東方遺骸王   作:ジェームズ・リッチマン

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遺骸王の人造


 

 

 メルランを見て、私はある想いを抱くようになった。

 前々から感じていたものだ。ある意味、自分の中に押し込めていた感情なのかもしれない。

 だが彼女の生み出したアヴァロンを見て、闘っていくうちに。私の中で再び情熱の炎が灯ったのである。

 

 

 

「神綺。私と人間の子を作ってくれ」

「えーっ」

 

 私の一大発表に、神綺は地味な喜び方をした。

 顔色は対して変わらないのに両手だけバーっと上げる、そんな雑な反応である。

 

「ライオネル、もう少しロマンチックな感じで誘っていただけると嬉しいんですけど……」

「ロマンチック とは」

「最近外の世界から来る人も増えたおかげか、人間流の告白なんかも増えてるんですよね。人間から妖魔に対して想いをぶつけるやつとか。ちょっとそういう感じにやってみてくださいよ!」

 

 神綺さん。それはあれだね。近頃魔界の劇場で流行っている半妖の恋愛譚だね。

 しかし、うーむ……神綺さんがロマンティックを求めるのであれば、こちらもトキメク胸にキラキラ光った夢をあげねばなるまい。

 

「えー、ゴホン……神綺」

「はい」

 

 私はニマニマ笑う神綺の前に片膝をつき、手の中にボフンと薔薇の花束を生成した。

 

「どうか、この私めと一緒に……」

「ふ、ふふっ、あははっ! 花束っ……! ちょ、ちょっと待ってくださいライオネル、ごめんなさい、少しツボに入っちゃって……! ふふっ……!」

「……」

 

 私の告白の出だし部分だけで、神綺様は大爆笑されたのであった。

 

 うむ。これがコントなら大成功なんだけどね。うん……。

 

 

 

「はー面白かった……それで、なんでしたっけ。人間ですか?」

「そう、人間の子を創ってみようかと思ってね」

「それはまた突然といいますか、懐かしいといいますか……随分前にも何度か試して、諦めてた分野でしたよね?」

「うむ」

 

 テーブルの上の剣山に薔薇の花をぷすぷすと華道よろしく飾り立てながら、そんな会話を交わす。

 私の方は大輪の一本を中心に据えた豪勢な作品であるのに対し、神綺の方は控えめな小さい花を中心としたこじんまりとした作品を目指しているようだ。

 

「知っての通り、私は原初の力をもってしても生き物は生み出せない。この一見瑞々しい薔薇の花でさえ、水に浸しても速やかに枯れてゆくのみの、ただの“死体”として生成される」

 

 例外はない。人間やアノマロカリスを創っても結果は同じ。

 それらしいガワのものは生み出せるが、そこに魂は宿っていない。

 別アプローチとして原初の力を使わず、無から有に、つまり単なる魔力から魂を生み出す試みも成功したことがない。

 

 実は地上において魂や命を創ると称して生命を生み出すという神族や魔族がいないわけではないのだが、そちらも厳密に言えば魂を創造しているとは言い難く、結局既存の魂から“分け与えている”という行為であろう。……いや、神綺の生命創造も厳密にはそうなのかもしれないが。

 ともかく、生命創造とは私にとって未だ解明できていない分野の一つなのであった。

 

「しかし、今更再びゼロから生命を作ろうなどと思っているわけではなくてね。今回はもっと気軽に、肉体を用意した上で既存の魂を流用したものを嵌め込む方式で作ろうかと思っているわけなんだ」

「はえー」

「わかりやすく言うと、神綺がベース部分を、私が細部を手掛ける形で創っていこうかと考えているわけ」

「なるほど。私が基礎を創ってしまえば良いんですね?」

「うむうむ」

 

 メルランも生命の書を読んで色々試したようだが、その研究も自作の魔法植物止まり。とはいえ、あの白い花はなかなか美しいものであった。

 今回の私はそれに触発されてのものである。

 

 メルランがあれだけ性能の良い花を創ってみせたのだ。だったら私も、性能の良い人間を、創ってみたい。

 そんな衝動こそが今回の原動力である。

 

「ちなみに、どんな人間を作ろうというんですか?」

「うむ。実はもうある程度は考えていてね。まぁ、基本的にはドラゴンと同じで、自然死することない不老の存在にするのは前提なんだけど……ベースは人間にしてみたいんだ」

「へー、人間ですか。神族や魔人ではなく?」

「うむ。ああでも神綺に創ってもらうと魔人寄りなのかな? まぁ材料はなるべく人間のパーツを意識して使っていきたいところだね」

「こだわりますねえ」

「できれば強さも兼ね備えていると良いな。こう……バシューって撃ったり、シュバッって動いたり」

「なるほどー」

 

 薔薇の生花そっちのけで、テーブルの上に設計図を描いてみせる。

 まぁ神綺と一緒に居ても違和感のない少女型で、そうだな。出力は重視しつつも暴走されると困るから忠実な存在であってほしい。そういう意味では自由意思を持つドラゴンとは少し違った存在になるだろうか。

 

「なんだかゴーレムと似てますね?」

「かもしれないね。まぁそれに触発されたところはあるんだが」

「前言ってた“アヴァルニア・トリリトンドラゴン”みたいな?」

「そうそう。なんかね、後ろから指示して動き出す強いゴーレムっていうのがね……良かった……」

「そう……」

 

 ここらへんの私の情熱はあまり神綺にも伝わっていないようだけど、良いのだ。これは私のロマンなのだ。

 それに実際にあのドラゴンを眼にしなければわからない部分もあろう。良いといったら良いものなのである。

 

「女の子を創るなら、せっかくなので可愛くしてあげましょう。よそ者を始末できるくらいには強くないと駄目ですし……能力もこちらで用意してあげたいですね。ライオネルがドラゴンに仕込んだ魔法みたいな」

「そうだね、その予定ではいるよ。肉体や……霊魂にもあらかじめ仕掛けておきたいね」

 

 見た目は重要だ。せっかく創るのだからギリシャ彫刻のように完成された美というものを生体で再現してみたい。

 もちろん強さもなくてはならぬ。せっかく手をかけて生み出すのだから、外から来た人たちに壊されない強さがなくてはつまらない。

 

「名前は何にします?」

「うーん……まだ決めてないけど……色々夢とロマンが詰まってるからとりあえず夢子ちゃんで」

「わあ、シンプルですねえ? 素敵ですけど」

 

 こうして、私達の夢子ちゃん(仮)作成計画が始動したのであった。

 

 

 


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