抜きゲーみたいな島に住んでいた狂犬はヒロアカ主人公に憑依したらどうすればいいんだ? 作:神剣狩刃
緑谷くんの中の人こと土口さんが雄英を去ったことが判明した日の夜、特にこれといった情報もなくもどかしくなるばかりだった。しかし、どこか嫌な静寂をを打ち砕くようなことが起きた。ベッドの上で眠りに着こうとした頃、僕のスマホにかかってくるはずのない番号から電話がかかってきた。僕は本能的な恐怖から即座に出てしまった。
???
『久しぶりだね優雅くん』
声は違うがその威圧感は何も変わっていなかった。僕は万が一聞かれていてもいいように言葉を選んで返事をした。
青山
「お、お久しぶりです。
死んだはずの叔父さまこと、AFOから電話が来た。
AFO
『いろいろ忙しくて連絡が取れなくてごめんね。
この質問の意味は変わったことが起きていないかどうかを聞いている。緑谷くんが雄英を去っているという変わったことが起きている真っ最中だ。嘘を突いたらパパンやママンが殺されてしまうかもしれない。だからといって、緑谷くんがいなくなったことを悟られる訳にもいかない。
青山
「ちょ、ちょっとお腹が痛いですね……」
何かが起きていることは伝えたが、何が起きているかは伝えてなかった。すると、AFOはその詳細を聞いてきた。
AFO
『それは大変だ。どんな風に痛いんだい?』
この追及をはぐらかしたらどうなるか。言うまでもなくパパンとママンが殺されるだろう。そんなの絶対に嫌だ。そもそも僕は一度皆を裏切っている。それに緑谷くんだって『やりたいようにやる』を心に抱けと言っていた。なら僕はパパンとママンを守るために緑谷くんを──────
緑谷
『雄英生活を楽しみな』
彼の残した言葉を都合のいいように解釈して、自分を正当化して、ここでまた裏切って、彼や皆を陥れて、それでも仕方がないと慰められて、また許すからと言われて、楽しんで生活することが出来るのか──────できるわけがない。
青山
「それは言えません」
裏切れるものか。僕を許してくれた彼や皆を裏切ってでも生き延びる、そんなことは絶対にしたくない。だから沈黙を貫く。
AFO
『どうしても言えないのかい?』
青山
「どうしても言えません。例え何を失うことになっても」
電話の向こうでAFOが静かに笑いだす。
AFO
『そうかい。それなら君の家族を────』
???
『そこまでだAFO』
電話越しにガタリバシリと物音がした。誰かがスマホを取り上げ代わったようだ。
???
『もしもし? 我だが』
この喋り方は以前に緑谷くんが前にスマホで聞かせてくれた気がする。
青山
「えっと……九玉さん、でしょうか……?」
九玉
『ああ、その通りだ。雄英生と連絡が取れるからと体を貸してやったのだが……気分を害したなら我が謝ろう』
確かにAFOなら僕のスマホの番号ぐらい知っているだろう。しかし、何が起きているのか全く分からない。なんでAFOから九玉さんに変わったんだ? しかも、あの死柄木の声で喋っている。そもそもAFOは神野区で九玉さんに殺されているはず。
九玉
『とりあえず、我がお前に連絡を取った理由は一つだ。緑谷、いや、土口はどうしている?』
緑谷くんの中に入っている土口さんがこの世界に来た原因はこの九玉さんだ。九玉さんがどんな人なのかは分からないけど、この人の協力がないと土口さんが元に戻れないのは分かっている。しかし、雄英を去っていったと伝えるわけにはいかない。慎重に言葉を選ばないと。
青山
「えー……風邪で寝込んでいます。本人から面会謝絶を言い渡されるぐらいです」
九玉
『…………そうか。先のAFOとの会話から察するに、それなりに重い風邪に罹ったのだな。お大事にと伝えておいてくれるとありがたい』
青山
「分かりました。土口さんにも九玉さんが心配していると伝えておきます」
九玉
『それともう一つ……これからはAFOに怯えなくてよい。奴が何かしようとしたら我が全力で止める。我と土口の架け橋になるのだから。それぐらいの見返りはあってもよいだろう』
僕が聞いた限りだけど、九玉さんは悪意を持った声をしていない。こう思ったら不用心にもほどがあると言われそうだけど、九玉さんは根っからの悪人ではないのかもしれない。やっていることは悪いことかもしれないけど、自分の正義を信じてやっていった結果が敵に見えているだけで、本質的な部分は
青山
「ありがとうございます。では、失礼します」
電話を切って少し考える。AFOや九玉さんから連絡が来たことを皆に伝えるのは当然だ。それよりもなぜこのタイミングで聞いてきたのだろう? 土口さんが深夜に出て行ったとして、24時間経ったかどうかぐらいだ。でも、それを知っていたらもう少し踏み入った質問をしてきてもおかしくないはずだ。
青山
「……彼だったら分かるのかな」
僕の頭で考えてもどうしようもなかった。だから朝一で皆で話し合って答えを考える事にした。
翌朝、共有スペースで情報交換をする。AFOと九玉さんからの連絡があったことを伝えるとみんながざわざわしだした。
葉隠
「大丈夫青山くん!?」
切島
「家族は無事か!? つーかお前自身に何かされたり────」
爆豪
「うるせェんだよてめェら! 連絡が来た意味を考えさせろや!」
それを牽制するように爆豪くんが一喝した。口ではこう言っているけれど、真剣に考えてくれるあたり彼もかなり変わっているのだろう。僕はスマホの通話を皆に聞かせた。すると爆豪くんが口元に手を当てて考え出した。
爆豪
「死んだはずの顔金玉からの連絡、声は死柄木、近くに九玉、その九玉はエロ金髪が今どうなってるか知らねえ……」
らしくもなくブツブツ呟きながら考えている。
砂藤
「ふと思たんだがよ……元に戻るために出て行ったんなら、九玉と会う段取りも決まってるはずじゃねえか?」
上鳴
「そうだぜ! アイツは九玉の理チャンネルの登録者だし、九玉さんのSNSアカウントも知ってるからDMで連絡取れるはずだぜ!」
飯田
「となると、九玉さんにも何も言わずに出て行った可能性が高いな」
麗日
「そういえば開発科の人が言っていたけど、発目ちゃんがデクくんの新しいコスチュームを作ってたって言ってた!」
梅雨ちゃん
「これから雄英を去るっていう時に作るとは考えにくいわ。ただ元の世界に戻るにしては不自然な行動が多すぎるわね」
土口さんの不可解な行動の数々が明らかになっていく。
爆豪
「まだ情報が足りねェ。アイツの部屋を調べてェが、今からじゃ時間が足りねェ。放課後に調べるぞ」
ということで放課後に皆で彼の部屋を捜索する。以前部屋王で見た家具と変わらないが、気品漂う甘い匂いが不本意に心に安らぎをもたらす。
瀬呂
「うおっこれが男子の部屋の匂いか……?」
口田
「いい匂いのもとはコレだったんだね……」
峰田
「それどころじゃねえだろ! クローゼットとベットの下探せ! アイツのエログッズ引き出すぞ!」
八百万
「サイテーですわと言いたいですが……あの出久さんならそういうものに隠しかねませんね」
障子
「なら俺が隅々まで探そう。探し物は得意だからな」
障子くんが"複製腕"で部屋の隅々まで探し、色々な物を赤裸々に並べた。
尾白
「スマホ、本来の緑谷のために残した日記帳、画材、旧コスチューム……」
常闇
「
一部の人は見ていられないと目を背けているけれど、爆豪くんやを始めとした何人かは発掘されたものを片っ端から調べていった。けれど、土口さんの意図が分かるようなものは見つからなかった。最後に残ったのは12桁の数字でロックがかかっているスマホとPCだけだった。
轟
「アイツが番号にしそうな物って何だ……? 12桁ってなると中々思いつかねえな……」
耳郎
「うーん……0P000529じゃちょっと足りないしなあ……」
芦戸
「あれじゃない?
皆が一斉に峰田くんの方を見る。峰田くんは少し考えて、頭のもぎもぎを弾いてにやりと笑った。
峰田
「オイラが思いつきそうな12桁なんてこれしかねえだろ。
数字の意味は考えないとしてスマホのデータを確認する。九玉さんからの不在着信とメッセージが何件か届いていたため確認してみる。
九玉
『風邪をひいたらしいな。大丈夫か? このメッセージを見たら適当に連絡してほしい』
僕と電話をした昨日の夜に送られているメッセージだ。あまり返信が遅いと雄英を去っていったことが悟られてしまうかもしれないから適当に返信しよう。
緑谷
『まじつらいしばらくれんらくできない』
これで問題ないだろう。改めてデータを探っていくと、『PCのパスはスマホと一緒』というメモが見つかった。その通りにPCに入力するとメイド服を着た1-Aガールズの壁紙がお出迎えしてくれた。
峰田
「うっひょー! これの裸差分探そうぜ!」
上鳴
「それどころじゃねえだろ! 手掛かり探さねえと!」
爆豪
「その心意気は買うがてめェの電気でPCがトんだら一発アウトだ。引っ込んでろ」
爆豪くんが先陣を切ってPCのデータを漁っていく。凄まじい量の画像データが入っているが、ほとんどが成人向けの絵の類だ。何か手掛かりになりそうなものはないか──────緑谷へと書かれたメモを見つけた。
『画像データを全部消しておけ。誤解されるぞ』
それはそうだろうとしか言えないものでしかなかっ──────
爆豪
「スクロールバー的にまだ何か書いてある」
そうして下にスクロールすると再び文章が現れた。
『これに気付いた奴が緑谷だったらこれより先は読まなくていい。それ以外の奴も緑谷出久にお前は誰だと聞いて、緑谷出久と返ってきたら読まなくていい。それ以外だったらこの先を読んでくれ』
その先にはすさまじい数の数字が並んでいた。何かを表している暗号だろうか。
爆豪
「文字コードか。相変わらずまどろっこしいことしやがる」
爆豪くんの言葉通りに変換したら文章が現れた。
『まさかここまで辿り着けるとはね。多分爆豪とか轟辺りが言い出したんじゃないかな? ここまで来たご褒美に真実を教えよう。元の世界に戻るために九玉さんの力が必要なのはご存じだと思うけど、本物の九玉さんは死柄木の体の中にいる。しかも、同時に
P.S こっから先は何もないから本当に何もしなくていいからね』
この文章を見て僕達は唖然とした。あの書置きを見て僕達が何をするか、土口さんには簡単に予測できたようだ。口に何かが重苦しく纏わりつき、誰も何も言えなくなってしまった。もはやこれまでとしか言えないような絶望感が押し寄せる。そんな中、緑谷くんのスマホに一件の通知が入った。九玉の理チャンネルに『【重大告知!!】視聴者参加型企画!! 【皆の街に九玉が!!】』という動画が投稿されたようだ。その動画を再生する。
九玉
『我だ。九玉だ。タイトル通りこれから視聴者参加型企画の説明を始める。これまたタイトル通りなのだが、皆の街に我が行こうと思う。我のメンバーの中に"分身を生み出せる"者がいて、それを利用して視聴者リスナーの皆に会おうと思っている。どんな辺境の地にも行くつもりだ』
強大な力を持った敵が全国各地に現れる、普通の敵だったらヒーローが頭を抱える案件だろう。しかし、九玉さんは比較的話の分かる敵だから──────
九玉
『そしてその場で破壊活動を行う。我に街を壊してもらえるなんて幸せだろう? 開始はこの動画が投稿された24時間後だ。運が良かったらカメラに映れるかもしれんな。では、皆と会えるのを楽しみにしているぞ』