抜きゲーみたいな島に住んでいた狂犬はヒロアカ主人公に憑依したらどうすればいいんだ? 作:神剣狩刃
俺はいつかこの世界からいなくなる。だから俺が居た証として日記をつけている。大事件を書き記すのも大切だが、何気ない日常も書き記すべきだろう。これまでにあった日常をページをめくりながら思い出す。
とある平日の午後9時、俺はとある男子の部屋をノックする。
精
「尾白丸ー? おるかー?」
尾白丸の部屋をノックして呼びだす。SARUと書かれたTシャツを着た尾白丸が出てきた。
尾白
「いるけどなんだよその呼び方……」
精
「なんか尾白丸って感じしない? お気に召さないなら普通に尾白って呼ぶけど」
尾白
「……まあ、悪くはないか。で、何の用だ緑谷?」
精
「柿のマリネ作ったんだ。食いながら話しよーぜ」
尾白
「柿……もしかして
精
「あったりぃ……あ、アレルギーとかある? それとも嫌いだった?」
尾白
「いや、あまり食ったことなくてな……折角だし頂くよ」
ということで尾白丸の部屋に入る。シンプルで落ち着く部屋だ。早速二人で柿のマリネを食べる。
尾白
「ん、甘酸っぱくてシャキシャキでウマいな……いい感じのデザートだ」
精
「隠し味は黒糖だ。普通の上白糖に比べて風味とコクが出て深みが出るんだ」
尾白
「砂藤のスイーツもウマかったが、緑谷のスイーツもウマいんだよな……女子からの人気が高い理由が分かった気がするよ」
精
「スイーツだけじゃない……強いから人気もあるんだ」
尾白
「強さか……そういえば緑谷って何か武術やってるのか?」
尾白丸は格闘家の血筋でそういうのに学がある。俺の立ち振る舞いから何かを感じ取ったようだ。
精
「故郷のSQC*1……まあCQC*2の一種をやっててな。軽く見せてやるよ」
テーブルを退けて一通りの動きを見せる。本来は銃やコンバットナイフを用いるのだが、徒手空拳でも十分役立つ。キレのある動きに尾白丸から感嘆の声が上がる。
尾白
「メチャクチャキレキレだな……そりゃあ近接戦強いわ……」
精
「一番強みを発揮できるのは室内だな。これに糸や黒鞭や羅漢銭が加わるから……ここまで言えばわかるな、尾白丸?」
尾白
「策がないとコレと真正面から対峙しないといけないと……俺じゃまず勝てないな……」
精
「尾白丸も鍛えればこれぐらいできるさ。トレーニングメニュー教えてやろうか?」
前のように説明したら尾白丸が頭を抱えた。これにSQCの型を覚えるのは時間がかかるとのことだ。
精
「だったら関節技教えてやろうか? 故郷の先輩に何回も決められたから得意なんだ」
尾白
「関節技か……尻尾がつかえていいかもな。ちょっといくつか俺に掛けて見てくれよ」
ということで尾白丸にサソリ固めとキャメルクラッチと胴絞*3と足緘*4を教える。
精
「特にサソリ固めとキャメルクラッチは尾白丸がやると尻尾が有効に使える……覚えておくといい」
尾白
「分かったから……! ギブギブ……!」
タッチされたので技を解く。結構効いたらしい。
尾白
「お前こんなの決められてたのかよ……そりゃあ強くなるわけだ……」
精
「ちなみに俺の先輩のフェイバリットはガーデンフィギュア・フォー・ネック・ロックだ」
尾白
「……直訳すると庭の首四の字固めだが、どんな技だ?」
精
「自分の股間を相手の顔に押し当てる要領で放つ首四の字だ」
尾白
「うわあ……絶対受けたくないな……」
アレは本当にやばい。寝技が得意だからと言ってやって良いことと悪いことがある。しかも、これを俺に決めるためだけに2日風呂に入らなかったことがある。あの時は流石の俺も死を覚悟した。
精
「尾白丸の"尻尾"は発想次第で色々できそうだからな。関節技に限らず、色々な使い方を考えてみるといいぜ」
尾白
「そうだな……いい話ができた、ありがとうな緑谷」
精
「今後ともご贔屓に……じゃあな、尾白丸」
別の平日の午後9時、俺はとある男子の部屋をノックする。
精
「ドンセロー? おるか―?」
異国情緒あふれるシャツを着たドンセロこと瀬呂が出てきた。
瀬呂
「緑谷か。ドンセロとはカッケェあだ名つけてくれるじゃん?」
精
「ドンマイ瀬呂の略だが?」
瀬呂
「聞かなきゃよかった……ん、オレンジ系の菓子持ってきたのか?」
精
「差し入れですぜドンセロ……お手製オレンジ風味のグラノーラクッキーですぜ」
瀬呂
「オシャレな物作ってきたな……立ち話もアレだし食いながら話しようぜ」
エイジアンでエスニックなギャップの凄い部屋だ。早速グラノーラクッキーを食べる。
瀬呂
「ザクザクボリボリでうめぇ! しかもオレンジ風味でさっぱりしてていいな!」
精
「グラノーラクッキーにはナッツ類が入ってないと認めない主義でな」
瀬呂
「お前って妙な所でこだわりあるよな……あの糸になるマフラーとかも結構こだわってるのか?」
このお洒落な部屋を持つ人間だ。俺のアザレアマフラーが気になるらしい。
精
「デザインもそうだが材質にこだわってるな。あの繊維は結構強靭なんだ」
瀬呂
「そういや初めての戦闘訓練で爆豪縛り上げてたもんな……あの糸使いはマジでスゲエよ……」
精
「お前の"テープ"でも似たようなことできると思うぞ? 結界の張り方教えてやるよ」
俺の部屋から糸を持ってくる。瀬呂の部屋に規則正しく張り巡らせていき、最後に糸を引っ張る。見事に瀬呂が捕まった。
瀬呂
「……まったく分かんなかったわ」
精
「これを瞬間的にできるのがベストだが、お前の"テープ"だったら待ち伏せで使うのもありだな」
糸とテープの違いは面積と粘着性だ。俺の糸は引っ張って巻き付けてやっと効果が出るが、テープなら触れたり踏んだだけで十分効果が出る。
精
「お前が結界を張るなら無理に縛ることを考えずに、機動力を奪うぐらいの方が良いかもな」
瀬呂
「としたら……腕とか足を重点的に狙う感じか?」
精
「そうだな。俺だったらこことここに張って……んでこうも張って、あえてここは空けて……家具の都合上やらないがここにもほしいな」
瀬呂
「お前ホントいやらしい張り方するな……こんなの引っかかるに決まってんじゃんかよ……」
結界を張る際のポイントはあえて抜け道を作っておくことだ。完璧な結界は動かないという対処法ができてしまう。そこであえて抜け道を作ると相手の動きを誘導でき、そこにさらなる結界をということもできる。
精
「これは空間把握能力と意地の悪さが物を言う……赤点組だったお前にできるかな~?」
瀬呂
「実技で赤点だっただけだ! って、その方が問題か……」
精
「そういやお前はミッ先の膝枕うけてたな。どうだった?」
瀬呂
「あーんま覚えてねーけど……低反発枕のように包みこんでくれる感じ?」
なるほど。1/1ミッドナイトフィギュアを作る際の参考にしよう。
瀬呂
「なんかエロイこと考えてるだろ? またガールズから締められるぞー?」
精
「何言ってんだ、男がエロいこと考えないでどうする? そんな奴は男として三流だ」
瀬呂
「ここまでくるとすがすがしいな……それでも口先だけで済んでるから峰田よりマシって評価なのは、なんかのバグだと思うんだよなあ……」
そもそもこの世界に来たのはバグみたいな方法なのだが。
精
「いいテープの結界思いついたら教えてくれ。俺が採点してやる」
瀬呂
「おう! いろいろありがとな!」
精
「今後ともご贔屓に……じゃあな、ドンセロ」
また別の平日の午後9時、俺はとある男子の部屋を小さくノックする。
精
「口田くーん? いますかー?」
白くてフワフワしたウサギを抱えた口田君が出てきた。
口田
「み、緑谷くん……どうしたの……?」
精
「野菜チップス作ってきたからさ。一緒に食べる?」
口田
「野菜チップス……うさぎさんも食べられる……?」
精
「切ってオーブンで焼いただけだ。それなりの種類作ったから食べれる奴もあると思う」
与えてはいけない野菜は口田君なら熟知しているだろう。ということで口田君の部屋にお邪魔して、野菜チップスをウサギと一緒に食べる。
精
「まあ、想定の範囲内を出ない味だな」
口田君
「うさぎさんのためにわざわざ作ってくれたんだよね……ありがとう……」
精
「口田君のために何か作ろうと思ったのがきっかけだけどね。だったらウサギも食べれる何かが良いと思ってさ」
ウサギにニンジンチップスをあげようと手を伸ばす。めっちゃ威嚇された。
口田君
「わわ……だめだよ
精
「いや、結ちゃんは間違ってないよ。俺はあんまり良い人じゃないからな」
ヒーローらしからぬ言動も多く、洸汰君にあの選択を迫らせるような人間だ。お世辞にも善人とは言えないだろう。
口田
「緑谷くんが自分自身をどう思うかは緑谷くんの自由だけど……僕は緑谷くんは良い人だと思うよ……」
精
「口田君は優しいなあ……一家に一人口田君がいれば心が安らぐよ……」
故郷の友達の奥さんを思い出す。最後に会った時もむべむべ言っており、未だに美しさと可愛さを兼ね備えているいい奥さんだ。勿論、俺のマイスイートハニ―には劣るが。
口田
「……やっぱり僕は口田君なんだ……」
口田君が安心とがっかりを50:50にしたような顔をする。
精
「あ、もしかしてあだ名欲しかった?」
口田
「ちょ、ちょっとね……緑谷くんって不思議なあだ名をつけるから……」
精
「あー……天麩羅にロゼショット、最近じゃ尾白丸とドンセロとかか。折角だし考えてみるわ」
本名は
精
「……やべえ、期末試験のどんな問題よりも難しい……」
口田
「そ、そんなに悩む事だったら無理に付けなくてもいいよ……?」
一度考えると言った手前ここで引っ込めたら申し訳ない。一発で口田君と分かり、できる事なら可愛らしいヤツがいい。
精
「アニマジロ……違う。アジマル……尾白丸と被るな。ボーパル? 怖すぎるわ。コウコウ……コウコウ! いいな! パンダみたいで可愛い!」
口田
「口と甲から取ったんだね……いいと思うよ……」
やったあ。
精
「コウコウの"個性"って動物さんにお願いできるんだよな?」
口田
「うん……もちろんあまりひどいことはさせないけど……何か頼みたいことがあるの?」
精
「いつか動物さんたちによるサーカスが見たくてな……猿のジャグリングとか見て見たいんだ」
口田
「緑谷くんって結構メルヘンだね……」
子育てをしたおかげでメルヘンに憧れることがある。故郷の遊園地は男の夢はあっても子供の夢はない。
精
「どう? できそう?」
口田
「うーん……その動物さんができること以上のことは出来ないんだよね……」
精
「じゃあ、鳥と一緒に合唱。『世界中のこどもたちが』とか『ぼくときみ』とか歌いたいな」
口田
「それならできると思うよ……緑谷くんの故郷の家族に聞かせてあげたかったね」
精
「それだけが残念だな。まあ、俺の記憶に刻んで合成音声で再現するとしますか」
不俱戴天を再現できたんだ、合唱も再現できるだろう。
精
「準備できたら教えてくれ。俺の美声を披露してやるぜ」
口田
「うん……! 今日はありがとう、楽しかったよ……!」
精
「今後ともご贔屓に……じゃあな、コウコウ」
日記帳を閉じて思い耽る。
精
「色々あったなあ……尾白丸いい技で来たかな? ドンセロもお洒落な結界作ってるかな? コウコウは鳥に何を教えてるかな?」
この日記帳の中身ももっと面白くなっていくだろう。俺の青春はまだまだ続いていく。