東方遺骸王   作:ジェームズ・リッチマン

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「来る途中も賑やかだなーって思ってましたけど、本当に大きなイベントなんですねー」

 

 小悪魔ちゃん。いつもは紅魔館でひっそりと製本や修繕、写本など様々な作業に没頭している生粋のインドア悪魔だ。

 しかしその実態はここ、魔都パンデモニウムの最高支配権限を持つとてつもなく偉い悪魔さんなのである。ならば何故その名前が“小悪魔”なのか? それはきっと名付けた奴のネーミングセンスが悪かったに違いない。

 

 事務作業に最適な比較的地味な格好だというのに、小悪魔ちゃんが現れてからというもの周辺の空気はヒリついている。まるでホームで威張り散らす虎が借りてきた子猫に変わったかのようだ。

 ……よくみれば後ろの方でコソコソと、サリエルの助手であるエリスが目立たないように通り過ぎている。彼女も相当に魔法の扱いに秀でた悪魔であったはずだが、魔法などの実力に関係なく小悪魔ちゃんという存在はアンタッチャブルなのである。

 

「やあ、来てくれて嬉しいよ。私も作問頑張ったから、終盤部分の問題も楽しんでいっておくれ」

「終盤?」

「ああ、前半はやさしい問題。後半に行くほど難しい問題になっているんだよ」

 

 だから最初の方は皆してがががーっと解いていけるはずだ。後になるほどそれは詰まっていくので、次第にまったりした試験会場に変わっていく……ものと予想している。

 

「ライオネル様」

「おや」

 

 小悪魔の後ろからひっそりと現れたのは、紅だった。

 こじんまりと拱手する姿は中国人っぽい感じがする。あるいは、そちらの方面で過ごしていた魔族たちと関わっていく間に、人間の文化を会得したのかもしれない。

 

「紅も来てくれたんだね。嬉しいよ」

「ええ。まぁ……魔法はほとんどわかりませんが。この子に誘われたので。それに、法界の方で“行ってみては”という後押しもされて……隣の方は?」

 

 紅が私の隣にいる赤肌に注目した。

 赤肌はふてぶてしくビールを飲んでいる。自分から挨拶する気はなさそうだ。振興会のトップとしてその態度はどうなのだろう。

 

「彼は赤肌という。この大会の企画者でもあり、パンデモニウム振興会の会長でもある」

「そうですか……」

 

 紅と赤肌。同じ暖色系の二人だけど、お互いに大した興味を持っていないようだ。

 というより、赤肌は極力小悪魔ちゃんの注目を浴びないようにしている風に見える。

 

「赤肌さん。受付はこちらで?」

「……」

 

 赤肌は無言で受付の方を指差した。

 

「こちらじゃなかったんですねー。行きましょうか」

「ええ、そうですね。……周りにも悪いですし、早めに中に入っておきましょう」

 

 そうして小悪魔ちゃんと紅は去っていったのだった。

 後ろ姿を遠目に見ると、本当に姉妹か親子そっくりである。

 

 ……あ。今まさに入ってこようとしていた夢月と幻月の二人が小悪魔ちゃん見た瞬間に速攻で逃げていった。

 やっていけばいいのに……。

 

「ふむ……(コウ)といったか。あの魔族は? 悪魔ではないように見えるが」

「ああ、紅はね……うむ、説明が難しいな」

「小悪魔との関係性だけ聞きたいところだ」

「まさにそこが難しい」

 

 神綺が原初の力によって紅を模して作ったヒトが小悪魔ちゃんである。

 けどこれを話すと絶対に経緯も話さざるを得ない。本当に長くなる話なのだ。

 

「まぁ親子みたいなものかな……」

「……なるほど。まだ知らない物事は多いな」

 

 赤肌はどこかしみじみと感じ入るように頷いていた。

 

 

 

「ライオネルさん。優勝賞品の受け取りに来たわ」

 

 小悪魔ちゃんの入場から一時間くらいして、アリスとルイズの二人もやってきた。

 アリスは妙ちきりんなことを言いながら額に手を当てて格好つけてそうなポーズを決めている。よくみれば彼女たちは腕にパンデモニウム特産の魔界チーズの紙袋をぶら下げていた。

 

「二人で買い物をしてたら遅くなっちゃったのよ。人が多くて賑やかね」

「やあルイズ。わざわざ来てもらってありがとう」

「無視しないで」

「アリスもよおこそ。そのチーズも中で食べられるから、まあ楽しんでいってね」

「あ、そうなの? 良かったわ……じゃなくて。私は優勝しに来たのよ。……いえ? まあ楽しみながらでも余裕をもって優雅に……」

 

 前々から思うことだが、アリスの自信は凄いと思う。実際に才能や実力もあるが、魔法におけるポジティブさが凄まじく高い。もちろんそれは良いことだ。

 

「しかし、このクイズ大会はアリス以上に魔法に精通した人が大勢出ている。果たしてそのチーズの味をゆっくり楽しむ余裕があるかな?」

「な……なんですって。……ほ、他に誰が?」

「ふむ。アリスが知っている人だとエレンとその親類とか」

「ええっ!? エレン・ふわふわ頭・オーレウスさんが!?」

 

 “なんだその変な名前は”みたいな顔で赤肌がこっちを見たが気持ちはよくわかる。

 

「それと……全体で見るならエリスも高得点は取れるんじゃないかな」

「ぐぬぬ……誰よ……」

 

 実のところエリスの実力については私も詳しくない。

 サリエルの小間使いとして色々と雑用をやらされているが、滅多に会う機会もないんだよね。

 

「なるほど。ふむ。ライオネル・ブラックモアは知り合いを推しているが、こちらからすれば魔都の学術機関出身の連中も相当なものだぞ。見たところそいつは人間のようだが……果たして魔都の学者連中に勝るものかな」

「むっ……誰よあなた」

「赤肌と呼んでもらえれば良いぞ、人間」

「むっ……なによ偉そうに……おいしそうなビールなんて飲んじゃって……」

「チーズを一欠片よこせ。そうすれば一本くれてやろう」

 

 赤肌は足下にある酒瓶ケースから魔法冷蔵されたビールを取り出した。

 

「くっ……悪魔の誘惑ってやつね……!?」

「アリス、貴女に悪魔の使役はまだ早いわよ。……ねえライオネルさん、受付はもしかしてあっち?」

「うむ。やっぱりここは紛らわしいのかなぁ」

「ふふ、そうね。それかお酒の販売所みたいに見えるかも」

「二欠片で二本くれる?」

「いいだろう人間。悪魔の契約は絶対だ」

「話がわかるわね……私のことはアリスと呼んでくれていいわ」

「わかった、人間。さっさと受け付けてこい」

 

 こうして、私にとってめぼしい知り合いたちも無事全員が参加受付を済ませたのだった。

 ついに魔法使いたちの頭脳がぶつかり合う時がやってきたわけだ。

 

「これはわからない展開になってきましたねえ解説の赤肌さん」

「なんだそれは……」

 

 赤肌がじっくりとチーズとビールを楽しみ終わるまで、私達はしばらく紛らわしい受付モドキを続けたのだった。

 

 

 


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