抜きゲーみたいな島に住んでいた狂犬はヒロアカ主人公に憑依したらどうすればいいんだ? 作:神剣狩刃
復興がかなり進んできた神野区のとあるホール、我ら理の会とヒーローの同盟を結ぶための会見が開かれようとしている。SNSで大々的に宣伝したこともあってかホールは全席埋まり、ロビーでもいいから中継が見たいと人が押し寄せている状況だ。我は黒いスーツを着て、ネクタイを締め気を引き締める。
九玉
「この会見において重要な事はただ一つ、民衆を納得させることだ。違法でないという条件付きだが、ありとあらゆる手段を取って構わない────理の会、入場だ」
ホールの舞台に悠々闊歩と進んでいく。舞台には名だたるヒーロー達が並んでおり、千数百の客席には老若男女問わずに全席を埋め尽くしている。異形系の者が大半を占めているようだが、それぞれの邪魔をしないようにそれぞれの器官を自粛しているのはありがたい。観客の視線に臆することなく我々は舞台を歩き所定の位置につき、一つ大きく深呼吸をして宣言する。
九玉
「これより理の会とヒーローで同盟を結ぶための質疑応答を始める! まずは我々の要求を言おう! "非常時や監査時を除くヒーロー側からの不干渉"と"職業としての敵を設立"、この二点だ! それでは質問がある物は挙手を!」
舞台のヒーローが次々と挙手をする。とりあえず左端から指名していこう。
ヒーローA
「不干渉となれば理の会の行動が不明になって市民が不安がると思いますが!」
九玉
「定期的な報告に月に数回の監査を入れ、それらを理の会とヒーロー双方から市民に発表すればいい、次」
ヒーローB
「非常時とはどのような時ですか!」
九玉
「ヒーロー側が非常時だと思ったらいつでも来ていい、次」
ヒーローC
「やけにヒーロー主体で動くことになっておるが、何か意図があるのか?」
九玉
「ヒーローが基軸となって動けば民衆もある程度は安心するだろうと思ったからだ、次」
ヒーローD
「お前達をぶちのめしたいやつらがまだまだいると思うがそれはどうすんだ!?」
九玉
「"職業としての敵"の業務の一種に形式を決めた戦闘を考えている。申請すれば誰でも戦えるような制度を考えている。そこでぶちのめせばいい、次」
ヒーローE
「まさかただサンドバッグになるのが職業としての敵じゃないですよね?」
九玉
「犯罪者への"個性"行使行為全般を敵が引き受ける予定だ。ヒーローは善人を助け敵は悪人を攻撃するという形式にしていくつもりだ、次」
ヒーローF
「その行為が過ぎれば犯罪者を"個性"で殺害してしまうという事件が起きるのが目に見えているが、どうするつもりだ?」
九玉
「徹底した指導や訓練をするつもりだが、それでも起きてしまった場合は事故として処理してもらおう」
観客A
「何だよソレ!? ちょっとでも悪いことしたら殺されるかもしれないってのか!?」
九玉
「悪事を働くというならそれぐらいのリスクは背負え。それが嫌なら悪いことをするな」
観客B
「"個性"で殺したって事故で片付けちまうのか!? それって法的にどうなんだ!?」
九玉
「公安はそうしてきた。筒美やホークスがその証拠を持っている」
筒美が観客の前に立ち話を始める。
筒美
「ヒーローへのテロを謀計していたとあるグループ、敵組織と癒着し名声と金を得ていたヒーローチーム……社会の基盤を揺るがしかねない社会の基盤を揺るがしかねない人間たちは、皆法に裁かれることなく罪ごと消えた……すべて公安の秘匿命令だ」
ホークス
「これは今までレディ・ナガンが闇に葬ってきた数々の組織のデータです。現在の公安会長と確認したので間違いないです」
舞台のスクリーンに資料が映し出される。ヒーローが"個性"による殺しによって治安を維持していた事実、それを目の当たりにした観客たちからどよめきの声が上がる。
筒美
「その
先日の荼毘が轟燈矢であることが判明した件と今回の筒美の告白により、ヒーローは清廉潔白で誰しもが無条件で称賛できるものだという偶像が砕かれた。揺らぎつつある民衆に我の理論と考えを開示する。
九玉
「殺しを正当化していいのかと言われたらいいと我は言い切る。殺さなければそれ以上の死人が出た事件もあっただろう。タルタロスにいた囚人ももっと早い段階で殺していれば、超人社会の闇などと言われなかっただろう」
観客B
「だ、だからって……殺すのは良くないだろ……」
九玉
「そうさせないためにヒーローがいる。ヒーローでは解決できない問題をヒーローでは取れない手法で解決するのが職業としての敵の本質的な役割だ。法的な問題は警察と話して折り合いがつき次第発表するつもりだ」
敵による"個性"での傷害及び殺害に関してはある程度納得してもらえただろう。次の質問を受け付け始める。
観客C
「私の父はタルタロスで看守として働いていた! その父を殺した貴様達がヒーローと同等に扱われるのは納得いかない!」
九玉
「……我によるタルタロス襲撃で犠牲になった善良な人間は数多くいるだろうな。それに関しての謝罪がまだだったな。この場を借りて詫びよう。誠に申し訳ありませんでした」
我は観客に向けて土下座をした。それでも観客の怒声が止むことはなかった。
観客C
「謝ったから何になるというのだ!? 父が帰って来るのか!?」
九玉
「……帰っては来ないが、彼らのおかげで凶悪な犯罪者を片付けることが出来たとも言えるだろう」
観客D
「犠牲に遭った人を美しく語るなこの犯罪者! それが謝る人間の態度か!?」
九玉
「……ならばこのまま頭に地を着け、謝罪の言葉を吐き続けよう。誠に申し訳ありませんでした」
観客E
「お前だけ頭を下げてても意味ないんだよ! 理の会全員で土下座して────」
エンデヴァー
「彼女たちがタルタロスを襲撃する原因を作ったのは俺だ。まずは俺が土下座をするべきだ。誠に申し訳ございませんでした」
我の隣で熱を帯びたエンデヴァーが土下座をし出した。
観客E
「エ、エンデヴァー!? 何でアンタが謝るんだ!?」
エンデヴァー
「……九玉、アイツを呼んでくれ」
その言葉を受け我は額を軽く払いながら立ち上がり、切り札を切った。
九玉
「この件を説明するためにとある人物に来てもらった。それでは来てもらおう。かつては理の会として活躍した敵で、今はかつての名通りに荼毘に伏している────荼毘改め轟燈矢だ」
舞台袖から黒いコートを着た真っ白な髪の燈矢が出てきた。
燈矢
「……お久しぶりですね皆さん。覚えていますか? 九玉さんに殺されたはずの轟燈矢です」
燈矢の登場に観客は幽霊でも見たかのような驚きと恐怖に口を開けて黙った。
燈矢
「何故僕が生きているか……今から真実を話します。結論としては、
そこから燈矢は自分の身に何があったのかを事細かに話した。エンデヴァーとの過去、家族と話して罪を償うと決めた事、タルタロスでの生活────そして我のタルタロス襲撃の真相を。
燈矢
「俺が荼毘ではなく轟燈矢として生きていけるように……九玉さんはあのようなことをしたのです。ヒーローだけでは救けられなかった僕を、九玉さんは救けてくれたんです。九玉さんが、理の会がやったことが正しいかどうかは分かりません。
観客F
「そ、そんなの理の会の身内同士での仕込みかもしれないだろ!? そうやって俺達を誘導しようとして────」
スター
「
スターが堂々と観客の前に立っては話を始めた。
スター
「先日、シガラキとの戦いの際に私は致命的な攻撃を受けた。その際にキュウギョクが自身の"個性"を犠牲にしてでも私を助けたんだ。その際の映像が戦闘機に残っていたから資料にしてまとめてある。ご覧頂こうか」
死柄木がスターに"崩壊"を決めるシーンが流れる。
死柄木
「秩序は理の下に成り立つ……故に貴様が負けることは必然だったのだ────だから僕の勝ちだ」
スター
「"
死柄木
「ッ!? AFO貴様! こうなったらやむを得ない!」
我はなんとなく分かったが、当事者以外は映像だけ見てもなにがなんだか分からないだろう。すかさずスターからの補足説明が入る。
スター
「このシガラキの体にはシガラキとキュウギョクとAFOの意識が入っていた。キュウギョクは私に勝つぐらいしか考えていなかったが、AFOは私の"個性"を奪ったうえで殺そうとした。そこでキュウギョクが"個性"を渡して私を"崩壊"から守ってくれた、というのがこの映像だ」
敵が誰かを助けるというありえない事態に観客は何も出来なくなっていた。その民衆を導く様にエンデヴァーが立ち上がって言葉を投げかける。
エンデヴァー
「私の失態を正当化するつもりはありませんが、ヒーローと言えど人間で何かの間違いを犯すこともあります。その間違いを正せる存在は必要です。ヒーローという立場からではなく、むしろヒーローから離れた場所から正せる存在が必要です。それこそが九玉が提示している"職業としての敵"だと
No.1ヒーローを始めとしたヒーロー達が認めようとしているとあれば、観客たちも受け入れざるを──────
観客G
「敵は認めるというのに
奥の方の黒い布を被った男が立ち上がって叫んだ。
九玉
「今はそのような話をする場ではない。異形系の悲惨な過去は知っているが、それを訴えたいのなら別の機会を設けて──────」
観客G
「そうやって我々を迫害してきたのだろう!? "異なる形"だから後回しにしているのだろう!? "気味が悪かった"からぞんざいに扱うのだろう!?」
九玉
「まずは人の話を────」
観客G
「ヒーローも敵も我々を認めないというならば! 今ここで叫ぼうではないか! 我々はここにいる! 息をしている! 生きている! 行くのだ! 今ここより我々で社会の中心に!」
男が黒い布を取り払い素顔を明らかにする。スキンヘッドに頭に爪痕のような模様、口元に甲殻類の脚のような覆い、左目の上の傷、どれもが異形系の代表だと言わんばかりに主張している。それに合わせて異形系の観客が立ち上がる。このままでは暴動が起きて同盟どころではなくなりそうだ。
観客G
「我々を認めぬ同盟に何の意味がある!? そうやって我々を見ずに進んでいく同盟など──────」
スピナー
「お前ら話を聞けよ! 九玉は認めようとしてるじゃねえかよ!」
スピナーの叫びに観客がたじろいだ。同じ異形系の言葉として聞かざるを得なくなったのだろう。
スピナー
「日の下を歩いただけで俺は殺虫剤を撒かれた! そうやって社会に居場所がなくなった俺は敵連合に行くしかなかった! その中で九玉はなんて言ったと思う!? 『壁に張り付くことが出来るのか……良い企画が出来そうだ』だぜ!? フリー素材にはなっちまったが、九玉は俺に確かな居場所をくれたんだ! 九玉は
キュリオス
「その通りです! 彼女は抗うことなく話し合えばどんな存在も助けてくれる存在です! かつて私が異能解放軍として立ちはだかった時も彼女は助けてくれました! 暴力ではなく、言葉で語り合えば彼女は必ず話を聞いてくれます! 異形系が負の歴史を作る前に! 和解の道という明るい未来を作るべきではないでしょうか!」
我と同じぐらいキュリオスの見た目も異形系らしく見える。解放軍仕込みの扇動能力がかなり効いているようだ。
ミルコ
「コイツ等の言う通りだぜ! 異形系でも私やリューキュウやギャングオルカみてえにしっかり認めてもらえる奴はいる! 産まれや育った環境なんか関係ねぇ! 姿形そのものよりも姿形を活かして何をしてきたかだ! それに……正直認めたくねえが
異形系トップのヒーローの援護射撃もあって観客達の勢いはほとんどなくなった。後は頼んだと言わんばかりに三人から目線が送られる。我は一つ咳払いをしてから観客に向けて宣言する。
九玉
「我は我の理に与する者を無碍に扱うつもりはない。理を受け入れるというならお前達もしっかり仲間として認めよう」
観客G
「それでは……今までの抑圧と変わらないではないか……!」
九玉
「生きている人間なら法やマナーのように何かしらに抑圧されて生きている。なのに異形系であるという理由だけでそれら抑圧から解放されるというのは道理が通らない。異形系でもこの社会で生きていくための最低限の抑圧は受けてもらう。それ以上の不当な抑圧は我が理の下に退ける……これなら納得してもらえるか?」
観客G
「なら……
九玉
「我が理の内で功績を残せば自ずと成るだろう。手始めに我のチャンネルで自己紹介でもしてみると良い。我のチャンネルもかなりの規模になってきた。人目を集めるという点でなら、今この場で騒ぐよりもよっぽど効果的だぞ」
観客G
「……その言葉に偽りはないな?」
九玉
「そもそも脳無である我が言っているのだ。
観客が我々に向かって歩み寄って来る。そして壇上に登り我に右手を伸ばしてきた。
観客G
「自分を認めてもらうためには他者を認めるべきである……我々はこの同盟を認める。だから同盟も我々を認めてほしい」
九玉
「無論だ。だから──────」
我は左手でその手を握った。そして、開いた右手をエンデヴァーに向けた。
九玉
「お前ヒーローも認めてくれるな?」
エンデヴァーが力強く頷いて、力強く我と観客の手を握った。
エンデヴァー
「ああ。立ち上がって叫んでくれたその言葉を心に刻もう──────今ここにヒーローと理の会の間に同盟を結する。賛同する者は拍手で迎えてほしい」
会場が割れんばかりの拍手に包まれ新たな時代の始まりを告げる。しかし、問題が一つ残っていた。
九玉
「……同盟の名前をどうするか決めていなかったな」
エンデヴァー
「この同盟を提案したお前が決めるべきだろう……あの動画タイトルの数々でセンスは計り知れているからな」
ならば我のセンスをいかんなく発揮して決めてしまおう。
九玉
「今までの理を"Plus Ultra"、いや破壊したのだから────理を壊すると書いて"
エンデヴァー
「お互いを理解するという意味も兼ねていていいではないか。なぜそのセンスを動画制作で発揮できない?」
九玉
「動画の我はエンターテイナーなのでな。我が本気を出せばこれぐらい造作もない」
そういうことにしておくかと鼻で笑われた。我はいつだってセンスはいいはずなのだが。理の会の皆からの視線が妙に生暖かいのも気のせいだろう。ともかく我の成すべきことは成した。後は土口がAFOをどうにかしていることを祈るだけだ。