抜きゲーみたいな島に住んでいた狂犬はヒロアカ主人公に憑依したらどうすればいいんだ? 作:神剣狩刃
季節の変わり目特有の温度差がうっとおしい10月、奴がハジけた。それは俺が昼飯を考えて口をぽかんと開けていた時の事である。
青山
「チーズあげる」
青山が俺の口にチーズを差し込んできたのだ。急で驚いたがおいしかったのでサムズアップで返す。ポン・レヴェックというチーズらしい。今度料理にでも使ってみるか。良いことを知れたのでランチを奢ってやりたい。
精
「一緒に食堂で飯食うか?」
青山
「ノン☆個々の食堂は僕の口に合わない☆」
そう言って自分の席でフレンチを食べ始めた。人の好みはチン差マン別、無理強いするのもよくないだろう、ぐらいで済めばよかったのだが、ここからが問題だ。
精
「青山って何好きなんだろ……無難にフレンチでいいのかな……」
夜になり自室のベッドで青山へのお礼料理を考えている時だった。妙な気配を感じたのでベランダに目をやった。カーテンの隙間から青山が張り付いてこちらを見ていた。何か用事があるのだろうと思って窓を開けようとしたが、その前に青山は部屋に戻っていった。
精
「何がしたかったんだ……」
カーテンを開けて確認するとナプキンの上に『ぼくはしってるよ☆』というチーズアートが残されていた。
精
「ああー……夜食のお裾分けか。他の人に見られたら羨ましがられるからな……」
納得した俺はおいしくチーズを頂いて、もう一回歯磨きをして眠りについた。翌朝になって早速青山に礼を言う。
精
「昨日はありがとうな青山。おいしかったぜ」
青山
「んん☆サプライズ大成功☆」
青山はエンターテイナー気質なのかもしれない。今度、俺のお気に入りの曲である『ジ・エンターテイナー』を勧めてみるか。
さて、今日も今日とて必殺技訓練だ。"
切島
「爆豪!! 砂藤ー!! 緑谷!! 思う存分俺をサンドバッグにしてくれ!」
精
「任せろ! 目を食いしばれ!」
頼まれては仕方がない。
砂藤
「ちょっとは遠慮しろよ!? あと目を食いしばるって何だよ!? 歯じゃないのか!?」
精
「痛ってえな! 今度は蹴ってやる! このド畜生が! 舌食いしばれ!」
砂藤
「舌食いしばったら死んじまうだろ!?」
爆豪
「うっせえんだよ!!! 静かにやれねえのかてめェら!!!」
爆豪に絞められたので後にする。背後からやばい爆発音が聞こえたが切島は無事だろうか。粉みじんになっていなければいいのだが。
青山
「ねえ、見て☆」
青山に声をかけられた。
精
「どうした? 岩に腰を密着させて? 岩に欲情したか? そういうフェチもあるのは分かるが……」
青山
「相変わらずだね☆新技のお披露目だよ☆ネビルビュッフェ☆レーザー!」
そう言って青山は腹と同時に両肩から光線を出した。腹部以外からも出せるのは意外だった。想定外の所から技が飛んで来たら意表をついていいかもしれない。
精
「となると……こんな感じか?」
口を開いて舌から黒鞭を出す。舌の扱いに関しては故郷で恐ろしいほど鍛えたので器用なのだ。落ちてる岩を拾って持ち上げる。
精
「あががが……!」
青山
「大丈夫かい?☆」
首にかかる負担が半端じゃない。OFASを使うにせよ首に必要以上の負荷をかけるのはよくない。対人戦で絞めるのに使うべきだろう。岩を一気に締め砕く。
精
「あとは煙幕を口から出すぐらいか……必殺技って呼べるほどではないが、技が多いに越したことはないな」
青山
「ヒントになれたようで何よりだよ☆」
青山に礼を言って去ろうとしたが、ふとサプライズをした理由が気になった。こういってはなんだが、俺と青山に接点はクラスメイトぐらいしかない。青山は悪い奴ではないが、俺は1-Aガールズに首ったけでそこまで交流していない。しかも『ぼくはしってるよ☆』だ。仲良くなるためのサプライズなのかもしれないが、一度気にしてしまったから気になる。
精
「そういや何で俺にサプライズしたんだ?」
青山
「君の"身体強化"の”個性"……体と合ってない……君は僕に似ているんだ」
確かネビルレーザーは射出し続けると腹を壊すはずだ。そこが似ていると──
青山
「僕、常にサポートアイテムのベルトを巻いてるんだ。じゃないと時々ネビルレーザーが漏れちゃうのさ☆僕も身体と"個性"が合ってないんだ☆」
そういう共通点があるからサプライズしたと──
青山
「そして死穢八斎會の一件で君は罰を受けた……レディーたちからは慰めてもらっただろうけど、ボーイズからはそこまでなにもされてなかったんじゃないかな☆」
確かにボーイズたちからはなんとなく励ましの言葉を受けただけだった。ガールズと一緒に入浴できたからそれ以上を望むつもりはないが、励ましてくれるならありがたい。
青山
「サプライズは嬉しいだろう!? ☆僕はサプライズが何よりも嬉しいのさ! 僕が嬉しいと思うことをしたのさ」
自分がされてうれしいことは他人にもしましょうということだ。なんていい奴なんだ。きっと青山の道徳の内申点は5点だろう。
精
「────それで誤魔化せると思うなよ?」
青山
「え?」
会話の中で青山が何かを隠して取り繕っていることに気付いてしまった。幸か不幸か俺は色々と鼻が利く。おそらく簡単には聞き出せないことだろう。だから強硬手段に出る。煙幕を張ってωセンスを発動し──
精
「サプライズ返しだ」
青山の唇を奪い舌を入れる。男同士でこういうことをする日が来るとは思ってもいなかった。
青山
(AFOはいなくなったけどまだ安心できない……パパンとママンのためにもあの2件の事は隠し続けないと……)
青山からとんでもない感情が読み取れた。
精
「……とんでもないサプライズじゃねえかよ」
青山
「……君の趣味嗜好を否定するつもりはないけど、僕はそういう関係のお付き合いはちょっと──」
精
「今日の夜俺の部屋に来い────
煙が晴れて青山の表情が見える。いつもの笑顔はなく、驚きと絶望を煮詰めた様な顔をしていた。
午後11時、青山が俺の部屋に訪ねてきた。俺は笑顔で室内に向かい入れる。
精
「いいクラッカーとクリームチーズを用意している……ワインは飲めないからぶどうジュースになるがな」
青山
「……何で分かったんだい……?」
青山からしたら不思議でしょうがないだろう。キスをされたと思ったら、自分の心をあっさりと読んできたのだから。
精
「俺の秘密の特技でね。粘膜接触を介して相手の感情や情報がある程度分かるんだ。名付けるなら"ωスキャン"って所か。故郷の後輩はもっとすごいんだが……」
青山
「……ということは……
精
「えっ、そうなの?」
青山
「……え?」
ωスキャンで得られる情報は接触の時間や、対象の相手がその時何を一番考えているかにもよって左右される。一瞬だったら相手の"個性"の情報の一部、それなりの時間だったら相手が一番考えていること、もっと長ければその人間の過去といった感じだ。
精
「AFO関連の悩みがあるのは分かったが……まさかそこまでの関係だったとは……」
青山がやってしまったかと諦めたように笑い、涙を流しながら語りだす。なんと青山は子供の頃"無個性"だった。それに酷く狼狽した両親が藁にも縋る思いでAFOから"個性"を貰った。それをきっかけに両親を人質に取られ、USJと合宿でAFOに情報を流した。
青山
「青山優雅は……根っからの敵だったんだよ……」
精
「そうか。もっとクラッカー食べる?」
青山
「……よく勧められるね……」
精
「俺も故郷の組織や大切な先輩を裏切っていたからなあ……その気持ちがよく分かるよ」
青山
「え……?」
俺は唯一の友であり条例に敵対する反交尾勢力だった淳之介君を守るために、故郷のSHOやSSの人間を裏切っていた。さらには別世界の妹と一緒にいようとするあまり、礼先輩をも裏切った。結末がハッピーエンドだったから笑い話になるかもしれないが、事と次第によっては土口精という人間がいなくなるかもしれなかった。
精
「俺もお前も守りたいものがあったから裏切ったんだ。それを悪だというなら悪だし、それを良いとするなら良い……まあ、俺としてはどっちでもいいね」
クリームチーズ乗せクラッカーをサクサクと食べ進め、ワイングラスを回しぶどうジュースを燻らせる。
精
「結局はお前がどうしたいかだ。1-Aの皆に打ち明けてもいいし、このまま黙っておくでもいい。ただ……俺はお前を許すよ」
青山
「……僕のせいで君は敵に攫われたのにかい?」
精
「そのおかげで1-Aガールズと付き合えることになったからな、ってのは半分冗談で俺は自分のやったことを許してほしいから他の人も許す……無論、許せる物事は限度はあるがね」
俺の信条の一つだ。どうしようもない事情があって行った悪事なら許してもらいたいのが人間だ。だから俺はよほどの悪事でもない限り許すつもりだ。そんな俺ですら許せなかった治崎は相当外道ということだ。
精
「結果論になるが俺は無傷だし皆も無事で、傷ついたのはお前だけだ。このまま黙って普通に過ごせば誰もお前を疑わない。どうするかはお前次第だが……雄英を辞めて責任を取るのは止めろ。逃げたところで責任はとれない。もしそうするなら、俺はお前の秘密を暴露する」
青山
「…………君は本当に恐ろしいことを提案するね…………」
成功だけの人間はおらず、誰もが失敗をする。だからこそ失敗と向き合って成長につなげる必要がある。
精
「だから真剣に向き合うっていうなら……俺は協力するよ」
青山
「…………『やりたいようにやれ』ってやつかい?」
精
「美味いチーズ教えてもらったからな。その礼も兼ねてだ」
一通り話し終えて青山はぶどうジュースを一気に流し込んで考え込んだ。抱え込んでいた秘密が知られて、自分の人生を大きく左右する決断を迫られているのだから無理もない。
精
「……無理してすぐに答えを出す必要はない。両親や先生方に相談して、じっくり考えて決めると良い」
青山
「……そうさせてもらうよ」
部屋を出ていこうとする青山の背中に一声かける。
精
「歯磨き忘れんなよ」
青山
「……忘れる所だったよ、ありがとう」
精
「そこはメルシーって言えよ」
青山
「……メルシー、緑谷くん」
言った手前、俺が忘れる訳にもいかない。歯磨きをしてベッドに転がる。青山はどうするのだろうか。何をするにせよ、ここからは青山自身が決める問題だ。俺が案じたところでどうすることもできない。目を閉じて時間が過ぎるのを待とう。