東方遺骸王   作:ジェームズ・リッチマン

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 魔法使いメルラン、あるいは魔法使いマーリンの悪名は魔界にまで響いていた。

 

 人間を誑かす者。攫う者。あるいは洗脳する者として。そのほとんどは誇張であろうが、一部の人間を自ら作った理想郷……アヴァロンに誘ったのは事実であろう。

 きっと強引に連れ去ったわけではないのだろう。最初の内は国の運営も順調であったらしいのだから、それは間違いない。

 しかしその人数は、国ともなれば。ましてやアヴァロンの町並みを見るに……数千か数万か。その程度は動いたはずだ。

 どんな人間を選んで連れ去ったのかは聞かなかったが、食や住居にあぶれた人間であれそれほどの数が消えれば、大きな混乱になったことは想像に難くない。

 

 それでもきっと、アヴァロンは他の国々からの醜聞さえも跳ね除けていたに違いない。

 国を取り囲んでいた白い花の石塔はそれだけの力を持っていた。

 メルランもアヴァロンが末永く続いていくのだと……きっと、そう思っていたのだろうが。

 

 だが国は瓦解した。

 人間たちに芽生えた冒険心や探究心によって、内側から終焉を迎えたのだ。

 

 今よりも少し秀でた文明も。争いや襲撃のない平和な世界も。

 それを比較する過去を忘れた時、人は……ただ変わることのない現状について、不満を抱くものなのだろう。

 誰も閉ざされた場所を望みはしないのだ。

 

 

 

「全ては土塊に帰る、か」

 

 メルランが立ち去った後、アヴァロンの跡地は単なる荒れ地として広がるのみであった。

 残ったものは、崩れ落ちた際にほんの僅かに名残を残しただけの、アヴァルニア・トリリトンドラゴンの小高い丘くらいのものであろうか。しかし地盤の固まっていないこれも、月日と風雨の中でなだらかになっていくのだろう。

 メルランが作り上げたアヴァロンは跡形もなく消滅したのである。

 

 もったいない、と思う。

 同時に彼女のやけっぱちな感情もわからないではない。ほんの少しだけではあるが。

 自分の作り上げたものが不完全であるとわかった時、衝動的に壊したくなるのは……いや、それも少し違うのかもしれない。

 

 私の考えを重ねるのはやめておこう。これはメルランの話なのだから。

 

「……とはいえ、アヴァロンね。崩れ去ったとはいえ……果たしてそれも完全かはわからないぞ、メルラン」

 

 メルランは一から十まで悲観していたものの。

 これほどの大規模な国である。この国から脱出した者がどれほどいるかはわからないが、少しでもいればきっと語り継がれるに違いない。

 現在の他よりも良い教育を受けた者たちであれば、きっと地方の有力者にさえなれるだろう。故郷を捨てた彼らの血が残る可能性は決して低くないはず。

 

 だとすれば、この世界のどこかに……アヴァロンの元住人がいる。のかもしれない。

 わざわざ私から探しにいきたいとは思わないが、世界のどこか片隅にでも遺っていればいいなと、なんとなく思った。

 

 

 

「というわけでおみやげは関係ない都市の焼き菓子になりました」

「わーい」

 

 魔界に戻った後、私は神綺にクッキーのようなお菓子を贈呈した。

 アヴァロン跡地には土と石とほんの少しの白い花くらいしかなかったのだ。仕方あるまい。

 だが神綺さんにとってはどこそこの地方のお土産だというのはあまり気にならないらしく、私が差し出したクッキーを美味しそうにボリボリ食べていた。

 

「魔法使いメルランですかぁ。どうして魔法使いなのに魔界に来ないんですかねえ」

「さてね。地上が好きな人もいるってことだろう。私もそうだし」

「ライオネルも地上好きですもんね」

「うむ。まぁ、今でこそ慣れたけどさ。自分の故郷ではない異界を忌避する心理はよくわかるんだ」

 

 ここは自分の居場所ではない。なんとなくそれが肌で理解できるというべきか。

 

「魔界は住心地良くなりましたよね?」

「もちろん。これだけ自分たちの好き勝手にカスタマイズしてしまえばそりゃあね」

「ふふふ」

 

 言うまでもなく、魔界は私の第二の故郷だ。今やこの広々とした四角い世界も、顕界と同じくらい大切なものに思えている。

 魔人をはじめとして、悪魔や神族、魔族や、時に人間さえも、この魔界を故郷と定めている者は存在する。

 各地に魔界に眠る者のための墓地だってあるし、地方によっては小規模な紛争地帯だってちらほらあるくらいだ。

 魔界は魔法的に少々アクセスの悪い異界であるが、ここを好き好んでホームとする人々の存在は多い。制作に関わった人間として、結構嬉しい状況である。

 

「メルランって子も、魔界に来ればよかったのに。一度来れば絶対に気に入るわ」

 

 さて。神綺はそう言うが、果たしてどうだろうね。

 私もダメ元でそう誘ってはみたが……彼女はきっと、魔界に来たとしても疎外感を感じずにはいられなかっただろうと思っているよ。

 

「クッキーおかわりいる?」

「飽きたのでいいです」

 

 最初こそガツガツ食べていたのに、素朴な味には早くも飽きがきてしまったようである。

 

 

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