東方遺骸王   作:ジェームズ・リッチマン

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魔法使いの選り好み

 

 

 Q21 : 配点1

 

 “上の図1に示された炎上の魔法陣において、触媒の配置に三箇所の誤りが存在する。”

 “炎上の魔法を発動させるために必要な、入れ替えるべき触媒名三つを答えよ。”

 “ただし入れ替えは右回りに行わなければならない。”

 “発動の可否について、その威力の多寡は問わないものとする。”

 

 

「最初の方はずっと簡単な問題ばっかりね。配点も1点ばっかりだわ」

 

 私はルイズさんと向き合うように座り、問題に取り組むことにした。

 最初は隣り合うように座っていたけれど、それだとなんていうか少し他人みたいだったし、せっかく久しぶりにルイズさんと過ごせるのだから、こういう座り方に決めたのだ。

 周りを見回すと私達と同じように既に席替えをしている人たちが大勢いて、ほどよくばらけていた会場内はそれぞれの参加者のグループごとに塊を作っているようだった。

 

「アリス。赤い悪魔さんからいただいたお酒はどうするの?」

「んー……あとで冷やして飲みます。二本ありますけど、ルイズさんどうですか?」

「ふふ……私は大丈夫よ。この問題、結構やりごたえがありそうだから」

 

 そう。この問題集、お酒を飲みながらだとちょっと厳しいかもしれない。

 ざっと目を通してみると、なかなか厄介なのだ。

 

 何が厄介って、なんといっても高配点の問題内容。

 九百問以降の配点は当たり前のように五十点以上。そして難しさもそれなりかそれ以上なのである。少しイラっとして作問担当者名を見たらライオネル・ブラックモアだった。あの人……。

 

 数問解くだけで序盤の百問分に相当するのだから取り掛からない理由はないんだけど、内容があまりにも未知というかパッと出てこないものすぎて、簡単な問題を百問やったほうが下手したら早そうな気もしてしまう。

 始まる前までは全問正解してやろうなんて思っていたけど、普通に無理だわこれ。

 いや私に無理とか不可能とかそういうのは無いんだけど、単純に時間が足りないのよ。五日じゃ絶対に無理。挑む問題を入念に選んでおかないと無様な点数で終わっちゃう。

 

「面白いわね。自分にできることをあらかじめ把握して整理しておかないと、上手く点数を取れないようになってるわ」

 

 けどルイズさんは楽しそう。

 この人は昔からそうだった。彼女はどんな時でも、たとえ自分の試合であってもイベントとして楽しもうとする。

 私なんかは絶対に負けたくないし、ムキになっちゃうんだけど……。

 

「それに、半日ごとに出題される九つの問題。これがなかなか大変そうね」

「……ええ」

 

 説明書きを読むと、そこには時間経過ごとに新しい問題が発表されると書かれていた。

 出題番号は100、200、300、400、500、600、700、800、900。全九問。それに該当するページを見てみると解答欄だけの白紙だけで、どんな問題が出てくるのかは全く分からない。

 唯一読み取れるものと言えば、百点以上の高配点であることと、作問担当者がライオネル・ブラックモアであることくらい。なんかもう……嫌な予感しかしないわ……。

 

「内容はきっと難しいのでしょうけど、点数はとても魅力的。つまり、半日置きに出題されるこの問題はとても美味しいのでしょうね。作った人もイベントを盛り上げるために、そういう意図を込めているに違いないわ」

 

 ルイズさんはそう言いながら、近場の棚から道具を引き出して、テーブルの上に並べていく。

 それは会場の各所に用意されていた魔法実験用の道具類で、私も何度も使ったことのある馴染み深い装置だった。

 

「だから、じっと集中していられるのは最長でも半日間。集中できる時間を有効に使わないと、難しい問題は解けないわ」

「……ルイズさん。あの人の作った難しい問題、やるんですか?」

「ええ。せっかくお誘いいただいたのだもの。やらないと失礼でしょ?」

 

 …………遠くの方で金ピカの飾りを身に着けたライオネルさんが腕を組みながら“うんうん”と頷いているように見えるんだけど。

 しっしっ、こっち向かないでよそ行ってちょうだい。集中できないわ。……あっ、トボトボ離れていった。ちょっとかわいそうだけどまぁいいか。

 

「……まぁ、そうですね。簡単なのは空いた時間にもできますし、高得点を狙わないときっと優勝なんてできないだろうし……」

「それで、どうかしら? アリス。きっとこの難しい問題になると、色々と機材を使っていかないと答えを導き出すのが大変になると思うんだけど……私と協力してやってみない?」

「え、い、いいんですか?」

「もちろんよ。私からお願いしたいの。ほら、アリスが魔界に来たのもそうだったでしょ? 研究は大勢で取り掛かった方が効率が良いんだから」

「……はい!」

 

 そう。私はルイズさんにアドバイスをもらいたくて、一度魔界に戻ってきたのだ。

 わからないことを手探りに調べるのも楽しいけれど、限界は来るし壁にもぶつかってしまう。

 知ってる人がいるのなら聞いたほうが早いし、わからないことがあれば協力した方が絶対に良いのである。

 

「ルイズさん、後でチーズ食べましょうね!」

「ふふ、もちろん。お酒と一緒に冷やしてね?」

「はい!」

 

 私達のクイズ大会は、始まったばっかりよ!

 

 

 

 Q901 : 配点50

 

 “図1に描写された螺旋波形図は晴天の満月下において床に置かれた魔石のフォラミニフェラ魔素構築の外郭揺れを経過時間ごとに可視化したものである。”

 “この魔石を図2のように複数配置した場合、経過時間α、βの間における波形の揺れ幅を答えよ。”

 “尚、大地は属性を持たない魔界偏在石と同質であり、魔石は属性を持たず真球であるものとする。”

 

 

「ルイズさん901は飛ばしましょう?」

「そうね」

 

 解ける問題からやっていきましょう。うん。

 

 ……あるのかしら……? 解ける問題……。

 

 

 


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