抜きゲーみたいな島に住んでいた狂犬はヒロアカ主人公に憑依したらどうすればいいんだ? 作:神剣狩刃
俺はいつかこの世界からいなくなる。だから俺が居た証として日記をつけている。大事件を書き記すのも大切だが、何気ない日常も書き記すべきだろう。これまでにあった日常をページをめくりながら思い出す。
今日は日曜日。神様は休むかもしれないが俺は休んでいられない。なにせ、今日は梅雨ちゃんと一緒にいる日だからだ。AM6:30、朝ごはんの仕込みが終わったので梅雨ちゃんを起こしにいく。
精
「梅雨ちゃーん。朝ご飯の時間ですよー? 越冬のための栄養はしっかり摂らないとダメですよー?」
ドアをノックするとほぼ目の開いてない梅雨ちゃんが現れた。
梅雨ちゃん
「大丈夫よ出久ちゃん……寒くなると眠くなっちゃうけど、冬眠はしないわ……」
精
「そんな梅雨ちゃんを温める栄養満点の朝ご飯を作ったんだ。期待していいよ」
それは楽しみねと梅雨ちゃんは身支度のために部屋に戻っていった。その間に共有スペースの鍋で仕込んでおいたスープを温める。前日から仕込んだおかげで野菜も肉もスープがしみしみでホロホロに仕上がっている。完璧に仕上げたのだから完璧な温度で提供したい。梅雨ちゃんは蛙肌だからお手入れにも時間がかかるだろう。じっくりコトコト温めていく。
精
「かえるぱこぱこみぱこぱこ、あわせてぱこぱこむぱこぱこ……よし、今日も滑舌は絶好調だな」
梅雨ちゃん
「全く言えてないわよ」
想定通りに梅雨ちゃんがきた。髪も服もきっちり整っており、万全の状態のようだ。
精
「いやいや、言えてたって。かえるぴゃこぴゃこ……ああ……ダメだ……」
梅雨ちゃん
「かえるぴょこぴょこみぴょこぴょこ、あわせてぴょこぴょこむぴょこぴょこ……どうかしら?」
流石の舌使いだ。きっと舌でサクランボを蝶々結びに出来るだろう。そうしている間にスープが温まった。鍋から皿に移し梅雨ちゃんの前に置く。
精
「お待たせしました。『参鶏湯~
梅雨ちゃん
「ケロケロ……舌の調子は良くなくても料理の調子はよさそうね……いただきます」
梅雨ちゃんがフーフーしながらスープを口にする。舌の上で転がしてしっかり味わっているようだ。
梅雨ちゃん
「鶏の淡白ながらも濃厚なうま味がしっかり出てるわ。なのににおいが気にならなくて飲みやすいわ」
精
「きっちり灰汁を取って、香味野菜と一緒に煮込んだからね。ポカポカしてくるでしょ?」
梅雨ちゃん
「野菜もお肉も最高においしいわ。さらに冷たい烏龍茶のおかげで口の中がスッキリして……いくらでも飲めちゃいそうだわ」
精
「やっぱり烏龍茶は濃い目だよね。はい、梅雨ちゃん、あーん」
梅雨ちゃんからスプーンを貸してもらってあーんをする。梅雨ちゃんは嬉しそうにケロリとスプーンを咥えた。嬉しそうにケロケロと喜んでいる。とってもかわいい。
精
「ところでカロリー聞きたい?」
梅雨ちゃん
「カロリーも気になるけれど、レシピが知りたいわね。ぜひとも家族に振舞いたいわ」
精
「それじゃあ後でスマホに送っておくよ。あくまで俺の到着点だから、梅雨ちゃん流にアレンジしていいよ」
梅雨ちゃん
「いつか出久ちゃんを家族に紹介したいわね」
おっと?
朝ご飯も終わって二人で梅雨ちゃんの部屋で何しようかという流れになる。加湿器と暖房がフル稼働している質素な部屋だが、度々俺が入って掃除の指導をしているためカビ一つない。
精
「相変わらず綺麗にしているね。感心感心」
梅雨ちゃん
「出久ちゃんは家事全般が得意だから、色々教えてもらって助かるわ」
精
「そういや梅雨ちゃんって結構な大家族だっけ」
いつだか写真と共に名前を紹介してもらったが咄嗟に思い出せない。ベータさんにチャイムさんに時雨くんにメイちゃんだったっけ。
梅雨ちゃん
「微妙にずれているわね。
精
「……部分点もらえるかな?」
梅雨ちゃん
「私の大切な家族だから厳しく採点するわ」
精
「こんなの絶対おかしいよ、とは言えないね。俺も故郷では二児の父だからなあ」
セイとレイとセレンとレイラ、下手すれば梅雨ちゃん一家以上に間違えそうな名前だ。いつだか故郷の友達がセイレーンとレインと間違えたこともあった。
梅雨ちゃん
「出久ちゃんの子供はどんな子なのかしら?」
精
「セレンは優しくてしっかりした真面目な子だよ。何だったら俺やマイスイートハニーよりしっかりしている。ただレイラは……オブラートに包んでやんちゃだ。悪気はないのは分かっているが、如何せん力が強すぎる。こないだなんかテレビ見て興奮した際にステンレスのタンブラー握りつぶしたからな……」
梅雨ちゃん
「……正直、驚きよりも納得が先に来てしまったわ。出久ちゃんも興奮するととんでもない事しでかしそうだもの」
ご名答だ。俺が本気で興奮すると24時間は性交し続けることができる。もっとも相手が持つかはどうかは考えないものとするが。
精
「何にせよ名前を間違えたのはよくない。お詫びに梅雨ちゃんの絵を描いてあげるよ」
梅雨ちゃん
「それは嬉しいわね。出久ちゃんの部屋で気になる本があったから、モデルになるついでにお邪魔していいかしら?」
ということで俺の部屋に案内する。
梅雨ちゃん
「甘くていい匂いがするわね」
精
「ところで気になる本ってなあに?」
梅雨ちゃん
「確かこの辺り……あったわ」
梅雨ちゃんは何のためらいなくBL本を手に取った。マイトに女性プロヒーローものの成人向け同人誌を買ってもらった際の安いオマケだ。
梅雨ちゃん
「ケロケロ……やっぱりBLは美しくていいわね……学生同士の青春モノに限るわ」
精
「いい趣味をお持ちで……ちなみにナマモノイケる?」
梅雨ちゃん
「イケるわ」
精
「1-Aでの推しカップリングは?」
梅雨ちゃん
「悩ましいわね……ここは王道の出久ちゃん×爆豪ちゃんね」
精
「爆豪が受けなのは分かってるね。ああいうオラオラ系は受けに回して分からせるに限る。俺の推しカプは轟×爆豪だ。あの天然イケメンは攻めに回ったら高火力だと思う」
梅雨ちゃん
「……いつかその本描いてくれるかしら?」
精
「こんじきわんこ先生の次回作が決まったな」
梅雨ちゃんと同志としての固い握手を交わす。その熱意を携えPCを起動し梅雨ちゃんの絵を描いていく。
梅雨ちゃん
「ラフの段階でもポージングが崩れてなくていいわね。作家としての出久ちゃんの腕が見えるわ」
精
「一枚絵だったら凝って描かないといけないからね。それでも見返してこうすればよかったな、ってのはよくあることで……」
言い方から察するに梅雨ちゃんも趣味で書いているのだろうか。マイナーカプの本がない時は自給自作するしかないからあり得そうだ。
精
「蛙と言ったらあの一句が思い浮かぶから────」
梅雨ちゃん
「ケロケロ、それだとありきたりな構図になっちゃうわよ?」
梅雨ちゃんが俺のアーティストとしての心に煽りを入れてきた。確かに『梅雨ちゃん イラスト』とかで検索すれば、間違いなく似たような絵が出てくることだろう。そんなのこんじきわんこ先生が許さない。マジになって描く。
精
「ふー……久方ぶりに本気を出しちゃったぜ……」
梅雨ちゃん
「見せてもらってもいいかしら? ……ケロケロ、これは良い画ね」
制服姿の梅雨ちゃんが雨降る薔薇園の中で立っているイラストだ。あの特徴的な長い髪が映えるように振り返ってこちらを見ている構図で、情熱的な赤い薔薇と、冷たく降る碧い雨と、梅雨ちゃんの凛とした静かな緑が対照的だ。
精
「名付けて『薔薇園や 蛙吹沁み込む 水の音』って所かな。梅雨ちゃんのケータイに送るからメアド教えて」
梅雨ちゃん
「もちろんよ。待ち受けにするわ」
精
「ところで裸差分いる?」
梅雨ちゃん
「いらないわ」
はい。
夕食を終え、再び梅雨ちゃんの部屋に行く。夜になって男女が1つの部屋に2人、何が起きてもおかしくない。
精
「ぶっちゃけ梅雨ちゃんは俺とどこまでの関係を期待している?」
梅雨ちゃん
「悩ましい質問ね……正直言って、私は今の出久ちゃんが大好きよ。でも、いつか別れちゃうって考えると……深い関係になるのは止めた方がよさそうね」
精
「結構冷静に判断するね。まあ、身も蓋も無い言い方になるけど、身体の関係以上は無理だからね」
梅雨ちゃん
「本当に身も蓋も無いわね。でも、その通りなのよね……お茶子ちゃんとはどこまでの関係なのかしら?」
精
「口の関係までかな、お互いそれ以上は求めないって割り切った」
梅雨ちゃんはケロケロゲコゲコ悩んでいる。お茶子ちゃんとの友情も考えているのだろう。友達と同時に同じ男を好きになる、その心境や悩みや辛さは計り知れない。幾分か経って梅雨ちゃんは覚悟を決めた顔をした。
梅雨ちゃん
「……私もキスまでにするわ」
精
「参考までにだけど……お茶子ちゃんからは迫られたら『やりたいようにやっていい』って言われたよ」
梅雨ちゃん
「だとしてもよ。今、蛙吹梅雨という一人の女として、出久ちゃんを愛せる限界がそこなのよ」
俺を助けに来る際にどんな罰も受けると覚悟した梅雨ちゃんがこう言っているのだ。その心の内を探るのは無粋で失礼で、何より梅雨ちゃんを侮辱する行為だ。
精
「……俺は梅雨ちゃんを尊重するよ。でも、他の子が迫ってきたらどうする?」
梅雨ちゃん
「そこは出久ちゃんの『やりたいようにやれ』で構わないわ。出久ちゃんに制約を課す権利なんて私にはないわ」
なんとも梅雨ちゃんらしいきっぱりとした断言だ。1-Aで一番芯が通っているかもしれない。
精
「……ありがとう、梅雨ちゃん」
俺は梅雨ちゃんを優しく抱きしめ、頭を撫でる。しっとりとした髪で────
梅雨ちゃん
「ただし、私はものすごく激しいキスをするわよ?」
口の中に何かがすごい勢いで入って来る。梅雨ちゃんの舌だ。蛙のように長く伸びるからこういうキスができるのか。ディープキスは『口の中を犯される』なんて表現されるが、これに比べたら口の中を撫でられているようなものだ。そのまま唇を重ねられ、両耳を塞がれる。温かな筋肉の鞭が口内を蹂躙し、その音が何処にも逃げることなく脳に響き渡る。
梅雨ちゃん
「ぷはぁ……本で見た時からやってみたかったけれど……これは癖になっちゃいそうね」
拘束を解いた梅雨ちゃんが妖しく笑う。知識が豊富な人間に力を与えてはいけない。その最たる例が目の前にいる蛙吹梅雨という女だろう。
梅雨ちゃん
「他の子と満足なキスができなかったら、いつでもしてあげるわ」
精
「…………これは他の1-Aガールズには死んでも言えねえな」
この後、俺は自室に戻って梅雨ちゃんとのキスを思い出しながらむびゅるびゅるした。あのキスのテクニックを覚えてマイスイートハニーに試してみるか。
日記帳を閉じて思い耽る。
精
「……まさかのダークホースならぬダークフロッグだったな。俺はなんとか耐えられたが、ナードな緑谷だったらキスだけで射精するんじゃねえか? 梅雨ちゃん選んだら……他の女に色目使った瞬間舌ねじ込まれるな。それで人前でキスだけで射精したら……想像するだけでも恐ろしいね。緑谷には梅雨ちゃんを選ぶようにオススメしておくか」
この日記帳の中身ももっと面白くなっていくだろう。俺の青春はまだまだ続いていく。
この作品で梅雨ちゃんが腐女子なのは中の人ネタです。改めて梅雨ちゃんファンの方、申し訳ありませんでした。