抜きゲーみたいな島に住んでいた狂犬はヒロアカ主人公に憑依したらどうすればいいんだ?   作:神剣狩刃

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7-13 青い鳥の帰る場所

 いつの間にかOFAの玉座に立っていた。菜奈さんが神妙不可解だと言わんばかりの顔をしていた。

 

 精

「……何で俺生きてるんだ? 敵の拳を止めたのは覚えてるが……」

 菜奈さん

「君の学友が助けに入ったんだ。覚えていないのかい?」

 

 記憶を遡る────敵の拳を受け止めた後、敵が爆発に包まれたはずだ。その後にエロ金髪と呼ばれたから、おそらく爆豪が助けに入ったのだろう。

 

 精

「……ちょっと本人に聞いてきます。それじゃあ、先にシャワー浴びて待っててください」

 菜奈さん

「待て、目覚めたらまた君は────」

 

 菜奈さんの制止を振り切って現実に戻る──────仰向けで横になっているようで、よく見慣れた保健室の天井が目に入る。しかし、まるで礼からのお仕置きで拘束プレイをしている時のように体が全く動かない。ふと首を右に向けると、爆豪がタオルをボウルで捻じり殺していた。

 

 精

「……ありがたいけど、1-Aガールズの誰かであってほしかったぜ……」

 爆豪

「女どもがピーピーうるせえから俺が買って出たんだよエロ金髪改めエロ坊主」

 

 そのままタオルを顔面に叩きつけられた。爆破でやったのかほんのり温かくて気持ちよかった。

 

 爆豪

「何であんな回りくどい書置きを残して出て行ったんだ? 直接言えばよかったじゃねェかよ」

 精

「……皆に会いたくなかったんだ」

 爆豪

「別れるのが辛かったからか?」

 精

「……どうしてそう思う?」

 爆豪

「てめェだからだよ。女に鼻の下伸ばすだけじゃなく、野郎共とも仲良くしてたからな」

 

 相変わらず爆豪は察しがいい。だったら隠し続けるのは無駄だろう。

 

 精

「この世界に飛ばされた時は不安だったさ。雄英に入れなきゃそこで終わりだろうと思ったぐらいにはね。でも、いざ入ってみたら不安を吹き飛ばすぐらい楽しい事ばかりだった。体力テストで1位になって、初めての戦闘訓練でお前に勝って、U(ウソの)S(災害や)J(事故ルーム)で敵の襲撃を退けて、体育祭でお前を接戦をして、職場体験でヒーロー活動できて、合宿でお茶子ちゃんたちに助けられて、仮免試験で皆で合格して免許取って────」

 爆豪

「イヤミかてめェ?」

 精

「お前と喧嘩して、最初のインターンでエリちゃん助けて、文化祭で皆で盛り上がって、次のインターンで轟家の闇を払って……そんな生活の中で皆と仲良くなっていくのが楽しかったんだ」

 

 この世界での思い出がふつふつと湧いてくる。故郷では楽しめなかった青春の数々は本当に輝いていて、いつの間にか離れがたいものになっていた。

 

 精

「今日には俺の帰りを待っている人がいるんだよ……! でも……! その人たちを忘れてこの世界にいることは出来ない……! でも……! 故郷に戻ったら二度とこの世界には来れないんだ……!」

 

 また会いましょうではなく、さようならお元気でという今生の別れになる。親しい人との永遠の別れ方はとても辛くて悲しいものだ。

 

 精

「だから一刻も早くこの世界から去りたかった……! もう一回皆の顔を見たら心が揺らぐ気がして……! まだこの世界にいてもいいかなって皆に甘えそうで……! なのに……! なのにまた戻ってきちまった……!」

 

 涙が零れ枕を濡らす。今の俺では涙をぬぐう事すらできない。

 

 

 それを見て爆豪が俺の目を覆うようにタオルをかぶせた。

 

 爆豪

「……ごちゃごちゃ言われてメンドくなってきた。てめェは雄英(ここ)にいたいのか? それともいたくねェのか?」

 精

「聞いてて分からなかったか!? いたいに決まってるだろ!? 俺の気苦労も分からないで────」

 

 タオルが吹っ飛ぶほどの衝撃が左頬に走る。視線を戻すと爆轟が右の拳を堅く握って震わせていた。

 

 爆豪

「だったらここにいろや。ここにはまだてめェを必要としている奴がいるんだ。そいつらを見捨てでも出て行くってんなら────()()()()()()()()()()()()

 

 殴ってから言うセリフでは────あるだろう。爆豪に間違っていたら殴ってでも止めろと言ったのは、紛れもなく俺だ。

 

 精

「俺を……必要としている奴がいる……」

 爆豪

「……俺を含めて、あんな訳の分からねェ別れで納得する奴なんざいねェんだよ」

 

 爆豪が指をボンと鳴らす────と同時に保健室のドアから人が雪崩れ込む。

 

 お茶子ちゃん

「デクくん! 生きててよかったあ!」

 梅雨ちゃん

「出久ちゃんの隠し事する癖は本当に良くないわね」

 百ちゃん

「出久さん……! 貴方という人は本当に……! 本当に……!」

 三奈ちゃん

「このバカ出久! アタシ達をこんなに悲しませてどうするんだ!」

 耳郎ちゃん

「出久が無茶するような性格なのは分かっていたけど! 今回は無茶しすぎだよ!」

 透ちゃん

「出久が死んでもおかしくなかったんだよ! 何考えて雄英を出て行ったの!」

 

 1-Aガールズが俺に泣きついて、それに続いて1-Aボーイズも入って来る。

 

 精

「皆────」

 轟

「緑谷! お前に会いたかった!」

 

 その中から轟が割って出てきて俺に抱き着いてきた。

 

 精

「うええ!? ちょ、ろ、ロゼショットぉ!?」

 轟

「緑谷! この間殴っちまって悪かった! アレは燈矢兄が生きてるのを悟らせないための演技だったんだよな!? それに気付かないで俺は……俺は……! 本当に悪かった!!!」

 

 拘束服と同じぐらいの強さで俺を抱きしめてくる。泣き顔のイケメンに抱き着かれるって、こうも胸がときめくものなのか────なんて浮かれたことを考えている場合ではない。俺は口から黒鞭を出して轟を引っぺがす。

 

 精

「……アレは俺にも非があるから、最初から許しているさ」

 轟

「────ッ、緑谷ぁぁぁ!!!」

 

 黒鞭を押しのけて轟が再び俺に抱き着く。今の絵面は腐の心を持っている人間からしたら最高のものになるだろう。さっきまで俺を心配していた梅雨ちゃんが、申し訳なさそうに拳を握り締めているから間違いない。

 

 

 澤先

「感動の再会に水を差す様で悪いが、1-Aの担任としてお前に話さなきゃならんことがある」

 

 いつの間にか澤先が俺のベット横に立っていた。

 

 澤先

「まず、お前の捜索を言い出したのは轟だ。動機は……言わなくても分かるだろ?」

 

 恐らく()()()()()()()()()()()()()で言いだしたのだろう。それを始まりとして俺を探し始めたのは分かるが、どうして俺があそこにいると分かったのか。これが分からない。新コスチュームの情報は開発科の人から聞き出したにしても、俺の居場所は不明のはずだ。

 

 澤先

「コスチュームケースには盗難防止のためGPSがついている。スマホを置いていったのはよかったが、画竜点睛を欠いたな」

 

 マジかよ習ってないぞ、と思ったがコスチューム窃盗事件なんて起きそうなものだ。俺だって許されるならミッ先の着用済みコスチュームがほしい。

 

 澤先

「ただ、出先で盗まれたというだけ可能性もあったが……このSNSの投稿で()()()()()()()()()()()()()が判明した」

 

 澤先のスマホの画面にハメドリくんが映っていた。あの敵が投稿したに違いない。場所と状況が分かったらあとは動くだけだ。1-Aの"個性"を組み合わせればどんな場所にも高速でアクセスできるだろう。無重力、半冷半熱、酸、エンジン、爆破……俺の想像力ではこれが限界だったが、もっといい方法があるかもしれない。

 

 澤先

「俺が出動を許可するつもりだったが、その間もなく全員が出動した……許可なしの無断出動になったが、そこを追求するほど俺は野暮じゃないんでな」

 

 それを言い出したら、寮生活から無断で抜け出した俺の待遇はどうなってもおかしくない。それこそ除籍処分モノだろう。

 

 澤先

「ここまで話せばもうわかるだろう? お前はまだ雄英(ここ)にいるべき────いや、()()()()()()

 精

「────ッ」

 

 そんなの分かっている。きっと皆が引き留めるだろうからああいう風に出て行ったのだから。でも俺には俺の守るべきものが、帰るべき場所が────

 

 爆豪

「いつまでもウジウジしてんじゃねェ!!! ()()()()()()()()()帰りてェのかよ!!!」

 

 爆豪の一喝が響く。

 

 爆豪

「てめェが必要だと言っている俺達を見捨てて! そんで世界を平和にして元の世界に帰って! そんなんで嫁さんに誇れるか!?」

 精

「……誇れる。異世界でヒーローごっこ出来たって自慢できる────」

 爆豪

「人を見捨てておいてヒーローごっこだあ!? ふざけた事抜かしてんじゃねェぞ! ごっこでもヒーロー名乗りてェなら俺達を(たす)けろよ!」

 

 俺達を(たす)けろ。その言葉につられて皆の顔を見る。皆泣きながら顔を見ている。

 

 尾白丸

「またお前と組手したいんだ……! SQCまた教えてくれよ……!」

 ドンセロ

「あの結界難しいんだよ……! お前が教えてくれなきゃ無理だぜ……!」

 コウコウ

「結ゆわいちゃんや鳥さんたちも寂しがっているよ……!」

 エレウェイ

「お前の応援ボイスのバリエーション少なすぎるんだよ!」

 きりたん

「まだステーキ奢ってねえだろ! 約束を破るなんて男らしくねえぜ!」

 砂藤シェフ

「また一緒に合作作ってくれよ! アイディアが浮かぶばかりで実践できなきゃ意味ないんだよ!」

 影の支配者(シャドウ・ルーラー)黒影(ダークシャドウ)

「まだ黒影との決着がついていないだろう? 白黒はっきりとさせてもらうぞ」「マアオレガカツダロウケドナ!」

 メアリー

「お前の絵を飾る用の額縁が届いたんだ。空白の額縁を飾るのは中々寂しいぞ」

 天麩羅

「君はまだまだ勉強不足だ! いろいろ学んでもらう必要がある!」

 le()

「そう言えばあの件でまだココアをご馳走してもらってないね☆じゃないと許さないよ☆」

 実

「また新作かいてくれよこんじきわんこ先生! それか描き方教えてくれよ!」

 1-Aガールズ

「「「出久(いずく、デクくん、出久ちゃん、出久さん)!!!」」」

 

 土口精(おれ)は皆の記憶の片隅にぼんやりと残っていればそれでよかった。なのに、いつの間にかかけがえのない存在────仲間になってしまっていたようだ。

 

 礼

『"仲間"だったら……理解して……!!! 信頼して……!!! 愛していいんだ……!!! それが、わかるのにっ、ど、どれだけ時間をかけさせたんだ、っこの、大馬鹿者が!!! うわあああん!!!』

 

 勝手に誰それ構わず一人で頑張って、勝手に生きるか死ぬかの瀬戸際に追い込まれて、誰かに手を差し伸べられてやっと理解する────俺は幾つになっても変わらないらしい。俺は自分が馬鹿々々しく見えて思わず笑ってしまった。

 

 精

「……緑谷との約束を忘れちまってたわ」

 

 俺の諦めたような呟きに皆が息をのむ。

 

 精

「平和になったら帰るって言ってたのに……仲間が泣いているのに平和になるわけないよな」

 

 皆の顔が次第に明るくなっていく。

 

 精

「……連れ戻してくれてありがとう。俺は────()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……いてもいいかな?」

 1-A

「「「当たり前だ!!!」」」

 

 仲間に受け入れてもらう、これがどれだけ嬉しい事か俺はよく知っている。

 

 

 澤先が軽く咳払いをして発言の意思を見せたので、一旦みんな落ち着く。

 

 澤先

「また水を差す様で悪いが、これからのことについて話をしなければならない。まずは今夜予定されている九玉による全国襲撃の件だが……雄英のプロヒーローにも召集がかかっている。俺を始めとしたヒーロー科の職員がかなり持っていかれるので、事態が落ち着くまでは授業の停止と進級の留め置きになる」

 

 一部のバカがひそかにガッツポーズをしたのを見逃さなかった。

 

 澤先

「まあ、その辺は適当に課題を出しとくから安心してほしい。お前達は基本寮待機で、周辺で事件が起こったら協力するぐらいになるだろう……ただし、緑谷。お前は例外だ」

 

 澤先がカッと目を見開いて俺を睨みつけてきた。

 

 澤先

「重大な校則違反及び法スレスレのヒーロー活動……これらを罰さなければ雄英としては示しがつかない」

 

 こちらもある程度の処罰は覚悟している。どんな罰でも受けるつもりだ。

 

 澤先

「よって、緑谷は教員の許可が出るまで一切のヒーロー活動を禁止してもらう……端的に言えば()()()()()ってことだ。そもそもそんな体では何もできないだろうがな」

 

 リカバリーガール曰く、体育祭の倍は酷い状態だったため何とかオペだけしてある状態らしい。体力が戻り次第治癒していく形になる。

 

 澤先

「他の生徒はお咎めなしだが……何かしらの罪悪感があるなら緑谷の身の回りの世話でもしておけ。面倒な怪我人の扱い方を学ぶいい機会になるだろう」

 精

「面倒って……今回の件だけじゃ判断できない──────」

 澤先

「最低でも6人と交際関係を持っている奴が面倒ではないと言いたいのか?」

 

 やっべめっちゃバレてる。なんで?

 

 澤先

「お前の真意を探るためにお前の部屋にある書類は全部目を通した。コスチュームや"個性"を活用した戦術書、隠しておいた自作成人向け同人誌……何より()()()()()()()()()()もな」

 

 そりゃ全部バレるわ。1-Aガールズも露骨に目をそらし、澤先が呆れたように溜息をついた。

 

 澤先

「……とある職員の強い懇願があった以上、これといった処分を下すつもりはない。ただ、何か問題行動を起こしたら……一発で除籍処分だからな?」

 

 ありがとうミッ先。やはり持つべきは目上の理解者だ。

 

 澤先

「……以上! さっ! 元気に行こう」

 

 澤先が保健室を出て行ったのを確認した瞬間、俺の口から空気が漏れだした。

 

 精

「し、死ぬかと思った……見られたら困る物が多すぎるっていうのはよくないな……」

 障子

「俺が見つけて並べてしまったばかりに……すまなかった緑谷」

 尾白

「いや、そんな物ばかりある部屋が悪いだろ」

 飯田

「そもそもそんな部屋を作った緑谷くんが悪いと思うぞ!」

 梅雨ちゃん

「それはそうね。BLも人によっては地雷だから目につかない所に置くべきよ」

 実

「そのツッコミであってるのか? まるで自分は大丈夫みたいな言い方────」

 

 俺の黒鞭と梅雨ちゃんの舌が同時に実をシバいた。人の癖の園に土足で踏み入るのはナンセンスだ。急にいつもの雰囲気が戻ってきて、思わず笑みがこぼれてしまう。

 

 精

「……とりあえず、これからもどうかよろしくね」

 

 俺のお願いに皆が快く頷いてくれた。おかげで、俺の青春はまだまだ続いていくことになった。

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