抜きゲーみたいな島に住んでいた狂犬はヒロアカ主人公に憑依したらどうすればいいんだ?   作:神剣狩刃

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8-03 遠くから明るく見える女の子

 9匹の子猫ちゃんを可愛がった翌日、澤先が雄英に帰ってきた。何でも九玉さんを無力化できる数少ない存在で、消耗をなるべく避けるためだそうだ。この機会を逃す訳にはいかない。澤先に作戦実行の許可を貰うため、早速職員室へ向かう。

 

 精

「こういう事やりたいので許可下さい。資料はこちらです」

 澤先

「……プロヒーローのチームアップ作戦時のソレと遜色ない出来だ。お前の本気さがよく伝わって来るよ」

 

 特殊戦闘部リーダーは作戦を分かりやすく簡潔に伝えられないと務まらない。まして今回の作戦はこの世界の未来を決めかねないものだ。澤先は一通り資料を眺め、机にパサリと置いて俺の方を向いた。

 

 澤先

「許可できないな」

 

 想定通りの答えが返ってきた。俺だって最初から資料の一つで通せるとは思っていない。ここからが本番だ。なんとしてでも許可をもぎ取らなければいけない。

 

 精

「その理由を答えてもらいましょうか」

 澤先

「この作戦は敵と協力することが大前提になっている。敵と協力するヒーローが何処にいるんだ」

 精

「神野区での戦いでマイトと九玉さん、今回のヒーロー達と九玉さん達ですかね」

 澤先

「どちらも利害の一致に過ぎず協力とは言い難い。共闘と協力は異なるものだ」

 精

「じゃあこの作戦をきっかけに敵とヒーローで協力しちゃえばいいですね」

 澤先

「本気で言っているのか?」

 

 澤先が威圧感と共に俺を睨みつけてきた。俺はそれに臆することなく堂々と続ける。

 

 精

「普通のやり方では見つける事の出来なかった敵が九玉さん達のおかげで炙り出せました。それに、以前の病院と山荘の戦いで九玉さんに助けられたヒーローも少なからずいるはずです。敵がヒーローの利益になる事もある、これは事実として認めるべきです」

 澤先

「だからといって奴らを許しては被害に遭った方々に対して申し訳が立たないぞ?」

 

 澤先の言っていることは間違いではないが、俺の論点から少しずれている。

 

 精

「認めるべきだとは言いましたが、許すべきだとは言っていません。そんな面もあるよねと受け止めて、認められる部分から認めていっていくんです。そうすればお互いに歩み寄ることが出来て────────いつかは分かり合える日が来ると思います」

 

 かつての故郷はどんな事情があろうと条例違反者を許さない理不尽な場所だった。それが俺や友人を始めとする青藍島の人々の活躍によって、あらゆる性を受け入れる楽園へと変わっていった。ヒーローが善で敵が悪と決めつけるこの社会はかつての故郷とどこか似ている。

 

 精

「ヒーローと敵が分かり合えないなんて、そんなの古臭い異形系差別のようなものでしかありません。手段はかなり強引ですけど……九玉さんはヒーローと敵の共存を望んでいて、手も差し伸べています──────ならできるはずです」

 

 俺の力説に澤先が天を仰いで息を漏らした。

 

 澤先

「……一部のプロヒーローもそう言いだしているんだ。楽観的すぎると判断していたが、人生経験豊富なお前までも言うなら不可能ではなさそうだな」

 精

「じゃあ……!」

 

 逸る俺に待ったと澤先が掌を前に出す。

 

 澤先

「敵との協力に関しては良いとしよう。だが、"不俱戴天"のお前を()()()()()()()()()()()()というのは認められないな」

 精

「1-Aの皆なら俺を止められます。ワイプシの皆さんと一緒に試しました」

 澤先

「お前には何もするなと言っただろうが……まあ、そこは自主練の範疇としても、今回の作戦はそうもいかないだろ」

 精

「表向きは自主練で通せます。裏の事情は皆で口を合わせて知らぬ存ぜぬを通しましょう」

 澤先

「教師兼ヒーローに対して真正面から言う言葉じゃないな」

 精

「社会ってそういうものでしょう? 表向きに見せれるところがしっかりしていたら、後は結果を出せば誰もなにも文句言いませんよ。大衆が望むのは分かりやすい公言と結果です。オールマイトがそうだったように」

 

 パソコンと電話とキャシーに追われてるマイトがびくっと反応した。アイツが作った社会は悪いものではないが、改良する余地は幾らでもある。

 

 精

「結果を出してから報告してしまえば民衆は従うしかなくなります。マイトやキャシー、エンデヴァーにホークス辺りが報告したら十分でしょう」

 澤先

「相変わらず賢しい奴だなお前は……結果が出たらいいかもしれないが、出なかった場合はどうする?」

 精

「そもそも失敗することを考えるのはナンセンスです……それとも、また別の作戦を考えて俺が個人的にやりますというべきでしたか?」

 澤先

「分かった分かった。また雄英から抜け出されても困る」

 

 ついに澤先が折れて首を縦に振った。

 

 澤先

「ヒーロー活動の許可は俺の名前で出しておくから上手いことやってくれ」

 精

「ありがとうございます。今度お礼にマッサージとスイーツをプレゼントします」

 澤先

「……ほどほどに期待してるよ」

 

 澤先からの後押しを貰い、忙しそうなマイトの下に向かう。

 

 精

「始めるぜマイト! 作戦コード"ブラッディ・アリデーラー"だ! まずはホークスに電話を繋いでくれ!」

 

 

 九玉さん達の全国展開から大体2日が経ちました。九玉さん達やヒーローと協力して悪い敵を倒してちうちうするのはとっても楽しいですが、中々出久くんに会えなくてちょっとしょんぼりです。今は一旦アジトに戻って九玉さんの上に座って温まっています。九玉さんの"エネルギー変換"はちょっと寒い春先に大活躍です。

 

 渡我

「九玉さーん、出久くんどこですかねー?」

 九玉(分身)

「奴なら雄英だ……我の読みが外れてしまった、すまない」

 

 九玉さんも生きていますから失敗ぐらいします。でも、とっても深刻そうな顔をしているので気になってしまいます。

 

 渡我

「何かあったんですか、九玉さん?」

 九玉(分身)

「……我がアメリカNo.1に負けた」

 

 九玉さんの作戦でとても重要な部分が失敗していました。かあいくない顔になるのも納得です。

 

 九玉(分身)

「それどころか、死柄木とAFOを見失って制御できなくなった」

 

 説明されたことが難しくてよく分からなかったですが、弔くんとAFOさんが一緒になって、私達の知る弔くんではなくなってしまうそうです。悩みに悩んだ末、九玉さんは私のお団子ヘアーを両手でポヨポヨしだしました。

 

 九玉(分身)

「奴が本気で隠れたら見つけられない……これ以上我を展開していったら奴と我が接触する機会を布日宇町に増やしてしまう……何とかしてヒーローと我々の同盟を結ばないと……むっ、失礼」

 

 九玉さんのスマホにメッセージが届きました。発信元は出久くんでした。

 

 ヒーローと理の会で情報交換をしたいです。多古場競技場にホークスを送りますので、トガちゃんを向かわせてください。詳しい話はそこでします。このメッセージに気付き次第早急な対応をお願いします。

 

 九玉(分身)

「行くぞトガちゃん」

 渡我

「行きましょう九玉さん。行ってきます仁くん」

 トゥワイス

「行ってらっしゃいトガちゃん! おかえりなさい!」

 

 いってらっしゃいの反対はそれでいいのでしょうか、と思っているうちに"世界移動"で指定場所に着きました。そこではホークスさんがいつもの甘い缶コーヒーを暇そうに飲んでいました。こちらに気付き、空き缶を剛翼で捨てて挨拶してくれました。

 

 ホークス

「……お久しぶりですね、って程ではないですかね」

 九玉(分身)

「緑谷からのメッセージを貰った。要件を手早く頼む」

 

 ホークスさんが懐からスマホと赤黒い液体が一杯に入った500mlのペットボトルを取り出しました。そしてスマホで誰かに連絡を繋ぎ、こちらに向けました。そこには坊主になった出久くんが映っていました。

 

 緑谷

「久しぶりだねトガちゃん!」

 

 私はとても嬉しくなってぴょんぴょん跳ねました。

 

 渡我

「お久しぶりです出久くん! 早く色々お話ししたいです!」

 緑谷

「俺もそうしたいけど、まずは俺の作戦を聞いてくれないかな?」

 

 どうやら出久くんには秘策があるみたいです。大人しく静かにして聞きます。

 

 緑谷

「今からトガちゃんには俺の血を飲んでもらう。そして"変身"で俺の姿になって、"OFA"を継承してもらいたい」

 

 出久くんが言うには"OFA"は遺伝子を取り込んで継承できるスゴイ"個性"で、鍛えた体でないと扱えないそうです。そこで"血を飲んでその人に変身できる"私を選んだとのことです。

 

 緑谷

「そしたら俺は意識を失って、トガちゃんが変身して"OFA"を継承した俺に意識を移す。そして色々情報交換をするんだ」

 

 出久くんの体と"個性"があればそこに意識が宿るそうです。そして理の会の情報を手に入れて、"世界移動"を利用して雄英高校にその情報を伝え本来の出久くんに"OFA"を継承させる、とのことです。壮大な話過ぎて頭が沸騰しそうでしたが、私の力が絶対に必要だそうです。

 

 渡我

「よく分からないですけど、分かりました。私は出久くんの血を飲んで"変身"すればいいんですね?」

 緑谷

「そうなんだけど……この作戦でトガちゃんは一時的に"個性"を失うことになるんだ」

 

 私から出久くんに"OFA"を継承させる際に、私の"変身"も一緒に受け渡しちゃうみたいです。

 

 緑谷

「全部終わったら九玉さんの力を借りてトガちゃんに戻すつもりだけど、それでも協力してくれるかな?」

 

 いつか私の元に戻ってきてくれるなら問題ありません。でも、出久くんを試すために一つだけ質問しちゃいます。

 

 渡我

「……出久くんって私の何処が好きになったんですか?」

 

 出久くんが一瞬止まりましたがすぐにニコリと笑ってくれました。

 

 緑谷

「好きなものに対して嬉しそうに好きと言える所かな。自分の好きを堂々と言える人間は魅力的だからね」

 

 出久くんと話していると心が温かくなります。私も出久くんの事が好きです。早く出久くんの血を飲んで出久くんになりたいです。出来る事ならずっと出久くんをちうちうしていたいです。

 

 渡我

「協力します。それと、この作戦が終わったら恋人になってくれませんか?」

 

 私の質問に対して出久くんは再び止まりました。ただ、今回はゆっくりと目をそらしました。

 

 緑谷

「俺には彼女が6人いて、体の関係を持った女性が10人いて、ワンチャンスある女性が2人いる……それでも良ければいいけれど……」

 

 思っていたよりもすごい答えが返ってきました。でも、6人も付き合っていたら7人と付き合うのも変わらないと思います。それに、私ならではのエッチな事もできると思います。

 

 渡我

「問題ないです。交渉成立です」

 緑谷

「終わったら性交渉も成立させようね」

 

 私の好きを全力で受け止めてくれそうです。とっても楽しみです。ということでホークスさんから出久くんの血を貰って、早速ちうちうごくごくします。ちょっと冷たい鉄の味が口や鼻いっぱいに広がって、とっても幸せであっという間に全部飲んじゃいました。

 

 渡我

「おかわり欲しいです」

 緑谷

「マジの意味で干からびちゃうからまた今度ね。そしたら早速俺に"変身"してね。血を飲みなれてるから消化吸収が早いかもしれないからね」

 

 出久くんに言われたとおりに"変身"します。大好きな出久くんになれてとっても嬉しいです。

 

 緑谷(本物)

「完璧だね。後はスマホをホークスに返して九玉さんと一緒にアジトに戻って、そこからは俺に任せて。トガちゃんが作ってくれたまたとないチャンス、絶対に活かして見せるから」

 緑谷(渡我)

「お願いします。ホークスさん、いつでも帰ってきてくださいね」

 ホークス

「その声でその口調だと不気味でしかないですね……ヒーローと理の会が作っていく世界、見せてくださいよ」

 

 スマホを受け取って飛び立つホークスさんを見送って、アジトに戻りました。後は出久くんに全てを託します。

 

 九玉(分身)

「己の体を誰かに預ける……怖くはないか?」

 緑谷(渡我)

「ちょっと怖いです。でも、出久くんだから大丈夫です」

 

 好きな人が私の"個性"を頼ってくれる。今まで感じた事のない嬉しさはどんな不安もかき消してくれました。私が笑ったのを見て九玉さんもフッと軽く笑いました。

 

 九玉(分身)

「そうか。なら後は奴に任せるとしよう。トガちゃんを悲しませるようなことをしたら承知せぬぞ、緑谷」

 

 九玉さんに抱きかかえられながら温まっていたら、私の心の中に色んな人が流れ込んできました。こんな風に"OFA"を使うのはお前が初めてだとか、九代目は破天荒すぎるとか、相変わらず君は女性が好きなんだなとか、思わず飛び跳ねちゃいました。

 

 九玉(分身)

「大丈夫かトガちゃん?」

 緑谷(渡我)

「だ、大丈夫です。ちょっとびっくりしちゃっただけです」

 緑谷(本物)

(アンタらがしゃべると面倒だからしばらく黙っててくれ! トガちゃん! 聞こえてる!?)

 渡我

(聞こえていますよ。いろんな人がいるんですね)

 九玉(本物)

(本来の我もいるぞ。もはや"世界移動"にしがみついているだけになってしまったがな)

 

 なんかもうよく分からないですけど、出久くんの作戦通りに言っているみたいなのでオッケーです。早速出久くんに体を預けます。お願いします、出久くん──────任せなトガちゃん。

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