 かてえ。

 

 

『離岩竜 堅牢と反応装甲の蛇770ポイント。ボーナスなし』

 

 

 つ、ええぞ、オイ。こいつ。

 

 誰が……いや、何が操ってるってんだ。コイツは。

 式でも使い魔でもねえ。だってのに、この硬さと動き、しぶとさ、こりゃどういう……。

 

 

『離岩竜 分裂と合流と再構築の蛇1650ポイント。ボーナスなし』

 

 

 わけが、わからない。

 どういうわけだ。なんなんだ、この蛇は。穴倉は。

 

 どこの誰が、何の目的で……。

 天狗相手にするためのものじゃないのは間違いない。この強さは明らかに、連中に向けて作ったものじゃない。

 

 ……鬼? 私たちに向けて作ったのか?

 私たちの強さを……測るためか?

 

 ふ……。

 

「ふざ、けるなよ……」

『――第二十形態“離岩竜 偏在と同期と狡猾の蛇”』

「ふざけるなッ!」

 

 私は叫んだ。

 血みどろの身体をどうにか支えて。息切れする喉に喝を入れて。

 

 既に目の前に出来上がった新たな大蛇を見据え、怒りに任せて叫ぶしかなかった。

 

「闘うってんならよぉ……ちまちま小出しにして、いたぶるもんじゃねえだろうがよ……! ああ!? 力があるなら思いっきり全力でぶつかってくるもんだろう!? 何出し渋ってんだ!? 何様だお前は!?」

 

 蛇は答えない。代わりに、頭をわずかに下に下げるだけ。

 

「お前が強いのは十分にわかったよ……けどねえ……私たちァね。試されるってのが、大嫌いなんだよ。わかるか? あんたによ」

『挑戦しますか?』

「お前が全力で来るならな!? それなら――」

 

 私が言葉を継ごうとする前に、大蛇は突然、砂となって崩れ落ちた。

 

 その直後、砂の山がさらさらと集まり、これまでの巨体とは違う、人間と同じくらいの人型になって固まった。

 

 

『――第六万二千六百九十九形態“血も涙も亡き魔法兵”』

 

 それは、骸骨だった。

 ただの骸骨だ。少なくとも見た目は、ただの黒い骸骨にしか見えない。

 

『こちらの血も涙も亡き魔法兵は“血も涙も亡き魔法軍”の単体系、および自己複製と各種大魔法などを制限した特別仕様になります。攻略のヒントはありません。メッセージが残されています。“マジでここまできたの? 後でお話でもいかが?”。以上です』

 

 しかし……なんだ、あれは。

 この威圧感は。小さく細く、軽くどつけば折れそうなくせして、私の本能をざらつかせるような、この悪寒は……!

 

『この全力形態は挑戦者の力量にそぐわない可能性があります。また、攻略にあたって“カードリング”は収集すべきデータを入手できない可能性があります。それでも挑戦しますか?』

 

 だが……ああ、いい。いいぞ。

 これはまさしく本気だ。間違いない。私を侮っていない、この穴倉を作ったやつの本気で間違いない!

 

 そうだ、そうこなくちゃあな。

 鬼が手加減されるなんざ、まっぴらだ。

 相手がどれだけ強かろうとも関係ない。本気で挑む相手にこそ、その闘いにこそ華がある!

 

「ああ……やってやる! 来な! 私が――」

『挑戦を開始します』

 

 

 

 ――――。

 

 

 


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