抜きゲーみたいな島に住んでいた狂犬はヒロアカ主人公に憑依したらどうすればいいんだ? 作:神剣狩刃
職場体験が終わりそれぞれの体験に話を咲かせる。隣国からの密航者を捕らえた梅雨ちゃん、明らかに構えが良くなったちょっと怖いお茶子ちゃん、女の本性を知ってトラウマになった実、そして8:2ヘアーにイメチェンした爆轟。皆成長したようで何よりだ。しかし──
精
「ハァ……ヒーローかあ……」
別にステインのマネをしているわけではないが、どうも心が妙に重い。
飯田
「どうしたんだ緑谷くん? 溜息なんてらしくないぞ?」
轟
「お前には恩がある。相談ぐらいなら乗ってやるぞ」
こう言ってるのだから乗ってもらおう。
精
「飯田には悪いけど……ステインの考えも一理あると思うんだ」
1-Aの皆がマジかよって顔で俺を見つめる。流石に自己弁護を挟む。
精
「いや、アイツはもちろん悪人だよ。許すつもりはない。ただ……本物の"英雄ヒーロー"って何なのかなあって。その答えを見つけようとしていた信念そのものは悪くないと思うんだよ」
俺は他者の考えを何もなしにいきなり否定したりはしない。一度俺の尺度で考えて、賛同するところは賛同し、否定するとことは否定する。故郷で培った他者を理解する秘訣だ。俺の中ではステインの考えはおかしなものではなかった。
飯田
「確かに信念の男ではあった……それに思うところがあるのも分からなくはない。ただ奴は信念の果てに"粛清"という手段を選んだ。君の理論で言えば『規則を破って』いるんだ。だから奴の善悪はともかく間違っている、と俺は思う」
轟
「そんな間違ってる奴の発言なんかあんま気にすんな。大体、ここにいる全員が本物の"英雄"はこれだ、と答えられるとは思えねえ」
皆がうんうんと頷く。確かに正義や悪に明確な答えはない。本物の"英雄"も同じようなものだろう。
精
「……サンキュ。ちょっと心が軽くなったわ」
明確な解決でなくとも、共感してくれる人がいるだけで随分と楽になる。おかげでヒーロー基礎学の救助訓練レースで一位を取れた。その際、マイトが私オールマイトとOFAについて話がしたいと言ってきた。結構マジな言い方だったから気になる──
実
「おい緑谷!! やべェ事が発覚した!! こっちゃ来い!!」
男子更衣室ではしゃぐように叫ぶ実の指先には覗き穴があった。
飯田
「峰田くんやめたまえ!! ノゾキは立派なハンザイ行為だ!」
実
「オイラのリトルミネタはもう立派なバンザイ行為なんだ────」
精
「くだらねえことをするんじゃねえ」
いつぞやのように殺気と怒りを発しながら実に迫る。
精
「裸を見られることがコンプレックスの女性だっているはずだ。俺達のクラスにもそういう女性がいるかもしれない。私欲のために人のセンシティブな部分を踏みにじっていいのか?」
俺は女の子が好きだ。だからこそ大切に扱う。自分の欲望に任せ手を出すという行為は絶対にしないし許さない。
実
「……わ、悪い緑谷……軽率すぎたぜ……」
精
「まあ、見たくなる気持ちは分かる。だから……」
俺は穴に近づいて一息吸う。
精
「覗いていいですか!?!?!?」
お茶子ちゃん
「ダメに決まっとるやん!!! ……二人きりになったらちょっとは……」
梅雨ちゃん
「許可を取るのはいいけれど、流石にダメよ緑谷ちゃん。……個人的に頼んでくれれば……」
三奈ちゃん
「欲望に素直すぎでしょ! 何でも頼めばいいって訳じゃないからね! ……まあ、頼めばいい時もあるけど……」
透ちゃん
「そもそも私は覗いたって見えないからね! ……でも、いつかは見せれるようにはなりたいな……」
響香ちゃん
「急にそんなこと叫ぶな! 迎撃準備してたからびっくりしたじゃん! ……そもそもウチはあんまり大きくないし……」
モモパイセン
「そういう所は変わっておりませんね! 最低一歩手前です! ……一度見せれば収まるでしょうか……」
精
「ダメかー……」
1-Aボーイズ
「「「何でイケると思ったんだよ!!!」」」
俺の好感度的にイケると思ったからに決まってるだろ。おかしいな……体力テスト1位、USJで皆の命を救った、体育祭準優勝、職場体験でステインを倒した……は皆は知らないか。何にせよ結構好感度は高めだと思ったんだけどな。この一件の後、モモパイセンによってノゾキ行為室から普通の更衣室に変わった。
青春のリビドーを楽しんだところで、マイトに言われた通り仮眠室にやって来た。
精
「
マイト
「私のオマージュかな、と言ってる場合でもないんだ……掛けたまえ」
本当にガチな話っぽいので俺も真剣になる。
精
「それで……話って何ですか?」
マイト
「君、ヒーロー殺しに血を舐められたと聞いたよ」
精
「まあ……奴はそういう"個性"です──OFAの継承の条件ってDNAを取り込むだけな訳ないですよね?」
そういえばマイトからOFAを受け継ぐときにDNAを取り込むとか言っていた。そんなものでとか思っていたが、改めて考えたらそんな単純なわけはない。
マイト
「よく思い出したね。勿論だよ。持ち主が"渡したい"と思った相手にしか譲渡されないんだ」
精
「その言い方だと無理やり渡すことは出来そうですね。押し付けにもほどがありますけど」
マイト
「特別な"個性"なのさ。その成り立ちもね。OFAは元々ある一つの"個性"傍点から派生したものだ……
マイトの話をまとめると、超常黎明期にAFOが"個性"を奪って、時に"個性"を与え悪の支配者に君臨し、その中で弟に"力をストックする"という個性を与えたところOFAの個性が生まれたという。
精
「……そんな話をするってことは……そのAFOが動き出したってことですか?」
マイト
「察しがいいね……私の代で討ち取ったハズだったのだが……奴は生き延び"敵連合"のブレーンとして再び動き出している」
精
「じゃあ、もし俺がAFOと遭遇したら無条件で殺していいってことですか?」
マイト
「話が早すぎると言いたいが……殺すまではしなくても再起不能にしてほしい……というのは無責任すぎるかな」
マイトがここまで真剣に話をしたのだから、俺も真剣に答えないと無作法というものだろう。
精
「良い弁護士を見つけてください。少なくとも人を"個性"で殺して、情状酌量の余地ありを取れるような弁護士を」
マイトが驚いたような顔で俺を見ている。殺すなんて言うとは思ってもいなかったのだろう。
マイト
「…………私から話題を出しておいて言うのも烏滸がましいが……本気で殺す気かい?」
精
「あまり言いたくないですが……多数派の幸せのためなら少数派の幸せが切り捨てられる、どんな社会でも起きえることです。この"個性"社会が幸せになるなら…………AFOの幸せはどうだって────」
マイト
「
マイトの一言に俺の言葉が止まる。
マイト
「君自身……土口精だったっけ。土口精として幸せになれるのかい?」
精
「…………故郷に帰れば幸せな家庭が待っています」
マイト
「いや、君の性格上『人を殺める』なんて最も忌避している事じゃないか。それを行ってしまった事実が君を蝕んでいくだろう。苛まれて、苦しめて……いつの日か耐えきれなくなって────」
精
「それが"
俺の中にあった蟠りの正体がやっと分かった。
精
「俺のいた世界ではヒーローなんて漫画やアニメや特撮の中だけなんです。子供心で憧れて、大人になるにつれて諦めて、あの頃はヒーローに憧れていたんだと笑い話にする…………馬鹿真面目にヒーローを目指す奴なんかいませんでしたよ」
この世界における"英雄"と俺の中の"英雄"の乖離だ。
精
「一人で戦おうと、仲間と一緒に戦おうと、
マイト
「しかし君はヒーロー殺しの事件で友人を助けるという立派なヒーローに……」
精
「因果関係が逆です。ヒーローとして『やりたいようにやれ』たんじゃありません。『やりたいようにやれ』た結果がヒーローっぽく見えただけです」
マイト
「……君が規則を重んじるのは『やりたいようにやれ』を認めてもらうためか」
精
「ええ。動機や結果だけでなく過程まで正しくて認められるものですから…………
故郷で起きた2つの事件を思い出す。どちらも社会が許せないという思いから起きた事件だった。その思いは痛いほどわかったが、手段を間違えていたため賛同しきれなかった。
精
「…………今、俺は"個性"社会で生きているんです。だったらそれに合ったように生きるべきです。その中で俺が見つけたヒーロー像は
マイト
「…………そこまで思っているなら、無理に私が引き留めるのも無粋だな…………」
マイトも言葉を紡げなくなった。仕方がないことだ。俺だって覚悟を決めた人間の後ろ髪を引っ張ることはしない。背中を押して送り出すか、真正面からからぶつかって阻むかだ。
マイト
「ただ…………これだけは言わせてくれ。もし何か迷ったら、君の
精
「俺の原点……あんたからOFAを貰った事────」
マイト
「違う。君自身の、
何だったっけ。この世界に来て、"個性"に振り回されて、OFAとAFOの話をされて、そんな中だからか見失った気がする。だからこんなことになっているのか。
精
「…………やっと教師らしい事言えたじゃないですか。ちょっと思い出してみます」
マイト
「…………AFOと対峙する日はそう近いものじゃない。いつかその日が来るぐらいに考えておいてくれ」
仮眠室を後にする。
精
「『やりたいようにやれ』……これのはずなんだけどな……」
その言葉だけでは釈然としない。きっともっと深い所に俺の原点はあるのだろう。
ちょっと捕捉を書きます。土口は故郷で仲間に心配をかけることを避けるようにしてきました。故に『自己犠牲をしてでも誰かを助ける』の象徴であるヒロアカ世界のヒーローは、土口にとっては『自己犠牲は仲間に迷惑をかける』ため噛み合っていません。なので、"規則を守って『やりたいようにやれ』"という自分なりのヒーロー像を作っています。そこがヒロアカ世界のヒーロー像とぶつかります。だから土口は悩んでいるというわけです。