抜きゲーみたいな島に住んでいた狂犬はヒロアカ主人公に憑依したらどうすればいいんだ?   作:神剣狩刃

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7-11 アリアドネの糸を掴むのは誰か

 死柄木の特訓が始まって数日、ついに死柄木は"世界移動"以外を我が物のように扱えるようになった。マキアが地に伏して泣いて喜び、我とAFOが心の中で拍手喝采するほどだ。

 

 死柄木

(ドクターがくれた"個性"に加えてお前の"個性"まで……マスターピースどころかお前の言う理になっちまったかもな)

 九玉

("個性"だけでは理になれぬ。それに伴った人間性や知性がなければただの魔王だ。魔王はいつか勇者に倒される)

 AFO

(これ以上ないディスリスペクトだね。この世の理が直々に僕を魔王と認めてくれて嬉しいよ。ただ、僕は君が勇者には見えないんだよね)

 九玉

(貴様がこうして生きている以上、我は貴様を倒してはいない。真の勇者が貴様を倒すだろう)

 

 死柄木から体を受け渡してもらい、スマホで理の会に連絡を入れる。

 

 死柄木(九玉)

「もしもし、我だ」

 九玉(分身)

『我か、我だ。次の企画が決まった。戻ってきてほしい』

 

 我からの連絡を受けマキアと共にアジトに戻る。緑谷を呼び出すために全国に我を展開するらしい。悪くない企画だが、それだけでは物足りない。大規模な企画なのだから、それに伴う結果が欲しい。

 

 筒美

「こっちにいたお前は"我が理の下に誰もが平等な未来"で"我の理が定めるヒーローと(ヴィラン)によって永遠の平和が紡がれる未来"って豪語していたぞ?」

 ホークス

「まさかですけど、この世の理を語っておいてできないなんてことはありませんよね?」

 

 ヒーロー2人から意見されると結構な圧を感じる。我め、かなり大きく出たな。だが我は理だ。無理難題を成してこそ真の理といえるだろう。

 

 死柄木

(前から思っていたんだが、お前って変な所で律儀だよな)

 九玉

(理が不義理を働くなどあってはならない)

 AFO

(君の決め台詞である『理不尽に~』はいいのかい?)

 九玉

(あれは相手にとっての理不尽であって、我にとっては力で制するという理通りだ)

 

 心の中から響くガヤを打ち返し策を考える。我が理となるためには、我が世界で一番強いということを証明しなければならない。権力や財力は強個性に伴って集まってくるから後回しでよい。では、我が強個性であることをどうやって証明するか。手っ取り早いのは─────

 

 死柄木(九玉)

「アメリカNo.1を倒す」

 

 天使が行進を始めたかのような静寂が訪れる。

 

 死柄木(九玉)

「聞こえなかったか? アメリカNo.1を倒す」

 筒美

「聞こえてるわ。正気かどうか判断してるんだよ」

 ホークス

「まともな発想ではないですけど、正気だとは思いますよ」

 トゥワイス

「流石ホークスは分かってるな! 元から理の会にいたみたいだぜ! この新参者が!」

 死柄木(九玉)

「そのヒーロー達への伝達役を頼みたい。今すぐ行ってきてくれ。そしてお前はそのままヒーローに戻って良いぞ」

 

 天使が往復してきた。

 

 死柄木(九玉)

「聞こえなかったか? ホークスを────」

 筒美

「聞こえてるわ。これでも正気だと思うかホークス?」

 ホークス

「……何を企んでいるんですか?」

 死柄木(九玉)

「現職の公安ヒーローを抱えていたらリスクでしかない。理の会の機密情報を手土産に帰れば歓迎されるだろう。何が欲しい? 我の中にAFOがいる事か? メンバーのスリーサイズか? それとも無修正の裸の映像でも────」

 ホークス

「真意を聞かせて欲しいですね」

 

 ホークスが我を取り囲むように羽根を突きつけてきた。皆がホークスを止めようと立ち上がったが、ホークスが何をしようと我への有効打にはならないのでまあまあと宥める。

 

 死柄木(九玉)

「我の理に必要な"ヒーロー"はお前ではない……お前には我の求める"ヒーロー"を呼び出す引き金になって欲しいのだ」

 ホークス

「俺がアメリカNo.1を呼び出せると思っているんですか?」

 死柄木(九玉)

「いや、我が求めるのは彼女ではない……緑谷出久だ。ただ、これを公に伝えると碌でもないことになるだろう。我の想像の範疇だが、民衆が九玉に差し出せと躍起になるのではないか?」

 

 ヒーローに頼り切った社会で民度は著しく落ちたと言っていいだろう。目の前に悪人がいてもヒーローに頼り、救いの手を差し伸べられてもヒーローに頼り、責任の所在さえもすべてヒーローに押し付ける。そんな者共が緑谷出久という我の望みを知ったらどうなるか。緑谷の事情関係なしに全てを押し付けるだろう。そうなるのは我、土口、緑谷の全員にとって都合が悪い。

 

 死柄木(九玉)

「お前がそうしたいというならしても構わないが……その時は理の会総出で貴様を殺し、そのまま愚民を殺してくれよう」

 ホークス

「……『殺す』なんてありきたりな発言ですが、可能な人間が言うととんでもない脅しになりますね」

 

 ホークスが苦虫を嚙み潰し飲み込んだ様な顔で羽を収め、アジトを去っていった。

 

 

 一同で手を振りホークスを見送ってから話を戻す。

 

 死柄木(九玉)

「それでは今回の企画の方針を確認しよう。我を全国に出没させ、アメリカNo.1を呼び寄せ、その裏でホークスに緑谷を連れてきてもらう。質問がある者は挙手してほしい」

 

 ハイハイとトガちゃんが元気よく挙手したので指名する。

 

 トガちゃん

「出久くんがきたらちうちうしても良いですか!?」

 死柄木(九玉)

「もちろんだ。トガちゃんはカアイイからな」

 マグネ

「だったらそのことも含めて緑谷くんに伝えた方が良いんじゃないかしら?」

 

 この作戦で重要なのは緑谷に秘密裏に来てもらうことだ。そのためには奴との連絡も取らねば────緑谷のスマホに電話をかけたが何故か出なかった。

 

 AFO

(雄英生と連絡を取りたいんだったら僕に任せてほしいな。確かな伝手(つて)があるんだ)

 

 此奴が何をしでかさないように、心の我と分身の我の2人で監視してAFOに体を託す。AFOと青山の連絡と『まじつらいしばらくれんらくでいない』というメッセージから察するに、緑谷は相当重症らしい。風邪をこじらせて死ぬこともあり得るので、どのような容態か"観測"で見るとしよう。

 

 死柄木(九玉)

「……どういうことだ?」

 

 緑谷の部屋に1-Aの生徒達が集まっているが、当の緑谷がいない。PCの画面に何か文章が映っているので注視する──────どうやら()()()()()()()()()()()姿()()()()()()()()()()ようだ。そのことを場にいる全員に伝えると、一同で顔を見合わせて頷いた。いつもの撮影部屋に移動し、コンプレスから即席の台本を渡され、軽く練習をしてから動画を撮影する。軽く編集をして、黒い背景に白文字でタイトルを書いたシンプルなサムネで投稿する。

 

 筒美

「……今思ったが、破壊活動のくだり必要だったか?」

 死柄木(九玉)

「必要だ。アレがなければ、潜んでいる悪党を炙り出せないだろう?」

 

 我とてただの破壊者になる心算はない。九玉という強大な敵が悪事を働くというのに便乗して、細かな悪事を働く不届き物が現れるだろう。それらを一網打尽するため、敢えて大事を起こす旨を発言した。

 

 スケプティック

「犯罪予告しておいて善人面をするつもりか?」

 死柄木(九玉)

「目先に囚われずに将来を見据えろ。我は偽善者ではなく理になるのだ。ヒーローではどうにもならない問題を解決する存在として、敵を認めさせるのだ」

 

 理の会我らがヒーロー達に並ぶ力と行動力を見せれば、ヒーロー達も我々の一挙手一投足に関心を向けざるを得ない。ヒーローと敵の共存のためには、我々の力を見せつけるのが一番だ。

 

 キュリオス

「それってマッチポンプじゃない?」

 死柄木(九玉)

「重要なのは過程ではなく結果だ。過程は結果に繋がるが、そもそも結果を出していなければ過程に意味はない」

 

 エンデヴァーがいい例だ。彼はNo.1に昇り詰めたが、自身の暴露で全てを非難された。彼に助けられた人々も皆こぞって彼に後ろ指を指しただろう。所詮、過程は結果の後付けにしかならない。

 

 死柄木(九玉)

「……この作戦には我々理の会の未来がかかっている。皆の力を貸してほしい。頼めるか?」

 

 皆が困ったような顔で笑う。

 

 スピナー

「こちとら何回も無茶に付き合わされてるんだ。頼まれなくたって力を貸すつもりだ」

 コンプレス

「一世一代のショウタイムになるだろうからね。全力でやらせてもらうよ」

 トゥワイス

「そもそもこの作戦は俺が居ないと成り立たないから強制参加だろ!? やってやるぜ! 嫌だね!」

 トガちゃん

「頑張って出久くんに会っていっぱいちうちうします! 楽しみです!」

 マグネ

「あらあら、緑谷くんも罪な男ね。でも、彼がこの作戦の鍵だというなら、私が引き寄せちゃうかもしれないわね?」

 ジェントル

「なるべく紳士的にいきたい所だが……いざとなったら少々手荒な真似も覚悟した方が良いかもしれないな」

 ラブラバ

「大丈夫よジェントル! 九玉さんや皆、何より私がいるわ!」

 キュリオス

「こうやって理の会が出来ていったのね……知りたくなかったわ、こんな真実」

 スケプティック

「郷に入っては郷に従えだ。従っているうちは高待遇だからな」

 筒美

「…………公安よりもヤバいことをしようとしているはずなのに、公安よりも希望が持てる……何故なのだろうな」

 

 まずは24時間の内に次のアジトに諸々を移すところから始めるとしよう。

 

 

 相澤

「緑谷が雄英から出て行きました」

 

 今日の朝の職員会議は相澤君の衝撃的な発言から始まった。

 

 山田

「ついに除籍になっちまったか! こりゃ笑えるぜ!」

 香山

「笑えないわよ。しばらく緑谷くんのマッサージとスイーツがおあずけになっちゃうじゃない」

 管*1

「となると……俺も物間を除籍処分する日が来たか」

 石山*2

「まさかあなたがそういうジョークを言うとは……意外なものですね」

 黒瀬*3

「しかし、何が原因で除籍になってしまったんでしょうね?」

 犬井*4

「アイツは女子生徒への色目が露骨だったからな……ついに手でも出したか?」

 エクトプラズム*5

「最近ノ彼ハ不安定ダッタカラナ……カウンセリングヲ行ウベキダッタナ……」

 根津*6

「……相澤くん。()()()()()()()()()()()()、なんだね?」

 

 根津校長の発言で職員室の空気が一気に引き締まった。相澤くんもいつも以上に真剣な顔で頷いている。

 

 相澤

「このような書置きを残していきました」

 

 なんとも言えないセンスの色のマーカーが引かれている書置きを読む。マーカーの所の三文字目を読むと、"轟動画見ろ何度も"と書いてある気がする。

 

 根津

「"轟動画見ろ何度も"……轟くんに見ろって指示する動画って何だろうね?」

 

 私は間違っていなかった。いや、安心している場合ではない。緑谷少年と轟少年を繋ぐ動画は一つしかない。

 

 八木

「おそらくこちらの動画かと思われます」

 

 九玉くんが投稿した『執行』という動画を提示する。九玉くんが敵を処刑するなんとも残酷な動画だ。

 

 相澤

「……待ってください。燈矢くんが殺されるシーンをもう一度いいですか?」

 

 相澤くんが何かに気付いたようだ。指示に従ってもう一度流す。

 

 管

「……ッ! イレイザー、この溶け方は……」

 相澤

「ああ、合宿の時の荼毘と同じだ。つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 山田

「こんな風に回りくどくメッセージを残していたってことは……緑谷の奴はまだ何か隠してるんじゃねえか!?」

 

 土口くんは一体何を考えているのだろうか。そんな時、私のスマホから着信音が鳴る。香山くんが相変わらず怪訝な顔で見つめてきた。良い着信の知らせだと思っている──────理の会に囚われているはずのホークスくんからの電話だ。職員室から出る間も惜しんで電話にでる。ボボボと電話越しに響く空気の音が凄い。何とか情報を得て脱出したのだろう*7

 

 八木

「ホークス君!? 無事だったのかい!?」

 ホークス

『それよりも今すぐ全国のヒーローに呼び掛けて、海外のヒーローにも派遣要請をしてください! 九玉はこのヒーロー社会を揺らがせる事件を起こそうとしています!!』

 

 何と九玉くんが全国各地で破壊活動を行うというらしい。職員室の皆に目配せをして、それぞれの連絡網で要請を始める。

 

 ホークス

『他にも誰かいるんですか!?』

 オールマイト

「雄英の職員室にいる全員が君からの電話を聞いているからね! ここにいる全員で掛け合ってみるよ!」

 ホークス

『お願いします! それと緑谷くんにもこのことを伝えてください!』

 オールマイト

「それが……その緑谷少年が雄英を出て行ってしまったんだ!」

 ホークス

『何ですって!? それでしたら緑谷くんの保護を最優先にしてください! もし理の会の手に緑谷くんが渡ったら、AFOと接触してしまいます!』

 

 背筋がぞっと凍り、嫌な汗がにじみ出てくる。奴は私の嫌がることをずっと考えてきた男だ、"OFA"と関わることがあったら何をするか分からない。いくら九玉くんが制御しているらしいとはいえ、何かの拍子でAFOが自由に動き出すかもしれない。

 

 オールマイト

「分かった! 私の名を使ってでも、ありとあらゆるヒーロー達に協力を掛け合ってみるよ!」

 ホークス

『俺も公安に戻ったら各所に掛け合います! なんとしてでも理の会の、そして九玉の野望を止めましょう!』

 

 ホークスくんとの電話を終え、早速各国のトップに連絡を取る。元日本No.1からの頼みとあっては断れないと言われたものの、流石に数日かかるようだ。

 

 香山

「……しかし妙ね? 彼女が何の考えも無しにこんなことをするとは思えないわ」

 

 香山くんが口元に指をあてて呟いた。彼女は先日の作戦で九玉くんに助けられたというから、それなりに思うところがあるのかもしれない。

 

 相澤

「敵の考える事なんて考えるだけ無駄ですよ。ここは合理的に考えて────」

 香山

「彼女は敵とヒーローの共存できる世界を望んでいると言っていたわ。そのおかげで私とナイトアイとシンリンカムイは生き延びたのよ? そんな彼女が何の考えなしに破壊活動を行うとは思えないわ」

 山田

「ちょっと優しくされたからって絆されんなよミッドナイト。俺達は……白雲を持っていかれてるんだぜ」

 香山

「白雲を改造したのは彼女ではないわ。むしろ彼女は改造された側の身で、殻木やAFOを憎んでいたと報告があったわ。緑谷くんの行方も大切だけれど、彼女の真の目論見も考えるべきだと私は思うわ」

 

 思い返せば、九玉くんは神野区でAFOを亡き者にしていた。あれだけの力があれば私も葬れただろう。なのに彼女は私を殺さず、むしろ世間の目を集める敵となる事を選んだ。その後、しばらく潜伏して理の会という大規模な組織を築き上げ────配信活動以外にはこれといった活動をしていなかった。何かを企んでいたのかもしれないが、もしかしたら何も企んでいなかったかもしれない。

 

 根津校長

「……私達は九玉くんそのものをほとんど知らないようだね。緑谷くん捜索と同時に、九玉くんについての情報も集めていった方が良いかもしれないね」

 

 九玉くんの出方次第で状況はいかようにもなってしまうが────次第によっては彼女が新たな平和の象徴になる事もあり得るかもしれない。

*1
ブラドキングの本名は(かん)赤慈郎(せきじろう)である。

*2
セメントスの本名は石山(いしやま)(けん)である。

*3
13号の本名は黒瀬(くろせ)亜南(あなん)である。

*4
ハウンドドッグの本名は犬井(いぬい)(りょう)である。

*5
エクトプラズムの本名は公式ファンブックでも不明である。

*6
根津の本名は根津である。

*7
実際は動画一本の撮影を手伝っただけである。

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