東方遺骸王   作:ジェームズ・リッチマン

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 小悪魔ちゃん、紅(暫定)、幽香の三人が来てくれることになった。

 まあ私の人脈にかかればこんなところである。

 が、私も伊達に長く生きていない。他にも大勢の魔法使いがいるのだから、もっともっと声をかけるつもりだ。

 

 これは私にとって、知り合いの魔法使いの習熟度を確かめる良い機会でもあるのだ。こんな楽しいイベントを逃すなんてあまりにもったいない。

 というわけで、他の魔法使いにも声をかけてみようと思う。

 

 

 

「ごめんください」

 

 そういう流れで、私はクステイアにやってきた。

 ノックする扉はクステイアの中でも古い町並みにある小さな屋敷だ。

 花壇には雑な育て方をしても数十年は鑑賞に堪える魔界植物が飾られている。

 いつからか魔界で流行り始めた観葉植物の一種である。この屋敷の持ち主がそこそこの景観美を意識しつつも、一箇所に定住しない魔人であることの証左だった。

 

「はーい……あら、ライオネル?」

「やあルイズ」

 

 自宅からパタパタと現れたのはルイズである。

 彼女は今、地球帰りで自宅で原稿を執筆している最中なのであった。

 

 ……という話が魔都にまで伝わっている辺り、ルイズは魔界でもなかなかの有名人である。

 

「久しぶりね。あ! 魔界の扉の通行手形、助かっているわ。持ってないと本当に行き来しづらいのね。帰り道にしたゲートは現地の人が不思議そうにしてたわよ」

「いやいやどういたしまして。手形は報酬だから気にしないで。まぁ、そう簡単に行き来できるようになったらさすがに目立つし不都合だからね。多少の選別はしているんだよ」

 

 旅する魔人ルイズ。彼女にはアリスの魔法教育の報酬として、魔界と地上を行き来できるフリーパスを進呈している。

 既に魔界には恒常の門がいくつか設置されているが、通るにはそこそこの“通行料”が要求されている。その点、ルイズは何もなしで何度でも行き来が可能なので、ちょっとクステイアで物書きしたい時はちょくちょく戻ってくるらしかった。

 

 

 

 せっかくだからお茶でもどうぞということで、私はルイズの屋敷にお邪魔することになった。

 書斎兼寝室へと招かれたわけなのだが……。

 

「おや?」

「……ああ、ライオネルさん。久しぶり……」

 

 部屋にはどういうわけか、既にアリスがお邪魔しているのだった。

 

「はい、椅子どうぞ。ああごめんなさい。埃被っちゃってるから自分で拭いてもらえるかしら? お茶の準備をしなくちゃ」

「あ、うん。……アリスも魔界に戻っていたんだね」

「え? あーうん……」

 

 アリスは魔法使いとして自身の目標を設定し、既にルイズから離れ独り立ちしたものだと思っていた。

 しかしどうして彼女は魔界にいるのだろうか。彼女にもフリーパスは渡してあるので、軽く往復してても不思議ではないんだけども。

 

「……あ、ごめんなさい。今ちょっと、研究に行き詰まってて……」

「そのようだね」

 

 先程から気のない返事をしていたアリスは、見た目通り何かの研究に没頭しているようだった。

 ルイズの書斎兼寝室の片隅には不似合いな机が置かれ、様々な実験器具が並べられている。今やっているのは蛇の抜け殻から何かを抽出しようとしているのだろうか。

 真面目に魔法研究をしている西洋人形のような彼女の姿は、実に様になっている。私がやっても黒魔術か毒薬の研究をしているようにしか見えないから不思議だ。

 

「それは、一からの生物の創造をテーマとする研究の一環かな」

「ええ……といっても、前提を学ぼうとしてその前提の前提を掘り下げて迷子になってるんですけどね……」

 

 随分と参っている様子だ。そりゃあそうだろう。生物を一から創造するなど容易なことではない。

 アリスの目指している魔法は、完全なる自立人形の作成だ。その言葉の意味は、現代人が考えているよりも遥かに重い。

 

「ちなみにライオネルさん……他の生き物の魂を使うのって……」

「それは違うね。生物の創造ではない。転生、憑依、再生、そんなところだろう。立派だとは思うけどそれはゴールではないよ」

「うわぁやっぱり……」

 

 そんなに簡単に済む話だったら私も匙を投げていないのでね。まぁじっくりと腰を据えて悩むといいさ。

 意外と楽しいものだよ。その行き詰まりというものもね。

 

「はい、どうぞ。アリスも休憩なさい。お客様の前よ」

「やあどうもありがとう。いただきます」

「はーい……」

 

 そういうわけで、私はアリスとルイズの二人とテーブルを囲んでお茶とチュロスモドキを楽しむのだった。

 

 うむ。アリスがいるのならば好都合だ。これを機に一緒に誘ってしまうのが良いだろう。

 

 

 

「……クイズ大会。あー……市場の掲示板で見たかもしれないわね。うろ覚えだけど」

「私は初耳ですそれ。……けど、魔法の知識を競い合うのってなんか……良いなぁ」

 

 おや、アリスは乗り気のようだ。

 ルイズも情報を見た時はそこまで興味がなかったようだけど、嫌いというわけではなさそうだ。

 

「筆記試験は五日間。その間は快適に過ごせるよ。お茶も出るし、お菓子も出るよ」

「ライオネルさん。私がお茶とお菓子で釣られる子供と勘違いしてません?」

 

 いやそうは思ってない。思ってないけど小悪魔ちゃんだけが流れ弾食らっちゃうからそういう言い方はやめるのだ。

 

「でも、私の魔法使いとしての実力を示すには丁度いい機会かしら……フフッ。古代の人たちに現代の洗練された魔法を見せつけてやりましょうか」

 

 おお、大会が始まってないのに既に楽しそうだ。

 彼女はこんなだけど勉強家ではあるから、きっといい成績を出せることだろう。

 

「ルイズもどうかな」

「私も参加しようかしら。けど私、魔法そんなに詳しくないんだけど……」

「いやいや」

「いやいやいやルイズさんやめてください。私の立つ瀬が無くなりますから……」

 

 私とアリスは同時に謙遜を否定した。

 身近にいるアリスから見ても“それはない”というのだから、きっとよほどなのだろう。

 

「うーん……そうは言うけど、やっぱり自信はないのよね……」

 

 ルイズの魔法はほとんどが独学であるという。見様見真似、あとは既存の魔法の良いとこ取りで我流のカスタマイズを施しているそうだ。

 もはやそれは魔法の新境地を拓いているのではないか? と言いたかったけど謙遜合戦になりそうだからやめておこう。

 

「けどライオネルさん。参加するからにはやっぱり豪華な賞品が欲しいです」

「アリスもそう思うんだ」

「ええ。……ていうか、パンデモニウムなんて物騒な土地貰っても困りますし。面倒ごとの種になりそうだし、いらないですそんなの。どうせなら他じゃ絶対に手に入らない触媒とか、とてつもない魔法とかが欲しいわ……」

 

 うーむ。なるほど百理ある。

 ……幽香もあまり魅力を感じていなかったようだし、これは一度ヘルメス・トリスメギストスに聞いてみる必要がありそうだ。

 

「うむ、参考になったよ。それじゃあ二人は参加ということでいいのかな?」

「ええ。遊びに行かせてもらうわね」

「ふっ……パンデモニウムの悪魔たちから注目されるのは百害あって一利もないけれど、私の活躍で目立ってしまうのはしょうがないわね……」

 

 これで五人。

 さてさて、あとは他の人も誘って……けどその前に、一度魔都に行って確認だな。

 

 しかし、幽香は力が欲しいというしアリスはレア触媒や魔法が欲しいという。

 賞品の件は結構悩むことになりそうだなぁ……。

 

 


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