抜きゲーみたいな島に住んでいた狂犬はヒロアカ主人公に憑依したらどうすればいいんだ?   作:神剣狩刃

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6-08 地獄の窯の火が落ちる時

 天国と地獄を同時に味わった入浴も終わり、団欒を楽しんでいる時だった。轟家のインターホンが来客を告げた。折角だからハウスキーパーの俺が出ることにした。

 

 精

「はいどちら様────」

 

 モニターには黒い人物が映っていた。夜で暗くて見えないからではなく、光に当たってなお黒い人物なのだ。

 

 ???

『我だ』

 

 俺の記憶の限りだが、黒くて一人称が我の人物なんて一人しかいない。エンデヴァーも何かを察したようで携帯を取り出したが、俺は咄嗟に通報するなと指示を出す。この人は話の分かる人で、話し合えば簡単に被害をゼロに出来るはずだ。

 

 精

「……最新の話題に飛び込んできたってことですか、()()()()

 

 その名に団欒の空間に戦慄が走る。九州で脳無とともに現れミルコの裸を晒し、仲間を取り戻すと言って青い人の裸を晒し、ついにネットで『裸婦メイカー』の名がついた、二つの意味で女性の敵だ。

 

 九玉

『それもあるが……送迎役でもある』

 精

「……送迎役? 誰の────」

 ???

『久しぶりだな、緑谷出久』

 

 その声と共にモニターに新たな人物が映る。良い顔ながらも、火傷の痕が全ての印象を持っていく、荼毘こと轟燈矢さんだ。

 

 精

「……神野区の時以来っすかね、荼毘さん……いや、燈矢さん」

 燈矢さん

『まさかこの家で一番最初にその名前で呼ぶのがお前だなんてな。とりあえず、邪魔するぜ』

 精

「門も玄関も開いてるので大丈夫────」

 

 モニターから二人の姿が消えて、背後に気配を感じて振り返る。

 

 燈矢さん

「入れるつもりだった不法侵入にはならねえよな?」

 九玉

「そもそもお前の実家だろう。不問にされるはずだ」

 

 この瞬間、この家でのヒエラルキーのトップが燈矢さんと九玉さんになった。一瞬即発の雰囲気の中、一番最初に動いたのは俺だった。

 

 精

「……燈矢さん、蕎麦食えます?」

 

 燈矢さんは少し驚きながら、そしてどこか嬉しそうに笑顔を返した。

 

 燈矢さん

「……何で蕎麦を選んだんだ?」

 精

「焦凍の兄さんだから蕎麦好きかなーって……」

 燈矢さん

「食えるどころか大好物さ。出してくれるのかい?」

 精

「せっかく来てもらったんですからおもてなししないと。冬美さん、ストックがあったので使っていいですか?」

 冬美さん

「えっ、あっ、い、良いけど……」

 

 この地獄のような雰囲気から離れるきっかけが出来た。俺は即座にキッチンに行って────

 

 九玉

「まて、妙なことをしないかどうか、我が付き添おう」

 爆豪

「……俺も行くわ。センシティブな話なんざ、もううんざりだ」

 

 俺は九玉さんと爆豪と一緒に蕎麦を茹でることになった。

 

 

 復讐は何も生まないってよく言う。だが、親から自分の憧れを否定されて、見向きもせずに見殺しにされて、生きて帰って来ても過去の事として扱われて……そういう扱いをされてからでも言えるか? だから俺は九玉さんが配信者になったと聞いた時は大いに喜んださ。エンデヴァーの失態を大々的に露呈できるって。

 

 荼毘

「なあ、九玉さん。チャンネルが大きくなったらやりたい企画があるんだ」

 九玉

「なんだ? 『1000度の鉄球作ってみた!』でもやるか?」

 荼毘

「『エンデヴァーの息子が真実を話します』って奴だ」

 

 そこで俺の過去を九玉さんに話した。そしたら九玉さんはかなり乗り気だった。

 

 九玉

「なら今すぐ配信の準備を────」

 荼毘

「いや、ちょっと待ってほしい。アイツがもっと活躍してからにしたい」

 

 その方が奴への復讐になるからだ。それからアイツがNo.1ヒーローになって、インターンで後進育成を始めて、段々と期が熟していった。が────────

 

 エンデヴァー

『敵連合の荼毘は私の死んだ息子、轟燈矢である可能性があります』

 

 何があったか知らねえがアイツの口から全てが打ち明けられた。おかげで俺の計画がほとんど水の泡になっちまった。よほどの顔をしていたのか、九玉さんが俺に心配そうに声をかけてきたぐらいだ。

 

 九玉

「どうする? 今からでも配信するか?」

 荼毘

「……いや、ここで配信してもアイツの情報の裏付けにしかならねえ。下手すりゃ誠実さの助長になっちまう」

 

 企画会議室の無駄にデカいソファーに身を預けて横になる。俺が燈矢から荼毘になった原点(オリジン)が見事に砕けちまった。これから俺は何をすればいいんだ? 地に落ちたアイツをいたぶったってなにも面白くない。

 

 九玉

「なら……我々も取材に行くか?」

 荼毘

「……そうだな、真意を知れば多少はマシかもしれねえ」

 

 半ば自棄になった俺は実家に向かうことにした。直後は記者が多くて目立つだろうから、ある程度静まるであろう夜に行った。予想通り人がいなかったので、九玉さんがインターホンを鳴らしたら緑谷が対応してきた。反応から察するにアイツは居るらしい。軽く挨拶をして九玉さんの瞬間移動でお邪魔する。そしたら緑谷が蕎麦を出してくれることになって、九玉さんと……確か爆豪だったか? が付き添いになってキッチンへ行った。おかげで母さんを除いた轟一家がこの場に残された。

 

 荼毘

「……何で今更になってあんなこと言ったんだ、エンデヴァー?」

 

 俺はあくまで荼毘としてエンデヴァーに質問した。そしたらエンデヴァーが土下座をした。

 

 エンデヴァー

「……お前に謝りたかったんだ。俺への憎しみを持つお前なら、事実を公表したらすぐにこの家に来るだろうと思ったんだ……」

 

 コイツも考えていやがったのか。こういうところで似るから親子っていうのは嫌なんだ。

 

 炎司

「……燈矢……! 悪かった……瀬古杜岳行かなくて……ごめんな……!!」

 

 その言葉を聞いて冬美ちゃんと夏くんと焦凍も土下座した。

 

 冬美

「私もごめんね……! 燈矢兄がボロボロになっていったのに、何もしてあげられなくて……!」

 夏雄

「俺もごめん……! もっと燈矢兄と話せばよかった……! 燈矢兄を分かってあげればよかった……!」

 焦凍

「俺も悪かった……燈矢兄と遊びたいって、一緒にいたいってもっと言えばよかった」

 

 なんでなんだ。なんで今になって謝るんだ。今更謝ったって何にも──────ガラガラと玄関の戸が開く音がした。こんな時に誰が来るんだ?

 

 ???

「……燈矢、私にも謝らせて」

 

 嘘だ。入院しているって聞いたのに。

 

 荼毘

「なんで……ここにいるんだよ……」

 冷

「皆であなたを受け入れるためよ。燈矢……止められなくてごめんなさい」

 

 母さんが泣きながら抱き着いて謝ってきた。冷たいのに温かくて。初めてなのに懐かしくて。それに続いて皆が泣きながら抱き着いてくる。

 

 炎司・冷・冬美・夏雄・焦凍

「「燈矢」」「「「燈矢兄」」」

「「「「「ごめんなさい!!! そして……おかえり!!!」」」」」

 

 目元の縫い目から何かが伝う────────俺は泣いているんだ。ずっと俺を見てほしくて、受け入れてほしくて、受け入れてもらえなくて、荼毘になって、ようやく受け入れてもらえたのが嬉しくて、泣いているんだ。俺はポケットの中から染料落としを取り出し、頭からかぶった。

 

 燈矢

「……ただいま」

 

 今、荼毘は死んで、轟燈矢が蘇った。

 

 

 9人分の蕎麦を茹でて、それなりの料理を作るって結構な時間がかかる。それこそ、散り散りになった一家が戻るぐらいの時間がかかった。

 

 爆豪

「こっちにまで丸聞こえなんだよクソ共が……!」

 精

「イケそうですか、九玉さん?」

 九玉

「ああ、家族で抱き合って泣いている。イケると思うぞ」

 

 九玉さんのゴーサインでおもてなし部隊が突入する。

 

 精

「お待たせしました。『蕎麦御膳~各々の気まぐれの品々を添えて~』です。嫌いな物とか食えないものがあったら遠慮なく言ってくださいね、燈矢さ……ん……?」

 

 白い髪になっている燈矢さんを見て驚いたが、遺影の髪は白だったのを思い出し納得した。

 

 爆豪

「俺様がわざわざ作ってやったんだ、理由なく残したら殺すぞ」

 九玉

「我のおすすめはこの麻婆豆腐だ。辛いが慣れると旨いぞ」

 

 九玉さんはいつの間につまみ食いしたんだ? 世界移動(ワールドシフト)を使ってやることにしてはしょぼすぎないか? とりあえず食卓に色々並べていく。

 

 精

「それじゃあ皆様お手を拝借……いただきます!」

 

 二回目の夕食だが、誰もまだまだ食べられる様だ。

 

 燈矢さん

「蕎麦は普通だな。でも、つゆに出汁が効いてて旨い」

 冷さん

「ケホケホ……この麻婆豆腐、おいしいけれど結構辛いわね……誰が作ったのかしら?」

 九玉

「具材は緑谷が担当したが、味付けは爆豪が担当していたな」

 精

「オイオイ爆豪、お前の舌に合わせちゃダメだろ? 冷さんがかわいそうじゃないか?」

 爆豪

「チッ……無理して食うな。食えるモンだけ食え」

 冷さん

「そうさせてもらうわ……そちらの子が噂の緑谷くんね。遅れちゃったけれど……初めまして、轟冷です。焦凍がいつもお世話になっています」

 

 なんとも麗しいお母さまだろうか。俺がエンデヴァーだったら野球チームぐらい子供を作っていただろう。これは親子丼もイケるのでは?

 

 炎司

「冷に色目を使うんじゃないぞ?」

 精

「……ちょっとだけ、先っぽだけですから、ね?」

 焦凍

「もしもし八百万? 緑谷が母さんにまで手を出しそうなんだが、セーフか?」

 精

食事中にスマホ見るのは礼儀悪いだろ!? 

違うからね百ちゃん!? 本当に違うからね!? 

流石に他人様の奥さんに手を出すほど落ちぶれていないからね!?」

 燈矢さん

「ははっ、敵連合に攫われた時みてえだな。トガと一発ヤろうとしてたもんなあ?」

 精

そうだけども! あれは冗談だって言ったじゃないすか! 

違うからね百ちゃん!? 本当に違うからね!? 

いや、違くないけど過ぎた事だから関係ないよね!?」

 冷さん

「あらあら……焦凍が変わるのも納得な子ね」

 冬美

「でしょ? このハチャメチャっぷりが緑谷くんのいい所なんだよ」

 夏さん

「うーん……俺も少し彼女の前でははっちゃけた方が良いのかな……」

 爆豪

「エロ金髪を見習うのは止めとけ。アイツは例外中の例外だ。モブがやったら秒で破局だ」

 

 ワイワイガヤガヤと楽しい時間が過ぎていった。そんな時間は早く過ぎていくもので、いつの間にか日も変わり深夜になっていた。洗い物は轟一家に任せて俺は九玉さんと話をする。

 

 精

「で、この後どうするんですか?」

 九玉

「この後は荼毘、いや、燈矢次第だろう。理の会に戻りたいと言えば戻す、離れたいというなら離す、我がとやかく言うことではない」

 精

「仲間じゃないんですか?」

 九玉

「仲間だからだ。燈矢が我々を売るような奴には見えぬ。奴の好きにさせるつもりだ」

 

 九玉さんが良いならそれでいい。燈矢さんも燈矢さんの『やりたいようにやる』だろう。しかし、その果てが燈矢さんの望む物になるかどうかは分からない。

 

 精

「できる事なら、燈矢さんがこの家で過ごせるようにしたいんだけど……俺の力だけじゃあ無理だろうな……」

 燈矢さん

「緑谷、話がある。付き合ってくれねえか?」

 

 構わないが何の話だろうか。縁日に腰を掛け、夜の寒空を眺めながら燈矢さんと話す。

 

 燈矢さん

「まずは……ありがとう、だな。お前のおかげで轟家(ウチ)は激変したよ。真っ当な家族になったって思えた」

 精

「問題はまだまだ山積みっすけどね。おかげで俺のインターンはハウスキーパーがメインになりそうで……」

 

 燈矢さんがケラケラと笑いながらそいつは悪かったと謝る。

 

 燈矢さん

「だから家族と話して決めたよ────────俺は罪を償う。仲間の情報は言わねえが……俺がやってきたことを全部言うつもりだ」

 

 その目には確かな覚悟の炎が宿っていた。だったら俺は余計なことをせずに、その背中を送り出すだけだ。

 

 精

「どれぐらいの刑期になるか分かりませんが……燈矢さんには待っている人がいますから、大丈夫ですよ」

 燈矢

「ああ……色々迷惑かけた悪かったな、緑谷」

 精

「……冬美さんと仲良くできたので許します」

 

 それならよかったと燈矢さんが笑う。その顔は復讐という憑き物が落ち、かつての俺の笑顔にそっくりだった。

 

 

 ついに別れの時が来る。この後、燈矢さんは適当な場所で110番通報をしてそのまま捕まるそうだ。燈矢さんが玄関から歩き出す。

 

 燈矢さん

「……んじゃ、行ってきます」

 冬美さん

「絶対に帰って来てね! 私たちいつまでも待っているから!」

 夏さん

「帰ってくるまでこの家は絶対に守っておくから!」

 焦凍

「子供のころ遊べなかったからさ! 帰ってきたら一緒に遊びてえ!」

 冷

「燈矢! 体には気を付けるのよ!」

 

 一同が声を出して送り出していく中、エンデヴァーはぼそりと何かを呟くだけだった。

 

 炎司

「……燈矢、元気でな……」

 精

「……もっと言わなきゃいけない言葉があるだろうが────────言える内に言っておけ」

 

 俺はその言葉をエンデヴァーに耳打ちする。

 

 炎司

「……そうだな。かける言葉を間違えた」

 

 そういってエンデヴァーが燈矢さんに向かって駆けだす。

 

 炎司

「……俺は……お前に、どうしても言いたかったことがあるんだ……! だ、だから……言わせてくれ、燈矢……!」

 燈矢さん

「……なんだよ急に泣き出して────────」

 

 エンデヴァーが燈矢さんを力いっぱい抱きしめた。

 

 炎司

「燈矢、生まれて、きて、くれて、生きて、くれて、あり、がとう……! 本当に、ありが、どう……!!!」

 燈矢さん

「────────とう、さん……」

 炎司

「ごんな……かんだんなごど、だっだのに……!!! ずまない、ほん、どうに、ずまなかっだ……!!! いえなぐで、ずまながっだ……!」

 

 俺と同じで、この言葉をもっと早く言えていたら。もっと早く伝えられていたら。こんなことにはならなかったのかもしれない。でも、今、言えたことはきっと無駄ではない。それが燈矢さんの支えになるのだから。その言葉を聞いて燈矢さんもエンデヴァーを抱きしめる。

 

 燈矢さん

「その言葉が聞けて良かったよ、父さん────────やっと、生まれてよかったって思えた」

 

 

 皆で燈矢さんを見送って家に戻る。時間を確認するためにスマホを開いたが、1-Aガールズからの通知がヤバかった。

 

 精

「さて……1-Aガールズへの言い訳考えなきゃ……」

 爆豪

「言い訳すんなてめェが悪ィんだからよ」

 焦凍

「いや、緑谷の作戦を考えずに連絡した俺も悪ィから一緒に考えるよ」

 夏さん

「姉ちゃんとの婚姻の話はともかく、母さんに色目使ったのは擁護できないだろ……」

 冷さん

「でも……私もまだまだ魅力的って考えれば悪くない気分ね?」

 冬美さん

「ダメだよお母さん! 緑谷くんは私のだよ!」

 炎司

「正気になるんだ2人とも! 緑谷の感覚はまともじゃない!」

 

 そういえばいつの間にか九玉さんがいなくなっていた。No.1の家で巨悪が食事をしていたなんて知られたら、かなりの大事になるだろう。だが、俺の女難の方が大事になる気しかしない。

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