抜きゲーみたいな島に住んでいた狂犬はヒロアカ主人公に憑依したらどうすればいいんだ? 作:神剣狩刃
退院後の学校生活での俺は実に迷走していた。
実
「なあ、緑谷」
精
「あ゛?」
実
「な、なんだよ……虫の居所が胃の中に行っちまったか?」
精
「ああ……悪い。大体そんなところだ。必要以上に話しかけないでくれ……」
澤先
「緑谷、ちょっといいか?」
精
「あ゛? ……ああ、澤先でしたか。すみません、ちょっと気が立っていて……」
澤先
「……お前のツラで凄まれると人によっては話せなくなる。気をつけるように」
お茶子ちゃん
「ねえデクくん……」
精
「あ゛? ……ごめんお茶子ちゃん、内容によっては話せる状況じゃないかも」
お茶子ちゃん
「ああ、うん、大したことじゃないから……なんか、ごめんね……」
どんな人から話しかけられてもこんな感じだった。
精
「ズズッ、ジュルルル、ずいーぴしゃぴしゃ……もちゃもちゃ、かっちゃぽっちゃ……」
飯田
「緑谷くん……平皿を持って音を立てながらスープを飲むのは流石に良くないと思うぞ?」
轟
「それに口開けて噛むな。うるせえぞ」
精
「悪ぃ、お前に殴られた頬が痛いんでな」
轟
「っ……てめぇ……」
食堂では全てのマナーに違反をしていた。
青山
「……緑谷くん?☆失礼してもいいかい?☆」
精
「今夜はずっと今取り込み中だ。日を改めてくれ」
青山
「そ、そうかい……何か困りごとがあったら何でも相談してくれよ☆」
寮では誰とも会話せずに一人部屋に閉じこもっていた。ベッドに突っ伏して菜奈さんがやって来るのを待つ。
菜奈さん
「いつまでこうしているつもりだ……? 早く出て行かないと君の心が持たないだろう……?」
精
「……準備が出来たらすぐにでも出て行きますよ。それに、辛い事ばかりじゃありません」
こんな生活でも楽しみが一つあった。放課後に開発科の工房に行くことだ。
精
「ヒーロー科の緑谷でーす。明ちゃん居ますかー?」
爆発で返事をされ、煙の中から明ちゃんが現れる。
明ちゃん
「これは緑谷さん! コスチュームの改良はもう少しでできそうですよ!」
パワ先
「しかし随分なデザイン変更だね……こんな目がチカチカするデザインは見たことがないよ」
明ちゃん
「私でも思いつかないデザインです! 何せ気持ち悪いですからね! センスを疑います!」
この歯に衣を着せぬ率直な言葉の数々が、俺のことを何も考えてなくてありがたい。今の俺は下手に心配されたくないのだ。
精
「それよりも明ちゃん、風呂キャンはどれだけ長くても2日にした方がいいよ?」
明ちゃん
「女性の入浴関連の時間は長いんです! そんな時間があったらベイビーを作りたいです!」
ある意味ベイビー作りも入浴関連の時間に含まれると思うが、そのベイビー作りをさせてしまっているのは俺だから文句は言えない。
精
「ベイビー作り終わったらお風呂入るんだよ? あんまりにも酷かったらお風呂に沈めるからね?」
明ちゃん
「緑谷さんが入浴を手伝ってくれるんですか!?」
パワ先
「今の言い方からそうやって捕らえられるのはお前だけだよ。まあ、いつかそうなる日が来るかもしれねえな」
俺のコスチュームが完成したらその日はしばらく訪れないし、訪れたとしても俺ではなく本来の緑谷がやることになるだろう。サプライズプレゼントに丁度いい。
菜奈さん
「あの新たなコスチュームと共に雄英を去るということか……」
精
「俺の最後がアレになるのはちょっと不服ですが、アレなら誰も緑谷出久が着ているなんて思いませんから」
菜奈さん
「……君はどこまでも孤独なのだな」
精
「俺はこの世界の人間ではないので」
そしてついに俺の新コスチュームが出来た。SWAT部隊の戦闘服ベースなのは変わらないが首元は黄色、腕は青、胴は白、背中は青、脚は黄色、足先は白と非常に鮮やかだ。その上、顔を覆うフルフェイスヘルメットが目を引く。赤色の嘴が生えており、頭頂部は青、側部は白、下半分は黄色、頬は桃色、何よりこの世を馬鹿にしたかのような縦長の目がキモい。
精
「改めてみるとすっげえキモいデザインだな……まあ、デフォルメした幸せの青い鳥ってことにすればギリ通るか」
工房で試着する。ピッタリでありながらも動きを邪魔することがなく、完璧と言ってもめちゃ過言ではなかった。
明ちゃん
「目を瞑ればいいデザインですね!」
精
『それって褒めてないよね』
パワ先
「変声機能もばっちりだな。心操のコスと違って電子でいいから楽でいいが、ホントにそのふざけたような声でいいのか?」
精
『問題ないです』
これで巣立ちの準備はできた。俺は寮の自室に戻って別れの書置きを書き上げ、深夜の共有スペースのテーブルに張り付けた。
精
『────────行くぞ、
雄英高校の門から、一羽の青い鳥が駆けていった。
とりあえず人目を避けるように、雄英から離れるように移動する。
六代目
(ヘイヘイヘイ九代目! 当てもなくさまようつもりか!?)
精
(俺
五代目
(オイオイオイ旦那ァ! その調子で元に戻せるのか────)
闇の中で"危機感知"が走る。左斜め前方で誰かが危害を加えようとしている。ソナーで位置を把握し、開いた嘴から"黒鞭"を放ち捕らえて引き寄せる。
敵A
「おおお!?」
右手に刃物を持った男が慌てている。只の通り魔のようだ。
敵A
「な、なんだよお前!?」
何だよお前と聞かれたので、俺は事前に考えておいた口上を発する。
精
『本来なら名乗る名もパコる間も無いハメが……弔鐘と初潮の代わりに聞かせてやるハメ』
俺は羽ばたく様に両手を上げて威嚇する。
精
『僕はSHO公式マスコットキャラクターのハメドリくんだハメ!』
コイツの目にはオシドリをモチーフにした青くて気持ち悪い鳥が映っている事だろう。その証拠に口を開けてぽかんと驚いている。
精
『ということで悪い子にはお仕置きハメ! 僕の手羽先を喰らうハメ!』
敵に青い鉄拳制裁を咥えさせて地面におねんねさせる。そしてヘルメットを脱ぎ、ナイフを黒鞭で器用に操って俺の髪を切り落としていく。
初代
(何をしているんだい?)
精
(この髪でうろついていたらすぐに緑谷出久って分かりますからね。それに敵に襲われて髪を台無しにされたと言えば床屋、じゃなくて理髪店で同情してもらえるでしょう)
と言っても同情でしてもらえるのは割引が精々だろう。それにこれからの生活費も欲しい。ナイフを敵の手に握らせながら、敵の体をまさぐり財布を探し当て万札を一枚抜き取った。
四代目
(おい。ものすごい犯罪行為じゃないか)
精
(通報しないでここに放置してやる口止め料ですよ。夜に未成年を襲って髪を乱した……警察に捕まったら何も言い訳できません)
悪事をするなら悪事をされても文句を言えないはずだ。とりあえず1万もあれば数日凌ぐには十分すぎるだろう。ヘルメットを被り直し、朝焼けが顔を出すまで駆け抜けた。ぶっ通しでOFASで跳び走った甲斐もあり、雄英高校からかなり離れることが出来たはずだ。素顔を露にしコンビニに入る。
男性店員
「
前の職場が飲食店であったであろう店員のやる気のない挨拶が響く。コスチュームで入ってきた俺に目もくれず商品整理をしている。俺はカゴを持って品定めをし、水と日持ちする食料をそれなりに入れてレジに向かい店員を呼び出した。
男性店員
「レジ袋含めて合計4545円になります。ポイントカードやクーポンはお持ちですか?」
精
「ないです」
男性店員
「お支払方法は?」
精
「
男性店員
「ぶふぉ! くっ、しょ、少々お待ちください……くくっ……」
精
「それと、近くに理髪店ってありますか?」
男性店員
「そ、それなら俺のママが理髪店やってますよ。もうすぐシフト終わるんで案内しましょうか?」
精
「それじゃあお願いします」
店を出て待っていると、上下紺色の芋ジャージを着たモブ顔の男性店員がやってきた。
男性
「お待たせしました。それでは案内を開始します」
とくにツッコまれることなく案内される。これなら素顔で歩いても緑谷出久やω-99とバレる心配は問題ないだろう。早速その床屋目指す。
男性
「興味本位で聞きますが、どうして俺に理髪店の場所を聞いたんですか?」
精
「コンビニエンスな店だからですかね」
舞
「良い返しですね。あ、俺の名前は千波刃舞って言います
精
「俺は……土口精って言います。土に口に米偏に青の精です」
他愛もない会話をしながら進んだら『くっくどぅるどぅるどぅー』という、鶏の看板と従業員いつでも募集中!という張り紙が目立つ理髪店があった。朝の5時から開店という、これが売りなのだろうという特徴があった。早速ドアを開けるとシャラランと洒落たベルが鳴った。
女店主
「んあ……? ああ、いらっしゃい」
客の待合席で漫画を読んでいた女店主が頭をかきながら俺の方を向く。所々枝毛が目立つ茶髪のロングで、赤縁の丸眼鏡をかけ、タレ目の糸目で、左目尻にドエロイほくろがあり、上下赤の芋っぽいジャージを着て、ボンキュッボンのナイスボディーの店主だ。
精
「うお……めっちゃ美人……」
舞
「ママ、ただいまー。お客さん連れてきたよ」
女店主
「よくやった舞……ん? よく見たらガキじゃないか。自分で髪切って失敗したのかい?」
精
「え、あ、はい……そんな感じです……」
女店主がくつくつと笑う。
士
「お年頃だねえ。アタシは
精
「土口精、です。土に口に米偏に青です」
士
「精だな? そこまでひどく失敗したら坊主にするしかないね」
精
「それでいいです」
士
「ウチは先払いでね。ガキだろうが大人だろうが一律1200円だ。早く出しな」
言われた通りの代金を士さんに手渡す。渡した代金が雑にポケットにしまわれ、士さんが立ち上がり大きな伸びを一つした。胸が揺れてスゴイ。
士
「へっ、年頃のガキらしい反応だな。早く席に座んな」
案内されるままに席に着き、散髪の準備で色々巻かれる。
士
「……舞、コレ頼む」
舞
「……了解」
士さんが右の親指と人差指を銃のように舞に見せつけた。この店特有のサインだろうか────そう思っていると舞が営業中の札をひっくり返し、店の入り口に鍵をかけた。
士
「──────これで大丈夫だ。真実を話しな」
精
「え……?」
士
「何が髪切るのに失敗しただ。この切られ方は
マジでプロだこの人。多分隠し事をしても間違いなくバレるだろう。俺はここに至るまでの経歴全てを話した。
精
「……だから数日間どうにか凌ぎたいんです。そのためのカモフラージュとして坊主にしたいんです」
士さんと舞が顔を見合わせる。こんな無茶苦茶な話をしておいて信じるわけないだろう。信じたとしても雄英に連絡をされて──────
士
「んじゃ店の手伝いと舞の話し相手をしてくれ。そうしたら衣食住の保証はしてやる」
精
「え?」
舞
「ついでに遊び相手もお願いしたいな。格ゲーは隣にいる相手とやるのが面白いんだよね」
俺にとっては非常にありがたいことだが、この親子もしかしてヤバいんじゃないか? 流石に真意を聞きたい。
精
「何でそこまでしてくれるんですか?」
士
「何でって言われても……なあ?」
舞
「人ととして当然っていうか……ねえ?」
二人で顔を見合わせて困っている。俺には2人が言語化できない何かがなんとなくわかった。
精
「……
舞・士
「「そう、それ」」
二人同時に俺の発言に指を差して頷いた。コレを素でやれるような人間が悪人なはずがない。悪人であって裏切られたとしても、責める気になれない。俺は2人を信じることにした。
精
「……お願いします」
俺の言葉に士さんがにっこりと笑った。バリカンの音が鳴り響き、俺の髪を刈り上げていく。かつて共に脱獄を果たした彼のような坊主頭になり、自然と右手を首に当てて首をかしげた。
舞
「昔やったエロゲの主人公みたいな立ち姿だ。つーか、そのコスチュームも昔やったエロゲのマスコットっぽい色合いしてんな」
士
「人様の姿をエロゲで例えるんじゃないの。それにしても昔友達が描いた坊主同士のBLの主人公そっくりね。アンタがモデルだったんじゃない?」
舞
「ママも二言目にBLを持ち出してるじゃんね? 人間って未知の存在を見ると既知の物に当てはめようとするからしょうがないか」
こうして、何所か不思議な千波刃家でこの世界に土口精としていられる最後の一幕が始まろうとしていた。