抜きゲーみたいな島に住んでいた狂犬はヒロアカ主人公に憑依したらどうすればいいんだ?   作:神剣狩刃

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6-09 地獄の余波

 皆さんおはようございます。ニュースキャスターの土口精です。良いニュースと悪いニュースがあります。まずは良いニュースです。燈矢さんが何事もなく捕まりました。本日の午前2時頃、不審者がいるという通報があって警察が駆け付けたところ、髪が白くなった荼毘であったためその場で逮捕されたとのことです。これから事情聴取になり、敵連合の情報が出ることが期待されています。続きまして悪いニュースです。本日今現在、雄英高校生徒である緑谷出久くんがハイツアライアンスに到着してしまいました。玄関先には鬼子母神が6柱いて、すごく怖いです。現場からは以上です。

 

 精

「…………どう見て怒ってるよなあ……腹括るしかないか……」

 

 一歩一歩ゴルゴダの丘を登っていく。体が帰り道の終業式の荷物のように重く感じる。近付くごとに怒気と殺気が増していく。危機感知を切りたいが切ろうと思って切れる物でもないらしい。そしてついに入り口に到着する。

 

 精

「…………ただいま」

 1-Aガールズ

「「「出久(いずく、デクくん、出久ちゃん、出久さん)?」」」

 精

「待って……とりあえず……事情説明をさせて……」

 1-Aガールズ

「「「一線を越えたって何?」」」

 精

「……え?」

 

 1-Aガールズ曰く、百ちゃんが焦凍から『あの時の緑谷は冬美さんと一線を超えたみたいだった』と受け取ったらしい。ロゼショット……文章力低すぎるだろ。俺は必死になって事情を説明した。

 

 精

「だから、冬美さんと一緒にお風呂に入ったのは事実だけど……風呂上がりの俺の顔が一線超えた関係になったように見えたって意味で、本当に一線越えたわけじゃないから……」

 

 その一言を聞いて、1-Aガールズから怒気と殺気が消えた。

 

 お茶子ちゃん

「よかった~……だって百ちゃんから『出久さんが一線超えたかもしれませんわ』なんていうんだもん……」

 百ちゃん

「し、仕方がないではないですか! あのような文章を送られたら誰でもそう思ってしまいますわ!」

 三奈ちゃん

「ヤオモモも乙女だね~……ア、アタシは出久は絶対にそういうことしないって信じてたよ?」

 耳郎ちゃん

「いや、さっきまで『絶対アソコ溶かしてやる』って言ってたじゃん……」

 透ちゃん

「そういう耳郎ちゃんだって『音で()る』って言ってたじゃん!」

 

 百ちゃんがお騒がせなお嬢様なだけだったようだ。安心して自室に戻──────

 

 梅雨ちゃん

「でも、どうして出久ちゃんはお風呂上がりでそんな表情をしていたのかしら?」

 

 あっ。

 

 梅雨ちゃん

「確か出久ちゃんはお風呂が好きよね? いくら演技とはいえ好きな女の人と、好きなお風呂に一緒に入ったのなら、とても嬉しい表情で出てくるんじゃないかしら?」

 

 あっあっ。

 

 梅雨ちゃん

「……そういえば、出久ちゃんは本当に()()()()()()()()()()()()とは言ったけれど、()()()()()()()とは言ってないわよね?」

 

 あっあっあっ。

 

 梅雨ちゃん

「…………出久ちゃん。あなたは女の子に嘘はつかない*1けれど、隠し事はする*2わよね? 何か隠していることがあるんじゃないかしら?」

 

 無理だ、もう隠しきれない。白状してしまおう。

 

 精

「……冬美さんからキスされました」

 1-Aガールズ

「「「出久(いずく、デクくん、出久ちゃん、出久さん)!!!!!!」」」

 精

「ほんっっっとうに申し訳ありませんでしたああああああ!!!!!!」

 

 今後、地獄を見たことがあるかと聞かれたら俺はこう答えるだろう。6柱の鬼子母神が見せてくれたと。

 

 実

「────で、今に至るまで女子にサンドバッグにされていたと。いくら全員から手当てされたからって、流石のオイラでも羨ましくねえわ」

 精

「今日が学校もインターンも休みでよかった……この状況でヒーロー活動したら死んじまう……」

 

 共有スペースで適当に作ったとろろ汁を啜りながら実と駄弁る。あれは気持ちよさじゃなくてマジな死がチラついた。妹に殺されかけた時レベルの奴だった。

 

 実

「で、轟家の女との関係はどうなったんだ?」

 精

「冷さんは冗談で済んで、冬美さんはインターンの間だけ許すって言い渡された。関係を持ったことよりも、キスされたことを隠していた事を怒っていてな……キスまでは俺からするつもりだって言っていたのに、何で隠そうとしたのって……」

 実

「オイラが言うのもアレだがよ、怒るとこソコであってんのか?」

 精

「俺が女性に色目を使うのはもう慣れたって。キスまでの関係なら私たちと同じだからいいけど、そこから先は私たちがその関係になってからじゃないとダメだって」

 実

「自分たちが済ませたならいいのか……日本が一夫多妻制を採用してなくてよかったぜ。もし採用していたらお前の嫁さんだけでサッカーが出来ちまう」

 精

「緑谷のために10人以内に収めておくさ」

 

 ピコンとスマホの通知が鳴る。九玉の理チャンネルでライブ配信が始まったようだ。タイトルは『メンバー脱退のお知らせ』というものだ。九玉さんの今後を知るためにも見るしかない。

 

 

 

 九玉さんがいつもの配信部屋にスーツを着て立っている。ただ、今回はネタ動画ではなく、深刻な話題だからか笑いの雰囲気が一切ない。

 

 九玉

「九玉の理チャンネルをご覧の皆様、おはようございます。九玉です。今回は今朝の轟燈矢こと荼毘が捕まったことに関してお話しします」

 

 そこから九玉さんが色々話した。荼毘が轟燈矢であることをすでに知っていたこと、それを発表するために色々準備をしていたこと、エンデヴァーがもっと活躍してそれなりの功績を出してから発表しようとしていたこと、それよりも先にエンデヴァーが事実を公表してしまったこと。

 

 九玉

「そしてエンデヴァーに真意を聞きに行った結果、荼毘は家族とのふれあいを通じて復讐を止めることにした。荼毘としての罪を償い、轟燈矢として生きるために捕まった、というのが今回の逮捕の真相です」

 

 コメント欄の反応は阿鼻叫喚と言った所だ。エンデヴァー許さねえ、荼毘も所詮そんなもんか、その程度でやめるとかそんな復讐すんなよ? 、あーん、荼毘様が捕まった! 、などなど普通の配信以上の4~5倍の反応だ。俺も乗じてコメントしようかと思っていた時だった。

 

 九玉

「なので我は────────荼毘を殺す

 

 俺の脳内でデデン! という音が流れるぐらい明確に殺すという言葉が聞こえた。

 

 九玉

「奴は今までの行動から、おそらく対"個性"最高警備特殊拘置所、通称『タルタロス』に収容されるだろう。具体的な方法は明かさないが、いつの日か我はそこを襲撃して荼毘を殺す。その時が決まったら事前に告知をするから、通知をしっかりオンにしておくのだ。今回は短いがここまでだ。真面目な話だからじゃんけんタイムはナシだ。では、失礼する」

 

 時間にして5分ほどの動画だったが、受けた衝撃は中々だった。同時視聴してしまった実が口からグレープジュースを零すほどだった。

 

 実

「お、おい……今の話マジなのか……?」

 精

「燈矢さんに関してはマジだ。ただ……何で九玉さんは今になって燈矢さんを殺そうとしているんだ……?」

 

 轟家で食事をした際には燈矢さんの好きにさせるつもりと言っていた。それはもしかして、どのみち殺すから好きにさせるという意味だったのだろうか。だとしたら、逮捕される前に殺してしまえばいいはずだ。九玉さんの"個性"なら、よほどの存在でもない限り瞬きをする間に殺せるだろう。それなのに、タルタロスに収監されてから殺すと言った。そもそも、タルタロスの襲撃を予告する必要はあるのだろうか。そうしたらタルタロスでの警備が強くなって燈矢さん殺害が難しくなるのではないか。

 

 精

「…………ダメだ、九玉さんの真意が分からねえ……」

 

 畢竟、この結論に至ってしまった。俺の推理力をもってしても情報が足りなすぎる。何か思惑があるのは分かっているのだが、その思惑が分からなければ意味がない。あまりにも真剣に考えていたのか、実が心配そうに俺の顔を覗き込んできた。

 

 実

「そこまで考えて分からねえなら、無理にそれ以上考える必要はねえんじゃねえか? 一緒にエロ本でも読んで気分転換しようぜ?」

 精

「……そうだな。九玉さんは話が分かるとはいえ敵だ。根本から考えが違う可能性がある。更なる情報が出るまでは一旦考えるのは止めるか。ミルコさんのエロ本ある? 無きゃ描くけど」

 実

「折角だし緑谷が描いてくれよ! お前のエロ本スゲーんだよ! 何回見ても使っても飽きねえ!」

 上鳴

「なんだよなんだよ! エロい話か!? 俺も参加させてくれよ!」

 

 バカらしい性春の話につられてバカがやってきた。

 

 精

「ミルコさんのエロ本描くけど、お前もご一緒するかエレウェイ?」

 実

「コイツのエロ本スゲーんだぜ! 体の筋肉の質感とか、擬音の生っぽさとか、事中の勢いとか!」

 上鳴

「マジかよ! だったらエロ本に合成音声乗せたらどうだ!? ヤバいの出来ると思うぜ!」

 精

「天才かァ~? 松葉崩し・しめ小股・菊一文字付きパコ四十八章*3はお前んモンだぜ~!」

 

 ということで脳ミソを下半身に直列繋ぎさせた三人で俺の部屋に向かう。その際に出来た『褐色バニーガールは肉食娘!』は、後々むらさきぶどう先生がエロ同人界隈に衝撃を走らせるデビューのきっかけとなるが、それはまた別の話だ。

 

 

 配信を終えた我は理の会のメンバーを会議室に集め、今後の方針について話し合う。

 

 九玉

「荼毘を殺す件に関してだが……まずは世界中を混乱させるようなことをする必要がある。これに関しては死柄木が目覚め次第マキアとリ・デストロに暴れてもらうとしよう」

 リ・デストロ

「はっ! 九玉様の命令とあれば粉骨砕身の覚悟で暴れます!」

 

 リ・デストロが髪の一本すら無くなった額を輝かせて敬礼している。

 

 九玉

「その光景をハッキングと電波ジャックで世界中に流せば、より大きな混乱を生めるだろう。これはスケプティック、キュリオス、ジェントル、ラブラバに任せるとしよう」

 スケプティック

「チッ、まあいいだろう。電子工作は得意だからな」

 キュリオス

「それだけだったら裸にはされないわね……あれトラウマになってるのよ……」

 ジェントル

「……あ、安全な所から配信させてくれよ?」

 ラブラバ

「大丈夫よジェントル! いざとなったら私達だけでも逃げ延びるわ!」

 

 ジェンラバのコンビがやや消極的な気もするが、概ね問題ないと言っていいだろう。

 

 九玉

「それ以外のメンバーは…………我の配信業に加担しながらそれぞれの部隊の育成と自身の鍛錬に努める様に」

 トゥワイス

「雑な締め方だなオイ! もっと良いこと言えよ! いい話だったぜ!」

 マグネ

「でも仕方ないんじゃない? 正直、私の"個性"じゃ人物の軌道変更が精々だし、だったらもっと強力な"個性"の人が出るべきだわ」

 コンプレス

「おじさんの"圧縮"じゃあちょっと物足りないよねえ……」

 スピナー

「そんなこと言ったら俺の"ヤモリ"なんか壁に貼り付けるだけだぞ?」

 トガちゃん

「それなら私の"変身"もその人になれるだけでそれまでです。攪乱には使えると思いますが」

 下典

「僕の"氷操"も氷がないと始まらないからね。どんな異能も欠点はある。不幸話は止めよう。気が滅入るだけだ」

 トランペット

「それでは皆さん……九玉様の指示通り、我々の責務を果たしていきましょう!」

 

 トランペットのおかげで場の雰囲気は盛り上がった。いずれ来たるその日を心待ちにしながら────ドアを開けたらホークスが立っていた。

 

 ホークス

「俺も企画に参加させてくださいよ。リアルの声でちやほやされるのも良いですけど、ネットの声からもちやほやされたいんです」

 九玉

「お前を動画に出すとヒーローとの繋がりがどうとかで炎上しかねない。いちいち火消しを行うのも面倒なのでな」

 

 それじゃあ仕方ないっすねと缶コーヒーを渡され別れた。ホークスが差し入れてくれるコーヒーは甘くて好きだが、今の我はアイスミルクの気分だった。折角だから氏子に差し入れるとしよう。世界移動で氏子のいる研究室へ移動する。

 

 九玉

「事は順調か氏子」

 

 氏子はいつもの回転椅子ごと振り返って我を視界にとらえた。

 

 氏子

「おお、九玉か。死柄木には順調に"個性"が定着していっておる」

 

 最近の我の配信に死柄木が出ていないのは、仮死状態になって多くの"個性"を定着させているからだ。何時の日だったか笑いながら改造手術を受けていたのは、中々狂気的で面白かった。定着したその時はスマターピースとなって究極の人間になるらしい。

 

 氏子

「マスターピースじゃ。ちょっといやらしくするでない。それよりも、おぬしに植え付けた追加の"超再生"と"自食作用"もそろそろ定着するはずじゃが、身体の調子はどうじゃ?」

 九玉

「我は元々幾つもの"個性"を持つ脳無だからな。特に問題ないが、定着した実感がわかない。少し試してみてもいいか?」

 氏子

「"自食作用"は"体の組織をエネルギーに変える"から、いわば代謝の延長線じゃ。自分の体のどこをどれぐらいのエネルギーに変えるか想像するとよい」

 

 我はいわゆるスイカップで、胸の大半は脂肪だと言うので胸の脂肪を燃やしてエネルギーにする。一瞬胸がしぼんだが、すぐに元通りになる。そして全身にエネルギーが満ちていく。

 

 氏子

「"自食作用"で削った体を2つの"超再生"で治す……これでお主は無限のエネルギーを手に入れたに等しい」

 

 実際では傷を負いながら戦う以上、無限のエネルギーは机上の空論になるだろう。しかし、我が強力になったのに違いはない。我は新たなる力に思わず笑みをこぼした。

 

 氏子

「……お主もマスターピースを目指せる体じゃ。もう少し"個性"をつけてやろうか?」

 

 我の元となった人間の素質が良かったのか、我は黒霧のようにかなりの知性を持って脳無になっている。それ故に"個性"の適応もスムーズで、それこそ現在の死柄木とほぼ同じ量の"個性"を、さらに短期間で身に着けることもできるだろう。だが、我はその提案に首を振り断った。

 

 九玉

「過ぎたる力は身を亡ぼす。我にはこれだけあれば十分だ」

 氏子

「お主がそこまで言うならいいんじゃがの。わしはいつでも待っておるぞ」

 

 その必要はないと氏子に缶コーヒーを渡し、培養液の中で眠る死柄木に目を移す。奴は何を夢見ているのだろうか。全てを壊し、意のままにする──────我が吹っ切れたきっかけでもあるそれを目指しているのだろうか。眠る死柄木の頬が動いた。

 

 九玉

「……妙な胸騒ぎがするな」

 

 その微笑は死柄木らしい爽快な物ではなく、何所か邪悪を孕んだ寒気がするようなものだった。

*1
2-05で言っていた。

*2
精は3-10まで自分がこの世界の人間でないことを隠していた。

*3
青藍島でSSに授与される最も格が高い勲章。

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