東方遺骸王   作:ジェームズ・リッチマン

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 法界に強い魔族が封印されてくるのは知っているし、その報告はちらほらと受けてはいた。

 曰く、主に仙術なるものを操る人間たちによって法界に沈められた魔族が暴れていて、厄介だと。魔族が多すぎて神の気配が薄まるのが複雑だと。

 

 さて、それよりも更に状況が悪化しているとなると、一体どのような厄介事が舞い込んできたのだろうか。

 場合によっては法界の環境整備に調整を加える必要があるやもしれぬ。

 

 

 

 ということで、私は早速法界へとやってきた。

 正確には直接ではなく、その一歩手前に瞬間移動しただけだが。

 

「ふーむ、特に変わり映えは無しか」

 

 法界直近の都市はエソテリアだ。

 最初期と比べれば魔人も住み着いており、当然多少は賑わってはいるのだが……いかんせん立地条件が悪すぎたらしい。他の魔界都市と比べてあまりにも距離が離れすぎているせいで公共交通もあまり積極的には機能しておらず、その不便さは数十日に一本の陸上汽車が訪れないほどであるとか。

 過疎化も加速して当然のど田舎っぷりである。どうりで廃墟が多いわけだ。

 魔界都市というよりは魔界地方都市って感じだな。

 

「ライオネル様」

「うん?」

 

 さていざ法界へ。

 と思ったら、既に(コウ)が背後にいた。

 ざっくりと魔界人らしいローブを羽織っただけの、いつも通りの簡素な姿である。

 おしゃれしないね君。

 

「お越しいただき感謝します」

「やあ、紅。法界で待っているわけじゃなかったんだね」

「はい。たまにはこちらのエソテリアで過ごすこともありますから」

 

 話を聞くに、どうやらエソテリアの無人公園やら古臭い図書館やらで過ごすことも多いのだとか。

 私へ出す手紙も、法界では落ち着かないので街で書いているという。

 

「町のカフェに行きませんか。そこでならゆっくりとお話できるので」

「おお、それはいいね」

 

 うむ、どうせ長話をするのであればまったりしたいものだ。その提案は嬉しい。

 けれど私にとって一番嬉しいのは、そんな人並みに余暇を楽しむ感覚を紅が身につけてくれたことだったりするのだが。

 

 

 

 エソテリアのカフェといえば、惰性で経営を続けている場末のオープンカフェだ。

 訪れる客は地元民ばかり。酒はなく、地元産の微妙なお茶っ葉や柑橘の皮など、そういう野暮ったい感じの素材で作ったお茶がメインだ。

 コーヒーもたまには輸入されるらしいのだが、交易にやってくる商人が不定期な上にコーヒーがあるかどうかは微妙なので、ほとんど置かれないとか。それってカフェと呼ばないのでは……。

 色々と適当な運営がされているカフェであったが、私はとりあえずそれっぽいものということでルートコーヒーを頼むことにした。他にもドングリコーヒーとか麦コーヒーとかあったけど、ひとまずこれで。

 

「すみません。臙脂茶を」

「いつもありがとうね」

 

 紅はここの常連さんらしい。まあ、エソテリアにしか来ないのであれば顔も覚えられるのだろうね。私はそういう経験、魔界でもあまり無いなぁ。

 自家栽培と自家焙煎のしすぎだろうか。

 

 

 

「それで、法界の話だったね」

「はい」

 

 紅茶よりも真っ赤なお茶に口を付けつつ、紅は眉を顰めてみせた。

 

「地上の人間たちの手によって、魔族が送られてきています」

「ふむ。どれも厄介なんだっけ」

「それはもう。叫び、暴れ……それぞれ嗜好は異なりますが、思い思いに動くので、大変なのです。現状、法界の圧力でも完全には制御しきれていません」

 

 ほほう、それはそれは。

 

「……ライオネル様、嬉しそうですね」

「おっと」

 

 じっとりした目で見られてしまった。ハハハ、申し訳ない。

 

「最近になってようやく気が付きましたが、法界のあの封印構造は、慣れた者の動きを阻害するには不十分なものですね」

「まあ、そうだね。紅も今やあの土地では快適に動けるわけだし」

 

 紅は気、というか魔力の操作が巧みなので、順応するのは早かった。

 それに骨を魔力で保護する必要がないのであれば、活動能力は更に高くなる。

 今の彼女ならば、不意に法界の圧力を受けて血を吐くこともないだろう。

 

「ええ、皆それぞれ圧力を御する術を心得たようでして、厄介さが日増しに酷くなっています。皆がヒキ(贔屓)ほど大人しければ法界も平穏になって良いのですが、ヤズ(睚眦)のように強者に挑むような者も多く……正直、瞑想することもままならないのですよ」

 

 うんざりした様子で、紅はそう語った。

 なるほど、確かに法界の封印圧力は高いけれど、誰だってあの中でも上手く魔力をやりくりすれば自然に動けはするからね。

 あの環境下では魔力の運用法が嫌でも身につくし、下地を作るのにはとても都合がいいのだ。もちろんメインの役割は隕石など地球の脅威を封印することにあるんだけど、それはそれとしてオマケも重要なのである。

 

 しかし、他の魔族達もそのコツを掴んだわけか。それも結構早いかな……?

 なるほど、意外と結構頭の良い個体も多いようだ。

 

「ライオネル様、嬉しそうなのは構いませんが。あの無法地帯は少々以上に厄介です。このままでは法界が、封印された者を処刑するだけの地になってしまいますよ」

「ふむ? それは少々以上に厄介だな」

 

 封印されて動けなくなった途端にザックリやられたりするのは、ちょっと私としても嫌だな。そんなにパンデモニウムみたいに殺伐としてほしくはないのだが。

 

「現在でもいくつかの魔族は食い殺されたり、焼き殺されたりしているのです。早く連中の横暴を止めなくてはなりません」

「ふむ」

 

 しかしなぁ。

 

「でも紅は、今でも彼らを倒せるのでしょうよ」

「……ええ、どうにか。一対一であれば、可能ですが」

 

 歯切れが悪い。

 

「……しかし、私が力ずくで抑えたところで根本的な解決とはならないのです。彼らの荒れた気性を鎮めなければ、何度だって繰り返すでしょうから」

「では、根本的な解決とは?」

「それが“アマノ”なのですよ。ライオネル様」

 

 少し困ったように微笑むと、紅は飲み干したカップをソーサーに置いて、立ち上がった。

 

「法界にて、彼らの話を聞いてやってください」

 

 ふーむ。いまいち全てを完璧に理解できたわけではないが、そういうことなら移動しようか。

 

 

 


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