抜きゲーみたいな島に住んでいた狂犬はヒロアカ主人公に憑依したらどうすればいいんだ? 作:神剣狩刃
我が企画会議室でアイスミルクを飲んでいる時だった。通信機からスケプティックの叫びが響いてきた。
スケプティック
『山荘にヒーロー達が攻めてきた! 対処しろ九玉!』
我が出ればたやすく対処できるだろう。しかし、それでは根本的な解決にならない。だから我はスケプティックにミルクを啜る音をわざとらしく聞かせた。
九玉
「……その前に一杯飲ませてもらおう」
何の拍子でここがバレて襲撃されてきたのかを考える。直近で変わった物事と言えば何があったか。ホークスがエンデヴァー事務所に行き、緑谷と接触した。その際に"未来を視る"サー・ナイトアイとも接触していた──────緑谷とナイトアイ。2人は死穢八斎會を壊滅に追い込んだ。今回も2人の企みによってここが襲撃されたのではないか。我はアイスミルクを一気に飲み干して立ち上がった。
九玉
「ホークスに真相を聞く。それまで持ちこたえさせろ」
通信を切り一呼吸する。世界移動の要素の一つ"観測"で場所を捕捉する────なぜかこの山荘の一室でトゥワイスがさかさまになっており、しかもホークスがトゥワイスにいくつもの羽根を向けていた。何が起きてもおかしくない。我は急いでトゥワイスの目の前に現れた。
九玉
「大丈夫かトゥワイス?」
トゥワイス
「九玉ぅ! ヤバいんだよ! 大丈夫だぜ!」
ホークス
「九玉……! 殻木と死柄木の護衛のために病院に行くと思ったが、読み違えたか……!」
九玉
「……状況証拠だけでもお前が裏切ったというのが分かった」
我はホークスに向けて掌をかざす。いつでも殺せる状態に────トゥワイスが我の右手を泣きながら抑えた。
トゥワイス
「ま、待ってくれ九玉! ホークスとは話せばわかるって!」
九玉
「ヒーロー達が攻めてきている。恐らくホークスが元凶だ。仲間を売るような奴は仲間ではない。荼毘を思い出せ。奴は捕まっても我々の事は言わなかっただろう」
トゥワイス
「で、でもよお……!」
九玉
「……我を"二倍"されたらまずいからか? 先に言っておくが、"二倍"の分身で出来た我は大した耐久力がない。"超再生"は傷が治るのであって、受けたダメージを無効化しているわけではないからな」
ホークス
「でも火力は同じでしょう? 貴女を無限に出し続けられたら、プロヒーローが何人いても勝てませんから」
だからトゥワイスから無力化しようとしていたのか。我が一人だけであればイレイザーヘッドと適当なプロヒーローが組めば容易く倒せる。だが、この今までの話から察するにイレイザーヘッドはここにいない。ならば我には大なり小なり勝機がある。だからこそ交渉を仕掛ける。
九玉
「……取引をしよう。理の会の内、初代敵連合を残して後はプロヒーローにくれてやる」
ホークス
「……何だと?」
トゥワイス
「おい待てよ九玉!? 仲間を売るのかよ!?」
荒ぶるトゥワイスに再び羽根が向けられる。まあ待てとトゥワイスを宥めて交渉の真意の説明を始める。
九玉
「我の真の目的は緑谷を元の緑谷に戻すことだ。そのためには世界を平和にする必要がある。しかし、元の緑谷はヒーローをやりたいと言っている。平和な世界でヒーローなどできないだろう? だから、我が理の会が世界で唯一の敵団体になればいい」
ホークス
「……できるのか、そんなこと?」
我はちらりとトゥワイスを見る。本当にできるのかと言わんとしている目をしている。
九玉
「…………マスターピースになった死柄木が目覚めれば可能だろう。我としても彼奴に頼るのは不本意だが、アレが完成すればこの世界を無に帰すことも可能だろう。そしてアレを制御できるのは理である我だけだ」
ホークス
「お前に制御できるのか? もしできなければ──────」
九玉
「とっておきがある。裏切り者の貴様には教えられないがな」
我は再びトゥワイスを見る。何時そんなもの準備していたんだ俺は知らないぞ、と首を横に振っている。
九玉
「これで分かっただろう。我が理の会のトップとして敵を管理する、そして貴様に情報を流してヒーローが活躍する、それが永く続く────これが我の提案する平和でヒーローが活躍できる世界だ。互いにとって悪いものではないだろう? 改めてもう一度交渉しよう。我の提案を受けるか?」
我はホークスに向けて手を差し伸べる。ホークスも手を伸ばして────我の手を払った。
ホークス
「俺はヒーローが暇を持て余す世の中にしたいんですよ。貴女の作る世界はそれとは真反対だ」
九玉
「敵もヒーローも共存できるいい世界だと思ったのだがな」
ホークス
「敵なんかいない方が良いんです」
九玉
「敵がいなければヒーローの存在意義がないだろう?」
ホークス
「敵退治だけがヒーローじゃない。交通事故や自然災害……あらゆる困っている人を助けるのがヒーローです」
九玉
「そのヒーローが助けられなかった人間の集まりが理の会、あるいは始まりである敵連合なのだ。ヒーローだけでは助けられぬ人間もいる……その面からも管理された敵が必要なのだ」
ホークス
「その助けた人間を貴女は切り捨てようとしているのにですか?」
九玉
「管理とは受け入れるだけではない。時に切り捨てる必要もあるのだ。ヒーロー同士が仕事を奪い合い蹴落とすこともあるヒーロー飽和社会がいい例ではないか」
どうやら議論は平行線のまま交わらないようだ。こうなっては仕方がない。我は全身にエネルギーを巡らせる。
九玉
「我が名は『九玉』、この世の理たる者……裏切りの烏よ、理不尽に────」
何かが我の顎を掠める。その瞬間、意識が、揺らいで────
何が起きたのか分からねえ。急に九玉が倒れて、俺の足元には判子が転がっていた。待てよ、この判子どこかで見たことある────ホークスの後ろから誰かがやってきた。
???
「いくらNo.2と言えど九玉相手は手に余るだろう。助太刀に来た」
その声を聞いて思い出す。死穢八斎會で会ったリーマンのヒーローの物だ。
ホークス
「やっぱりあの時視てたんですね……ナイトアイさん」
ナイトアイ
「この群訝山荘でお前が九玉と対峙する未来が視えたのでな。いくら強力な九玉と言えど、不意打ちされてはどうにもならないかったようだな」
やっちまった。俺がホークスを引き入れちまったばかりに、皆に迷惑をかけちまった。今更悔やんだってどうしようもねえのに、悔やむ事しか出来ねえ自分が情けねえ。
ホークス
「あなたは運が悪かっただけだ。罪を償ってやり直せるように俺も手伝う。あなたは良い人だから」
ナイトアイ
「少し楽観的すぎるんじゃないかホークス? いい人だろうと一度罪を犯した人間は何度でも罪を犯す……ましてコイツの"二倍"は凶悪だ。場合によっては……再起不能になってもらうことも考えた方が良い」
羽根と判子を構えられ俺は何も出来なくなった。下手なことをすれば殺されるだろう。分かっている。でも。
トゥワイス
「俺の魂は
九玉の分身を生み出して2人に立ち向かわせる。瞬く間にホークスの羽で貫かれて溶けて消える。もう一度生み出して────ホークスの羽根で胸をぶった切られた。
ホークス
「内臓は避けましたが、肉と骨は切ったので暴れることは出来ないでしょう」
ナイトアイ
「暴れたとしても2人相手ではどうにも────なぜこの状況で笑っていられるのだ、トゥワイス?」
俺は今ここにいる。死ぬほど痛かったけどここにいる。消えないでここにいる。
トゥワイス
「痛えよ……!! 痛え痛え!! 痛え!!
俺は俺だ。分身なんかなじゃい。本物の分倍河原仁だ。ならば──────俺は瞬く間に大量の俺を生み出す。
ホークス
「なっ……!? 自分を"二倍"することは出来ないはずでは……!?」
トゥワイス
「サンキューホークス! オマエのおかげでトラウマが克服できたぜ! 俺達! 九玉を生み出せ!」
そしてあっという間に大量の九玉が生み出された。部屋を埋め尽くさんとするほどの理不尽に、理不尽の張本人も困惑するほどだ。
九玉達
「「「……どういう状況だ? 我が大量にいる……」」」
トゥワイス
「ホークスが裏切った! 思いっきりぶっ放せ!」
俺は本物の九玉を盾にして身を守る。それを見てホークスとナイトアイが九玉達を消そうとしたが、部屋に走った衝撃波で羽根と判子が吹き飛んだ。
九玉達
「「「事情は後で聞こう──────破壊の理」」」
部屋に紅いエネルギーが何重にもなって広がっていった。本物を盾にしていなければ間違いなく俺は理不尽にも吹き飛ばされたことだろう。だが、そのおかげで俺は助かったし、九玉も目が覚めた。
九玉
「……何が起きた……?」
かくかくしかじかきゅうきゅうぎょくぎょくと事情を伝える。すると九玉は紫の瞳を細めながら笑顔を作った。
九玉
「流石だトゥワイス。お前ならやれると思ったぞ。いつも撮影の裏方を頑張っていたからな」
トゥワイス
「きゅ、九玉う……!」
九玉
「さて……お前の力でこの状況をひっくり返すとしよう。ヒーロー達を退け──────我らの力を知らしめよう」
大量の九玉が生み出された時点で俺達は不利を強いられた。九玉自身が分身に耐久力はないと言っていたが、そもそも攻撃が届かなければ意味がない。俺の羽根やナイトアイさんの判子が通じなかった瞬間、俺はナイトアイさんを抱えて部屋を出ていた。次の瞬間、部屋を吹き飛ばすほどの紅いエネルギーが俺達の背中を押した。
ホークス
「危なかった、じゃないっすよね……! ここからもっとやばくなるんですから……!」
ナイトアイ
「トゥワイスの生成能力から繰り出される無数の九玉……アレはヒーロー社会どころか、世界そのものを壊しかねない……!」
九玉の言っていたとっておきというのは、自分自身を増やせるようになったトゥワイスのことだった。アレならマスターピースの死柄木を制するのも不可能ではないだろう。いや、支配の関係ではなく協力の関係になったら──────
ナイトアイ
「考えるのは後だ! こちらナイトアイ! トゥワイスが無数の九玉を生み出せるようになった! この場にいるヒーローだけでは対処できない! プロヒーローナイトアイの権限で撤退命令を出す!」
ホークス
「っ!? ナイトアイさん!? 正気ですか!?」
ナイトアイさんのあまりにも早すぎる判断に反論を堪えられなかった。
ナイトアイ
「策も無しにアレに挑めば無駄死にするだけだ! 一旦退いて対策を考えるべきだ!」
ホークス
「そうですが! ここで奴らを逃したら!」
ナイトアイ
「敵に頼るなどこれ以上ない屈辱だが……九玉を信じるしかない!」
九玉を信じる? 奴を信じたところで何に────
九玉
「敵もヒーローも共存できるいい世界だと思ったのだがな」
まさかナイトアイさんはあの九玉の説得を信じたのか。敵の言うことを信じるなどヒーローとしてあるまじきことだ。だが────
九玉
「ホークス……流石No.2ヒーローだ……夜が開けるまで付き合ってもらうぞ」
九玉
「ヒーローだけでは助けられぬ人間もいる……その面からも管理された敵が必要なのだ」
クリスマスであんなに純粋に一喜一憂して、本気で世界の理を保とうとしている。その姿は、ただ悪の敵であるとは言い難かった。
九玉
「荼毘を殺す件に関してだが……まずは世界中を混乱させるようなことをする必要がある。これに関しては死柄木が目覚め次第マキアとリ・デストロに暴れてもらうとしよう」
いや、絆されてはいけない。アイツは間違いなく世界を混乱に陥れる。俺はナイトアイさんを羽根だけで入り口まで送り届けた。
ナイトアイ
「ホークス!? 何をしている!?」
ホークス
「皆が逃げる時間を少しでも稼ぎます! ナイトアイさんは撤退の指示を!」
返答も待たずにトゥワイスと九玉のいる階まで飛んでいっ────空中で何かに引っ張られ、透明な何かに弾かれた。
マグネ
「空中戦なら私達の独擅場よ。カフェ前での一幕を思い出しちゃうわね」
ジェントル
「止めたまえヒーロー。この勝負はすでに決した……私達理の会の勝利という形でね」
ラブラバ
「カッコいいわジェントル! この姿もばっちり配信中よ!」
マグネとジェントルと抱きかかえられたラブラバが空中で跳ねていた。"磁力"と"弾性"が組み合わさると強力な移動制限がかかるのか。だからといって引き下がるわけにはいかない。
ホークス
「いやいや、空中戦は俺の専売特許ですよ」
今ので空気の膜の位置は分かった。それを羽根で切り裂いてしまえば────空気の膜に触れた羽根が爆発して燃えた。
キュリオス
「ただの空気は触れられないけど、"弾性"によって固定された空気は触れられる……触れられるということは────私の"地雷"に変えることが出来る!」
キュリオスまで跳ねていた。先の磁力で引っ張られたのは彼女に引っ張られたからか。
マグネ
「いくわよ皆! ホークスは羽根が無くなれば大したヒーローではないわ!」
キュリオス
「羽根は私の"地雷"で燃やせる! だから軌道調整は任せたわよ!」
ジェントル
「任せたまえ! 理の紳士として華麗に決めて見せよう!」
ラブラバ
「名付けて!
叫び声と同時にジェントルとキュリオスが飛び掛かってきた。羽根で迎撃したら爆破される。一旦身を引いて────"磁力"によってキュリオスの方に引き寄せられる。キュリオスが懐から丸い何かを投げつけてきた。恐らく地雷になった瓦礫か何かで────丸い何かがパリンと割れて人と管が飛び出してきた。
トガ
「ばぁ! チウチウさせてもらいます!」
トガの放った吸血管が俺の右肩に刺さる。マズい。
コンプレス
「空中サーカスはショーの醍醐味だからね」
その言葉を最後に俺はどこかに閉じ込められた。
理の会による空中サーカスショーを見届けた我は拍手を送った。
九玉
「流石だ。これなら久々にいい数字が取れるだろう」
トゥワイス
「何せNo.2を捕まえちまったからな!」
演者たちを呼び集めここからの作戦について話し合おうとした時だった。地面から何かが盛り上がって出てきた。
マキア
「主殿おおお!!!」
巨大化したマキアだった。つまり、死柄木が目を覚ましたということだ。
九玉
「マキアに乗れお前達。事態があまりよくない」
マスターピースとして目覚めたにしては早すぎる。恐らく何らかの事情で目を覚まし、事情を把握しないままとりあえずでマキアを呼んだのであろう。今の死柄木が誰かと戦ったら、事と次第によっては死にかねない。我は世界移動で死柄木の下に向かうことにした。