参加受付時間も終わり、受付を通った者にはそれぞれタブレットが配られた。
制御盤をいじって一括制御してやれば、登録は完了だ。
これより後の新規参加は不可能となり、個人登録が済んだので代役を用意することもできなくなった。
答え合わせが便利になったりカンニングを防止できたりなど、とにかく便利な機能を詰め込んであるので参加者全員必須のアイテムだ。
「さて。ライオネル・ブラックモアよ。ここからは不正行為者の取締だ。こればかりは事前にどれだけ脅しかけたとしても無くならんのでな」
「うむうむ。まあ、事前に可能な限りの対策は施してあるから、露骨なものはなくなるでしょう」
「だといいがね」
既に参加者達はドーム状の会場内に詰めている。ゆったりとした観客席も設けられているが、そちらの方はあまり盛況していない。まあ、そりゃ見てるより参加してるほうが楽しいに決まっているからね。
観客席のほとんどは、赤肌が言うには“賭けに興じているのさ”とのことである。
同心円状に並べられたテーブルと椅子。合間には各所に観葉植物、本棚、ベッドなど、一見するとテストに全く関係のない物が配置されているが、実際にほとんどのものはテストに関係ない。あくまでまったりと筆記試験に望めるように配慮したインテリアである。
椅子もパイプ椅子じみたシンプルでおかたい物もあるが、柔らかなソファーからうたた寝できそうなロッキングチェアまでよりどりみどりだ。各々が好きな体勢、慣れた体勢でテストに臨めるように多種多様に取り揃えてある。
クイズの参加者たちはそれぞれ、既に好みの椅子とテーブルに着席して準備が完了している様子。
会場が整ったのを見計らい、中央のステージに上がった赤肌がわざとらしく咳をする。
何の特徴もないぶかぶかのローブを着込んだ赤肌の悪魔、ヘルメス・トリスメギストス。パンデモニウム振興会の会長。
彼は一冊の分厚い本を掲げてみせた。
「さて、既に参加者の手元にはこれと同じ本があるはずだ。これは今回行われる筆記試験の問題集であり、答案用紙を兼ねている。解答はこの本の金枠の中に記すこと。専用の筆記具と羽根箒は各テーブルにいくらでも用意してあるので、そちらを使うように」
筆記具は万年筆に似たペンであり、書き味はなかなか良好なものだ。
羽根箒はいわゆる消しゴムのような働きをする道具であり、払うことで文字を消すことができる道具である。鉛筆と消しゴムを用意しとけよって話に思えるかもしれないが、この専用のペンで金枠に解答を書いてもらわないと自動答え合わせができなくなるのでね。致し方あるまい。
「制限時間は百二十時間。このステージ中央の大砂時計の砂が全て上に流れた瞬間を持って終了とする」
赤肌は傍らにある縦に細長い砂時計をコンコン叩いてみせた。
それは砂が真上に落ちる砂時計である。きっかり五日間を計測してくれる。一応、円形の会場のどこからでも直感として時間を把握できるという、オシャレなだけじゃない実用性も考えられてはいる。ここで時計を三面に貼り付けた柱を立てたりしないのが魔界のセンスなのだ。
「この筆記試験は全千問。減点方式で、合計最高得点は十万点となっている。配点に関しては、ページ終盤へ進むにつれて高難度、高得点となっている。ふむ、そうだな。あらかじめ言っておくと、全て正答するのは現実的ではない。選り好みすることは高得点を狙うための正道だと考えておいてもらいたいところだな」
最初の方の問題は一点などもザラである。最大十万点で一点というのはあまりにもあんまりだが、まぁ解ける問題がなくなったりだとか、集中力が切れて一休みしたい時などに手を伸ばせばいいんじゃないだろうか。箸休めにするのが丁度いいくらいだと思う。
「問題を解くにあたって、相談することは自由だ。ただし、その場合は解答欄に協力者の名を、そうでなければその協力者のタブレットの番号を併記するように。善意の忠告をしておくならば、そうだな。このルールはしっかり守っておいた方がためになるだろう」
ズルをすると普通に失格扱いになるので注意である。
「それに関連してだが……この本の内容は、所有者にしかページが見えないようになっている点は留意しておくように。他の者が覗き見たところで、中身は暗くなるようにできている。それに加え、一部の問題に関しては本によって入れ替えや内容の変更が加えられている。単純に答えを教え合う協力体勢には無理がでる仕組みなので、安易な不正はおすすめしない」
問題の順番入れ替え、内容の変動も不正対策の一貫である。不正者が出ないように祈りたいところではあるけども……。
「さて、ひとまずはこんなところか。話も続きもあるが、ひとまずはこれくらいにしておくとしよう。ああ、何らかの質問がある場合は、この金飾りを身に付けた運営関係者に訊ねるといい。飲食の要求も可能だが、そちらは専属の係がいるからそいつに声をかけるように」
金の飾りは、純金製のジャラジャラした派手なアクセサリーである。
赤肌も私も首に下げて長いネックレスだかレイだかのように身に着けている。係員の中にはたすき掛けしている者もいるが、まぁどんな着け方をしても目立つ程度には長いし飾りも多い。重さは四キロ以上ありそうだ。正直なところジャランジャランうるさい上に邪魔である。
「では、開始」
特にもったいぶる様子もなく、盛り上げようとする気概もなく、赤肌が砂時計の底部を軽く蹴った。
それと同時に砂が上に落ち始める。試験時間の消耗が始まったのだった。
「諸君らの健闘を祈る」
さあ、楽しい魔法クイズ大会の始まりだ。