もしも東方projectの世界にシシ神がいたら   作:ジョン・N

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また、つづいた。
短編から連載に変更しました。
お気に入り追加と評価、ありがとうございます。




西から来たもの

 

 

 

 

 

 山から流れてきた風が近くにある森の木々を揺らして風音と葉音が共鳴する。その音に混じって、森に住むコダマもカタカタと音を鳴らしている。そんな諏訪の森の穏やかな気候とは対照的に、諏訪湖の水面では、なにやら言い知れぬ緊張感が漂っていた。

 今、湖面上では、蛙を模した帽子をかぶった少女と、水上に立つ人面の鹿がお互いに見合っている。周りの音はかすみ、妙な静けさが支配していた。

 

「……シシ神」

 

 名前をポツリと呟けども、相手は答えず、水面から顔を出している諏訪子をじっと見下ろす。その眼には感情の色がまったくなく、まるで深い森の闇に見つめられているような感覚だった。唐突すぎる鉢合わせに、諏訪子は若干の居心地の悪さを覚えたが、それを悟られまいと目の前のにやけ顔の鹿を見返していた。

 待ち構えていたような形での遭遇と、表情の読めないにやけ顔が、ただならぬ不気味さを感じさせる。もしや、自分が仕掛けるのを感じ取って、やられる前にやりに来たのかもしれないと、諏訪子は警戒を強めた。

 しかし、シシ神は「なんだ猫か」とでもいった態度で何事もなかったかのように諏訪子の横を通り過ぎた。今いる場所は、かなり深い諏訪湖の中心部だが、シシ神は沈むことなく水上をゆっくりと歩いていく。

 

「むぅ、何も言わないってのは腹立つね……ふふ、まぁいいけど」

 

 頭上を横切るシシ神を見上げる形で見ていた諏訪子は、静かに微笑して後を追う。諏訪子が水面から体を出すと、蛙が飛び込んだように水が跳ねた。

 諏訪子もシシ神と同じように水面を歩く。諏訪子が通ると足をつけた水面がぴしゃぴしゃと水しぶきが上がる。

 

「シシ神、君さ、同じ神とはいえ、ここは私の土地なんだから、勝手に歩き回るってのはちょーっと無粋だと思わない?」

 

 諏訪子はシシ神と横並びになって歩きながら声をかけたが、シシ神はまったく反応を見せず歩き続けた。

 

「村人達の傷や病を癒してくれることには礼を言うよ。けどだからと言って、礼儀知らずで良い理由にはならないし、私からしたら得心がいかないんだよ」

 

 諏訪子が話している内に、ふたりは湖の淵へと辿り着いた。

 シシ神が陸へと上がると、足元の草木がみるみると成長し、足が離れると同時に枯れていく。

 

「ねぇ、聞いてるの?」

 

 諏訪子は歩みを止め、ふわりと宙に浮かぶと、そのままシシ神の背にひょいとまたがった。シシ神の毛並みはカシミヤヤギのように柔らかくふわふわだった。手に伝わってきた心地の良い感触に、諏訪子は思わずシシ神の背中を撫でる。絹糸(シルク)のような非常に滑らかな毛並みに、諏訪子はつい癖になりそうだった。

 そうしてすぐ、ふたりは湖のそばにある森の入口に辿り着いた。すると、シシ神が来たのを察したのか、森や草の陰からコダマ達が次々と顔を出す。挨拶代わりになのか、シシ神と諏訪子を見ながら、カラカラと音を鳴らした。

 諏訪子はシシ神に連れられる形で、一緒に森の中へと入っていく。森の中は地面や木々に苔が生え、生い茂る草木によって日の光が入りにくく薄暗かった。空気中の湿度も高いせいか、どことなくひんやりしている。常人なら一瞬躊躇しそうなものだが、この森に慣れ親しんでいる諏訪子には、少しの躊躇いもなかった。むしろ、心地良いとすら感じる。

 しばらくの間、諏訪子は静かにシシ神の背を撫でていた。温かな毛並みに思わず心が緩みそうになったが、シシ神の馬耳東風のごとき無関心ぶりに苛立ちが募り、拗ねたような顔になっていた。

 ふたりはどんどん森の奥へと進む。ふと、諏訪子が地面を見下ろした。大勢のコダマ達も並んで歩き、大名行列のようになってふたりに続いていた。コダマ達の走る速さは意外にも速く、半分ほどは歩くシシ神を追い越していく。

 

「確かに、君のおかげで森の獣達やコダマ達も賑やかになったようだけどさ……」

 

 シシ神が歩くのに合わせて体を揺らしながら、諏訪子は周りの木々を眺めていた。

 どれも幹は太く、苔をつけ、コダマ達が住み着いている。これほど森が生い茂る風景を見たのは、長年、この土地に暮らしている諏訪子も初めてのことだった。

 この森がここまで生命力あふれる美しい森になったのも、まぎれもなくシシ神のおかげだ。

 

「でも、いくら森が豊かになったっていっても、ここでは所詮、君は余所者なわけで、そっちがこのまま居座るなら、こっちもそれ相応の対応ってのが必要になってくるわけさ……まぁ、面倒だから今は放っといてあげるけどね」

 

 諏訪子がそんな風に話している間に、シシ神は森の開けた場所に出た。そこは目の前が崖になっており、山の岩肌が露出している場所だった。

 どうやら森の中を歩いている内に、二人は山を登っていたらしい。

 シシ神は高台になっている、その岩肌から眼下にある森をまっすぐ眺めた。相も変わらず表情が読めない赤ら顔だが、その様子は心なしか遠くを見ているようだった。

 

「別に私も余所の神が来たからって追い出すほど、心は狭くないからね。君がちゃんとするっていうなら、これからは……ん?」

 

 ふと諏訪子は何かに反応するように顔を上げる。

 気が付けば、先ほどまで賑やかだったコダマ達がいなくなっている。おまけに、獣や鳥の鳴き声もなく、森の中がいやに静まり返っていた。

 そんな森の“異変”に、諏訪子はただならぬことが起きようとしているのを察知し、すぐに空中に浮かび上がった。

 森から流れてくる風が諏訪子の髪と服をなびかせた。

 

「…………何か来る!」

 

 風に混じったわずかな邪気を感じ取り、諏訪子は自分の土地に得体のしれない“何か”が侵入したのだと理解した。場所はまだ諏訪の隅の方だが、“何か”は普通でない速さで西からこちらに向かって移動している。このまま行くと四半時もしないうちに、村の方へたどり着くだろう。

 

「この話の続きはまた今度ね。ちょっと厄介な“お客さん”が来たみたいだしさ」

 

 そうシシ神へ言い残して、諏訪子はその場を後にして西の方へ向かって飛んでいった。

 小さくなっていく諏訪子の後ろ姿を見ながら、シシ神は静かに、別の方向へと歩き出した。

 

 

 

 ***

 

 

 

 西へ行くほどに、森が不気味に静かになっているのを諏訪子は感じ取った。諏訪に侵入してきた“何か”の存在も近くに感じる。

 

「なんだろう一体?」

 

 諏訪子が飛びながら得体のしれない気配に首を傾げていると、ふと前方にある木の一つがバキバキと乾いた音を鳴らして倒れていった。諏訪子は進行を止め、倒れた木の根元の部分を注視する。

 すると、木々の間に“何か”の影が見えた。“何か”は異常な瘴気を撒き散らしながら、物凄い速さで森の中を走っている。途中の木々を薙ぎ倒し、岩が割れ、地面が線状に抉れる。

 

「……ふぅん」

 

 目の前で森が荒らされるのを見て、諏訪子の頬がわずかに引きつった。普段は飄々としている彼女の口元から、久々に笑みが消えた。

 徐々に木々の荒らされる音と地面を鳴らす足音が大きくなってきた。やがて諏訪子はその“何か”の影を捉える。影からでも分かる姿形は、人間のものでもなければ、獣のものでもなかった。

 

「あれは……!」

 

 影の正体を見た諏訪子は、思わず眼を大きくする。

 疾走する“何か”には、身体中に縄文土器のような紋様が走っていた。よく見ると、それは紋様ではなく、無数の『祟り』を纏っている姿だった。赤黒い蛇状の『祟り』は一つ一つがまるで生きているように蠢き、蜘蛛のようなひとつの塊となっている。その塊の前方にある顔のような部分には、赤い眼光が不気味に光っていた。

 

「“タタリ神”か」

 

 

 

 

 






続きが気になるという方は、お気に入り追加と評価をよろしくお願いします。

 ……つづく?


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