もしも東方projectの世界にシシ神がいたら   作:ジョン・N

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またまた、つづいた。
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土着神とタタリ神

 

 

 

 諏訪の土地の西側にある山の森。シシ神の恩恵もあって、つい先ほどまで賑やかだったその森が、今は不気味なほど静まり返っている。コダマたちもおらず、鳥や獣の気配も消えていた。流れる空気もどんよりとしており、生気が感じられない。まるで黄泉の空気がこの世に滲み出し、森に広がっているようだ。青空の下にあっても、まるで空と地上が切り離されたかのように、暖かい光や風が入り込んでこない。

 その原因を、諏訪子はまっすぐ見据えていた。

 

「“タタリ神”か」

 

 諏訪子の目の前には、木々を倒し、草や葉を枯らしながら、近づいてくる巨大な怪物が一匹いた。形は大蜘蛛のようだが、生えた触手状の脚はウネウネと動き、地形に合わせて姿を変えている。タタリ神が通った地面には焼け焦げたような跡が残っていた。

 

「おーい! そこの君、ちょっと止まってよ!」

 

 諏訪子は怪物の前に移動して停止を促したが、怪物は反応することなく、飛んでいる諏訪子の真下を通り過ぎていった。

 

「君も無視か……いい加減、泣いてしまうよ、ほんとに」

 

 諏訪子は小言をこぼしつつ、怪物の後を追った。しかし今回は、怪物が自分を無視した理由が分かっている。

 怪物の正体は、“タタリ神”。山の主や森の主が怒りや憎しみによって荒ぶる神となった存在だ。触れた者すべてに呪いを与える『祟り』を身に纏い、無差別に暴れまわる。言葉を忘れ、理性を失っている。

 まともな対話など、そもそも不可能な存在だった。だが、曲がりなりにも神同士の会話だ。こちらに無礼があってはならない。

 

「君も森を育みに来た、なんてことは無いよね……。しょうがない。これ以上暴れるっていうなら、この土地を守る神として力づくで止めるよ」

 

 大義名分を得たと、諏訪子は実力行使に移る。自身の霊力を強めることで飛翔速度を上げ、走るタタリ神の前へと回り込んだ。そして、前進してくるタタリ神を待ち構えられる位置まで行くと、両手を地面について蛙のような姿勢を取る。

 束の間、両手をつけた諏訪子は、じっと体勢を保つ。諏訪子の手からは膨大な霊力が大地に流れ出ていた。

 鳥や獣達がいない静かな森で、やがて、地鳴りのような音が轟き始めた。大地が脈打つように震え、生き物のように躍動する。やがて、揺れる大地に臆することなく、タタリ神が諏訪子の方へ迫ってきた。直後、タタリ神と諏訪子の間の地面が一斉に隆起した。

 

 諏訪子が持つ『坤を創造する程度の能力』が、岩や土でできた壁を生成した。

 一軒家ほどの大きさがある分厚い壁が、タタリ神の行く手を阻む。しかし、タタリ神は臆することなく、壁へと突進していき、諏訪子が作った巨壁を轟音を鳴らしながら破壊していった。

 結果、タタリ神の移動速度は多少落ちたように見えるが、その足は止まる素振りを見せない。直進を続け、目の前に現れた諏訪子の姿を、その赤い眼光で捉えた。

 

「おぉ!」

 

 迫りくるタタリ神に、諏訪子は飛び退いて身をかわした。

 

「やるねぇ。けど、まだ終わらないよ」

 

 諏訪子は、また地面に手をついた。彼女の能力によって再度地形が変わる。すると今度は逆に、タタリ神の前方の地面が抉れ、落とし穴のように変化していった。森の中に奈落に続く洞窟のような大穴が開く。

 タタリ神は目の前に現れた大穴に、体中の祟りの触手を蠢かせて止まろうとしたが勢いを殺すことができずに、そのまま底へと落ちていった。

 諏訪子は手を休めることなく追い打ちをかける。たとえ落ちたとしても、タタリ神が素直に大穴の底に留まるわけはない。触手で穴の側面を掴んで這い上がってくるだろう。その前に諏訪子は大地を操作して、無数の大岩を使って穴に蓋をする。

 大岩は雨のように降り注ぎ、粉塵が舞う。大穴はたちまち岩の山に埋もれた。

 

「さて、これでおしまい……だと楽なんだけどさ」

 

 表情を緩めた諏訪子は両手をパンパンと叩き、一仕事終えたように手についた土を払う。

 しばらくの間、沈黙が流れる。だが、ふと地鳴りの音が響いてくると同時に周辺の地面が小刻みに震えだした。揺れは次第に大きくなり、大地がグラグラと揺れ、振動によって岩山の小石がボロボロと転がり落ちる。

 

「やっぱり、そう簡単には終わらないよね」

 

 諏訪子はまた警戒を強める。この地震は諏訪子の能力によるものではない。

 そして突如、大穴の蓋をしていた岩山がはじけ飛び、中から大量の『祟り』が噴き出てきた。

 吹き出た『祟り』が宙に舞う。そしてその隙間から、タタリ神の本体である主が諏訪子の開けた大穴から這い出てきた。

 『祟り』が剥がれ、その本体が露わになる。太く伸びた豚鼻に、突き出た二本の牙、鋭く吊り上がった目と耳を持ち、丸々と大きな体を蹄のついた四つ足で支えている。

 

 ――グゴォォグアアァァァァァァァッ!

 

 タタリ神となっている猪は、威嚇の雄叫びを上げた。

 

「へぇー、随分と立派な猪だね」

 

 幽鬼のような恐ろしい咆哮だったが、諏訪子は冷静にその威容を見据えていた。

 

「さぞ名のある山の主だっただろうに。どうしてタタリ神になったのかな?」

 

 猪が来たと思われる西の地……“大和の国”の方で何があったのか。諏訪子は不吉な出来事の影を垣間見る。

 諏訪子が考えを巡らせている間に、間欠泉のように噴き出てきた『祟り』は重力によって落下して、また猪を包む。

 タタリ神は体に馴染ませるように『祟り』を身に纏うと、また東に向かって走り出した。

 

「今は、ゆっくり考えてる暇はないね」

 

 一抹の不安を頭の隅に置き、諏訪子はタタリ神の後を追った。

 

 

 

 

 






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 ……つづく

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