抜きゲーみたいな島に住んでいた狂犬はヒロアカ主人公に憑依したらどうすればいいんだ? 作:神剣狩刃
俺はいつかこの世界からいなくなる。だから俺が居た証として日記をつけている。大事件を書き記すのも大切だが、何気ない日常も書き記すべきだろう。これまでにあった日常をページをめくりながら思い出す。
とある平日の午後9時、俺はとある男子の部屋をノックする。
精
「エレウェーイ? おるかー?」
白のシャツの下に黒いインナーを着た上鳴が出てきた。
上鳴
「アホな俺でも一発で俺だって分かったわ……」
精
「アホ電気から昇格だ。良かったな」
上鳴
「エレウェイになってよかったわ……立ち話もなんだ、上がってくれよ」
精
「おやつにエクレアだを持ってきたからな……この意味がお前にわかるかな?」
上鳴
「流石に分かるぜ。フランス語で稲妻や雷を意味するからだろ? 早く食わせてくれよ!」
バスケットボールにダーツにスケボーとチャラくてごちゃっとした部屋だ。早速二人でエクレアを食べる。
上鳴
「んー! 生地フワフワでカスタードいっぱい入ってんな! これぞエクレアって感じだ!」
精
「自家製カスタードだからな。炊くのは大変だが、それだけの価値があるってもんだ」
上鳴
「へー、カスタードって炊飯器で出来るのか……レシピ調べて家で作ってみるか」
バカだろコイツ。頭の良さだったらだったら故郷の元一番隊のあの3人に劣るとも勝らないぞ。
精
「今度勉強教えてやろうか?」
上鳴
「マジか! 緑谷頭いいから教えてくれると助かるぜ!」
一番いい勉強方法は、自分で学んだことを誰かに教えるというものだ。自分の中でどれだけ理解できたか、理解した内容を相手に伝えられるか、相手の疑問に答えられるかなど、色々な要素が求められる。
精
「勉強に対して意欲があるのはいいことだ。戦いを制するのは体力と技術と頭脳を持つものだからな」
上鳴
「おお……! その言葉を知っただけで強くなった気がするぜ……!」
当たり前のことを言っただけなのだが、上鳴は目をバチバチに輝かせている。となると、おだてて褒めまくった方が乗り気になるだろう。
精
「今度勉強応援用ボイス集作ってやろうか? 俺、音声編集技術あるから色んな人の声で作れるぜ?」
上鳴
「マジか!? 誰にしてもらうか! ヤオモモもいいがミッ先も悪くねえよなあ!」
そういえばコイツは女子にチアコスを着せた前科があり、実に並ぶエロガキだった。
精
「待て待て、勉強応援ボイスであって『自主規制』*1。ボイス作るんじゃねえんだぞ」
上鳴
「お前だって男なら分かるだろ!?」
精
「気持ちは分かるが落ち着け。そこをきっちり分けるからこそエロはエロなんだ」
上鳴は頭にハテナを浮かべて首をかしげる。
精
「確かにお前の言う通り、エロい人が応援したらやる気は出るだろう。だがそのやる気は偽りだ。ここぞという時にエロい人から応援されなきゃ力が出ないなんて、ヒーローとしてじゃなく人としてダメだ」
上鳴
「み、緑谷……」
精
「だから日常生活を頑張る時はエロから離れた存在から応援されるべきだ。そして男の時間になったら思いっきりエロに浸かればいい。俺が言うんだから間違いないぜ?」
上鳴
「……流石だぜ緑谷」
俺の説得によって上鳴は理解わかったようだ。
上鳴
「勉強応援ボイスはお前の声でやってくれ。分かりやすく教えてくれたお前から応援されたら、俺も頑張れるだろうからな」
精
「任せろ。それで、エロの方は誰にする?」
上鳴
「……ミッ先で」
精
「今後ともご贔屓に……じゃあな、エレウェイ」
別の平日の午後9時、俺はある男子の部屋をノックする。
精
「きりたーん? おるかー?」
きりたんの部屋をノックして呼び出す。髪を下ろしたオフスタイルのきりたんが出てきた。
切島
「なんだよきりたんって……もっとカッケェあだ名にしてくれよ……」
精
「『切島鋭児郎 漢の英雄譚』を略してきりたんだ」
切島
「略すと元ネタが何か分からなくなるアニメかよ……なんか用か?」
精
「甘い物ばかりじゃつまらないと思ってビーフジャーキー作ったんだ。感想聞かせてくれ」
切島
「緑谷の自家製ビーフジャーキーか……! もちろん頂くぜ……!」
ということできりたんの部屋に入る。サンドバッグにダンベルに大漁旗と暑苦しい漢の部屋だ。早速二人でビーフジャーキーを食べる。
切島
「硬いな……でも、噛めば噛むほどうま味がじわじわ来ていいな……!」
精
「オーブンで簡単に作れるからオススメだ。俺はカルビが好きだが、きりたんはどうだ?」
切島
「脂身のうまさも分かるが、やっぱ赤身だな。デカいヒレステーキにかぶりついてみてぇ」
精
「都合がついたらお礼にご馳走してやるよ」
切島
「お礼……? 何のお礼だ? 文化祭か? インターンか?」
その辺の礼は他のクラスメイトも該当するが、俺は切島にかなり大きな恩がある。
精
「『神野の悪夢』で俺を助け出したことだよ」
切島
「……アレは俺のおかげじゃねえ。俺についてきてくれた1-Aガールズの──────」
精
「お前のおかげだよ。切島が言いださなきゃ誰も助けに行かなかっただろ? そしたら俺は今ここにいなかったかもしれない。1-Aガールズとイチャイチャすることも、エリちゃんを助けることも出来なかったんだ」
俺救出作戦の発端は切島が百ちゃんや梅雨ちゃんに話をした事だ。それをきっかけに動ける1-Aガールズが動いて俺を助けてくれた。助けてくれたのは1-Aガールズかもしれないが、その1-Aガールズを動かしたのは紛れもなく切島だ。
切島
「…………俺はルールを破ったんだぜ?」
精
「ルールを守っていたら助けられなかったんだ」
切島
「…………1-Aガールズを危険に巻き込みもしたのにか?」
精
「無理矢理じゃなくて合意の上だろ? だったら問題ない」
切島
「…………もしかしたらあの場で──────」
精
「うだうだ言ってんじゃねえよ漢らしくねえだろ」
あまりにもらしからぬ発言だったので叩き切った。切島は面を喰らった様に驚いている。
精
「お前はお前の『やりたいようにやって』俺を助けられただろ? だったらそれでいいだろ。それともルールだからと見捨てるのが漢らしいとでも言いたいのか?」
切島
「そ、そんなわけねえ……! わけ、ねえけど……」
精
「この世界のヒーローとしてどうなのかは知らないが、俺の中では切島は立派なヒーローだし漢だよ。命を賭けて、助けたい人を助けて、称賛されど批判される筋合いはどこにもない。切島を"ルール破りの敵だ"なんて言う奴がいたら……俺がそいつの口を二度と開けないようにしてやる」
切島
「み、緑谷……」
誰かを助けるためなら、時には手段も問わず、しかし必ず助ける。今なお家族と一緒に見る、テレビの中のヒーローそのものだ。
精
「だから……自信もって胸張って言え。『俺は友達を助けたことがあるヒーローだ』ってな」
切島
「……インターンであんなにヤバそうだったお前に励まされる日が来るとはな」
にっと笑いながら切島と熱い握手を堅く交わす。がっちりとゴツく、頼りになる漢の手だ。
精
「お前は漢らしくツッパっていくのがらしいよ」
切島
「ああ! すっきりしたぜ! サンキューな、緑谷!」
精
「今後ともご贔屓に……じゃあな、きりたん」
また別の平日の午後9時、俺はある男子の部屋をノックする。
精
「砂藤シェフー? おるかー?」
砂藤シェフの部屋をノックして呼び出す。シンプルな無地のTシャツを着た砂藤シェフが出てきた。
砂藤
「おお、緑谷じゃねえか。どうしたんだ?」
精
「いい感じの新作ができたんだ。試食会に付き合ってくれないか?」
砂藤
「もちろんいいぜ。丁度ガトーショコラが冷えてるんだ、食うか?」
精
「いいねえ。折角だし紅茶入れてやるよ。茶葉持ってくるわ」
砂藤
「紅茶も淹れられるのか。ありがたく頂くとするぜ」
シェフの部屋にはハンドミキサーやオーブンといった製菓器具が揃っている。
精
「早速ポット借りるぜ。紅茶は濃い目、温度は高温、砂糖は入れない────」
砂藤
「────なんだその呪文?」
精
「スイーツ食べる時の紅茶の淹れ方だ。油や甘みをしっかりと流してくれる紅茶が良いだろ?」
故郷の後輩から教えてもらった紅茶の淹れ方だ。ココアだけでは芸がないと教えてもらったが、こんなところで活躍するとは思わなかった。いい感じに紅茶が入ったので俺の新作を披露する。
精
「お待たせしたな。『クリームパイコルネ~クリーム一杯夢一杯仕立て~』だ」
生クリームがパイ生地に筒状にくるりとくるまれ、まるで『自主規制』*2に注がれた『自主規制』*3のようだ。早速二人で食べる。
砂藤
「おお、パイ生地にバターと塩味が結構効いてるな! そこから来る生クリームの甘さと濃さがたまらないな!」
精
「パイ生地から手作りしたんでな。シェフに披露するから本気になって作ったぜ」
砂藤
「これを濃い目の紅茶と合わせると……くーっ! たまらねえな! 調子に乗って何本も食っちまいそうだぜ!」
精
「ガールズにも振舞おうと思ったが……カロリーがえぐいから止めたぜ」
砂藤
「だろうな……俺もよく作るから分かるが、そりゃ美味くなるわってぐらい砂糖と油入るからな……」
お菓子をおいしく食べるコツは原材料とカロリーを見ないことだ。途端に甘くない現実が襲い掛かって来る。
砂藤
「んじゃ、今度は俺の番だな! ガトーショコラだ! かなりうまくできたと思うぜ!」
シンプルな白い小皿に乗り、美しい扇形に切られ、粉砂糖の化粧を纏ったそれは、もはや芸術品と言ってもめちゃ過言ではなかった。
砂藤
「生クリームいるか?」
精
「シェフとしては有りと無しのどちらを完成形とする?」
砂藤
「俺としては無しの方が良いな。ビターに仕上げてカカオの香りを楽しむように作ったからな」
ならそのまま頂こう。フォークで一口大に切って口に運ぶ。しっとりと滑らかな生地から、濃厚で芳醇なカカオの香りがぶわっと広がる。甘さは抑えられているが、心地よくカカオを楽しめるすっきりとした甘さになっている──────完敗だ。俺はガトーショコラは甘くてクリームが乗っているのが至高だと思っていたが、このガトーショコラに分からされた。
精
「────参りました」
砂藤
「勝負してたつもりはねえが……お前から認められるとなんかうれしいな」
精
「やっぱシェフには勝てねえな……俺も長年料理してきたつもりだが、上には上がいるもんだな……」
砂藤
「俺は"個性"を使うためによく作っていたからな。緑谷は家族のために料理してたのか?」
精
「まあ、そんなところだな。美味い飯は人を幸せにしてくれるからな」
実際の所は礼があまり料理上手ではないから、俺が台所に立っているというのが大きい。それでも、俺の料理で礼やセレンやレイラが笑顔になるのはとても嬉しい。作り甲斐があるというものだ。
砂藤
「だろうな。お前の料理には心が籠っている。料理は分量や調理法が全てだって言ったらそりゃそうかもしれねえけどよ、やっぱり心が籠った料理っていうのは分かるもんだよな」
流石シェフだ。レシピ通りに作っても、なあなあの気持ちで作るのと誰かのために作るのでは大きく差が出る。まごころは最高の調味料とまで言うつもりはないが、少なくとも入っていて欲しいものではある。
精
「ガトーショコラのレシピ教えてくれよ。帰ったら家族に振舞ってやりてえ」
砂藤
「ああいいぜ。お前のパイコルネのレシピも教えてくれよな」
精
「となると……今度の合作はショコラパイコルネか?」
砂藤
「おっ、いいなそれ! 今度一緒に考えようぜ! お前とならいいスイーツが作れそうだぜ!」
精
「今後ともご贔屓に……じゃあな、砂藤シェフ」
日記帳を閉じて思い耽る。
精
「色々あったなあ……エレウェイの学力は少しマシになったかな? きりたんに振舞うステーキは何が良いかな? 砂藤シェフとの合作の披露は何時になるかな?」
この日記帳の中身ももっと面白くなっていくだろう。俺の青春はまだまだ続いていく。