もしも東方projectの世界にシシ神がいたら 作:ジョン・N
おわらなかった。
お気に入り追加と評価、感想ありがとうございます。
新章突入です。
そんなに長々と続けるつもりはないですが、お付き合いいただけますと幸いです。
不老不死と呪われた力
戦さ 行き倒れ 病に飢え。
人界は恨みを呑んで死んだ亡者でひしめいとる。
タタリというなら この世はタタリそのもの。
――映画『もののけ姫』ジコ坊の台詞より
今となっては昔のこと、西の都に、“かぐや姫”……真の名を
竹取の翁によってすくすくと育てられた彼女だが、その美貌は絵にも描けぬ美しさで、都中では知らぬ人はいないほど絶世の美女として評判だった。
ある時、そのかぐや姫を我が物にしようと、五人の貴公子……石作皇子、右大臣阿倍御主人、大納言大伴御行、中納言石上麻呂、車持皇子がやってきた。
かぐや姫が住む屋敷の一室に横並びで座る黒い正装姿の五人は、御簾越しに輝夜との会話を楽しんだ後、一斉にかぐや姫へと結婚を申し出た。
「私が望むものを手に入れた方と結婚します」
そう言って、かぐや姫は五人の結婚を遠回しに断るため、それぞれに無理難題を出した。
石作皇子に、仏の御石の鉢を。
右大臣阿倍御主人に、火鼠の皮衣を。
大納言大伴御行に、龍の頸の玉を。
中納言石上麻呂に、燕の子安貝を。
そして、車持皇子に、蓬莱の玉の枝……ではなかった。
「最後に、車持皇子様ですが……あなたには【金色の鹿の首】を持ってきてもらいます」
金色の鹿とは、豊かな森に棲む“不死の鹿神”のことだった。その血を飲めば不老不死の力を得ると言われ、その神が育む森に身を置けば、どんな怪我や病気も治るという“伝説”が遠い東の地に残っている。しかし、その鹿神が住むその森は、豊かな自然の中で育った凶暴な獣や妖怪がいるという話もある。
車持皇子こと、藤原不比等は帝から“神殺し”の許可をもらい、首桶と刀を携え、都一の狩人と従者たちを連れて東の地へと向かった。
月日は流れ、かぐや姫の出した条件の期限が差し迫る。しかし、ついに彼が都に帰ってくることは無かった。
彼の訃報が都に届いたのは、かぐや姫が帝と竹取の翁に“蓬莱の薬”を残して、月へ帰った日のことだった。
これが、後に“彼女”が都を旅立つきっかけとなった、残酷な運命への幕開けとなる前日譚だ。
この物語もまた、別の世界であったかもしれない、《せっ記》の始まりなのである。
***
夕暮れのわずかな陽の光が残る頃、連なる山々の中にある草原で、人間の少女が一人、意識も朦朧としながら歩いていた。不安定な足取りで草を揺らし、細かな音を立てていた。空気には湿った土と若い草の匂いが混じり、風は冷たく、空は深い青に染まり、地平線近くにだけ橙色を残していた。
少女は紅白のリボンで束ねた、銀色が混じる白い長髪をなびかせ、白の上着と符を張り付けたような赤いズボンを身に着けている。目は虚ろで、息も荒い。額には冷や汗がにじんでいるが、体温はどんどん失われている。
山に入って、もう三日、彼女は飲まず食わずで彷徨っていた。空腹はとうに限界を超え、腹が鳴ることさえなくなった。今や、息遣い以外に体から発せられる音は何もない。
「……ッ」
そしてとうとう心臓の鼓動も限界を迎えた。足の力が抜け、少女は崩れるように固い地面へと倒れ込んだ。周囲は草木のみが生え、人の気配はない。当然、倒れた彼女に助けの手が差し伸ばされることはなかった。
陽が落ち切り、周辺はすっかり暗くなる。星の淡い光に包まれながら、少女は眠るように“息を引き取った”。
このまま、遺体は獣の餌になるか、あるいは骨となって塵と化していく……そう思われた。
――ドクン
だがやがて、倒れた少女……
どれほどの時が過ぎただろうか。夜もすっかり更けた頃。また一つの人影がそこを通りかかった。
人影は女性のようで、頭に赤いリボンをつけ、青みのある銀の長髪をなびかせている。青を基調とした長スカートに、赤いリボン飾りのついた丈の高い青い帽子をかぶっていた。おまけに、松明や提灯といった明かりは持たず、護身用の武器も持っていない。その身なりは夜の険しい山を歩くには、まったく不向きなものだった。唯一、腰に付けた小さな巾着袋が旅の装備だと思わせる。
夜の虫の声を聴きながら草木を踏みしめ、その女性……
「……ハッ!」
ふと、慧音は草木の中で行き倒れた少女を見つけた。月明かりに照らされた、妹紅の長い白髪が慧音の目を引いた。
「おい、大丈夫か! しっかりしろ!」
慧音の呼びかける声が、静かな夜の草原に響く。
慧音は倒れた妹紅を仰向けに寝かせ、容態を診た。医学の知識に長けているわけではないが、心臓の鼓動とわずかな体温から、慧音は妹紅が“生きている”ことを理解した。
外傷はなく、獣や賊に襲われた形跡もない。衣服の隙間から見ても、出血の跡らしきものもなかった。
近辺に人里はなく、何故こんなところで少女がひとり倒れているのかと疑問が残るも、怪我による命の危険がないことに、慧音はひとまず安堵した。
「ひとまず大丈夫そうか……ん?」
しかし詳しく診るにつれ、妹紅の体にある“とあるもの”が慧音の目に入った。
「……これは!」
肘から手首にかけて走る、まるで身の内にある怒りと悲しみがドス黒い蛇となって絡みついたかのような紋様に、慧音は息を呑んだ。
妹紅の右腕には“呪われた力”によってできた歪な縞模様の痣が入っていた。
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……つづく