もしも東方projectの世界にシシ神がいたら 作:ジョン・N
ここすきも見ました。参考になります。
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今回、【微グロ、注意】です。
妹紅は木々の葉を掻き分け、シシ神に向かって走った。枝葉が行く手を遮ろうともお構いなしに、まるで風が森を流れるように駆け抜けていく。葉がカサカサと音を立てて散り、妹紅の髪や服に付くが、そんなことを気にする様子はない。まさに一心不乱だ。
そのあまりの速さに、影狼は渋々、地面に手をついて本物の狼のような走り方をして付いてきていた。ロングスカートを揺らす優雅な振る舞いを好み、四つん這いで駆ける野性的な動きは好きではない彼女だが、今の妹紅は野生の獣並みの速度で森を駆けている。妹紅についていくには、この走り方をするしかなかった。
二人がいつまで走っても、シシ神の姿を見つけることはできない。姿を見かけたときには距離があったが、それでも、これだけ走れば追いついていてもおかしくないはずだった。
妹紅は、先ほど身をもって感じたシシ神の気配と神気を頼りに、森を駆け抜けた。
やがて、二人は森の開けた場所に出た。今まで常緑広葉樹の葉によって遮られた日の光が、ここでは地面まで差し込んでいる。木漏れ日の中を走ってきた妹紅は、まばゆい光に一瞬、目を細めた。そして同時に、川の岸にいた時とは、また違う涼しい風が妹紅を包む。
「はぁ……はぁ……ここは?」
「シシ神様の御池ね」
妹紅たちの目の前には大きな池が広がっていた。長い年月をかけて雨水が溜まり、窪地の一面に清らかな水が張っている。池の周りは樹木が生えているだけでなく、岩肌がむき出しになり、まるで岩壁のように池を半分囲んでいる。
その風景は、遥か昔にシシ神が住んでいた“シシ神の森”の池を思わせる。
「……シシ神」
池の中心で、まるで大地の上に立つように自然に、シシ神は水面に足をつけて立っていた。池のほとりに立つ妹紅の呟きが聴こえたのか、シシ神はゆっくりと首を向け、妹紅を見つめた。
「っ!」
妹紅は気圧されないよう身構え、シシ神を見返す。鹿のようでありながら、底の知れない人面を持つ。笑っているのか、怒っているのか、歓迎しているのか、拒絶しているのか、その様子からはまったく伺い知ることはできなかった。
しかし、たとえ何者であろうとも、自分の考えは変わらない。この呪いが解けるのであれば、閻魔だろうが鬼だろうが縋る覚悟だった。
妹紅はスッと短く息を吸って、一歩前に出た。そして、袖をまくり、右腕の痣をシシ神に見せるように出した。
さらけ出した妹紅の腕に、後ろで見ていた影狼は息を呑む。
「ッ! あなた、その痣……!」
影狼が動揺した声をこぼすが、妹紅は気にせずシシ神へ声を投げかけた。
「シシ神よ、ッ!」
静まり返ったシシ神の池に、妹紅の声が響く。だが、妹紅の言葉は続かなかった。
妹紅がシシ神の名を呼んだ瞬間、彼女の右腕に激痛が走った。黒々とした痣が蠢き、皮膚の内側から何かが這い出すように動き回り始めたのだ。身を焼くような熱に加えて、神経を一本一本針で貫かれるような激痛が妹紅を襲う。
「ウッ! グッ! アッ!」
短い悲鳴を上げつつ、妹紅は右腕を押さえつけようとしたが、右腕は五本指と肘の各関節を不気味にうねうねと曲げ、押さえつける間も与えず、鞭のように暴れまわる。妹紅は絞殺しようと襲い掛かる自身の右腕の手首を掴んで防ぐのがやっとだった。
その間にも、蛇のような呪いの痣が『祟り』となって黒い触手を伸ばそうとしている。
このままではマズい、と妹紅は本能的に理解した。
「グッ……フッ!」
妹紅は右腕の暴走をなんとか一瞬だけ振り払い、左手を右肩に当てて妖気を集中させた。これからやろうとしていることに少し躊躇いもあったが、それ以上に切羽詰まった状況と不死である自覚が妹紅の心と体を突き動かした。
妹紅の意識に従い、左手から妖気が流れ出る。収束した妖気は妖術の炎を発して小さな爆発を起こした。
――ドオォーーン
石火矢を撃ったような爆発音が池に響いた。火炎と爆風が広がって、あっという間に風に消える。
「っ!」
影狼は大きく目を見開き、口元を手で押さえながら、ただ呆然と見るしかできなかった。彼女の瞳に映るのは、爆発によって宙を舞う妹紅の呪われた右腕。
「アアァァァァーーーーーッ!」
森中に響き渡るような金切り声で、妹紅が苦しみの悲鳴を上げる。
傷口から出た血しぶきが周りの草や苔を赤く染める。蠢いていた右腕は地面に転がり、虫が死んでいくように動かなくなっていく。妹紅の右腕があった箇所には、辛い痛みだけが残った。
「アァッ! クッッ! ウゥッ!」
気が狂いそうな痛みに、妹紅は膝から崩れ落ち、左手で傷口を押さえる。その目の端には涙が滲んでいた。
「あっ……あぁ、えっと……だっ、あのっ」
顔を伏せて痛みに悶える妹紅に、影狼は駆け寄って声を掛けようとした。『大丈夫?』と言いそうになったが、見るからに大丈夫なわけがない。傷を手当しようと手を伸ばすが、森の中で生きてきた彼女が、千切れた腕をどう治療すれば良いかなど知るわけもなかった。
伸ばした手が混乱と迷いから不安定にゆらゆら揺れる。
そんな二人の下に、突如影が差した。
そこには池の中央から歩いてやってきた、シシ神が膝をついて倒れる妹紅を見下ろしていた。足が触れた地面では草が芽吹き、成長したと思ったら枯れていく。
シシ神は妹紅の前に立ったまま、しばらく固まったように動かない。その眼は、妹紅を見ているのか分からないほど空虚に感じられる。
地面に頭をつけたまま、妹紅は苦悶の表情でシシ神を見上げる。
「……たすけ、て」
それは心の底から絞りだしたような声だった。妹紅は痛みに耐えながら、シシ神に助けを乞う。
その願いに聞いてかは分からないが、シシ神はゆっくりと顔を近づけた。影狼はその様子を見ながら、不穏な気配を感じ取って、その場から離れるようと、背中を見せないように恐る恐る後退りする。
シシ神が妹紅の頭へと吐息を吹きかけるような仕草で口を寄せる。すると、腕の痛みがすうっと消えていくと同時に、妹紅の意識は闇へと落ちていった。
これで終わる……わけがない。
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……つづく