抜きゲーみたいな島に住んでいた狂犬はヒロアカ主人公に憑依したらどうすればいいんだ? 作:神剣狩刃
俺はいつかこの世界からいなくなる。だから俺が居た証として日記をつけている。大事件を書き記すのも大切だが、何気ない日常も書き記すべきだろう。これまでにあった日常をページをめくりながら思い出す。
とある平日の午後9時、俺はとある男子の部屋をノックする。
精
「ロゼショットー? おるかー?」
黒色のニットセーターを着たイケメンが出てきた。
轟
「緑谷か。どうした?」
精
「イケメンって何着てもイケメンだよな。俺のジャージ着たらもっとイケメンになると思うぜ?」
轟
「俺に服をプレゼントするために呼んだのか? ありがてえが、服にはそんなに困ってない──────」
精
「夜食にそばがき作ったんだ。お前蕎麦好きだっただろ?」
轟
「冷たい蕎麦は好きだが、そばがきは食った事ねえな……折角だから食ってみてえ」
ドアを開け和室に入る。ドアから繋がる和室は不思議で不思議で仕方がない。おおっととか、!! ああっと!! みたいな感覚だった。早速二人でそばがきを食べる。
轟
「意外と旨いな。蕎麦の味なのにフワフワしてて不思議だ」
精
「俺も初めて作ったが上手くいって驚いてる。驚きと旨さのあまりに2人になっちまいそうだ」
轟
「変わった例え方だな。誰かと共有したいってことか?」
精
「悪い、伝わると思ってないネタだから気にしないでくれ」
いくら自分の中で面白いと思っていても人に伝わらなければご覧の有り様だ。だからお前も気をつけろよ緑谷。オールマイトネタってメジャーな奴しか通じないぞ。
轟
「……燈矢兄にも食わせてやりたかったな」
いきなりぶっこんで来るんじゃない。この時間帯の男子二人きりの会話はもっと馬鹿々々しくて、どんなに重くても勉強についてにしてもらいたい。だが、俺はガッツリ轟家の地獄に関わった以上、茶化した対応をすることは出来ない。俺はマジな顔をして、目を瞑りながらあきらめ気味に言葉を絞り出す。
精
「……緑谷にレシピは残しておくが、これと同じものができるかは保証出来ねえ」
轟
「……燈矢兄が帰って来るよりもお前が帰る方が早いだろうからな。無茶言って悪かった。いくら何でもお前に頼りすぎだった」
イケメンは憂いてる顔もイケメンだ、とか考えている場合ではない。このまま重い空気で行くとそばがきの味が分からなくなってしまう。何とかいい方向に舵を切らないと。
精
「まあ、お前がこの味に到達するまで面倒見てやるよ。そのためにも平和な世界にしねえとな。そうなれば冬美さんにももっと簡単い簡単に会いに行けるし」
轟
「そういや明日はお前が家守の担当だったな。このそばがき作ってやってくれねえか? 姉さんも夏兄もお母さんも喜ぶと思う」
あたぼうよ、と笑いながらサムズアップする。それを見て轟の頬も気持ち緩んだように見えた。
轟
「前から思っていたが……お前って不思議な奴だよな。なんつーか、軽薄さと真摯さの落差が激しすぎる」
精
「それ言ったらおめーのイケメンさと天然さの落差が激しすぎるぜ? 生粋のレディーキラーだろ」
轟
「俺は女性どころか誰も殺したことねえぞ?」
こういうところだよ。素でこれだから質が悪い。悪女に引っかかって壮絶な恋愛してしまえ。そんでその悪女と結婚して子供作って、絶世の美男か美女の子供を授かって幸せな家庭を作ってしまえ。
轟
「ああ。親父みてえにならねえようにいい家族を作ってみせる」
精
「良い家族の作り方が知りたくなったらいつでも俺に聞いてくれ。交際関係のいろはや妊活で重要な事、育児のあれこれも教えてやるぜ」
轟
「そん時までお前が居てくれたら頼るかもしれねえな」
精
「今後ともご贔屓に……じゃあな、ロゼショット」
ということで翌日、俺は轟家で皆様にそばがきを振舞った。
夏さん
「緑谷くんはこんな洒落たものまで作れるのか……」
冬美さん
「お蕎麦の香りがふわってきて、ふわふわでおつゆとの相性バッチリだね!」
冷さん
「とってもおいしいわ。是非とも炎司さんにも食べさせてあげたいわ」
こちらでも好評のようでよかった。エンデヴァーの奴にも食わせてやりたいのは俺も同じだが、如何せん予定が噛み合わない。そばがきは作り立てが一番美味で、一分どころか一秒ごとにマズくなる。
精
「うーん……エンデヴァーの好きなものって何です?」
夏さん・冬美さん・冷さん
「葛餅だな」「葛餅だね」「葛餅よ」
ジェットストリーム葛餅だ。そんなに葛餅が好きだったのかエンデヴァー。蕎麦のストックの横に本葛粉があった理由が分かった。葛餅は生の和菓子だからそこまで日持ちするわけではないが、今日作って明日持っていくぐらいは問題ないだろう。折角だからここにいる皆で作りましょうと言う流れにしよう。
精
「ということで~轟家六十分クッキング~! 今日は葛餅を作っていこうと思います!」
冬美さん
「皆でお料理か~! いいね!」
夏さん
「……スマホで確認したけどそれぐらいかかるんだね……」
冷さん
「ふふ、お母さん力を見せつけちゃおうかしら?」
皆乗り気なようでよかった。早速みんなで台所に立ち、手を洗ってから器具を準備する。大きな家だから大きな台所で4人同時に作るのも可能だ。
精
「素材とレシピが共通なので作り比べましょう。エンデヴァーの家族愛を試してやる」
夏さん
「そこまで料理してきたわけじゃないからなあ……でも、料理ができる男は頼りになるだろうからな!」
冬美さん
「ふふふ……最近の轟家の食卓を支えてきた実力を見せちゃうよ!」
冷さん
「だったら私は昔から轟家の食卓を支えていた実力を見せちゃうわ」
それぞれの意気込みを表明した所で四者四様の葛餅を作っていく。葛粉と砂糖を鍋に入れて混ぜ合わせて、中火かけ鍋の底をかき混ぜていく。ある程度塊ができたら火からおろして、全体が滑らかな乳白色になるまでかき混ぜる。
精
「ダマにならないように混ぜるのはココアで手慣れたもんだぜ」
夏さん
「緑谷くんが簡単にやってるからって舐めてたわ……結構ムズイ……」
冬美さん
「夏くんもまだまだだね~? そんなんじゃ彼女さんにがっかりされちゃうぞ~?」
冷さん
「昔炎司さんに作った時を思い出すわ。文字通り顔から火を出していたのが懐かしいわ」
この夫婦にも微笑ましい時期があったことに安堵する。それと同時にそれを守らなかったエンデヴァーに────いや、今はそういう感情を出す時じゃない。変わりつつあるのだから黙って見守るべきだ。素ができたら型に入れて平らに均し、中火で約20分蒸す。できるまでに4つタッパーを準備しA,B,C,Dと識別コードを割り当てる。Aが冷さん、Bが夏さん、Cが冬美さん、Dが俺となり、それぞれの葛餅をそれぞれのタッパーに詰める。冷えたら完成だ。早速みんなで試食してみる。
精
「うーん……これは驚きの出来だな。冷さんのを当てることが出来なければ、きっちり冷さんに絞ってもらいましょう」
冷さん
「そうね。少し難しいけれど、あの人に限ってまさか間違えるなんてことは無いでしょうから」
夏さん
「こ、こええよ母さん……せっかくの葛餅が凍っちまうよ……」
冬美さん
「結構難しいけれど……できれば私のも当ててほしいなあ」
黒蜜まで皆で手作りにしたら流石に分かりやす過ぎたため、黒蜜は俺が担当することにした。そして翌日、仕事前にどうぞとエンデヴァーに差し出した。説明をしたらエンデヴァーは軽く笑って余裕そうに炎を出した。
エンデヴァー
「俺が冷の葛餅を間違えるわけないだろう」
焦凍
「折角だから俺も食いてえ」
ひょっと出てきた焦凍も参戦して食べ比べが始まった。焦凍は気楽にうめえうめえ言いながら食べているが、エンデヴァーは冷や汗だらだらになっていた。次第に炎が上がって、汗が蒸発して人間サウナになっていた。
エンデヴァー
「……BとCは分かった。AとDだが……どちらだ……いや待て、確か黒蜜は緑谷の手作りと言っていたから……」
焦凍
「早くしねえと仕事の時間になるぞ親父」
息子に急かされ覚悟が決まったように炎が巻き上がる。それではエンデヴァーの講評を聞いていただこう。
エンデヴァー
「まずBは夏雄だ。少しだまっぽくて不慣れな感じが出ている。次にCは冬美だ。お手本のような仕上がりで文句のつけようがない。最後にAとDだが……俺好みの食感だったが、全く同じで差がなかった。ただ、Dの方が葛餅自体が甘く、少し塩気のある黒蜜と合っていた」
精
「つまり、Dが冷さんの葛餅だと?」
エンデヴァーがフッと笑い。目を瞑った。
エンデヴァー
「俺の舌はごまかせないぞ緑谷?
精
「ブラボー、ブラボー。さすがはエンデヴァー……完全正解だ」
俺は拍手をして称賛を送る。俺と冷さんの葛餅の差は本当に俺の黒蜜と合うかどうかしかなかった。故に俺の手作りの黒蜜にしたのだ。これが市販の黒蜜だったら二分の一のギャンブルになってしまいかねなかった。だから手作りの黒蜜にする必要があったんですね。
エンデヴァー
「冷に勝るとも劣らない葛餅だった。ぜひまた作ってくれ」
精
「今後ともご贔屓に……それじゃあ、仕事に行きますか」
とある平日の午後9時、俺はとある人物を部屋に呼びだした。ゴンゴンゴンとやや乱雑なノックオンが響く。それだけで誰か分かったが、念のために確認をしておく。ドアの前に立ち一つの質問をする。
精
「合言葉を言え」
???
「帰るぞ」
精
「正解だ」
ガチャリと開けた扉の前には黒地に"AJI FRY"とデザインが施されたオシャンティーなシャツを着た爆豪が立っていた。
爆豪
「こんな時間に呼び出すたァいい度胸じゃねェか。くだらねェ話だったら殺す」
精
「結構重要な話だ。ただで聞いてもらうつもりはない。俺のとっておきの一杯をご馳走してやる」
爆豪
「こんな甘ったりィ匂いプンプンさせて何出すつもりだ?」
精
「とりあえず、入って、どうぞ」
爆豪をベッドに座らせて、事前に練っておいたココアにお湯を入れる。濃厚でビターなカカオの香りと、部屋に漂う
精
「ほら、俺の特製ココアだ。温まるぜ?」
爆豪は軽く舌打ちをしながらコップをかっさらい、軽くフーフーと冷ましてから一口飲んだ。
爆豪
「……無塩バター入れてんな?」
精
「流石センスマン。味覚まで繊細だ」
爆豪
「香りで分かるわ。それに牛乳が入ってねェのにこのコクが出るとしたらそれしかねェ」
精
「気に入った?」
爆豪
「……今までてめェが振舞ってきたものの中で一番マシだな」
相変わらず素直じゃない爆豪だ。だからこそ、今からする話を聞かせるに値する。俺は爆豪の左に座り、ココアを一啜りしてから爆豪に話しかける。
精
「なあ爆豪。もしお前から見て俺が間違った道に進もうとしていたら……殴ってでも止めてほしいんだ」
爆豪
「じゃあ今からでも殴ってやろうか?」
精
「どうぞ」
"危機感知"が反応したので口から"黒鞭"を出す。爆豪の左の裏拳が見えたので巻き付けて止めた。爆豪はココアを一啜りしてからわざとらしく舌打ちをした。
爆豪
「……はっきり言っててめェは
珍しく爆豪が緑谷について話しだそうとしている。俺は黙って耳を傾けることにした。
爆豪
「……アイツは"無個性"だったから俺より遥か後ろにいるはずなのに、俺より遥か先にいるような気がしたんだ。嫌で、見たくなくて、認めたくなくて、だから遠ざけたくて虐めてたんだ」
自分と異なるものを排斥しようとする、それは俺の故郷で嫌というほど見てきたことだ。決して認めてはいけない事なのに、受け入れてしまっている自分がいた。
精
「……道徳的観点を考えなければ人間として当然のことだ」
爆豪
「ヒーローっぽくねェ癖にヒーローっぽいことを成し遂げちまう────てめェには出久に通じる何かがあるんだ。だから、俺はてめェが間違ってると思いたい……今殴った理由はそれだ」
精
「相変わらず屑畜生ゲロゴミカスクソ下水煮込みだなお前」
爆豪
「だが、止められちまった……つーことは、いざとなったらてめェを止めることができねェっつーことだ」
そこで爆豪が一息ついてから、一気にココアを飲み干した。
爆豪
「──────だからてめェを超えて一番になってやる」
俺も応えるようにココアを一気飲みした。
精
「──────だったら元の世界に戻るまで一番で居続けてやる」
良い関係になるというのは手を繋いで笑い合うということとは限らない。時にはぶつかり合い、高めあっていくのもいい関係と言えるだろう。この時を以って、俺は爆豪といい関係になれたと思った。爆豪が1つあくびをして立ち上がった。
爆豪
「体が温まって眠くなっちまった……今まで飲んだココアの中で一番旨かった、ご馳走さん」
精
「気が向いたらまた作ってやるよ。何だったらインターン中に限っていつでも飲めるようにしてやろうか?」
爆豪
「アレは日常的に飲めたモンじゃねえ。ここぞという時の一杯だろ?」
精
「バレてたか……ま、今後ともご贔屓に……じゃあな、爆豪」
日記帳を閉じて思い耽る。
精
「色々あったなあ……轟家も良い家族に向かっていってるみたいだし、俺の手伝いも次第にいらなくなっていくだろうな……お前がストッパーになってくれるなら、俺も心置きなく『やりたいようにやる』ことが出来るからな。頼んだぜ、爆豪」
この日記帳の中身ももっと面白くなっていくだろう。俺の青春はまだまだ続いていく。