東方遺骸王   作:ジェームズ・リッチマン

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 はいどうもライオネルです。

 たまにこうして自分の名前を心の中で復唱しておかないと静木やら石塚になってしまいそうだから困る。

 

 とはいえ、こうして使う偽名も既に一巡した。今の静木は前に使っていたものの使い回しである。

 人間社会は所詮、数十年のものだからね。どれだけの悪名や高名を残そうとも、百年後に同名の人物が現れたとして、気にする者はいない。

 もちろん妖怪や神族であればその限りではないが、そういった連中に対しては特に意識していないからね。彼らにバレたところで何がどうなるわけでもなし。人間社会に溶け込めさえすればそれでいいのだ。

 

 幸い、現状はなかなかうまく事が運べている。

 大宿直村ではほとんど傍観に徹しているので影こそ薄いのだが、時々ちょっとした細工物を提供するなどして、村の一員として役に立つポーズは欠かしていない。

 最初こそ訝しげに受け入れられたこの村だったが、今ではそこそこ信用されているんじゃないだろうか。

 

 ま、人間社会における信用はこの程度のものだ。数年数十年真面目にやっていれば簡単に獲得できてしまう。

 しかしこれが神族や魔族の括りになると、えらい長い間ずっと尾を引き続けるので注意が必要だ。恥ずかしい話や逸話も面白おかしく伝聞して残り続けるので大変である。まあ、私も他人事ではないのだが。

 

 ともあれ私は信用を得た。

 村社会における信用というものは人権に匹敵するものであり、それが閉鎖的なコミュニティであれば尚更重要視されるものだ。

 正式な村の一員として発言力も増せば、私の意見を通すのも楽になるだろう。

 それは私がこれから村で行う作業において、欠かすことの出来ない大切なステップのひとつなのであった。

 

 これから行われる報告会もまた、その一歩である。

 

 

 

「やあ、サリエル」

「うむ。今戻ったぞ、ライオネル」

 

 彼は指定した日時にちゃんと魔界へと戻ってきた。

 地上から戻ることなく享楽的に踊れや歌えやしてお婆さんにならずに済んで何よりである。

 内心、“ヤダヤダもっと八意といる!”とか言い出すんじゃないかと思っていたんだけど、いやそこらへんは理性的で良かったよ。

 

「どうだったね、久々に八意と会った感想は」

「……感謝している」

「胸の内に秘めようということか。うむ、ノロケを人に聞かせないその奥ゆかしさは評価しよう」

「……向こうで、輝夜という少女にも一言二言、言われたのでな……」

 

 どうやら既にノロケを炸裂させてしまったらしい。

 哀れ輝夜。はて、輝夜? ……そういえば月の都にいた彼女が輝夜といったか。なるほどなるほど。

 

「で、八意永琳へ会いに行った主目的についてはどうだろう。まさか忘れてはいないだろうね」

「もちろんだとも。大事な役目だ、そちらは真っ先に済ませてきた」

「おお、ありがたいね。では聞かせてもらおうか」

「うむ」

 

 サリエルは小さく咳払いし、居住まいを正して語り始めた。

 

「……天之御中主(アメノミナカヌシ)。それが、どうやら高天原における原初の神の名であるようだ」

「ほー……」

「が、これは名だけ。あくまで彼らが空想した創造神であるという話だ。概念と呼んだほうが近いだろうな」

「実在はしない、と」

「うむ、少なくとも今は。八意は人々などの信仰によって神格が心を帯びる可能性についても言及していたがね」

「なるほどなるほど。ありがとう、サリエル。とても参考になったよ」

 

 アメノミナカヌシか。やはりこれになるか。

 いや、実は名前だけならば既に日本の資料を漁った中にちんまりとあったので知っていたのだがね。

 それでも現物の日本の神々から詳しい話を聞く必要はあったのだ。

 

 結果は、現在存在していないと。

 私にとってはなかなか都合のいい流れになってきたな。

 

「……しかしライオネルよ。高天原の神について訊ねて、一体どうしようというのだ。存在しない神と面識があるわけでもあるまい」

「さて、それはどうかな?」

「ん……? どうかな、とは」

 

 怪訝そうにするサリエルに、私は指を振った。

 

「確かに、まだその神は存在しないかもしれない、だが、これからどうなるかはわからないのだろう……そう、まさにそこだよ」

「……高天原の最初の神が生まれるとでも言うのか? 矛盾した話のように聞こえるのだが……」

「なに、復権するだけのこと。かつて居た神が、空いている椅子に腰を下ろすだけのことさ」

 

 日本最初の神、アメノミナカヌシ。

 その空白の神格は、まさに始祖の神たるアマノの遺骨を納めるに相応しい容器と言えるだろう。

 

「大宿直村の神社に念の為のガワだけは作っておいたが、これで決定かな。あとは神社に紅から預かった骨を祀り、整えてやるだけだ」

「……ライオネル、私に頼むべきことはそれだけか?」

「まだ何かしたいのかい」

 

 いや、多分したいんだろうな。

 とりあえず何かしらの理由にかこつけて、また八意と会って話がしたいのだろう。

 

「いや、そういうわけでは……」

 

 見るからにそんな感じだ。

 

「まあ、後々わからないことがあれば詳しい人から聞き出す必要もでてくるかもしれないし……その時はまたサリエルにお願いするかも……」

「うむ! 任せてくれ!」

「はい」

 

 良い返事だね。メタトロンにも聞かせてやりたいくらいだよ。

 

 

 


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