抜きゲーみたいな島に住んでいた狂犬はヒロアカ主人公に憑依したらどうすればいいんだ?   作:神剣狩刃

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8-14 ね、久しぶりまた会えたね!元気にしていたかな?なんてね、嬉しくって恥ずかしいね

 卵

「ねえ、お兄ちゃん……私も、皆みたいに気持ちよく女の子とセックスできるかな?」

 

 卵が僕に問いかける。不安に満ちていて、今にも泣きだしそうだ。

 

 精

「ああ……いつかきっとできるさ。そのためにも……お兄ちゃんは頑張るからね」

 

 僕は卵をあやすように、なだめるように答える。答えた瞬間、視界がぐるりと回る。

 

 ???

「"極点領域(クライマックステリトリー)"」

 

 凄まじい衝突音に一つの声がかき消され、気づいたら僕の体に黒い何かが巻き付いて宙づりになっていた。

 

 父さん

「み、皆大丈夫か!? 美蘭(みらん)!? (らん)!? (せい)!?」

 

 父さんも僕と同じように宙づりになっていた。

 

 母さん

「私は大丈夫よ! 一成(かずなり)さんは大丈夫!?」

 

 母さんも同じだった。

 

 卵

「助けて! お兄ちゃん! 助けて!」

 

 卵も同じように助かっているけど、軽くパニックを起こしているようだった。どうにかして宥めたいところだけど黒い何かが巻き付いて身動きが取れなかった。それでも声をかけて安心させないと。

 

 精

「卵! 大丈夫だよ! 宙に浮いているけど怪我はしてないよ!」

 卵

「浮いてるよ! 怖いよ! 助けてよ!」

 

 卵は泣き叫ぶ。悲痛な声を早く止めないと。それでも体は全く動かない。

 

 ???

「安心しなお嬢ちゃん────()()()()

 

 場違いなほどに幼く、そして冷静な声が響いた。その声のする方向を見ると────金色のジャージを着て、両手の指先から黒い鞭のような物を放っていて、坊主頭の少年がいた。

 

 ???

「……まずは下ろすのが先か。ほら、お兄ちゃんに抱きしめてもらいな」

 

 シュルシュルと黒い鞭が蠢いて僕達はそっと地面に置かれた。

 

 卵

「お兄ちゃん!!! 怖かったあああ!!!」

 

 卵が泣き叫びながら僕に抱き着いてきた。僕はがっしりと受け止めて卵の頭を優しく撫でた。

 

 精

「大丈夫だよ卵……怖かったけど皆無事だよ────」

 ???

「無事な訳あるか。お前ら全員一つになって動くな」

 

 僕と卵の隣に父さんと母さんが優しく置かれる。それと同時に僕達の周りを囲うように黒いスーツを着た男の人たちが現れた。

 

 スーツA

「……何が起きてるかは知らないがお前達には消えてもらおう」

 スーツB

「恨むなら土口の血を恨むんだな」

 

 ざっと数えて十数人で服の上からでも分かるほど鍛えられている。腰に拳銃のホルダーが見えて本気で僕達を狙っている。咄嗟に父さんと母さんが僕と卵を抱きかかえて身を寄せた。

 

 父さん

「子供達には手を出させないぞ!」

 母さん

「この子達は私達が守るわ!」

 

 こんな状況になってもいつもと変わらず僕と卵を守ろうとしてくれている。最期まで両親の愛を受けれて僕は幸せ者だ────

 

 ???

「ったくよ……手前等に恨みがある訳じゃねえが、コイツラに手出しされると寝つきが悪くなっちまうんでね」

 

 坊主の少年が首をコキコキと鳴らして右拳を左掌に打ち当ててパンと鳴らす。

 

 ???

「失せな。じゃなきゃ後遺症を覚悟しておけ」

 スーツC

「なんだぁ? どこのガキかは知らねえがヒーローごっこなら他所で────」

 

 瞬間、スーツを着た男の体が宙を舞っていた。そのままきりもみ回転をしながら地面にどちゃりと転がった。

 

 ???

「先に言っとくがこれでも加減している方なんだ。いつブチ切れて取り返しがつかなくなるか分からねえから早く失せろ」

 スーツD

「な、なんだ!? 何も見えなかったぞ!?」

 スーツE

「構うな! 撃て!」

 

 スーツの男たちが一斉に坊主の少年に向かって発砲した。四方八方どころかほとんど360度からの射撃で逃げ道はない。ないのだから少年はそのまま立っていた。なのにいつの間にか右拳を握って突き出していた。

 

 スーツF

「……は?」

 ???

「熱いから返す」

 

 そしてキンと鋭い金属音が何重にも重なって響いたと思ったら、スーツの男たちが全員腹部を抑えて蹲っていた。

 

 スーツG

「い、いっでえええ!」

 ???

「早めに病院に行った方が良いぜ。加減して体内に残るようにしてやったからな」

 

 もしかしてこの少年は銃弾を掴んで指で弾いて返したというのだろうか。どれもこれも非現実的すぎるが、そうでもないと目の前の出来事に説明がつかない。

 

 スーツH

「こ、ここで土口の血を断たないと世の中が────」

 ???

「黙れ」

 

 少年がつま先を五回上げて、すごい風が吹き荒れて、瞬きする間にスーツの男たちが全員地面に伏していた。

 

 ???

「犠牲無しに幸せは手に入らないだろうが、その犠牲は最小限にするべきだ。一つの家庭を亡き者にするなんて相当な犠牲だぞ」

 

 この少年は一体何を見てきたというのだろうか。見た目以上に壮絶な人生を送ってきているのは間違いないが、いくら何でも発言の重みが違う。

 

 ???

「さてさてさーて……ちょいとお話しさせてもらいますかね」

 

 そう言って少年は金色のジャージを軽く払って僕達に近づいてきた。

 

 九十九

「の前に名前を言うべきか。俺の名前は……九十九(つくも)(おわり)だ」

 

 

 そう言って九十九くんはしゃがんで僕達に目線を合わせて話を始めた。

 

 九十九

「まず確認から入る。背の高い金髪のもじゃもじゃがお父さん、緑髪のロングストレートの鳶色アイズが美女がお母さん、金髪のウルフカットがお兄ちゃん、緑髪のロングストレートの金色アイズが妹さんでいいかな?」

 

 あの状況で飛び交った会話からよく判断できたものだ。正しかったので皆で何度か首を縦に振った。

 

 九十九

「なんか訳アリの一家っぽいが、その辺りの事情に首を突っ込んだりはしねえ。家族の厄介ごとに巻き込まれるのはもうごめん何でな。だからその辺は考慮せずにそれぞれにアドヴァイスをさせてもらう。通りすがりのヒーローからの金言だ、耳の穴かっぽじって聞きな」

 

 九十九さんが軽く咳ばらいを一つして語り始める。

 

 九十九

「じゃ、お父さんとお母さんからだ。子供を守ったり支えたりするのは親の務めだ。でも、お子さんもそろそろいいお年頃なんだ、辛くなったら子供に思いを打ち明けてもいい。2人は良い親みたいだからきっと子供たちは力になってくれる。そして────どんな辛い時でも一家団結すれば必ず乗り越えられる。2人が自信をもって堂々と先陣を切れば子供たちは信じてついてきてくれる。親としての強さと優しさを存分に活かしてくれ」

 

 まるで父さんや母さんよりも人生の先輩であるかのように諭した。その力強さに2人は口を開いて驚くしかできなかったみたいだ。そして九十九さんが卵に向かって語り始める。

 

 九十九

「次は妹さんだな。見たところお疲れのようだが……そういう時は大好きな誰かに思いっきり甘えると良い。一緒に好きな服着て、一緒に好きな所行って、一緒に好きなもの食べて、一緒に寝る……それに勝る幸せはないからな。もし今はいなくても……君は飛び切りの美人だ、いつかそういう人が出来る。俺は昔から女を見る目だけは確かなんでね、信じていいよ」

 

 何故か九十九くんの目には涙が浮かんでいた。確かに卵は故郷でも同年代の中で一二を争う美人だが、泣くほどの美人だったのだろうか。卵はそんな九十九くんを見て不思議そうに、でも確かに納得して刻々と頷いた。

 

 九十九

「最後は……お兄ちゃんか。奇遇なことに俺もお兄ちゃんだからちょっと長めにお話しさせてもらうぜ」

 

 九十九くんが涙を拭って僕に語り掛ける。

 

 九十九

「いいか? お兄ちゃんだからって妹のためにと一人で頑張る必要はないんだ。一人の事しか考えられなくなって、目的を果たすために手段を選ばなくなって、誰にも頼る事が出来なくなって、独りになったら……きっと妹さんは悲しむ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんだ。何が妹さんの為になるか、色んな人に聞いて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()で判断しろ。まずは正しくないと誰にも認められないからな」

 

 なんでだろう。僕と九十九くんは今この場で初めて会ったはずだ。なのに僕はこの人にとてつもない既視感を覚えた。身近にいるとある人に凄く似ているからだろうか。

 

 九十九

「そして……()()()()()()()()()()()()()()()()()。さっきの車の事故で死んでたかもしれないんだ、目的を果たしたら言うなんて躊躇っている暇はねえぞ。胸の内なんてよほどのことがない限り、悟ってもらう事なんてできないんだからよ」

 

 どうして僕がそんな言葉を胸の中に抱えている、みたいなことが言えるのだろう。いや、もしかしたら。

 

 九十九

「……お手本を見せてやる。ちょっと妹さんを借りるぜ」

 

 そう言って九十九くんは卵に優しくハグをした。

 

 九十九

「────卵、生まれてきてくれて、生きてくれてありがとう。本当にありがとう。それだけで俺は幸せだよ」

 

 その言葉は。

 

 九十九

「……たとえ生きていることが辛くても、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……()()()()()()()()()って思えるんじゃないかな。君が生きていくだけで助けることが出来た俺は幸せになれるんだ、間違っても死のうなんて思わないでくれよ」

 

 間違いない九十九くんは。

 

 九十九

「……幸せにな、卵」

 

 そう言って九十九くんは、いやあの人は卵から離れ、この場から立ち去ろうとした。

 

 九十九

「……そんじゃ、良きドスケベライフを────」

 精

「あの! ありがとうございます、()!」

 

 九十九くんは何かあった別世界の僕だ。じゃなきゃ卵に()()()()をかける事なんてできない。きっと僕達を助けるためにやってきたんだ。

 

 精

「この恩は一生忘れません! 必ず家族みんなで幸せになります! だから貴方も頑張って幸せになってください!」

 

 僕の言葉に別世界の僕が足を止めくるりと振り返った。その顔からは一筋の涙が伝っていた。

 

 別世界の精

「……お前に言われるまでもなく俺は幸せだ。あと、お前が幸せを願うべき相手は……分かってるだろ?」

 

 ハッと我に返り卵の方を見る。

 

 卵

「お兄ちゃん……」

 

 今にも泣きだしそうな卵を抱きしめて泣き叫ぶ。

 

 精

「卵! 生まれてきてくれて! 生きてくれてありがとう! 本当にありがとう! 卵が生きてくれるだけでよかったのに! 今まで言わなくてごめん!」

 

 こんな簡単な事だったのに何で今までできなかったのだろう。

 

 卵

「私も……」

 

 卵が僕を強く抱き返してきた。

 

 卵

「お兄ちゃん! 生まれてきてくれて! 生きてくれてありがとう! 本当にありがとう! お兄ちゃんが私のために頑張ってくれたの、すっごく嬉しかった! でも、こうやって抱きしめてもほしかったの!」

 

 ああ。僕はなんてダメなお兄ちゃんなのだろう。卵のために頑張ってきたのに、その卵を抱きしめることもしないで、感謝の言葉もかけもしないで。でも、今こうやって2人で思いを打ち明けたことはきっと無駄じゃない。

 

 父さん

「……精、卵。この後皆で話がしたい」

 母さん

「そうね……私達の今後について……皆でしっかり考えましょう」

 

 父さんも母さんも抱き合って皆で泣き合う。こうやって皆で泣いたのは初めてかもしれない。でも、何も悪い気はせず、むしろ皆の心が一つになったのを実感できて嬉しかった。視界の端で別世界の僕が音もなく静かに立ち去ろうとしていた。だから僕は一つの言葉を贈る。

 

 精

「別世界の僕! ()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 その言葉を受け取り黙って彼は右手のサムズアップで答え、ヒーローらしく高らかに飛び去った。

 

 

 飛び去った上空で嬉しそうにくつくつと笑っている九玉さんと合流する。

 

 九玉

「……アレが本当に救けたかった存在か。可能なら元の世界の過去の自分たちを、といった所か」

 精

「これで心残りも無くなったので、元の世界に帰って緑谷に体を返しましょう」

 

 九玉さんと手を繋いで下の世界のリビングに現れる。礼はなんともなさそうに、緑谷は至極不安そうにソファーに座っていた。

 

 精

「ただいま」

 礼

「ああ、おかえり」

 緑谷

「なんでそんな冷静なんですか!?  ていうか坊主頭になってるううう!?」

 九玉

「事情は我が説明する。まずは体の入れ替えが先だ」

 

 驚く緑谷には我関せずといった感じで九玉さんが俺と緑谷の入れ替えを行う。目線がすっと高くなって体ががっしりと重くなる。頭を触るときっちりとセットされたウルフカットが実感できる。

 

 精

「ほぼ一年ぶりの俺の体だ……馴染む、実に馴染むぞッ!」

 礼

「私達からしてみるとほんの数分しかたっていないがな」

 緑谷

「わぁ!? なんですかコレ!? めっちゃ人の声がする!?」

 九玉

「事情は我が説明する。これで別れになるが……何か言い残すことはあるか、土口?」

 

 色々と言いたいことはあるが今すぐ礼とドスケベセックスがしたくてしょうがない。適当な言葉を返して別れとしよう。

 

 精

「中々面白い経験が出来た。でも、俺にはこっちの世界の方がいい。故郷で家族とゆっくり穏やかに暮らしていたほうがよっぽど幸せだ」

 九玉

「そうか……迷惑をかけたな。残る余生は我が関わらないほうがよさそうだな」

 精

「多分こっちに関わる暇もないぐらい忙しいと思うぜ? なにせ理の会の実質的トップになったんだからさ」

 

 九玉さんが誇らしげにフッと笑う。

 

 九玉

「そうだな。我はこれから新たな理を作っていく。お前に関わる暇など……ハメドリくんがいるから関わらざるを得ないか」

 礼

「向こうの世界にハメドリくんを布教したのか? お前がハメドリくんを使うなんて意外だな……」

 精

「正体を隠すのに最適ですからね。と言う訳だから向こうでも俺に会えるから安心しろ緑谷」

 緑谷

「どういうわけですか!?」

 精

「あっ、でも坊主姿のお前の中に俺がいることになるから……ま、百聞は一見に如かずだ。元の世界に戻ったら理の会に行ってみると良い」

 緑谷

「今までの情報を整理すると、土口さんは正体を隠した上で理の会っていう組織と接触して、多分"物を増やせる個性"の人に出会って……」

 

 緑谷が頭を抱えてブツブツ言いだした。爆豪がから何となく聞いたがこれを目の前でやられたらちょっと引く。ブツブツを止めるためにも緑谷に感謝の言葉を述べよう。

 

 精

「緑谷、元々"OFA"はお前が手に入れた力なんだ。お前が居なかったら俺もこの結末にはたどり着けなかった……ありがとう。あのマイトから受け継ぐに値すると言われたお前なら、きっとヒーローになれるさ」

 緑谷

「土口さん……」

 精

「あるいは……ハーレムの王にもなれるかもな?」

 緑谷

「土口さん!?」

 精

「これ以上言うとつまらなくなりそうだからな! ほら行った行った!」

 緑谷

「貴方一体僕の体で何を────」

 

 言い切る前に緑谷と九玉さんが消えた。きっと元の世界に戻って色々情報過多になっている事だろう。ここからは緑谷が進めていく物語だ、俺が心配する必要はない。

 

 精

「さて……一年ぶりに礼を味わうとしますか!」

 

 早速礼に抱き着いて思い切り髪の匂いを嗅ぐ。バニラの甘い匂いと礼特有の優しいふわっとした匂いが混じって最高だ。

 

 礼

「相変わらず遠慮がないな。向こうの世界で鍛えたであろうテクニック……たんと味わわせてくれよ?」

 精

「任せてくださ────」

 レイラ

「さて、激変した親父の面拝ませてもらうか」

 セレン

「ダメだよレイラ! 戻るまでNLNSの所でお手伝いするって────」

 

 ドアがバタンと開いてレイラとセレンが姿を見せた。レイラが俺と礼の姿を見てハハーンとわざとらしく笑った。

 

 レイラ

「戻るぞ兄貴。あーし、妹が欲しいから頑張ってくれよ親父にお袋」

 セレン

「え、あ、そ、その……ご、ごゆっくりどうぞ……帰って良くなったら連絡してください……」

 

 ドアが閉じられて再び礼と2人きりになる。

 

 精

「よくできた2人ですね。親の顔が見てみたいです」

 礼

「それなら鏡の前でやってみるか?」

 精

「良いですね。この体に慣らすためにも駅弁でしましょうか」

 礼

「言ったからには出すまで下ろすなよ?」

 精

「任せてくださいよ。なにせ俺は────()()()()()()()()()()()()()()()()()()()────ですから」

 

 さて、頑張りますか。




この回を以って本編は終了となります。数本の番外編を投稿して完結となります。ご了承ください。
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