抜きゲーみたいな島に住んでいた狂犬はヒロアカ主人公に憑依したらどうすればいいんだ? 作:神剣狩刃
俺はいつかこの世界からいなくなる。だから俺が居た証として日記をつけている。大事件を書き記すのも大切だが、何気ない日常も書き記すべきだろう。これまでにあった日常をページをめくりながら思い出す。
今日は日曜日。神様は休むかもしれないが俺は休んでいられない。なにせ、今日は三奈ちゃんと一緒にいる日だからだ。AM6:30、朝ごはんの仕込みが終わったので三奈ちゃんを起こしにいく。
精
「三奈ちゃーん。朝ご飯の時間ですよー? 朝ご飯食べないと脳が回らないよー?」
ドアをノックするも何も反応がない。俺はスマホを取り出しウェイクアップコールをかける。数コールの後に出てくれた。
三奈ちゃん
『何よ出久……休日だからもっと寝させてよ……』
精
「んんっ、『芦戸、除籍だ』」
三奈ちゃん
「いつもの声マネでしょ……その手は通用しな────」
精
「『クレープ焼いたんだが食うか?』」
どっちゃんかっちゃんと部屋から音が響いて、ヒョウ柄のオフショルダーを着た三奈ちゃんが出てきた。
三奈ちゃん
「食べる食べるー! 早く行こ!」
精
「いい目覚めになったようで何よりだよ。んじゃ、行こうか」
三奈ちゃんはワックワクドッキドキのご機嫌な朝ご飯だ、と目を輝かせて涎を垂らしている。一緒に共有スペースにおりて朝ご飯の準備をする。冷やしておいたフルーツと生クリームを手作りのクレープ生地に並べ、くるくるくるりと綺麗に巻く。その上からパチパチする砂糖をトッピングする
精
「お待たせしました。『フルーツクレープ~弾けて混ざるフルーツ……ポンチ仕立て~』です」
三奈ちゃん
「すっごーい! お店ので売ってる奴みたい! いただきまーす!」
三奈ちゃんがクレープにぱっくりとかぶりつく。
三奈ちゃん
「クリーム一杯! フルーツ一杯! 口の中幸せ一杯! しかも弾けてパチパチなって面白い!」
精
「鬼に金棒、ギャルにクレープ……次はチョコバナナ作るつもりだけどまだ入る?」
三奈ちゃん
「全然入るよ! あと5個ぐらい入る!」
余裕そうなので次のクレープを作る。生地にココアホイップとバナナを並べ、チョコソースを気が済むまでかけまくる。今度も綺麗に巻いて、砕いたミックスナッツをトッピングして完成だ。
精
「お待たせしました。『チョコバナナクレープ~文字通りサンデー仕立て~です」
三奈ちゃん
「ココアホイップとバナナの相性ヤバ! チョコソースもいっぱいかかってて、ミックスナッツのアクセントもサイコー!」
精
「飲み物はミルクティーだよ。砂糖やタピオカは入ってないからね」
三奈ちゃん
「クレープが甘いからミルクティーは砂糖なしでちょうどいいかも。ところでクレープのおかわりは?」
精
「バカな奴一個作って良い?」
三奈ちゃんが残像ができるぐらい頷くので作ってみよう。生地に満遍なくホイップを塗りたくり、その上から生地をかぶせてカスタードクリームを塗りたくる。それを何度か繰り返してから巻く。
精
「お待たせしました。『ダブルクリームクレープ~なんちゃってミルクレープ仕立て~』です」
三奈ちゃん
「二つのクリームと生地が組み合わさって……くっー! 出久ならではって感じの頭悪い味する! めっちゃ好き!」
あれよあれよという間にクレープが無くなっていった。
精
「おかわり要る?」
三奈ちゃん
「さ、流石にもういいや……急にお腹いっぱいになっちゃった……」
精
「胃の容量よりも血糖値の限界が来たっぽいね。今の三つだけでカロリーは」
三奈ちゃん
「それ以上言わないで。乙女がスイーツを楽しむ時は現実を持ち出しちゃいけないの」
そうなんだ。
朝ご飯も終わって二人で三奈ちゃんの部屋で何しようかというながれになる。しっかり飾られたガーリーな部屋で、ギャル好きの俺としてはワクワクが止まらない。
精
「うーん、
三奈ちゃん
「楽園て。ヤオモモの部屋の方が楽園じゃない?」
精
「百ちゃんの部屋はあれだよ。特に何かしたわけじゃないけど、ちょっと気が張るんだ」
三奈ちゃん
「わかるー。良い部屋だけど、敷居が高いよねー」
精
「『芦戸、その使い方は誤用だ。敷居が高いは"不義理や面目ないことがあって行きにくい"という意味であって、"高級すぎる、上品すぎる、または難易度が高すぎて入りにくい"という意味ではない』」
三奈ちゃん
「毎回思うけど、出久って頭いいよね。なんか特別なことしてるの?」
毎朝のトレーニングと毎晩2回以上のオナニー以外は特にしていない。しいて言えば、俺自身がイカレた努力家であるということぐらいだ。
精
「日々の努力の積み重ねかな。故郷じゃ結構な役職就いてるし、家庭でもいいお父さんでいる様にしているからね」
三奈ちゃん
「結局努力かー……体動かすのは好きだけど、勉強はどうもなー……」
精
「だったら体動かしながら勉強すればいいんじゃない?」
三奈ちゃん
「へ?」
ただ座っているよりも軽く運動しながら勉強した方が、記憶力や集中力が向上すると何かで読んだことがある。
精
「例えばボックスステップしながら単語を覚えるとか、ムーンウォークしながら公式を唱えるとか……」
三奈ちゃん
「出久はそれで何覚えたの?」
精
「百聞は一見に如かず、やってみせるよ」
俺はすっくと立ちあがって軽快にボックスステップを刻む。
精
「
三奈ちゃん
「すごいけど……何それ? 寿限無的なヤツ?」
これは四十八手*1を五十音順に並べたものである。青藍島では体位の絵を見て名称を答えるテストがあるため、俺はこれらを全てボックスステップで覚えた。おかげさまで俺はまともにボックスステップを刻めない。
精
「……
三奈ちゃん
「よく分かんないけど、効果あるってことだ。今度やってみよ」
三奈ちゃんのモチベーション向上になったのなら何よりだ。
精
「ボックスステップの練習がてら、絵のモデルになってくれない?」
三奈ちゃん
「踊ってる姿描いてくれるの? お願いしちゃおうかな♪」
ということで俺の部屋に案内する。
三奈ちゃん
「甘ッ!? え、なんでこんないい匂いなの!?」
精
「アロマ炊いてるからかな。良ければいくつかお裾分けしようか?」
三奈ちゃん
「こんな甘い匂いずっと嗅いでたらお腹空いちゃうから……」
女子を必要以上に誘惑するのはよくない。アロマの件は置いておいてPCを起動する。
三奈ちゃん
「ねえねえ、どんなダンスのポーズが良い? どんなダンスでもできるよー?」
精
「それじゃあドスケ……ブレイクダンスの……あの三転倒立みたいなポーズで止まるかっこいいヤツ」
三奈ちゃん
「それじゃあボックスステップから……ブレイキンブレイキン……! ほい、フリーズ!」
軽やかで柔軟な回転から両手で逆立ちし、顔を横に傾け、両足を曲げた状態で空中に止めた。躍動感のある理想のポーズであった。
精
「ありがとう。つまりポージングはこうで……躍動感のためにこの辺はややブレるように描いて……」
三奈ちゃん
「早っ!? もう下書き出来ちゃったじゃん!?」
精
「こっからレイヤー分けて色塗ったり背景描くから時間かかるよ。ポーズ解いてマンガ読んでていいよ」
三奈ちゃん
「どうせエッチな漫画しかないんでしょ? ……まあ、出久をからかうためにちょっと勉強しておきますか」
三奈ちゃんの期待を裏切る様で申し訳ないが、BL以外のエッチな本はクローゼットの中だ。それ以外はヒーロー情報雑誌や"個性"辞典、緑谷のための技術戦術まとめノートぐらいしかない。
三奈ちゃん
「うへぇ……出久こんなエグイ戦法考えてるの? 間違ってもアタシに使わないでよ?」
精
「大丈夫。俺が三奈ちゃんだったらそれの数倍エグイ戦法考えているから」
酸なんていくらでも使いようがある。目に当てればそれだけで失明で、皮膚に当てれば炎症や溶解で、コスチュームに当てれば夢の服だけ溶けるシチュだ。拷問にも性行為にも使える。
三奈ちゃん
「……出久が敵にならなくてホントよかったよ。攫われて万が一にでも敵になったら……」
精
「現にこうやって三奈ちゃんとイチャイチャしてるからその話はめーですよ」
三奈ちゃん
「……だよね。アタシらしくなかった。よーし、一つ応援のダンスでもしますか!」
三奈ちゃんの演舞を背中で感じながら絵を描いていく。ブンブンビュンと動きの音がインスピレーションを与えてくれる。ポージングだけでは見えてこなかった風景が浮かびあがる。
精
「よし描けた。どうかな三奈ちゃん」
三奈ちゃん
「おっ、それじゃあお手並み拝見……うひゃー! こりゃまた力作だねぇ!」
ボディコンを着てフリーズしている三奈ちゃんに、カラフルな蛍光色のライトが当たっている絵だ。躍動感の演出に粘性の高い酸を動きに合わせて変形させ、酸を通った際の光の屈折によってより派手派手しく光が舞っている。
精
「名付けて『ダンスナイトクイーン』かな。エイリアンクイーン*2のクイーン要素とダンスを結び付けたらこうなったんだよね」
三奈ちゃん
「今にも動き出しそう! ……でも、ボディラインの凹凸が激しすぎないか~?」
精
「三奈ちゃんの身体は健康的だからね。それを表現しないなんて失礼だよ」
三奈ちゃん
「そんなこと言っちゃって~♪ どうせ裸差分もあるんだろ~?」
精
「うん。欲しい?」
三奈ちゃん
「いらない」
はい。
夕食を終え、再び三奈ちゃんの部屋に行く。夜になって男女が1つの部屋に2人、何が起きてもおかしくない。
精
「ぶっちゃけ三奈ちゃんは俺とどこまでの関係を期待している?」
その質問を聞いて三奈ちゃんは明らかに目線を逸らして頭を片手で掻いた。
三奈
「あー……それなんだけど……キスまでにしてくんない?」
三奈ちゃんから言われたらどんな関係でも構わないが、明らかになりかありますといった感じだから気になる。
精
「……俺以外に好きな人がいるんだ」
三奈ちゃん
「ギョ」
目を大きく開いて汗が引き出てきて、絵にかいたような図星だ。誰かが好きなのかと詮索するのはよくないが、思い当たる人物がいたので聞いてみる。
精
「切島でしょ?」
三奈ちゃん
「ギョギョ」
汗に粘度が増してきて、ド級の図星のド図星のようだ。俺救出の際、切島は三奈ちゃんを止めようとしていた。そして切島の髪型の角っぽいやつは三奈ちゃんに似ている。そこから切島と三奈ちゃんは、俺を知る前からそれなりの関係であると推測できる。
精
「歯に衣着せぬ言い方をすれば……俺を恋愛経験値にしたい、って所かな?」
三奈ちゃん
「……やっぱ出久って鋭いね。アタシのサイテーな考えも見抜いちゃうんだからさ」
精
「六股している俺に比べればかなりマシだと思うよ。俺の故郷へ性行為の経験を積むためにだけに来た人なんて、うんざりするほど見てきたからね。それに本当に好きな人と将来を見据えてって思いで経験をしておくのは素敵なことだよ。処女が童貞を気持ちよくできるなんてエロ漫画やAVの中だけさ」
三奈ちゃん
「……ふふっ、言い方サイアク過ぎでしょ。でも、ありがと出久。おかげで出久と心置きなく付き合えるよ」
三奈ちゃんは見た目や言動こそギャルギャルしいが、中身はしっかり純情な乙女だ。それを尊重して傷つけないようにするのが俺のやるべきことだ。
精
「それじゃあ……出久先生による恋愛講座から始める?」
三奈ちゃん
「……お願い、出久。アタシに恋を教えて」
そこからは恋愛の手筈を教えていった。いきなり想いを伝えるのは幾らなんでもイチかバチか過ぎる、しっかり良い雰囲気を作ってから告白する、無理せず手を繋ぐところから始める、キスやセックスをしなくても恋はしっかり進む、相応の関係になってから行為を始める、など故郷でやった一般的な情操教育を施していく。
三奈ちゃん
「……何でこんな真面目に教えられるのに女子に色目使うかなぁ……」
精
「俺が真面目になったら高嶺の花になるでしょ? だから、親しみやすいように女好きな三枚目的側面を見せるのさ」
三奈ちゃん
「それっぽいコト言っちゃって。側面じゃなくて本音でしょ」
精
「んふふ、それはどうだろうね」
恋のABCは始まったばかりだ。焦らずゆっくり進めていくとしよう。
日記帳を閉じて思い耽る。
精
「……ぶっちゃけ本能だけで決めていいなら三奈ちゃん一択なんだよね。俺よりギャル好きな奴はこの世にいないし、ギャルのパンティーどころか初めても欲しいし、何だったらギャルそのものが欲しいし。でも、緑谷が切島に勝てるほどの何かができるとは思えないんだよね。ギャル×ナードなんて鉄板だけど、鉄板は意外とご近所で売ってないもんだし。まあ、俺のイチ推しとだけ残しておくか」
この日記帳の中身ももっと面白くなっていくだろう。俺の青春はまだまだ続いていく。