抜きゲーみたいな島に住んでいた狂犬はヒロアカ主人公に憑依したらどうすればいいんだ?   作:神剣狩刃

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7-12 たった一羽の最終防衛戦線

 舞と一緒に見た九玉さんの犯行予告は衝撃的な物だった。古参のファンである舞も歯をカタカタ鳴らして怯えているほどだ。

 

 舞

「やべえよやべえよ……どうすりゃいいんだ……とりあえずママに報告して……」

 精

「少し落ち着け。九玉さんは意味もなくこんなことをする人じゃねえ。真意を考えるんだ」

 

 俺の予想が正しければ、雄英から去った俺と接触するためにこの動画をアップしたのだろう。ただ、全国展開するならわざわざ破壊活動を宣言する必要はなく、ただの握手会やサイン会の告知だけでよかったはずだ。なのにこんなことをする理由は────下の階からガラスの割れる音が聞こえた。

 

 士

「何だお前ら!? 帰りな! 今日はもう閉店だよ!」

 

 士さんの怒声が聞こえた時、俺はすでに戦闘服を着ながら舞の部屋の窓から飛び降り、割れた窓ガラスから店内を見ていた。

 

 男A

「24時間後に地獄が始まるらしいからな!」

 男B

「ここの女店主は美人だと聞いたんでな!」

 男C

「お楽しみさせてもらうぜ!」

 

 男三人が鉄パイプを持って襲撃し、士さんに言い寄っていた。アグレッシブすぎるアプローチは俺の故郷でもご法度なので、不意打ちで黒鞭で首を絞めて三人の意識を落とす。

 

 精

「女を見る目はよかったが、誘い文句が最低だな。ムショで勉強してこい」

 士

「……助かった。お礼に一発ぐらいなら相手してやってもいいぜ?」

 精

「言ってる場合じゃないですよ。舞くんと一緒に店の中で一番安全な場所に避難してください」

 士

「分かった……しかし、24時間後地獄になるってなんだ?」

 精

「それは舞くんから聞いてください。無個性の母子家庭なんて敵の格好の標的になりますから」

 

 士さんを店の中に避難させ────鳴り響く"危機感知"に振り返る。老若男女を問わず、数十人の敵が押し寄せていた。

 

 敵A

「ヒーローは出払ってるわトップは取り込んでるわで最高のタイミングだ!」

 敵B

「リ・デストロ様の意志を無視して横暴に振舞っていたから気に入らなかったのよ!」

 敵C

「すっげえキモいヒーローだな! SNSに素顔ごと晒してやるぜ!」

 

 理の会の残党(レムナンツ)も一枚岩ではなく、反九玉派の徒党が勝手に暴走しているようだ。敵の言う通り全国のヒーローは24時間後の九玉襲来に備えている頃で、助けを呼んだところで誰も来ないだろう。もっとも今の俺には頼る当てなどなく、俺一人で片付けなければならない。

 

 精

「一人で夜遊びするのは得意じゃないんだがな……まあいい、折角だから名乗らせてもらいますか」

 

 俺は咳払いと共に変声機能をオンする。

 

 ハメドリくん

『本来なら名乗る名もパコる間も無いハメが……弔鐘と初潮の代わりに聞かせてやるハメ。僕はSHO公式マスコットキャラクターのハメドリくんだハメ!』

 

 羽ばたく様に振り上げた両手から黒鞭を展開する。闇夜に紛れる黒鞭を素人が回避できるわけもなく、あっという間に10名を寝かしつける。

 

 ハメドリくん

『良い子も悪い子も寝る時間だハメ! 寝れないなら僕が寝かしつけてあげるハメ!』

 敵D

「何だコイツ!? ふざけた見た目の割には滅茶苦茶強えぞ!?」

 ハメドリくん

『折角だから地獄でおねんねしてもらうパコよ────"青い鳥の籠"(ブルーバードプリズン)

 

 大層な名前を付けたが、新コスチュームで金色領域を放っているだけである。しかし、速度と装甲による連続攻撃は敵達にはかなりの脅威で、次々と鳥籠の中で眠りに落ちていった。

 

 ハメドリくん

『それじゃあカウントダウンを始めるハメ! 僕のカウントダウンがゼロになったら、皆は不思議と眠っちゃうんだパコ!』

 敵E

「いやお前が寝かしつけてるだけ────」

 ハメドリくん

『じゅーう♡きゅーう♡はーち♡なーな♡ろーく♡ごーお♡ほら、段々静かになってきたハメねえ♡」

 

 青い鳥の化け物がふざけた声で襲ってくる、敵からしてみたら恐怖でしかないだろう。

 

 ハメドリくん

『よーん♡さーん♡にーい♡いーち♡いーち♡まだ眠っちゃダメぱこよー♡』

 敵F

「も、もう俺一人しかいねえ……た、助け────』

 ハメドリくん

『ゼロ、ゼロ、ゼロ……♡これで皆気持ちよくれてたハメね……♡』

 

 ソナーで確認した所、店内にいる二つの反応を除いて動いている反応はなかった。所詮は烏合の衆に過ぎず────避難している二人が動いている。もしかしたらソナーには映らない敵がいるのかもしれない。

 

 

 反応があったのは舞の部屋だった。俺は舞の部屋に向かって全力で走った。

 

 ハメドリくん

『大丈夫か二人と────』

 

 を開けたら俺のヘルメットにカキンと何かが当たった。

 

 士

「うおお!? 青い鳥の化け物の敵!?」

 舞

「落ち着いてママ! コスチュームを着た精だよ!」

 士

「コスチュームを奪った敵かもしれないだろ!?」

 舞

「あんなコスチューム誰も着たがらないよ!」

 

 部屋を見渡すといたるところに紐と鋏がぶら下げられていた。恐らくこのトラップを作るために動き回っていたのだろう。酷いことを言われたような気もするが、敵に襲われていなかったようで何よりだ。ヘルメットを脱いで二人に素顔を見せて安心させよう。

 

 士

「よかった本物の精だ……アタシが髪を切った客を間違える訳がねえからな」

 舞

さっきまで疑ってたくせに……でも、すごい戦いだったね? 一騎当千じゃん」

 精

「どれだけ多く見積もっても一騎当百だったけどな。とりあえず二人はこのままここで籠城しててくれ」

 

 2人が首をかしげる。もう襲撃は終わったんじゃないのといいたいのだろう。

 

 精

「奴らの1人がこの場所をSNSに投稿しやがった。それを敵達が知ったら、チャンスと踏んで一気に押し寄せてくるだろう」

 士

「マジか……待て、もしかして精一人で守り切るつもりか!?」

 舞

「無茶だ! いくら精が強いからって、あんな激しい戦いをしていたら持たないだろ!?」

 

 2人の心配はもっともなものだ。全盛期の俺だったらともかく、未性人の緑谷の体では深夜の長時間行動は厳しいだろう。しかも最長24時間を覚悟しなければならず、それまで支援も休憩も無しだ。いくら故郷の治安維持部隊でもこんな無理無茶無法無謀な作戦はやったことがない。

 

 精

「持つ持たないの話じゃない。()()()()()()()()。死ぬのは当然、逃げることも許されないからな」

 舞

「逃げればいいじゃんかよ! 俺とママは何とか逃げるからさ!」

 精

「無個性の2人が逃げ切れるほど今夜は甘くない。360°どこからでも敵が押し寄せてくるだろうからな」

 士

「それでも! アタシ達は地面でも靴でも舐めて逃げ延びてやるからさ!」

 精

「……これだけの"個性"を持っておきながら守れないなんて嫌なんだ」

 

 カーペットに溢したココアのように染みついている、俺の心の奥底からの恐れが口から吐き出された。弱いから守れない、力がないから助けられない────でも、今の俺には"個性(ちから)"がある。だから守れて助けられるはずだ。

 

 精

「……ヒーローが来るまで俺がここを守ります。2人は安心して俺の雄姿をSNSにでも投稿しててください」

 

 2人の制止を振り切って部屋を後にする。ソナーには近づいてくる新たな敵の反応が追加されていた。

 

 精

「さてさてさーて……どうすっかな……」

(二代目と三代目、あんたらの"個性"を教えて欲しい。実戦で使うのが一番の訓練になるんでな)

 

 心の中の二代目と三代目に呼びかける。2人がぼうっと不安そうな顔で現れた。

 

 二代目

(九代目……正気か? いくら何でも常識外れ過ぎるぞ?)

 三代目

(それに俺達の"個性"は他の継承者に比べて反動が大きい。長期戦には向いてないぞ?)

 精

(やってみなければ分からないでしょう?)

 

 時間がないので手早く教えてもらう。二代目は"変速(へんそく)"という触れたモノの速度を変える"個性"で、三代目は"発勁(はっけい)"という同じ動作を繰り返すと力が溜められる"個性"だ。どちらも強力だが、反動を考えないといけないだろう。であれば序盤は使い慣れた"個性"で戦って、新しい"個性"は体力が消耗してきた後半戦で使うべきだ。戦いの方針が決まったところでヘルメットを再装着し店の外に出る。新しい敵の団体が笑顔でお出迎えしてくれた。

 

 敵G

「お前……まさかたった一人でこの人数に挑むつもりか?」

 敵H

「今だったら見逃してあげるわよ? 私はあなたを殺すつもりはな────」

 

 行動も見た目も悪女だったので顔に鉄拳制裁をぶち込む。

 

 ハメドリくん

『やっぱり拳は悪人の顔とアソコにぶち込むに限るハメね!』

 敵I

「コイツ! 先に手を出したのはオマエだからな!」

 敵J

「やっちまえお前ら! ガキだからって容赦するな! 殺しちまえ!」

 

 一斉に襲い掛かって来る敵の攻撃を"危機感知"と"黒鞭"を活用し、上下左右に飛び交い避けていく。殺さないで無力化するというのは難しいが、加減している場合でもない。OFASを50%で発動させ煙幕で辺りを覆う。

 

 六代目

(大人数相手にそれは悪手じゃ────)

 精

(相手の行動を抑制することが優先だ。ただ戦うんじゃなくて二人と店を守りながら戦わないといけないんでな)

 

 煙の中で一人一人の両手両足の骨を折っていく。アルミ缶を握りつぶすように、あるいは道端の石を蹴り飛ばすように。劈く悲鳴でパニックを起こし、同士討ちしている始末だ。

 

 四代目

(……真っ当なヒーローでは思いつかない戦法だな)

 精

(手段選んでいる場合じゃないんだ。折角だし試してみるか、"変速・一速(アインシュネル)")

 

 バイクのギアを上げるようにつま先を上げ、煙に触れて"変速"を適応させる。激しく動いても煙は晴れず、敵達のパニックを遅延させていく。

 

 敵K

「何だこの煙!? 一旦煙から出るんだ!」

 敵L

「出るって言ってもどっちに行けばいいのよ!?」

 

 ソナーで敵の位置を確認する。散り散りに動いていて都合がいい。更に煙幕を張って敵を何人か黒鞭で操って同士討ちを加速させる。

 

 敵M

「イッテエ!? 誰だ俺殴ったの!?」

 敵N

「違う! 今のは体が勝手に!」

 精

「こっちだ! 俺の声のする方に来てくれ!」

 

 あえて変声を切って敵を呼び寄せる。寄って来きた大勢の敵を浮遊で飛んで回避し、正面衝突させる。

 

 精

「これだけ集まれば一網打尽だぜ────50%アイランドシュート」

 

 空中から地面に向けて右足を振り抜く。衝撃波が敵達を押しつぶし一気に数十人が行動不能になったはずだ。黒鞭で煙を晴らすと────死屍累々の中から衝撃波が返ってきて、ヘルメットを吹っ飛ばされた。発生源を見ると、敵がうつ伏せになりながら右拳を突き出し笑っていた。

 

 敵O

「お、俺の"カウンター"だ……へっ、坊主のジャリガキにここまでやられるとはな……」

 

 そう言い残して敵はぱたりと意識を失った。吹っ飛ばされたヘルメットを黒鞭で引き寄せたが、変形していて使い物にならなかった。これはかなりの損失だ。索敵を危機感知とωセンスに頼らざるを得なくなり、どちらもソナーに比べたら身体的な負担が大きい。しかし、嘆いたところで状況は変わらない。危機感知が鳴り響き、再び敵がやって来る。

 

 敵P

「これだけの数を1人で退けるとはね……でも、それもいつまで持つかな?」

 

 敵の1人が両手から何十本という糸を出し、倒れている敵達に結び付けた。すると、倒れていた敵が立ち上がり動き始めた。

 

 敵P

「俺の"マリオネット"は動かないモノに対してしか使えないが、お前が大量に準備してくれたからな」

 

 全身が砕けて激痛が走っているのか、起き上がった敵達は泣き叫びながら動いている。

 

 敵P

「さあどうするヒーロー? これ以上攻撃したらこいつらは死んでしまうぞ?」

 精

「俺が遠慮するような人間に見えるか? 敵共に掛ける慈悲なんざ持ち合わせてねえ」

 

 俺は人差し指を弾き操ってる元凶を狙い撃ち────倒れていた敵の1人が盾になった。盾になった敵がぱたりと倒れ、元凶が静かにくつくつと笑う。

 

 敵P

「危ない危ない……まさかブラフをかますなんてね」

 精

「……慈悲は持っちゃいねえが、道徳は持っちまってるんでな」

 

 いくら死んでもいい極悪人だからといって俺が殺すのは俺の道理に反する。しかし、このまま戦い続けていても動かされてる人間は長く持たないだろう。後遺症が残るのは構わないが死なれては寝覚めが悪い。

 

 精

「……しょうがねえ。ぶっつけ本番だがやるしかねえ────"変速・二速(ツヴァイシュネル)"」

 

 つま先を二回上げギアを上げる────一気に踏み込んで、一切の猶予も無しに敵の目の前で立ち止まる。

 

 敵P

「……へ?」

 精

「スローすぎてあくびが出るぜ」

 

 そのまま敵の顎に右アッパーを決める。まるで子供放り投げられたように乱雑に撃ちあがり、まともな受け身も取らずに地面に叩きつけられた。

 

 精

「……人形劇を披露するんならムショか地獄でするんだな」

 

 "変速"を切るためにつま先で地面を二回踏む────一気に息苦しさが襲ってくる。これが"変速"の反動か。

 

 二代目

(……長期戦には向いてないと言ったはずだ)

 精

(なら動かないで対処すればいい……!)

 

 OFASを70%まで引き上げ"黒鞭"を大量展開する。"黒鞭"が発言したての頃は立ち止まって集中しなければ使えなかった。今の俺なら立ち止まって黒鞭だけに集中すれば、効果力広範囲のマップ兵器になる。

 

 精

「……そういや名乗りを上げていなかったな。渡しの六文銭代わりに聞かせてやるよ」

 

 まるでクトゥルフ神話のハスターのように黒鞭を蠢かせながら。そしてこの場を支配するように敵を地に伏せさせながら。

 

 精

「藍蘭に反する愚者に命ず、土崩瓦解(どほうがかい)の地に伏せ、口無択言(こうむたくげん)たる俺の裁きを受け、精疲力尽(せいひりきじん)となりて許しを請え。そして蒼碧(そうへき)獄底(タルタロス)にて己の咎を知るがいい────俺の名前は土口精、手前らを黄泉へ送る者だ」

 

 

 どれだけの時間が経っただろうか。コスチュームはいつの間にかボロボロになっており、下に着ていた服すらボロキレになっていた。空には俺の苦労を知ることなく星々が遊んでおり、満月がそれを穏やかに眺めている。辺りにはかろうじて人といえる何かが息も絶え絶えに転がっていた。それでも敵達はまだ立ち向かってくる。

 

 敵Q

「奴はもう限界のはずだ! 数で押せ! 戦いは数だ!」

 

 こうなったら"変速"を最大限に使って限界になるまで動くべきか? それとも不俱戴天を使うか? どちらにせよ碌な結果にならない。だったらまだ自我が残る"変速"でどうにかするべきだ。

 

 二代目

(無茶だ! その状態で使ったら!)

 精

「……"変速・三速(ドライシュネル)"」

 

 つま先を三回上げる。瞬く間に近づいてラリアットで敵を倒し────体を制御しきれず地面に転がる。ならば"黒鞭"で敵を倒し────反動で指の骨が折れる。それなら"浮遊"でドロップキックをして────今度は両足の骨が砕ける。もはや体が"個性(ちから)"に追い付いていない。ついには仰向けに倒れて────指の一本も動かせなくなる。

 

 精

「まだだ……まだ……敵が……」

 敵R

「やっと大人しくなったか……! これで仕舞いだ……!」

 

 敵の巨大な拳が俺の目前に迫る。口から"黒鞭"を出して受け止める────と同時に敵が爆発に包まれる。

 

 ???

「────やっと見つけたぜエロ金髪」

 

 聞き覚えのある罵声と共に俺は意識を手放した。

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