抜きゲーみたいな島に住んでいた狂犬はヒロアカ主人公に憑依したらどうすればいいんだ?   作:神剣狩刃

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8-13 土口精の日常 Final

 俺はこの世界からいなくなる。だから俺が居た証として日記をつけてきた。大事件も、何気ない日常も、女性たちとの色事も。これまでにあった出来事もノート42冊分とかなり積み上がった。その最後のページを書き残していく。

 

 

 送別会の準備を終えて眠りに着いた夢の中、俺は菜奈さんにココアを振舞っていた。2人きりで玉座に座って向かい合い、可愛らしい猫がプリントされた白いカップと#6e4a55の液体を出現させた。濃厚でビターな香りが広がっていき、2人の表情がゆるりと柔らかくなる。

 

 菜奈さん

「手作りのココアか……簡単に出せるぐらい思い入れがあるんだな」

 精

「何かにつけてよく作ってましたからね。今夜はココアで乾杯と洒落こみましょう。乾杯」

 

 コップをカチリと突合せてからココアを飲む。絹の様に滑らかに口の中に入り、温かな甘みとスッと窘めるような苦みが舌に広がり、華やかで高貴な香りが鼻腔に満ちていく。

 

 菜奈さん

「……驚いた。喫茶店とかで出てくるような本格的な逸品じゃないか」

 精

「ココアに関しての思い出を語ると終わらなくなっちゃいますので、今回の俺の戦いの振り返りでもしましょうよ」

 菜奈さん

「軽く言ってくれるじゃないか。だが……そうだな。それがちょうどいいだろうな」

 

 俺がこの世界にやってきたこと、爆豪とマイトによって俺の原点オリジンを思い出したこと、合宿で敵に攫われたこと、インターンでブチ切れたこと、1-Bとの戦いで"OFA"の使命を知ったこと、新年に地獄のような家庭問題を解決したこと、雄英を去って1-Aの皆の思いを知ったこと、ついに死柄木を救けたこと。思い返せば1年ちょっとで様々なことがあった。

 

 菜奈さん

「……転弧を救けてくれてありがとう。君は私達継承者でも不可能だと思っていたことを成し遂げたんだ」

 精

「幾重にも辛酸を舐め、七難八苦を越え、艱難辛苦の果て、満願成就に至る────この世界でも俺は『金色の狂犬』であれてよかったです」

 

 ココアを舌の上で転がしながら誇らしげに口角を上げる。紆余曲折あって地獄を見たとしても、なんだかんだで物事を成し遂げてしまう。俺の人生はそんなのの繰り返しだ。でも、どんな人生も大雑把に見ればそんな物だろうし、自分のやりたいようにやれて満足できるなら何だっていいのかもしれない。

 

 菜奈さん

「君にも色々あったんだな。少し君に興味が出てきてしまったよ」

 精

「お互い既婚者だから浮気は良くないですけど、体の関係を持つのは構いませんよ?」

 菜奈さん

「体の関係を持ったら十分浮気だと思うが……」

 精

「俺の故郷じゃ体の関係は挨拶をする関係と同じぐらいです。軽いコミュニケーションみたいなものです」

 

 俺の理論を聞いて菜奈さんが明らかにガックシと落胆した。ローカルルールを持ち出すのはご法度だと重々承知してはいるが、俺を理解してもらうためにはこれを理解してもらわないといけない。

 

 菜奈さん

「……雄英の女の子達が君を受け入れた理由が少し分かった気がするよ」

 

 そう言って菜奈さんは一気にココアを飲み干して立ち上りバッとマントを脱ぎ捨てた。

 

 菜奈さん

「これが君との最後の会話になるんだ、君の流儀に乗っ取って君を知ろうじゃないか」

 

 どうやらその気になってくれたらしい。女の覚悟を目の当たりにして手加減するのも申し訳ない。俺も立ち上がって指をパキンと鳴らす。するとこの場が途端に故郷の俺の部屋に変わる。ベッドと勉強机とハイスペックPCとクローゼットがあるぐらいの質素な部屋だ。

 

 精

「続きはベットの上で話しましょう。お互いの全てを曝け出して、一糸纏わぬ本心で語り合いましょう。そうすれば────受け入れることは出来なくても理解することは出来ますから」

 

 

 寝坊するぐらい素晴らしい夢を見たので、パーティーの最中だろうと日記をつけている。

 

 爆豪

「パーティー中に日記付けンな! 油ハネして汚しても知らねェぞ!?」

 精

「アレだな、根掘り葉掘りとか言ったらキレ散らかしそうだな」

 爆豪

「コケにしてんのかボケが!」

 

 現在正午過ぎ、俺は1日で復帰した爆豪にどやされながら寮の共有スペースで鉄パンパン焼きパーティーを楽しんでいる。

 

 お茶子ちゃん

「パンが1個多い! パン焼いてるみたいになっとる!」

 梅雨ちゃん

「こんな時まで出久ちゃんは出久ちゃんね。もはや様式美のような安心感を覚えるわ」

 百ちゃん

「今回は奮発していい鉄板を用意させて頂きましたわ!」

 響香ちゃん

「そういうのって肉とか野菜に対して言わない?」

 三奈ちゃん

「もちろん具材もヤオモモが準備してくれたから問題なーし!」

 透ちゃん

「者共肉を並べろー! うおー!」

 

 メイドイン百ちゃんの鉄板に1-Aガールズと一緒に肉を敷き詰めていく。ずらりと並ぶ肉の花園はいつ見ても圧巻の光景だ。

 

 尾白

「バランス悪くない? もっとピーマンとか玉ねぎ並べるとかさ……」

 精

「後で焼きそばと一緒に入れるから却下。きりたんの分のミスジステーキは誰も手ェだすなよー」

 切島

「あれ俺の分か! 鉄板で焼いたステーキもウマいよな!」

 上鳴

「切島ばっかズリーぞ! 俺達の分はねえのかー!」

 瀬呂

「そうだそうだー! 俺達にもステーキ食わせろー!」

 精

「お前らの分に加えてきりたん分のミスジがあるってだけだ。だから大人しく黙って待っててくださいねー」

 

 肉を前にした人間は理性を失って獰猛な狼になる。奴らを取り仕切るには肉をちらつかせて先延ばしするしかない。

 

 轟

「必ずしもそうとは限らねえだろ。飯田とか大人しくしてるぞ?」

 飯田

「諸君! 緑谷くん達が効率よく肉を焼いてくれている! 程なく行き渡るから静粛に!」

 精

「あれの何処が大人しいんだよ。鉄板奉行そのものじゃねえか」

 口田

「で、でも、緑谷くんの料理はおいしいから……皆待ち遠しいんだよ」

 砂藤

「スイーツに関しては俺の方が上かもしれねえが、幅広く質の良い料理作れんのは緑谷だろうな」

 峰田

「鉄板で焼くのに上手い下手とかあるのか?」

 障子

「火の入れ加減もあるが、手際の良さが物を言うだろうな」

 精

「野郎共! 肉が焼けたぞ! 各々好きな味付けで食え!」

 

 あっと言う間に肉が無くなり鉄板が露になる。負けじと"変速"と"黒鞭"を駆使してあっという間に肉を並べる。

 

 常闇

「緑谷、ポン酢を取ってくれないか?」

 青山

「緑谷くん☆チーズフォンデュ風にしたから食べて☆」

 精

「サンキュ……んぐ、ほら常闇、ポン酢フォンデュだ」

 黒影

「ヒッパラレテルジャネェカシッカリシロヨ」

 精

「食べ盛りの奴らを相手にすると大変なんだよ。お前も手伝え黒影」

 黒影

「チッ、ショーガネェナァ。キョウカギリダゾ」

 精

「おっ、黒影が手伝ってくれた。こりゃ明日は夕立かもな」

 エリちゃん

「オメガさん、タレください」

 精

「はい、どうぞ」

 澤先

「緑谷、塩胡椒取ってくれ」

 ミッ先

「緑谷くん、レモン取ってくれるかしら」

 精

「はい、どうぞ」

 

 しれっと生徒をパシった教師がいたような気がするが気のせいだろう。

 

 キャシー

「大丈夫か(マスター)? 後で胃もたれしても知らないぞ?」

 マイト

「トンカツがいけたから大丈夫さ緑谷少年! 私にも肉を!」

 

 今のあの二人の姿を見て誰も元No.1だとは思わないだろう。もはや生徒と教師、果ては国籍やチャートも関係なく盛り上がっていく。そんな楽しいパーティーもお開きの時がやってきた。各々にリクエストスイーツを与え、残ったものは俺がタッパーに詰めて、参加者全員で洗い物をして、換気や消臭もしっかりして、ついでにマッサージで疲労回復もして、乱痴気騒ぎの痕跡一つなく綺麗にすることが出来た。これで心置きなく元の世界に戻れるだろう。金色のジャージのチャックをしめ、ギラリと笑って皆に向けて叫ぶ。

 

 精

「感傷に浸ると別れが辛くなるからさっぱりいかせてもらうぜ!

 それでは皆、良いドスケベライフを!」

 

 "世界移動"を駆使して待ち合わせ場所である理の会のアジトに到着する。理の会も俺を送り出そうとしていたのか、煌びやかに飾り付けられている。折り紙で作る輪っか、バルーン、タッセルカーテン、ミラーボール、全てが金色で金マス閣寺を彷彿とさせるカッコいい飾り付けだ。

 

 九玉

「金の折り紙を集めるのは大変だった……今頃各店舗で折り紙の品切れクレームが入っている頃だろうな」

 精

「トゥワイスさんの"二倍"で増やせばよかったのでは?」

 死柄木

「紙吹雪も作りたいって言いやがってな……一生分ハサミを使った気がするぜ……」

 精

「それこそ"二倍"で人員を増やしてやればよかったのでは?」

 スピナー

「『作業用紙切りASMR』を撮りたいと言って聞かなかった。需要はあると思うが、1時間分も必要だったか?」

 

 改めて考えてみると九玉さんはかなり横暴な人のような気がする。本名からして終わっている人間なのだろう。"花丸凛"とか"櫛森日和子"とか、意外とシンプルに"終"とかなのかもしれない。そんなことを思っていると首元にカプリと誰かが噛みついてきた。

 

 トガちゃん

「お久しぶりです出久くん。元気にしていましたか?」

 

 今日も今日とてかあいいトガちゃ髪下ろしてる!? お団子もいいけど金髪ストレートも滅茶苦茶似合ってる!

 

 精

「元気にしていたし今も元気になっていってるよ! 折角だから見てみる!?」

 コンプレス

「誘拐した時から何も変わっていないね。ここまで清々しいと君が正しいような気すらしてくるよ」

 マグネ

「若くて熱くて眩しくて見てられないわね……でも、トガちゃんの意見を尊重しなきゃダメよ?」

 

 それはその通りだ。俺とて無条件でイイコトできるとは思っていな────

 

 トガちゃん

「良いですよ。折角だからエッチな事もしちゃいましょう」

 

 え?

 

 トガちゃん

「仁くん、私を一杯増やしてください。出久くんに良い夢を見せてあげます」

 

 え? え?

 

 トゥワイス

「ご愁傷様だぜ緑谷……"アレな行進(ベッドマンズパレード)"」

 

 え? え? え?

 

 トガちゃんズ

「「「出久くん……イッパイちうちうさせてくださいね……♡」」」

 

 あっ。

 

 精

「────と言う訳で百人切りよ。流石の俺も"OFAS"限界まで使わないと相手しきれなかったね」

 死柄木

「その流れで勝ってることあるのかよ。普通ならもう変な事言わないですって反省する流れだろ」

 

 平然とタッパーの残り物を"黒鞭"ごと頬張っている俺に対して死柄木が突っ込んできた。俺もそう思っているが、全力で相手をしたら何とかなってしまったのだ。なお、本物のトガちゃんはしっかりと"変身"を返された上でとてもお見せできない姿になり、別室で分身の九玉さんに介護してもらっている。

 

 精

「俺を誰だと思っていやがる? 俺は土口精だ。緑谷出久じゃない……『金色の狂犬』土口精だ!」

 死柄木

「あーはいはいそうかそうか分かった分かった。理の会古参組全員で送り出してやろうと思ったが、トガがダウンしちまったからちゃっちゃと送り出してやる」

 

 死柄木が気だるそうに指示を飛ばして、俺達を取り囲むようにメンバーを位置につかせる。メンバーの手には籠一杯の紙吹雪が抱えられており、心なしかウキウキした表情をしている。

 

 死柄木

「……まあ、なんだ。九玉が表立っていたが、その裏でお前も色々やっていたんだってな?」

 精

「あの同盟を結べたのは俺のおかげといっても過言だろうね」

 死柄木

「変に謙遜するな気持ちよく送り出させろ……おかげでこいつらも敵として認められつつある世界になった。俺の目標だった社会の破壊も出来た。俺の手で出来なかったのは不満だがな」

 精

「こっからはお前の手で作っていくんだ。折角無個性になれたんだから楽しんでいけよ?」

 

 死柄木が笑顔で舌を鳴らした。よくよく見ればコイツも中々のルックスをしている。接する時間が長ければロゼショットと同じようなトキメキを覚えたかもしれない。

 

 死柄木

「……ありがとう。お前のおかげで俺達は救われたよ」

 

 死柄木が右手を差し出してきた。俺はタッパーをテーブルに置いてから、一切の躊躇もせずその手を握った。改造された身体を活かして強く握ってきたが、俺の手が潰れることはなかった。だからこそ一つ質問がしたかった。

 

 精

「……()()()()()()()()()()()()()?」

 死柄木

「────ああ。見えるな。()()()()()()()()に見える」

 

 死柄木の憎しみが完全に消えたかどうかは分からない。しかし、ヒーローに対しての考え方が変わったのは間違いないだろう。それを祝福するように紙吹雪が舞う。新たな時代を担う"ヒーロー"と"敵"の繋がりに相応しい演出だ。

 

 精

「それじゃあ九玉さん借りますね。あっ、タッパーは差し上げます。何かと便利なんで色々使ってください」

 死柄木

「いらねえからって押し付けるなよ。まあ、ありがたく使わせてもらうけどよ」

 精

「じゃあなガラキング! 達者でな!」

 死柄木

「……そうだな。俺のヴィランネームはガラキングにするか」

 

 最後の最後でガラキング呼びを気に入ってもらえたようだ。確かな友情を確認したので固い握手を解き、九玉さんの所へ歩み寄る。

 

 九玉

「用事は済んだようだな。お前の故郷に帰るか?」

 精

「その前に轟家に寄ってください。轟家の女性たちにハメドリくんを紹介したいので」

 

 ということで九玉さんと一緒に轟家にやってきた。エンデヴァーは未だ忙しくていないようだが、それ以外家族は揃っているようなので手短に事情を説明する。

 

 精

「ということなので、俺以上の男が見つけられなかったら理の会のハメドリくんと結婚してください」

 冬美さん

「そっかー……私達と一緒に過ごした緑谷くん、いや土口くんはもう帰っちゃうんだね……寂しいなあ……」

 冷さん

「土口さんには土口さんの家族がいるのよ。私達が後ろ髪を引っ張るなんてことがあっては良くないわ」

 燈矢さん

「坊主で引っ張る髪もねえけどな。まあ、こっちの世界にいるお前には上手く伝えておくわ」

 夏雄さん

「何で皆は話についていけてるんだよ……」

 

 過半数が納得しているし、ここに事情を知っている焦凍も加わるので問題はないだろう。

 

 精

「それでは皆さんお幸せに! エンデヴァーにもよろしく言っておいてください!」

 

 九玉さんと一緒に轟邸を後にする。

 

 九玉

「さて、これでこの世界での心残りはないだろう。お前の故郷に────」

 精

「そのことなんですけど九玉さん……ちょっと確認したいことがありまして」

 

 九玉さんの"世界移動"は平行世界間なら時間を遡って移動することが出来るらしい。ならばこの世界からなら昔の故郷に移動することが出来るはずだ。

 

 九玉

「何を企んでいるのかは知らぬがそれは無理な話だ。同じ世界で"世界移動"した時間より前の時間に移動することは出来ぬ。こればかりは我でもどうにもならぬ"個性"の限界だ」

 

 流石の九玉さんにも無理な物は無理らしい。しかし、それがダメならプランBがある。

 

 精

「だったら……()()()()()()()()()の過去に移動することはできますか?」

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