東方遺骸王   作:ジェームズ・リッチマン

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 鐘の音と共に、900問目が発表される。クイズ大会も残すところ半日。これが最後の時間問題だ。

 魔法使い達は連日の頭脳の酷使に色々めげてたりめげてなかったりだが、最後の時間問題ということでラストスパートに入る。

 残すところここだけ。ここだけを頑張れば大量得点が狙えるかもしれない。そんな期待と希望を乗せて、鐘の音が鳴り響く。

 

 

 Q900 : 配点 全300

 

 “この世界において最も有名であろう魔法使いについて予想し、上位5名の名を書きなさい。”

 “なお、この問題の解答は参加者全員が書き記した名前の中から最も多い順に正解とし、知名度が高い魔法使いほど配点は高いものとする。”

 “このクイズに関しては一切の協力が認められていないので、注意すること。”

 

 

 発表されるのはそんな問題である。なんと正解らしい正解を用意していない問題だ。

 正解を決めるのは参加者たち自身。場合によっては彼らの答え次第で、最も有名な魔法使いがそこらへんの人にもなってしまうぞ!

 

「これは……」

「協力不可か……いや、なくとも問題はないが……」

「……誰だ? いや……」

「皆は誰を有名とする……?」

 

 これは生きてきた環境によって答えも変わるのだろうと思う。

 悪魔なら悪魔の、神族なら神族の、そして人なら人にとっての有名人がいるだろう。

 しかしルールはルール。有名なのは上位五人のみ。彼らはそれを予想し合わなければならない。

 

 協力はできないルールだが、参加者達は周囲の魔法使いの顔ぶれをキョロキョロと見回している。

 確認しているのは種族か、あるいは読み取れる何かしらの情報か。

 私の予想ではなかなかばらけると思うのだが、さてさて。

 

「ふむ、実にお前らしい問題だな。誰が有名か……」

「皆の中での有名な魔法使いについて知りたくてね。ちなみに赤肌は?」

「魔界での事情は詳しいが、人間の世界となるとまた変わってくるだろう。予想はいくらか出てくるが……ま、私はお前の名前だけは書いておくよ。参加者だったとしたらな」

「おお、それは嬉しい」

「作問者の名として頻出するのがお前だから必然的にそうなる。あとは振興会の代表として私の名を挙げる者もいるかもしれんな」

「……そういう選び方はちょっと夢がないな」

「連中にとって必要なものは得点だろう。必然さ」

 

 腹さえ括れば書き込むのに時間のかかる問題ではない。

 参加者はどうあっても明確な答えが出ないこの問題にかかずらうのを嫌ったか、人によってはすぐさま書き込んでいるようだった。

 まぁこの問題も配点は多めだけど、半日間悩むほどのものではないからね。だったらまだまだ別の問題で着実に苦悩した方が希望がある。

 

 実際、アリスやルイズたち含め、ほとんどの参加者がさっさと名前を書いているようだった。

 

「ふーむ。有名といえば誰だろうなぁ。ワシらにとってはご先祖ということになるがのう」

「あっ、お父さんそういえば昔街で結構大きな井戸を作ったんでしょ? 名前がちょっとだけ入ってるやつ! だから有名なんじゃない?」

「いやいや、まあその時は有名だったけども。エレンこそ王様からの覚えがめでたいと聞いてるぞ?」

「えー、そんなこと無いわよー? 知らないし……」

 

 ……オーレウスの人々のように、話のネタにしている人たちもいる。

 ほんと彼らは終始お茶会の様相を呈していたな……その割に意外なほど解き進めているのが凄いのだが。

 

「ええ……魔法使いの名前……五人……? 五人も知らない……」

 

 そして紅は……うん。大丈夫だ、頑張れ。とりあえず私の名前書いとけば大丈夫!

 なにせ私は偉大なる魔法使いにして出題者でもあるのだ。参加者たちがこぞってライオネル・ブラックモアの名を挙げるのも当然だと言えよう。

 

「……第一回はつつがなく終了、か」

 

 赤肌の言葉に砂時計を見れば、それももうほとんど落ちきっている。

 振り返ってみれば問題らしい問題の起こらない、実に平和なクイズ大会であった。

 

 私としてはてっきりはっちゃけた誰かがクイズ大会の会場を乗っ取ったりだとか爆破したりだとか、そういったトラブルが発生するものと予想していたのだが。

 気づけば観客席にも人がぱらぱらと入っており、最初からずっと見ていたわけではないのだろうが、クイズ大会の終わりをとりあえず見ておくかーくらいのノリの人たちで賑わっている様子。

 彼らもまた観客席で、口々に有名そうな魔法使いについて和気あいあいと議論を交わしているようだ。

 

「参加者も多くて客もそこそこ賑わった。……第二回が楽しみじゃないか、赤肌」

「うむ。私も今回の反響はなかなか手応えを感じている。何十年後か何百年後かにまた行うとしよう。……その時もまた、小悪魔が入れば手間も少なく済みそうだがね」

「ははは。彼女は善意の参加者だから、誘うなら前もって言っておくと良い」

「私からか? それは御免だな。万が一にでも機嫌は損ねたくないのだ」

 

 いや小悪魔ちゃん別にそんな気を悪くするような子じゃないから……優しい子だから……。

 

「しかし、この次は実技の大会に移る。これで大会の全てが終わったなどと思うなよ」

「わかっているよ。一応そっちも……まぁちょっと見ておくつもり」

「あまり興味はないか」

「なくはないけど、参加者たちの答案をじっくり確認したいんだ。ニュアンスの違いを求められる問題の手動答え合わせもあるし」

 

 実技の魔法戦も悪くはない。興味もある。

 けど、こうして筆記試験として出された問題を解く彼らの筆の上でこそ、魔法使いの真の力や理念が垣間見えるものだ。

 

 彼らが何から魔法に触れ、どのように育ってきたか。

 いくつの魔法を覚え、今に至ったか。

 それはこの大会に興味を示した私の最大の関心事である。実技は審判役がいれば誰でもいいので、私はゆっくりと答案とにらめっこさせていただこう。

 

 

 

「……うーん……あっ、そうか。こういう名前を書いとけば良いかな」

 

 紅がハッとして名前をポリポリ記入した数十分後、終了の鐘が鳴り響いた。

 これにてクイズ大会は終わり。色々惜しい気もするが、豪華千問の問題はすっかり参加者たちを疲れさせていた。

 終わると同時に机に突っ伏したり、居眠りを始める人達続出である。やりごたえのある問題に全力で取り組んでもらえて何よりだ。

 

 

 


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