東方遺骸王   作:ジェームズ・リッチマン

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 クイズ大会開始である。

 参加者一同は皆揃って本を開き、最初だからか仲間内で固まっていた者も、ひとまずは単独でのクイズに挑戦しているようだ。

 

「ふふ、ここルイズさんとやったところだわ……!」

 

 アリスなんかはすごい楽しそうにやってくれてるので、別に最初の方は私が作った問題というわけでもないのに嬉しくなってしまう。

 隣のルイズも“楽しそうね”と苦笑いだ。

 

 

 

「……」

 

 幽香は会場の外側にある、観葉植物がたくさん密集した場所に一人ぽつんと席を構えていた。

 彼女はひとまず本を開くと、最初のページにあるクイズ大会のルールや流れの説明書きを見て露骨に眉を顰めた後、一通りざっと目を通している様子だった。

 

 そう、最初の説明書き。この部分が実は結構重要なのである。

 幽香の他にも多少なりとも慎重さを持ち合わせている参加者たちは、そこを見て何かに気付いた様子だ。

 

 これこそがクイズ大会の落とし穴……。

 ここを見落とした参加者は、まことに残念……!

 

「おい、ここ見ろよ。最初のところ」

「さっきの説明になかったことが書いてあるね。……“時間経過とともに中央で問題が開示されるので、時間が来たら注意するべし”……か」

「何問目かな……おお、ここと、ここと……うわ、配点が高いな」

「高得点を狙うなら無視はできませんね」

 

 そう、見落とした人は残念な人である。

 残念な人だけど、このクイズ大会は特に私語を禁止してないので取り返しのつかない罠っていうわけじゃありません。

 

「……あ、本当だわ!? 最初に何か重要そうなこと書いてあるじゃない!」

 

 ちょっと残念なアリスは、周りから微笑ましそうにクスクスと笑われていたのだった。

 

 

 

「これは……最初は飛ばしたほうがいいわね。マイ、これ後の方から解いてかないと、時間配分考えるの難しそうよ」

「……わかったわ」

 

 珍しい二人組のペアがいる。

 彼女たちはなんと世にも珍しい神族と悪魔のペアであり、以前から二人で活動している魔法使いなのだという。

 赤肌の言うところの学術機関出身で、天使っぽい姿の神族の少女がマイで、黒っぽい装いの悪魔の少女の方がユキという名前らしい。

 そう。白い方がマイで、黒い方がユキなのである。名前のイメージがちょっとややこしい二人組であった。

 

「困ったら言いなさいよね。アドバイスする時は名前を書かなきゃいけないみたいだけど、マイがわからない時は手伝うから」

「……うん、ありがと。ユキ」

「そのかわり……わたしの方も詰まっちゃった時は、手伝ってね?」

「うん……任せてっ」

 

 神族と悪魔が仲良し。なんとも不思議なペアであった。

 ふむふむ。要チェックということにしておこう。

 

 

 

「うう……なにこれ……全然わかんない……」

 

 最初なのでほぼ全員が順調であった。

 が、それもほぼ全員。最初のうちから全くダメそうな人も、少数ながら存在していた。

 それが開始早々に頭を抱えた彼女、紅である。

 小悪魔ちゃんの付き添いとしてやってきた彼女だったが、多分少しくらいはできるかなーくらいに思っていたのかもしれない。

 しかし実際にやってみれば、最初から全力で躓いている。

 なんと彼女は長生きしている魔族であるにも関わらず、魔法知識が壊滅的な肉体派魔族だったのだ。

 

「こ、紅さん。大丈夫ですか?」

「問題は読めるけど……知らない技術が多いわね……小悪魔、貴女はわかる?」

「は、はい。最初の所でしたらまだ易しいので……」

「そうなの……ちゃんと勉強してるんだ。偉いわね」

「えへへ……」

 

 小悪魔ちゃんをなでなでしてあげている。優しい。でもテストの点数は上がりません。

 まぁ、問題をぺらぺらめくってれば一部は紅と相性の良いやつもあるから、根気よく探していると良いさ。退屈することはないはずだよ。

 

 

 

「小悪魔。彼女がいるだけで、これほどまでに不正がやり辛くなるとはな。最初はどうかと思ったが、案外良かったのかもしれん」

「おお、赤肌」

 

 適当に見て回っていると、同じように会場を歩き回っている赤肌と出会った。

 こうして普通に喋っていても平気なくらい会場は広いし、参加者たちも普通に会話しているので問題ない。

 赤肌はかなり真面目に会場内を見て回っていたようだが、どうにも拍子抜けした様子だった。

 

「小悪魔ちゃんの前でルールを破ると大変なことになるからね。パンデモニウムの悪魔にとってはやり辛いんだろう。といっても、別に小悪魔ちゃんはこのクイズ大会を取り締まる立場にはないんだけども」

 

 小悪魔ちゃんはあくまで魔都の管理が仕事であり、クイズ大会とは無関係だ。

 別に小悪魔ちゃんの目の前でカンニングをしようが位階に響くわけでもない。それでも念の為にやめておこうとなるのが、魔都の悪魔の正常な心理であるようだ。

 

「なるほど。言われてみれば尤もだ。まあ、こちらの仕事が減るのは助かるな。観客席にも動きはないようだし、むしろ暇になってしまったが」

「ははは。なら最近まで忙しかったんだから、休んだらどうだい」

「悪くない提案だ。しかし、これでも責任者なのでな。参加者からの質問にいつでも答えられるようにしなければならん。やれやれ、面倒なことだ」

 

 なんとも真面目な悪魔である。仕事となればビールを飲む素振りも見せないのだから、なかなかメリハリのきく仕事悪魔だ。

 

「……しかし、ライオネル・ブラックモアよ」

「うむ。ああ、言いたいことはなんとなくわかるけども」

「そうか。……だがあえて聞くのだが。彼らは本当に、有能な魔法使いの集団なのだな?」

「……その……はずだよ。うん」

 

 私と赤肌が見守る先。ひとかたまりに寄せられたテーブルには、地上から来た五人の魔法使いたちが一際賑やかに話し込んでいた。

 エレンやマーカスら、オーレウスの一族である。

 

「えーっ? おばさん引っ越しちゃったの!」

「随分と前にねぇ。会いに行くのも大変だよ。日持ちしないお土産が渡せないから、残念がってたなぁ」

「ははは、おばさんらしいな。おや? お茶空いてるけど、おかわりは?」

「あ、おじさん私にも!」

「はいよ。あ、本が濡れたら大変だ。気を付けて」

「はーい」

 

 もう……彼らの周りだけ完全にファミレスの一角だ。

 基本的に雑談とお茶。そして話の合間に気が向いたら本を開いて解答。そんな感じなのである。砂時計と制限時間の概念をまるきり完全に無視でもしてたんじゃないかというくらいのマイペースだ。このマイペースさを人間が出しているのだから本当に凄い。

 

「……ま。大会はまだ始まったばかりだからな」

「……た、多分大丈夫。私は彼らを信じているよ。うん」

「そうか……」

 

 色々と個性的にすぎる部分が各所にあるが、こうしてクイズ大会は無事に開始された。

 

 ……さて。

 あとは一定時間ごとに発表されるクイズ。この反応を見るのも大事だな。

 得点の多い異色のイベントクイズだが、はてさて。彼らはどんな反応を示すのだろうか。

 

 


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