東方遺骸王   作:ジェームズ・リッチマン

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 神主と玉緒が喧嘩しているらしい。

 近頃、ミマが私に対してその件について愚痴をこぼすことが多くなっている。

 ちょっと前は軽く警戒されてもいたのだが、逆にそんな相手だからこそ相談しやすいのかもしれない。

 

「水と油ってほどじゃないんだよ。むしろ、二人とも根が真面目で似てる分、譲れないとこがあるっていうのかねぇ……」

「ほほう」

「明羅とか爺さん連中からは、大人なんだから下手に間に入って引っかき回すことはないって言われるんだけどさあ……二人の仲を取り持つのって私しかいないじゃん。もーどうしたらいいのよ、あいつら……」

 

 積み重なった薪の上で、ミマが力なく項垂れている。

 そこはたまにムカデが這ってるからやめなさい。

 

「うーむ……正直私としても、放っておくべきだと思うんだけどなあ」

「時間が解決してくれるって?」

「うむ」

 

 この世の大抵のことは時間が解決してくれるものだ。

 そこにある薪だって、ちょっと待てば乾燥し、燃料として扱いやすいものへと変わる。

 放置。不労所得。醸造。甘美な響きだ。魔界の食品保管庫もそろそろ見ておかないとな。

 

「はー、静木も爺さん連中と同じこと言うのね。時間時間って……どんだけ待てば二人は仲直りしてくれるんだってのよ……」

「ミマは二人に仲良くなってほしいのかい」

「そりゃそうよ。顔合わせる度に冷えた目で睨み合いながら霊力談義だよ? どっちが優れてるかってさ。妖怪の怪しい動きがあるってただでさえ不穏なのに……もう空気悪いったら……」

「霊力談義? 最高じゃないか……」

「……駄目だ。なんとなく相談する人選を間違ったよ。さよなら」

「ああちょっとミマ、行かないで行かないで」

 

 もうちょっと愚痴混じりの相談を聞くことにした。

 

 で、ミマが言うには神主と玉緒は確かに仲が悪いのだが、仕事自体はちゃんとやってくれるという。

 だが警邏にせよ退治にせよ、二人が一緒になった時はすぐにギスギスした空気がつきまとい、ミマはその空気に巻き込まれてしまうのだとか。

 

「私は二人とも縁があるからさ。何かと会うことも多いし……大変なんだよ。だって玉緒とは一緒に住んでるでしょ? 神主とは結界……あー妖怪退治について会議や調整をしなきゃいけない。板挟みなんだよ……」

「なるほど。じゃあこうしよう」

「おっ、何か解決法でも?」

 

 うむ。そこまで眼の前でクヨクヨされては無視することもできぬ。

 今は木彫りに集中したいのだ。良い助言を授けてあげよう。

 

「ともに酒を酌み交わす。これで仲の悪さなど解決さ」

「……そんなもんどこにあるんだっての」

 

 あっ、そうか。酒そんなに無いんだったっけ。

 ああっ。ミマの目がどんどん冷え切っていく。これは良くない。

 私の人望が失われてしまう。

 

「さ、酒なら問題ない。私が用意しよう」

「はあ? 米はどうすんのよ。どこにそんな原料の余裕があるのさ」

「実は秘蔵の酒がありましてね。今ここには置いてないんだけども」

「……嘘くさ」

「いや本当に本当に。たくさんあるから」

 

 ここで嘘だと言ったら私の人望が即ぺしゃんこになってしまう。

 一般人相手ならともかく魔法使いから嫌われるのはちょっと嫌だ。

 なんとしてでもミマに良いところを見せなければ……。

 

「とはいえ、酒にも種類があるからね。まず二人にどんなものが良いかを訊いておかないと、快く酌み交わすことはできないだろう」

「……本当にお酒あるの?」

「あるってば。疑い深いね。私を何だと思っているんだ」

「妖怪」

「人間だってば」

「あんたこの村の中でも一、二を争うくらい胡散臭いな……」

 

 ひどい物言いである。

 しかし口だけで行動に移さないものは信用されないものだ。

 特にこの時代においてホラ吹きなど当たり前のように存在する。なかなか信じてもらえないのは当然のことだ。

 

 だが、疑惑の芽を長く植えつかせておくわけにもいくまい。

 私はとても親切な村人なのだ。見せてやろう。魔法使いの本気を!

 

「えーっと、確か手持ちにもあったかな? 少し探してみるよ」

 

 私は背負った木箱を降ろし、その中を物色する。

 

 が、これはフリだ。

 内部は魔法によって異空間と繋がっているが、一旦それを解除。

 魔力を極々小さい範囲で圧縮し続け、極小の魔界の門を生成する。

 するとあら不思議。木箱の中に魔界へと入り口ができてしまいました。

 

「えー、そんなとこに入ってんの? いつも持ち歩いているわけ?」

「もしかしたらだけどね」

 

 ミマは魔法使いだ。トリックを気取られるわけにはいかない。

 だから魔力の圧縮による余波を漏らさぬよう入念に調整し、安定させる。

 門を開くための魔力の供給源も念入りに秘匿しなければならない。そこらへんから巻き上げていたのではすぐにわかってしまう。

 なので細いチューブ状の魔力輸送管を足元から地中深くに通し、遠く離れた龍脈の末端から補給する。

 この供給方法による魔界の開門、長々とロスしたりなんなりしているため、効率はなんと驚きの30%未満である。普段なら絶対にやらない魔力の無駄遣いであった。

 

「奥の方にしまったかなー」

 

 で、魔界の門を開いて終わり、だったら話がこんなに単純じゃない。

 酒だ。ミマに渡す酒を探り当てなければならぬ。

 

 門が空いたのは魔界の上空。浮遊氷土の近くだったようだ。

 遠い……遠すぎる……だが距離はさほど問題ではない。目的のものを、ただ引き寄せれば良いのだ!

 全ては魔力が解決してくれる!

 

「ふんっ」

「? どうしたの?」

 

 “手探り”を発動。

 こんなこともあろうかと、魔界の門から手だけを突き出して物を取るための魔法を作っておいたのだ!

 魔法によって擬似的な腕を生成し、超高速で魔界を移動して目標物を掴み戻ってくる。ただそれだけの魔法である!

 

 ちなみにこれも魔力効率は最悪だ! 遠いからね!

 魔界から酒を持ってくるだけの作業のために、魔界の門が5つも開きそうなほどの魔力が浪費されてしまったぞ!

 

「おお、あったあった」

「え、ほんとに」

 

 かくして私は何事もなかったかのように、木箱から土瓶を取り出して見せたのである。

 

「すごいでしょ」

「いや、凄いかどうかは知らないけど……疑って悪かったね、静木」

「ふ……気にすることはないさ。誰にだって過ちはある……」

「けどさぁ静木。本当に一緒にお酒飲むだけで仲直りなんてできるもんなのかねぇ」

 

 ……うむ! どうだろうな!

 

 

 


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