東方遺骸王   作:ジェームズ・リッチマン

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 最近村にやってきた玉緒という半人半妖の子が、魔法の森に入るそうだ。

 同伴は神主。二人で見て回り、森のパトロールについて一通り教え込むのだとか。

 

「ミマは行かないのかな」

「ん、私はいいよ。今日は玉緒と神主の二人でもちゃんと動けるようにっていう、まあ訓練みたいなもんだからさ」

 

 聞くところによると、どうやらミマは神主と玉緒の仲を案じているらしい。

 近頃ギクシャクしっぱなしだったのが少し和らいできたので、この機会に強引にくっつけようという話なのだそうだ。

 

「神主の妖怪嫌いは筋金入りだからねえ……玉緒は良い子なんだから、慣れてもらわないと困るよ。ただでさえこの村は、人外が多いんだからさ」

 

 そう言って、ミマは意味ありげな視線をこちらに投げかけてきた。

 いや、そんな“お前も困るだろ?”みたいな目をされてもね。

 

「私は人間だから特には困っていないな」

「おいおい……静木、それはさすがにキツいわよ」

「いや本当に。私人間」

「多分ほとんど誰も信じてないわよそれ……子供ですら疑ってるんじゃないの?」

 

 ええ……今回は極力村人達との接触を避けていたのだが……。

 

「そんな不思議そうに頭傾げるくらいなら、そのお面をとって素顔を見せてご覧なさいよ。そしたらまあ、信じてあげなくはないから」

「わかった、はい」

 

 そう言って、私は仮面をはがして素顔を見せてやった。

 

「……いやあんたよくそれを素直に見せられたわね」

 

 当然しわくちゃどころか骨に限りなく近いミイラ顔である。

 

「けど極限まで長生きすれば肌はこんな感じにはなるんじゃない?」

「目よ目、そういう苦しい言い訳は目ン玉ちゃんと用意してから言いなさい」

「あっ、そうかなるほど」

 

 いざとなればギリいけるんじゃないかと思っていたがそうか眼球か。そんなものも必要だったわ。

 義眼も一応用意してはいたんだけど、あれ使うとちょっと感覚違ってくるから困るんだよなぁ。眼窩に海水が溜まってる時と同じような不快感があるというか。

 

「んーまぁけど、あたしゃ気にしないけどね。今更、あんたが妖怪だろうと人間だろうとさ」

「ほう」

「慣れっこなのさ。あたしだけじゃなくて、村の多くの人たちだって同じだよ。そんくらいの度量は、みんな持ってるのよ」

 

 ミマは大きな切り株に腰を降ろし、胸を張った。

 

「だから静木、あんたも突然いなくなったりとかさ。そういうことして、みんなに心配かけるんじゃないよ」

「……」

「おい、その布切れなんだい。それで涙拭ってるつもりかいアンタ」

「いや、なんていうか、そんなに優しい言葉をかけてもらったのって何千万年ぶりだろうって……」

「桁、桁。神話まで遡るつもりか」

 

 いや、しかしまさか、人間でここまで私の顔に順応してくれるなんて。

 命蓮もそうだったけど、やっぱり多少魔法に通じている人物の方が理解というか、受け入れる土台が出来ているのだろう。

 となるとこれから時代が進むにつれ、外では生きづらくなるということだ……。

 世知辛い世の中だな……。

 

 

 

「しかし静木、アンタはどうしてこの村に住み着いてるのさ。何か理由があるの?」

「うん?」

 

 待っている間、近くで野草集めするのもだれてきたのか、ミマが訊ねてきた。

 

「理由ね。まぁ、色々あるんだけど……そうだな、単純にこの土地が居心地がいいっていうのはあるかな」

「ふうん。それは、雰囲気が?」

「それもあるけど、魔力が一番だね。ここには安定した強い魔力があるから、色々と都合が良いんだよ。他に集まってくるのも、同じ理由が多いんじゃないかな」

 

 ミマは顔色を陰らせた。私の答えが気に入らなかったのかと思ったが、“やっぱりそうか……まあそうだよねえ……”とつぶやいているのを見るに、そういうわけでもないらしい。

 

「……妖怪たちが群れてくるのも、魔力のせいよね」

「活力の源になり得るからね。この瘴気の森だって、中には強い魔力環境でなければ正しく生育しない種が多い。この地域は恵まれているよ」

「恵まれているもんか。人間にとっちゃ悪夢なんだからさ……」

「けど、ミマだって魔法を使うだろう。それを修行するなら、魔力に満ちたこの大宿直村は都合がいいんじゃないのかな」

 

 ミマの目つきが変わる。

 

「……静木、アンタ……魔法と言ったね」

「言ったね」

「何を、どこまで知っている」

 

 おお、怖い目つきだ。

 さあ、どう答えたものかな。

 だいたい知っていると言えばいいのか、何も知らないと嘘をつけば良いのか。

 

 もっとも大事なのは、魔法を広めること。人々が生み出し磨く魔法を尊重することだ。

 で、あれば……。

 

「なに、そう心配することはないよ、ミマ。私は穏健派だし、村で何か騒ぎを起こそうだなんて思ってはいない」

 

 今はただ見守ること。適切な距離を保ち、何もしない。それがベストだ。

 何より今回はそのように動くと決めている。無駄に補助せず、接触せず。きっとこれが魔法使いの育成には良いのだ。それを貫徹してみせるぞ。

 

「……静木。頼むから、私にあんたを殺させないでくれよ」

「大丈夫大丈夫。本当に何もしないから。私は今まで通り、静かにやっていくだけだよ」

 

 もちろん、言葉通りではない。

 神社にはアマノを、天之御中主を祀らなければならないし、そのために水面下で動く必要もある。魔法の森で栽培しているキノコだって時々整備しなくてはならないし、鍾乳洞に設置したゲートも定期的なメンテナンスが必要だ。

 嘘もいいところである。しかし、ここで暮らしている人々への害意は無いのだ。それだけははっきりと真実を伝えたかった。

 

「……そうなることを、神に祈っておくわ」

 

 私も祈っているよ。

 あなた達がこの村で生き、独自の魔法技術を連綿と継承し続けてゆくことを。

 

 


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