抜きゲーみたいな島に住んでいた狂犬はヒロアカ主人公に憑依したらどうすればいいんだ?   作:神剣狩刃

95 / 109
8-02 Unreasonable revolution

 

 我の全国展開予告の動画が投稿されてから数時間後、アメリカNo.1に動きがあったと報告があった。死柄木の我に丁重にもてなすように伝え背中を押す。

 

 九玉(分身)

「我の理が成される日もそう遠くはない。良い報告を待っているぞ」

 死柄木(九玉)

「案ずるな。それよりも早くアジトを移せ。ホークスを介してここにヒーローが来るのも時間の問題だ」

 

 我を見送り理の幹部達と共に新たなアジトへ移動する。廃工場に見えるが結構な電波が届き、世間で何が起きているかを知るには悪くない拠点だ。早速ラブラバとスケプティックがPCを開き情報を掴んだようだ。

 

 ラブラバ

「九玉さん、各地で敵が暴れているらしいわ。きっと私達理の会の犯行予告に便乗しているのよ」

 スケプティック

「それだけではないだろう。九玉の横暴なやり方への不平不満も、この機に晴らしてやろうという魂胆もあるはずだ。俺だったらそうする」

 

 ここまでは我の想定通りだ。理の会という大きな敵組織の犯行予告はヒーローだけでなく、表に出ることなく陰に潜んでいた敵を誘い出すこともできる。だが、予告した時刻には程遠い。動く訳にはいかないが、ある一つの懸念だけは晴らしておきたい。

 

 九玉(分身)

「トゥワイス、我を10人程生み出して轟家に向かわせて欲しい」

 

 この機にエンデヴァーや荼毘への間違った憎しみをぶつける奴が出てくるだろう。燈矢の生存は隠し通しておきたい我としては優先的に守っておきたい。その旨を伝えたらトゥワイスは景気よく親指を上向きに立ててくれた。

 

 トゥワイス

「アイツはアイツなりに生きようとしてるからな! お安い御用だぜ! オラ行ってこい九玉ズ! そして燈矢と轟家を守ってこい!」

 九玉ズ

「「「了解した」」」

 

 これであとは情報を集めながら時を待つだけだ。スケプティックの衛星カメラにラブラバのハッキング、そして無数の我による"観測"によって情報を集めていく。

 

 九玉A

「現状、緑谷が何処にいるかは不明だ。変装しているか、よっぽど変な場所に隠れているかのどちらかだな」

 九玉B

「ネットでは珍妙な青い鳥のヒーローが話題になっているな。現場は煙に包まれていてよく分からぬ」

 九玉C

「なら後回しでよいだろう。それよりもどこでどれぐらいの被害が出ているかの情報を集めるのが先だ」

 

 動画投稿から半日が経ち、ある程度の情報が集まってきた。やはり都市部での被害が大きく、ヒーローでも対処できないほどの数の事件が起きている。単なる器物損壊に窃盗、果ては迷惑防止条例違反と挙げていったらきりがない。それでも傍観を決めている我ズに不安の声が上がって来る。

 

 ジェントル

「九玉くん、そろそろ行った方が良いのではないか? 人々が困っているのにただ見ているだけなのは紳士的ではないと思うぞ?」

 コンプレス

「ジェントルの言う通りだね。観客を待たせすぎたらどんなにいいショーでも非難轟々になるのがオチさ」

 キュリオス

「ネタは新鮮なうちに狙いに行くべきよ?」

 スピナー

「異形系差別団体も動いている。俺としては見逃したくないぞ」

 

 皆の意見はもっともだ。しかし、我には狙いがあった。

 

 九玉(分身)

「我々はただの敵ではない。我という理を持って動く理の会の敵だ。予告しておいてそれに反する活動をしていては道理が通らぬ。()()()()()()()()()()()、これが今回の重要な点だ」

 

 この企画の最終目的はヒーローと理の会で同盟を結ぶ事だ。ヒーローだけでは救えぬ存在を、我々という新たな道理を以て救う、職業としての敵を認めさせる。昔は職業としてのヒーローはなかった。ならば我々が職業としての敵の先駆けになってもよいだろう。

 

 九玉(分身)

「認めてもらうには理にしたがって力を行使する必要がある。故に我が予告を破るわけにはいかないのだ」

 トガちゃん

「……そのためには自分の好きも我慢しないといけないんですか?」

 

 トガちゃんが悲痛な顔で我を見つめる。彼女の事情はある程度聞いているから理解している心算だ。

 

 九玉(分身)

「……誰もが際限なく自由を行使していけば、待つのは破滅だけだ。定められた中でなければ永く続く自由は手に入らない。我とてトガちゃんに理不尽に我慢を強いているのではない、というのは理解してほしい」

 トガちゃん

「……早く私の好きを解放させて欲しいです」

 マグネ

「大丈夫よトガちゃん。九玉ちゃんならきっと叶えてくれるわ」

 

 トガちゃんの手に握られたナイフには二人の女性が物悲しく映っていた。既存の理で救えぬ人がいるなら、一度壊して新しい理を創って救ってしまえばいい。それが正しいかどうかはやらなければ分からない。

 

 九玉(分身)

「……今は逸る気持ちを抑えてほしい。そして時が来たら思い切りやって欲しい。皆は我という絶対的な理に従っているのだ。善悪ではなく是非で考え、是は我々であると刻め」

 

 時は誰に対しても平等だ。理たる我でも早めることは出来ない。一秒に一秒分しか進まない時計が煩わしい。予告の時間までまだ10時間もある。そういえば死柄木の我は上手くやっているだろうか。今更気に掛けた所でどうにもならないから考えないようにしていたが、一度気になると気になってしょうがない。ここに戻っていないということは何かあったのだろうか。"観測"で見た所、どのアジトにもいなかった。

 

 九玉(分身)

「……我なら必ずここに戻ってくるだろう。今は我々の成すべき事を成すべきだ」

 

 ────永遠にも思える時間が過ぎ、ついにその時がきた。

 

 九玉(分身)

「理の会各員に伝達! 時は来た! 今こそヒーロー達に我々の理を知らしめる時だ! 悪事を働くものを悉く破壊せよ! 救いを求める者に手を差し伸べよ! 我々は我々の道理を持って人を(たす)ける! 今こそ理不尽な革命を起こすのだ!!!

 

 理の会メンバー・九玉ズ

「「「了解!!!」」」

 

 我の宣言と共に各地に我々が展開される。ここには戦況を見定めるために我とトゥワイス本人が残った。

 

 九玉(分身)

「さて、各地の状況を見ていくぞ。我々の手によって変わっていくはずだ」

 

 

 まずは先に我を送り込んだ轟家を見る。すでに紅い爆発と共に敵が蹴散らされていた。

 

 敵A

「何で!? 何でこんなに九玉がいるんだよ!?」

 九玉A

「貴様の道理で我を量るな」

 敵B

「エンデヴァーは荼毘を生み出したんだぞ!?」

 九玉B

「なら我ではなくエンデヴァーに言え。貴様の後ろにいるぞ?」

 敵B

「え?」

 

 我の言った通り、敵の背後には怒りの烈火をほとばしらせているエンデヴァーがいた。

 

 エンデヴァー

「貴様の言う通りで荼毘は俺が生み出してしまった……だが、その憎しみを俺の家族に向けるのは……止めてもらおうか!」

 

 炎の鞭が敵を次々に捕縛していく。それに負けじと敵達も襲い掛かっていくが、それ以上に我達が迎え撃った。

 

 九玉ズ

「「「炎は分かりやすい熱エネルギーだからな。"破滅の波動"」」」

 エンデヴァー

「……成程、破壊活動とはそういうことだったのだな」

 

 こちらは問題ないだろう。次は明確な仇がいるナイトアイ事務所だ。予想通り死穢八斎會の傘下の敵組織が襲っていた。

 

 敵C

「手前等のせいで治崎さんが! 許せねえ!」

 九玉C

「ならまずは奴の絵を砕いた我に言うべきだな。"壊滅の一閃"

 

 敵の攻撃から守られたナイトアイが驚愕している。

 

 ナイトアイ

「九玉……!? なぜ貴様が私達を助ける……!?」

 九玉C

「言ったはずだ。()()()()()()()()()()()()()()を企んでいる」

 ナイトアイ

「……あの発言は本気だったのか」

 九玉C

「未来は視えても真意までは視えないようだな。眼鏡の度が合っていないのではないか?」

 

 ナイトアイが諦めたようにフッと笑い眼鏡をかけ直した。

 

 ナイトアイ

「……後で眼科に行くとしよう。どこかの誰かが生んだ激務で目が悪くなってしまったかもしれない」

 九玉D

「我の目も治療してもらうか。配信業でスマホを扱うようになってから目が悪くなっていく一方だ」

 

 ここも大丈夫そうだ。次も仇の多い公安の本部だ。今まで葬ってきた闇が徒党を組んで飲み込もうとしている。

 

 敵D

「とにかく死ねや!」

 九玉E

「もっとまともな理由を作れ。"破壊の渡鳥"

 

 紅と黒の羽根が敵達を再び闇へと葬っていく。

 

 ホークス

「……貴女の夢のためにこんなことを企てたんですか?」

 九玉E

「今回の作戦でかなりの数の敵団体が表に出てくるはずだ。それを一網打尽すれば、理の会を世界で唯一の敵団体にすることが出来る」

 

 ホークスが余裕そうに笑って黒い羽根を操っていく。

 

 ホークス

「それだけですべての敵団体が倒せたら公安はいりませんよ」

 九玉E

「残った奴等はもとより公安に任せるつもりだ。そして我はヒーローが暇になる世界など望んでおらぬ」

 

 最後に雄英高校を見てみる。特に敵に襲われているということはなかったが、なぜかグランドに戦闘機が停まっていた。更に1-Aの寮内を覗いたら、緑谷が自室で爆睡していた。いつの間にか雄英高校に戻っていたらしい。こうなってしまっては、奴がもう一度雄英高校を抜けだすのを待つしかない。今回の作戦の目標の一つが遠のいたことに思わず腕を組んで唸ってしまう。

 

 

 それと同時に、もう一つの目標(アメリカNo.1を倒す)がどうなっているかが気になってしまった。ここに戻ってきていないということは、まだ戦っているのだろうか────先程グランドに戦闘機が停まっていた。もしやあれはアメリカからの増援の可能性がある。再び雄英内を覗くと、仮眠室でアメリカNo.1がすやすやと眠っていた。まさかあの死柄木に勝ったのか。だとしたら世間にその吉報が出ているはずだ。しかし、ネットでは我達とヒーローの共闘に困惑している声ばかりで、死柄木の訃報は一つも出ていなかった。

 

 九玉(分身)

「……嫌な予感がするな」

 

 世間の情報を見るに死柄木は死んでいない、というよりは情報がなくて話題になっていないというべきだろう。そしてここも含めどのアジトにもいないから、"世界移動"を失う程のダメージを負ったはずだ。そうなると死柄木の体から我の意識が消えていてもおかしくはなく、あの体には死柄木とAFOの意識だけがあることになる。

 

 九玉(分身)

「────最悪だ」

 

 死柄木のマスターピース計画の最終到達点は()()()()A()F()O()()()()()()()である。そこに予定より早い目覚めと我が混入によって大きく遅れたのだが、我がいなくなれば順調に進んでしまう。我の制御が無くなった以上、死柄木だけでは奴を止めることは出来ない。奴が負ったダメージにもよるが、"超再生"を失っていなければすぐに回復してしまう。いや、"超再生"を失ったとしても我達の一体にでも合流できれば"AFO"で奪える。それだけは阻止せねば。我はトゥワイスに叫んだ。

 

 九玉(分身)

「トゥワイス! 先と同量の我を作って欲しい! 緊急伝達事項が出来た!」

 トゥワイス

「何か分からねえが了解したぜ! 嫌だね! 二度目の"理不尽な行進"!」

 

 あっと言う間に増えた我達に作戦を伝える。

 

 九玉(分身)

「各地にいる我達並びに理の会各員に伝えてきてほしい! 絶対にAFOと接触しないこと、接敵した場合は殺さずに退けるか逃げるということをだ!」

 

 承諾した我達が一斉に各地の我達の下に向かっていった。

 

 トゥワイズ

「「「ところで……何が起きたんだ九玉?」」」

 

 トゥワイズの疑問に我は歯ぎしりをしながら答える。認めたくないが、認めなければ事態は悪化していくだけの現実を絞り出す。

 

 九玉(分身)

A()F()O()()()()()()()()()()()()……我の計画が失敗するかもしれない」

 

 

 キャスリーン・ベイトの最期のあがきによって、僕と弔の"個性"はかなりズタボロにされてしまった。"新秩序"を手放すことになり、"世界移動"や"超再生"といった九玉くん関連の"個性"も全部なくなり、その他の"個性"も不調をきたして使えなくなってしまっている。おかげで何所かも分からない雑木林の中で転がって息を喘ぐしかなかった。

 

 死柄木

(自分事のように言ってんじゃねえぞ先生……! この体は俺のモノであってアンタのモノじゃない……!)

 

 九玉の奴がいなくなっちまったせいで俺と先生の意識の融合が進んじまってる。俺の体に俺の"個性"だからギリギリ俺が指導権を握ることは出来るが、気を抜いたら先生に体を乗っ取られちまう。

 

 AFO

(とりあえず今は体を休めよう。しばらくしたら九玉くんが各地に現れるから、そこで"世界移動"以外を奪ってしまえば元通りだ)

 

 元通りなわけあるか。以前九玉から聞いたが、アイツのメインの個性は"世界移動"だ。それ以外は俺みたいに後付けだから、アイツの意識が入ってこない。そうなったら俺と先生の意識の融合を止める奴がいなくなってしまう。

 

 AFO

(だからといって今できることは何もないだろう? 余計なことは考えないで休んだ方がいいね)

 

 彼女はアメリカNo.1を倒すといっておきながら、負けた時の事もある程度考えていたようだ。不倶戴天の仇である僕が救けたい対象の弔の中にいるという複雑な状況だから、それなりの数の道筋を準備していたようだ。もっとも、その大半は僕にも共有されているから手の打ちようは幾らでもある。

 

 死柄木

(余計なこと考えてるのはどっちだよ……! 休ませろ……!)

 

 とにかく休んで動けるようにならねえと。眠れる訳もないが目を閉じて少しでも負担を減らさないと────どれぐらいの時間が経ったか分からねえが、とりあえずある程度体が動かせるようになった。立ち上がって森の外を見てみると、九玉くんがヒーローと共に敵と戦っていた。今俺とアイツと会ったらマズい、僕が完全体になるのに王手がかかる。僕は雑木林から飛び出し、俺は勢いを殺すように足に力を入れる。

 

 AFO

(これは厄介だね。しばらくは融合を待つしかないか)

 

 あとどれぐらいまで俺でいられるのだろうか。"個性"が戻り俺が俺でなくなった瞬間、僕は完全な魔王となれる。それだけは絶対に避けないといけない。そうすれば僕は世界を支配できるから、なんとしてでも止めないといけない。少なくとも、俺は俺でいたい。死柄木弔()は、魔王()は、ここにいるんだと証明したい。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。