抜きゲーみたいな島に住んでいた狂犬はヒロアカ主人公に憑依したらどうすればいいんだ? 作:神剣狩刃
俺はいつかこの世界からいなくなる。だから俺が居た証として日記をつけている。大事件を書き記すのも大切だが、何気ない日常も書き記すべきだろう。これまでにあった日常をページをめくりながら思い出す。
今日は日曜日。俺の休日は一杯のココアから始まる。ココアをじっくりと、甘く、濃く、香り豊かに練る。出来上がったココアは、昇りゆく朝焼けを眺め、お気に入りの『The Entertainer』をバイオリンで優雅に引き、紫のネグリジェを着た百ちゃんがおいしそうに頂く。
百ちゃん
「ココアもバイオリンもお上手ですわね……出久さんは優雅な一面もお持ちなのですね」
精
「ビシャーコック、ン゛ン゛ッン゛、シャーロック・ホームズに憧れてバイオリンを嗜んでいてね。ところでこのバイオリンは結構な品なんじゃないの?」
百ちゃん
「流石にストラディバリウス*1程ではありませんが、数百万円程の品だったと思います」
数値を聞いた驚きから若干手元が狂い、甲高い不快な音が出てしまう。
精
「……この音色が出るならそれぐらいの値段も頷けるね。でも、一度ぐらいはストラディバリウス弾いてみたいな……」
百ちゃん
「確か我が家に3挺程ありましたのでよろしければ貸し出しましょうか?」
精
「……言っておいてあれだけどご遠慮しておくよ。数百万と聞いて震えるような奴が数億単位のもの持ったら、まともに演奏できないよ」
一杯が終わったので百ちゃんの身支度を手伝う。薄いピンクのセーターに白いズボンのおしとやかオフスタイル百ちゃんが誕生する。一緒に共有スペースにおりて朝ご飯の準備をする。具材を冷蔵庫から取り出し、丼にお湯を入れ、前日に作っておいた出汁を温め、麺を茹でる。温まった丼にかえしをいれ、熱々になった出汁を入れ、硬めに茹でた麺を入れる。チャーシューを惜し気もなく縁に並べ、メンマとナルトと海苔とネギを添えたら完成だ。
精
「お待たせしました。『チャーシュー麺~昔ながらの醤油ラーメン仕立て~』です。飲み物は普通の天然水です」
百ちゃん
「まあ、朝からラーメンは初体験ですわ……いただきます」
百ちゃんが優雅にズルズルと麺を啜る。
百ちゃん
「モチモチのちぢれた細麺に醬油ベースのスープがしっかり絡んできますわ」
精
「異論は認めるけど、醬油ラーメンには高加水率の細麺だよね」
百ちゃん
「スープはあっさりで優しく、チャーシューは濃厚、具によって味が変化していって、最後まで飽きが来ないですわね。これには余計な味のついていないお冷が合いますわね」
精
「実の所はお茶のパックを切らしただけだったりするんだけどね。はい、百ちゃん、あーん」
百ちゃんからレンゲを貸してもらってあーんをする。百ちゃんは目を輝かせながらレンゲを頬張る。嬉しそうにプリプリと喜んでいる。とってもかわいい。
精
「ところでカロリー聞きたい?」
百ちゃん
「チャーシューに豚バラを使っている所から考えて……一般的な醬油ラーメンよりは高めと考えていいでしょう」
精
「ああ、百ちゃんは"創造"でエネルギーを使うからカロリーに忌避感がないのか」
百ちゃん
「そうですわね。他の女子の皆様からも羨ましいと言われますわね」
俺も羨ましい。
朝ご飯も終わって二人で百ちゃんの部屋で何をしようかという流れになる。豪華絢爛に家具が所狭しと並ぶお嬢様部屋だ。2人でベッドに腰掛けるしかない。
精
「うおっ、めっちゃフカフカ……寝転んでもいい?」
百ちゃん
「もちろんですわ。ぜひとも堪能してください」
お言葉に甘えて横になる。むゆんと柔らかく体が沈む。礼の膝枕とかおっぱいとかに似た温かな心地よさを覚える。
精
「あー……これはよくないわ……これで寝たら俺のベッドじゃ寝れなくなっちまう……」
百ちゃん
「よろしければ差し上げましょうか? そろそろ買い替えの時なので」
精
「これを定期的に買い替えていたらベッドで破産しちゃうよ……百ちゃんと一緒の時の楽しみにするよ……」
何とか起き上がり百ちゃんの本棚を眺める。図鑑とか物質の構成とか、俺だったら一生読まないようなお堅い本ばかり並んでいる。
精
「百ちゃんは武器を使って戦うスタイルだよね。俺は特殊戦闘部出身だから武器の扱いには多少の知識があるんだ。折角だし何か教えてあげようか?」
百ちゃん
「では、意表を突いた武器の作り方を教えて欲しいですわ。心理的な死角から攻めることが出来れば優位に立つことが出来ますから」
意表を突く武器といえば俺の六文銭だろう。俺の場合は隠し持つ必要があるが、百ちゃんだったら瞬間的に創造するだけでいい。様々なモーションから六文銭を出せるよと百ちゃんにご指導する。
百ちゃん
「なるほど……"個性"に制限をかけた戦闘においては、出久さんが雄英で一番かもしれませんね」
精
「現実じゃ"個性"バリバリ使うだろうけどね。他にも聞きたいことある?」
百ちゃん
「出久さんの故郷での武器を教えて欲しいですわ。文化や環境が違えば武器も違ってくるはずです」
俺の部隊の目的はあくまで治安維持で、殺傷力が高い武器はほとんどない。それでも、俺が苦戦した武器は簡単に思い出せる。俺よりも賢しく口喧嘩が強い俺の友達の武器だ。
精
「故郷の友達から武器について聞いておけばよかったな……ダイラタンシー*2なのは覚えているんだけど、肝心の素材の分子式覚えてないや……思い返せばアイツの作る武器には散々手を焼いたなあ……アイディアの発想力とそれを可能にする技術だけなら俺より上だな」
百ちゃん
「出久さんのご友人は武器への造詣があるのですか? 具体的にはどのような武器をお使いになるのですか?」
それはと言い出したところで口が止まる。これは言っていいのか? オナホとかディルドとかバイブだぞ? 百ちゃんに言って伝わるか? 伝わるような言葉を選ばないと。
精
「……アダルトグッズかな」
百ちゃん
「あだると……ぐっず……?」
百ちゃんは目をぱちぱちしている。その年と見た目でアダルトグッズも知らないとなると少々不安な所がある。手短にエッチな道具だよと教えると顔を真っ赤にした。
百ちゃん
「ま、まあ、戦い方は人それぞれですから…………もしかして出久さんの女性への積極性はご友人の影響なのでしょうか?」
確かにアダルトグッズで戦う奴がいたら変態だと思うだろう。その影響で俺が女の子へ積極的になった、と考えるのはおかしくない。シャーロック・ホームズだってそう思うだろう。でも、それは事実ではないので訂正する。
精
「いや、女の子好きなのは故郷の影響だよ。というか、口先だけで済んでる俺は故郷でもだいぶまともな方だよ」
百ちゃん
「ええ……」
結構マジ目にドン引きされる。どんな所に生まれてくればここまで女性を恐れることなく、しかも際限なく関わろうとするのか想像もつかないのだろう。だが、事実は小説よりも奇なりで、普通の青藍島生まれの奴は男女の距離感がバグっている。ある程度ゾーニングと教育が行われてまともな奴が多くなったとはいえ、ゼロ距離どころか挿入が前提の分マイナスの距離感が普通と言っていいだろう。
精
「まあ、ちょっと強く言えば節操を保つ分優良物件だと思わない?」
百ちゃん
「普通の方は何も言わなくとも気安く女性に言い寄ったりしないと思うのですが」
それもそうか。
精
「さて、このベッドだけで一日過ごすのはもったいない。百ちゃんの絵を描かせてよ」
百ちゃん
「以前シュルレアリスムで私を描いたと聞きましたが、今度はどのような画法で書いてくれるのでしょうか?」
精
「今回は普通に描くよ。あれは実への警告みたいなものだし」
ということで俺の部屋に案内する。
百ちゃん
「バニラとココアのいい香りがしますわね」
精
「さっすが百ちゃん。今度はチューベローズの香りにしようと思っているんだけど、どう思う?」
百ちゃん
「
ボロが出る前に部屋にA4サイズのキャンバスを立てる。さて、どんな構図で描こうかな? 百ちゃんはモデルとしては一級品と言っていい。例えブリッジして駆けまわっていても絵になってしまうだろう。勿論、オフィーリアの絵画ように横になっても、それだけで作品になりうる。最高の素材を前にシェフが悩む感覚と似ている。
精
「……よし、ここは百ちゃんにポーズを決めてもらおう。百ちゃんが一番いいと思うポーズをしてみて」
百ちゃん
「私が決めてよいのですか? それでは…………これでお願いします」
百ちゃんは体を左に傾け、右足を少し浮かせて左足に重心を寄せた。そして、右腕を力なく垂らし左手で俺に向けて指をさした。
百ちゃん
「これは出久さんがUSJで敵に向けて取ったポーズです。あの時の出久さんは学友を守るためその身を賭して戦いましたね。今までの出久さんの中で一番かっこよく見えました。ですので、このポーズで描いてもらいたいです」
精
「嬉しいこと言ってくれるね。それじゃあ、ちょっと全力で描かせてもらうよ」
画材用木炭を使って百ちゃんを描いていく。鉛筆では出ない黒白の濃淡が絵に味を出していく。時に指を使ってぼかしを入れ、ガーゼを使い線を削る。結構マジになってキャンバスと被写体に向き合う。
精
「ふー……アナログな描き方もたまにやると悪くないな……」
百ちゃん
「お疲れ様です。では、見せてもらいましょう……まあ、これは素晴らしい絵ですわね……」
百ちゃんがズタボロのコスチュームでこちらに向けて指をさしている絵画だ。足元にはいくつもの壊れた武器が散らばっていて、体のいたるところに傷や煤が付いており、それでも闘志を燃やした眼光をこちらに向けている。
精
「タイトル名は『Who is next?』だね。百ちゃんって血みどろになって戦うイメージがないけど、こういう戦いもかっこいいと思うんだよね」
百ちゃん
「絵だというのに今にも攻撃をしてきそうな迫力、命を賭して戦う人間の真剣さ……様々な修羅場を潜り抜けてきた出久さんならではの表現ですわね。大切に飾りますわ」
精
「裸差分が欲しかったらいつでも書いてあげるからね。何だったらR-18差分も────」
百ちゃん
「結構です」
はい。
夕食を終え、再び百ちゃんの部屋に行く。夜になって男女が1つの部屋に2人、何が起きてもおかしくない。
精
「ぶっちゃけ百ちゃんは俺とどこまでの関係を期待している?」
百ちゃん
「いつか別れてしまうということを考えますと……あまり踏み入った関係になるのはよろしくなさそうですね」
百ちゃんが残念そうに眉をひそめる。
精
「参考までにだけど、お茶子ちゃんと梅雨ちゃんはキスまでの関係だよ。俺はそれ以上の関係でも構わないけどね」
百ちゃん
「そ、それ以上の関係……そ、そういった事はお互いに責任を取れる年齢になってからにした方が……」
精
「そこは百ちゃん次第ってことにするとして……まあ、恋愛を学ぶいい機会だと割り切っちゃえばいいんじゃないかな」
百ちゃんは一般的な恋愛の教育を受けいてはいるだろうが、実戦経験がゼロだ。根っから真面目で純粋ないい子であるのは利点になるが、そこに付け込まれる可能性は大いにある。ならば俺を踏み台にして、将来の恋愛に生かした方が良いだろう。しかし、百ちゃんは不服だと言わんばかりにムッとしている。
百ちゃん
「出久さんとのお付き合いをただの勉強で済ませてしまうのは気が引けますわ。それに、私は本気で出久さんのことが好きですの」
精
「それは嬉しいけどね、俺にみたいな奴を好きになっちゃあダメだよ。もっとまじめで誠実で一途な人間を見つけるためにも、俺とのお付き合いはただの機会と────」
言い終わる前に百ちゃんに唇を奪われた。アップルティーのように甘くて華やかな香りがした。そして、拙いながらも俺を求めるように舌を動かしてきた。
百ちゃん
「……これでも、ただの機会にしろというつもりですか?」
恋する女の子がここまでの覚悟を見せてきたのだ。それをないがしろにするようじゃ男が廃るってものだ。俺はニヤリと笑って返す。
精
「……ただの機会で済ませておけばよかった、なんて後で言っちゃダメだからね」
今度は俺からキスをする。百ちゃんの両耳を塞ぎ、口の中を舌から出す黒鞭で蹂躙する。百ちゃんは目を白黒させながら俺を引き剥がそうとするが、百ちゃんの力では俺をくすぐる程度にしかならなかった。唾液の架け橋を垂らしながら百ちゃんに邪悪な笑みを向ける。
精
「……これ以上本気になっちゃってもいい?」
百ちゃん
「……こ、これ以上は私が耐えられなさそうですわ……しばらくは出久さんから学びたいです……」
この日は百ちゃんにキスのあれこれをレクチャーすることになった。
精
「ちなみに俺が本気を出したらキスだけで人を絶頂させられるから」
百ちゃん
「……嘘とは思えません。そのような人を本気にさせかけてしまうなんて……私はまだまだ経験が足りないようですわね」
精
「最初から恋愛経験がある奴なんていないさ。まずは俺からいろいろ学んで、そこから百ちゃんなりに組み立てていけばいいのさ」
お嬢様への教育というのは男なら誰でも一度は夢を見るシチュエーションだ。色々教えこんであげよう。
日記帳を閉じて思い耽る。
精
「……確か百ちゃんっていい所出のお嬢様だよな。お嬢様の初恋奪っておいて、恋愛のあれこれ叩き込んで、技術まで教えたら責任取らなきゃいけないんじゃないか? ……緑谷のために男側の技術をノートに書き留めておくか。それが出来れば婿入りしても問題なく夫婦生活を送れるだろうからな」
この日記帳の中身ももっと面白くなっていくだろう。俺の青春はまだまだ続いていく。