抜きゲーみたいな島に住んでいた狂犬はヒロアカ主人公に憑依したらどうすればいいんだ? 作:神剣狩刃
一瞬でグラントリノが俺の視界から消えた。何かを噴出する音が聞こえ、辺りを飛び回っているようだ。
精
「なるほど天麩羅と同じスピードタイプの"個性"か……なら、ふっ!」
OFAS5%を張り巡らせる。背中に衝撃が走るが特に動じたりはしない。
グラントリノ
「なるほど一旦受けに回ったか……実戦ではそれが命取りになるかもしれんぞ?」
精
「迂闊に攻める方が命取りになりますよ。それに職場体験初日から殺人級の技使う指導者がどこに──」
何か感じる。咄嗟に首の後ろに手を回す。瞬間、手に強い衝撃が走った。守っていなかったら首に直撃していただろう。
精
「延髄狙うのはちょっとやり過ぎじゃありません?」
グラントリノ
「やり過ぎだと言ったら敵は止めてくれるのか?」
精
「いえ、俺がやり過ぎても文句は言えませんとだけ──"ωセンス"」
精
「──ここだ!」
ωセンスを切り目の前に向けて10%の力で8本の指を弾く。息を吸っているグラントリノに直撃した。
精
「マイトから何も聞いてなかったんですかグラントリノ! 継承者はとびっきりの逸材だって!」
グラントリノ
「そう言う大口は……本気の俺を捕らえてからにするんだァな!!!」
グラントリノが部屋を縦横無尽に飛び回──
精
「ごっ!? がっ!?」
前から後ろから横から打撃を喰らう。首を狙わないのは流石に温情か。
精
「ぐえぁ!!」
そのまま地面に押さえつけられる。ωセンスを使う間もなかった。速すぎる。
グラントリノ
「まあ9人目の継承者に選ばれるだけの素質はあるな。まだまだ開花途中と言ったところだが──」
精
「今度はコスチュームを使っていいですか……?」
グラントリノ
「何……?」
精
「"個性"だけで戦おうとしましたが……流石に格上には全く通用しないことが分かりましてね……小細工を使いたいと」
グラントリノが何を言っているんだという顔で俺から離れる。
グラントリノ
「その小細工でどれだけ変わるか見せてもらおうじゃないか」
グラントリノから許可をもらった。俺は愛刀チューベローズを構え口上を唱える。
精
「お待ちになっても据え膳の花、けれどお預けもそろそろ終わり──さァ、鯉口切っていざ睦言交わし、交わり乱れて狂いましょう?」
OFAS5%とωセンスを発動してグラントリノに斬りかかる。
精
「遅いのはあんたの方だ」
ωセンスを切って糸を30%の力の右手で引っ張る。張り巡らされた糸がグラントリノを捕らえ──
グラントリノ
「分かり切ってんだよそんな──」
グラントリノが計算通り左に避けたので構えていた左手の4本の指を弾く。
グラントリノ
「──の」
更にもう一度ジェットを噴射され避けられる。
精
「そっくりそのまま返すぜ──分かり切ってんだよそんなの」
手元に落とした刀を右足で蹴り飛ばす。
グラントリノ
「同じ事は2度も言わん」
グラントリノが真剣白刃取りで刀を捕らえた。
精
「……初見で全部見破ります?」
グラントリノ
「こちとら対峙する敵は初めての奴が多いんでな。初見殺しは慣れっこよ」
俺は敗北を認めざるを得なかった。
荒れた部屋を片付けたい焼きとお裾分けのクッキーを食べながら話す。
グラントリノ
「お前さん、話通りに中身は高校生ではないな。この技術は長年培ってきたものだ」
精
「なんだマイトから聞いてたんですか……最初からそう言ってくださいよ」
グラントリノ
「実際に見るまでは眉唾物の話だったからな。まずは……歴代継承者の話だな。俊典からある程度資料はもらっている」
グラントリノが何枚かの紙束を持ってきた。
グラントリノ
「全部の歴代継承者がわかったわけじゃねェが……調べが付いた所はまとめてある。"個性"に関してもまとめてあるからよく読んでおけ」
渡された紙を見る。一から四代目は不明、五代目はラリアットという男で"個性"は黒鞭、六代目は
精
「えっ、マイトって日本人だったの!?!?!? しかも無個性!?!?!?」
グラントリノ
「なんだお前さん知らんかったのか?」
アイツどれだけ情報秘匿してやがったんだ。No.1ヒーローの正体見たりって感じだ。
精
「……"浮遊"は良く使うし、"煙幕"は想像がつくが、"黒鞭"ってなんだ……? 手から鞭みたいなものが出て──」
ピンと伸ばした人差し指から黒い何かがチョロっと出てきた。
精
「──マジ?」
そのままクッキーまで伸ばし巻きつけて取って口に運ぶ。素朴な味で素材本来のうま味が味わえる、手作りならではのおいしさだ。
精
「最強の"個性"じゃん!!! もしかして!!!」
念じてみたら両手の十本の指全てから"黒鞭"が出──
精
「痛ってぇ!?」
ズキリと指先の内側から痛みが響いてくる。出力を上げ過ぎると痛む様だ。
精
「……つまり、こういうことか。OFAS"10%"」
10%の状態で黒鞭を出す。両手から出しても痛まない。そのままクッキーを10枚取る。1枚ずつ口に運んでいく。まだ集中する必要があるが、糸で扱いを経験しているから無意識に扱えるのは時間の問題だろう。
精
「こうしちゃいられねえ!!! 訓練だグラントリノ!!!」
グラントリノ
「俊典……お前はとんでもない奴を継承者に選んじまったかもしれないぞ……!」
動きまわるグラントリノを追うように黒鞭を動かす。黒鞭は糸と違って俺の意志だけで動かせるから、指や手を動かす必要はない。
精
「くっ……OFAS10%を維持しながら黒鞭を動かす……! 言うは易く行うは難し……! 立ち止まった状態でこれだから、動きながら使うのはまだ無理だな……!」
新たに発現した"個性"は全く体に馴染んでおらず、まだ自分の一部として扱えない。
精
「ぐっ……! 耐久力が上がったと言え痛いものは痛いな……!」
グラントリノの突進攻撃を受ける。OFASの出力を上げれば身体能力も上がり防御力も上がる。だからと言って攻撃を受け続ければ相応のダメージになる。ダメージが蓄積すれば──
精
「っだあ……! クッソ……続かねえ……!」
OFASも途切れてしまう。ダメージを受けても続けられるようになるためには、経験を積むしかないと言ったところだ。夜になるまでバチクソ扱かれた。
小柄な老体に料理をさせるのもアレだろうから晩飯は俺が作ることにした。スーパーまでひとっ走りし食材を買ってくる。
グラントリノ
「お前さん、料理はできるのか?」
精
「お菓子作りが趣味ですから。おじいちゃんの口に合うものを作らないと……」
買ってきたサバの切り身の皮側に浅めの切り込みを入れる。霜降り*1をして準備をし、鍋に砂糖、醤油、みりん、酒、水、そしてたっぷりの生姜を入れ煮汁を作る。煮汁が沸いたら切り身の皮を上にして入れ、隙間にネギを入れる。落し蓋をして10分ほど煮る。
グラントリノ
「ほう……手際がいいな……」
精
「料理は経験がものを言いますから。もう一品作りますよ」
サバに味が染みこませている間にほうれん草のおひたしを作る。根元に細かい切込みを入れ、塩を加えた熱湯で根元を茹で、続けて全体を茹でる。黒鞭でやると熱くなくてオススメだ。茹でたほうれん草を氷水で冷やし水気を切り、食べやすい大きさに切ってもう一回水気を切る。めんつゆとだし汁で味を調えたら完成だ。サバの方もいい感じになってきた。蓋を取ってネギを取り出しつまみ食いし、煮汁をかけながら煮詰めていく。鍋底全体にうっすら煮汁が残るぐらいになったら完成だ。
精
「お待たせしました。『サバの煮つけ定食~ご飯とみそ汁はインスタントで楽しました仕立て~』です」
グラントリノ
「レンジもしっかり活用するとはな……良い相棒サイドキックになれるぞ?」
精
「男が女性の胃を掴むのもありですからねえ……家事ができない女性ヒーローっているのかな? *2」
グラントリノ
「女が目的か? 最近の子供は不純で──美味いな煮つけ……」
グラントリノが会話を止めるほどおいしいらしい。俺としてはもっと時間をかけてもっとおいしく作りたかった。
精
「うーん……やっぱり急ごしらえだとこれが限界か……明日は夕方から仕込むとするか」
グラントリノ
「ほうれん草もしっかりと食感が残っている……味付けがちっと濃いぐらいしか文句が付けられねェ……」
文句付けるつもりでいたのかこの人。マイトが震える扱きをするような人だからありえなくはないが、料理にまで求めるのはどうかと思う。
精
「もしかしてマイトが料理できるのって、グラントリノが教えたからだったりします?」
グラントリノ
「ああ、何も戦うだけがヒーローじゃねェからな。お前さんの料理の腕は俊典よりはるかに上だ。そこは胸張って良いぞ」
精
「なるほどなあ……今度ランチラッシュさんにお礼言わないと」
翌日は"個性"の訓練と朝昼晩の三食作りにおやつ作りと充実した一日になった。ヒーローっぽいことしてないがいいのだろうか。レポートとか書かなきゃいけないのになあ……