東方遺骸王   作:ジェームズ・リッチマン

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 魔法クイズ大会の全ての日程が終了した。

 大盛り上がりだった実技大会も無事に死者重傷者なく終わり、結果として大成功を収めたわけだ。

 気兼ねといえばクイズ大会の不正や盛り上がり次第であったので、成功はほぼ確信していたのだが、しかしまぁ私にしてはなんとも上手くいった今回の企画である。

 

 現代的な盛大な開会式や閉会式は、魔界の文化では主流ではない。

 私も赤肌もそのへんはかなりドライに考えている性分なので、大幅にカットされている。

 長かったようで短かった大会も終わる時はあっさりしたものだ。

 

「これで全ての種目は終了した。頭脳を働かせ、魔法を稼働させ、大半の諸君らにとっては久しぶりに忙しない日々であったと思う。中には忍耐の無さ故に途中で投げ出したものもあるだろう。それを一概に怠慢だとは言い切れないが、今回に限っては得点として如実に現れる形となったな」

 

 赤肌は壇上に上がり、最後の挨拶を述べている。

 彼がそう長々とやるつもりがないのは誰しもわかっているのだろう。シンと静まり返っているわけではないが、参加者たちは静かなものであった。

 

「さて、実技の方の優秀者は結果として明らかになった。今更振り返ることもあるまい。序列を小刻みに明らかにしていくのも無様な話だ。気になるものは各自で調べるとして……ここでは簡潔に、クイズ及びロウドレースを合わせた総合最高得点者についてのみ、発表しよう」

 

 ババーンと参加者全員を羅列したり、カウントダウン方式で発表したりはしない。

 もちろん秘匿するわけではないので掲示はしておくが、ここでは最優秀者の発表のみだ。

 

 発表の前に皆が固唾をのむ……感じはしない。

 そんなものだ。ほとんどの参加者は“まぁ自分ではないだろうな”ということを察しているのだろう。そこそこ長命故の落ち着きがある。

 

「最優秀者は……臙脂学派所属、ナハテラ。クイズにおいて下位に三千点以上の差をつけ、最優秀を収めた。ロウドレースにおいても上に食い込み、独自の魔法理論の有用性を示した形となるであろう。……さあ、栄えある第一回目の覇者だ。与えられるべきものもある。こちらへ上がり、一言でも感想を述べるといい」

 

 赤肌が人の悪そうな笑みを浮かべてそう言うと、一人の白っぽい不健康そうな男が壇上へと上がっていった。

 彼は一度問題の定理について赤肌に物申した悪魔であった。

 同時に、赤肌が“奴がトップになるかも”と推していた一人でもある。

 私も採点していて“まぁこの人だろうな”と思ってた悪魔だ。彼一人だけが解けている問題が結構あったので、理解度については下位と大きな差があるだろう。

 

 その悪魔、ナハテラは居心地悪そうに周囲を見回し、赤肌から小さなピン型の拡声魔具を受け取り襟元に差して、咳払いをした。

 

「……パンデモニウム、臙脂学派のナハテラです。今回取り組んだ数々の問題は、とても興味深いものばかりであり……単純な一問一問にも光るものを感じました。研究の題材としても非常に価値のあるものばかりで、今後我々の臙脂学派の活動にも兆しが……え? なに、そういうことではない? ……そうか……」

 

 なんかナハテラさんが近くから半笑いのガヤを飛ばされて、また咳払いをひとつした。

 

「……この錚々たる参加者の中から最優秀者に選ばれたことについて、あー……誇りに思います。……いや、それだけですが。感想と言われても……あ、賞金や土地については臙脂学派の新たな研究所として用いる……そうではない? どうすればいいのだ……」

 

 なんか色々と近くの知り合いからヤジを飛ばされているようで、なかなかにグダグダな感じだ。

 でも遠目から見ている分には結構面白いやり取りである。ちょっと離れた場所にいるオーレウス一家はバラエティーでも見ているかのように笑っていた。

 

「……以上です。どうも……」

 

 結局、不慣れな悪魔の研究者はそんな感じで挨拶を終えたのだった。

 居心地悪そうにそそくさとその場から立ち去ろうとしているが、しかしそれにはまだ早い。

 

「ああ、待つが良い。肝心の物を渡し損ねているのでな。……ほれ」

「うむ」

 

 赤肌に顎をしゃくられて、私は隅っこの方から前に出た。

 突然現れたそこらへんの骸骨風情な私に、ナハテラは怪訝そうな目を向けている。

 しかし大事なことなのだ。これはこの場でやらねばならないことだろう。

 

「ナハテラ。貴方は参加表明時に記入した内容において、個人的に求めるものとして“強力無比な魔法”と書いたね」

「……それが何か。陳腐だとお思いですか」

「いや、そんなことは。希望の例題としてあったせいかもしれないけど同じことを書き記した参加者は多いからね。変ということは全く無い」

 

 力。それは彼らにとって欠かせないものであり、今尚有効な価値観のひとつだ。

 

「さあ、これが貴方に贈る副賞だ。開け方はわかるはず。大事にするといい」

「……」

 

 私は彼に一枚の栞を差し出した。

 赤金色に煌めく金属じみた栞。表面には魔法的な紋様が浮かび、簡素な封印が施されている。

 これを開封した時、持ち主はひとつの魔法の知識を得るだろう。

 

「これは……」

「帰ってから、落ち着いた場所で開けると良い。おめでとう、ナハテラ。貴方の積み上げてきた堅実な知識は、着実に実り続けているはずだよ」

「……」

 

 ナハテラは一瞬だけ瞠目したが、すぐに懐へ栞をしまい込むと、そのまま静かに壇上を降りた。

 

 視界の隅で幽香が舌打ちをしたように見えたが、力づくで栞を奪おうなんてことはしない……と思いたいところだ。

 まぁ魔都にいる限りは無理だろう。

 

「さて、これにて閉幕だ。二位以下の者についても商品および賞金は用意されている。荷物になるから、まとめ方や運び方は個別に相談するように。……はい、それでは解散。帰った帰った」

 

 こうして、クイズ大会は終了した。

 自分の順位が気になる人も多いし、他の参加者と交流を目論む者もいるだろう。そういった意味では本当の解散にはまだ早いだろうが、我々が企画する魔法クイズ大会はこれにて終わりなのである。

 

「皆様お疲れ様でした! 参加されたお祝いにこちらで用意したディナーコースなどはいかがでしょう! なんと今なら各地から取り寄せた高級食材や高級酒を参加者限定の価格で……」

 

 なんか商魂たくましいアフターサービスが始まりもしたが、終わりは終わりなのである。

 

 ……オーレウスの皆! 君たちが惹かれるのはなんとなくわかっていたけども、あまり悪魔の商売に関わらないほうが良いぞ! 早めに帰るんだぞ!

 

 


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