東方遺骸王   作:ジェームズ・リッチマン

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 メルランの作り上げた国は、純粋な美しい景色と、機能美に満ちている。

 一つの区画の中に閉ざされていて尚、淀むことのない循環がここにはある。

 だがそこに住人が存在しないだけで、それらは機能美としては認められない。

 歯がゆいものである。

 

「ライオネル・ブラックモア。あなたが来てくれたおかげでこの国の“お片付け”をする決心がついたわ」

 

 国を一周りし、城へ戻ったところで。メルランはそう切り出した。

 

「勿体なかった。未練があった。だから私は研究室に籠もっていたけれど……こうして誰かに見せたことで……まあ、もう十分かと思えるようになったの。この場に留まったところで、誰が帰ってくるわけでもないものね」

 

 城から一望できる小さな国。だがここから見えるのは、美しいが無人であるという動かぬ事実のみ。

 惜しくはあったのだろう。実際、私も傑作を仕上げた直後は誰かに見てほしく思う。彼女の決断はなかなかできるものではない。現時点でアヴァロンに欠陥があるわけではないのだから、なおさらだ。

 

「でも、もう片付けないとね」

「良いのかい」

「ええ。“王国ごっこ”はおしまい。私は結局……国なんて大層なものではなくて、もっと……」

 

 彼女はそこから先は語らず、鼻で笑い飛ばした。

 

「……ねえライオネル・ブラックモア。せっかくだから最期は、あなたの手でこの国を壊してもらえないかしら」

「私がかい?」

「掃除をしてって意味じゃないわ。……ここアヴァロンにはどうしようもない外敵がやってきた時のための最終防衛機構があるの。私が長年かけて開発した、神族にも魔族にも劣らない“とっておき”。……見たくない?」

「おお……それは見たいか見たくないかで言えば、是非見せていただきたいものだね」

 

 メルランが言う最終防衛機構。とっておき。そんなの見たいに決まってるじゃないか。

 

「それじゃあ、是非戦ってもらえるかしら? 愚かな魔法使いメルランが創り上げた大魔法と。アヴァロンが咲かせる最期の花と」

 

 凶悪そうに微笑むメルランが、手に一輪の花を取り、こちらに向ける。

 それはアヴァロンを囲むように咲き誇る石塔の花と同じ形であったが、手の中に収まるほどに小さく、花弁は炭のように黒い。

 秘められた魔力は微々たるものだが、それが何らかの起動装置であろうことは明白だった。

 

「ああ、見せておくれ。魔法使いメルラン。私にアヴァロンが幻想ではなかったことを教えてくれ」

 

 私は城を背にしたメルランと向き合うように立ち、手の中に土製の杖を生成する。

 

「……ふふ。あはは。あははははっ! そう、だったら楽しんでいってちょうだいね! 独りよがりな私の、私なりの最高傑作を!」

 

 メルランが手の中の黒い花を手折った瞬間、魔力の波動が辺りに広がった。

 同時に地鳴りが響き、大地が小さく揺れ始める。

 

「これは……」

「あなたの“虹色の書”と“生命の書”がヒントをくれたのよ。高等土属性魔法と高性能ゴーレムの合せ技。聞いたことあるかしら? 無いかもね? “魔法使いマーリンは石を意のままに操ることができる”ってお話だけど」

 

 城の石組みが目まぐるしく変わり、巨大な顔を作り上げてゆく。

 尖った長い口に無数の石の牙。それはまるでドラゴンのよう。

 

 いやそれだけではない。石のドラゴンが作られるとほぼ同時に、眼下の景色が、アヴァロンの町並みから外を取り囲む石塔に至るまで、連鎖的に魔法が伝播してゆく。

 

「この規模は……国そのものと、その地下にさえも術を仕込んでいたということか!」

「さあ、飛び立ちなさい! “アヴァルニア・トリリトンドラゴン”! あなたがここに居たことの証明(傷跡)を、奴の記憶に刻んでみせなさいッ!」

 

 巨竜の首が吼え、土煙がジェットのように吹き荒れる。

 土属性術を交えた質量のある咆哮。それは木々も大地も関係ないとばかりに吹き飛ばし、城があった小山を一瞬のうちに吐き尽くしてしまう。

 

「“雨宿り”」

 

 風と礫を防ぐ防御魔法を展開し難を逃れたが、それでも土の咆哮は私を遠くアヴァロンの中央にまで押し出した。

 城はドラゴンの頭部になり、では胴体以下はどこにあるのか。

 

 決まっている。私の下だ。

 

「この国の全てをドラゴンゴーレムに変えるとは……素晴らしい」

 

 国中の石材が、土塊が、一つの形を求めて隆起する。

 左右から巨大な塔のように立ち上った腕は爪先を生成すると、即座にこちらへと襲いかかってきた。

 

「おっと! “炎塵”!」

 

 抱き込むような巨大な腕を回避し、魔力の対流によってこちらのリソースを確保する。

 が、アヴァルニア・トリリトンドラゴンの生成は超大な環境魔力の収奪も同時に行っているらしく、杖を差し向けても思うように集まらない。そうこうしている間にも石造りのドラゴンは刻一刻とその姿を完成へと近づけてゆく。

 完全体となった時、一体どれほどの力を発揮するのだろうか。興味はあるが今ここで手を抜くのが魔法使いとして正しい礼儀であるとは思えない。

 

 既にメルランの魔法は“成って”いるのだ。

 私も反撃を開始させていただこう。

 

「“魔力の収奪”!」

「空から魔力を奪うつもりね!? トリリトン! あの魔法使いを大地に叩きつけなさい!」

「むっ」

 

 ドラゴンが恐ろしい速さで上体を起こし、その顎門が私の高さを上回る。

 この質量にしてなんという速度。内部の強靭さは想定以上だ。

 

「吐き出せ! “パイロクラスティック・ブレス”!」

『ォオオオオオオオッ!』

「これは……“雨宿り”」

 

 生物にあるまじき開度で大きく解放された顎門から、灼熱の灰燼によるブレスが放射される。

 偏重した属性による高圧のブレス。何より質量を有しているというのが恐ろしい。今私が持てる魔力、それによる防御魔術では押し出されてしまう。

 ああ、“収奪”の導線が切られた。これはまずいな。

 

 まずいけども……実に良い魔法戦だ!

 

「壊すのがもったいないが、壊していいんだね!? メルラン!」

「やれるものならやってみなさい! 偉大なる魔法使い!」

 

 灰燼に煙る空が晴れた時、そこには土の大翼を広げた巨竜が太陽を覆い隠していた。

 

 

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