通信機から、シャリア・ブル中佐の声が聞こえる。シャリア中佐とこの部隊の任務は、一年戦争末期から行方不明である赤いガンダムとシャア・アズナブル大佐の捜索だ。そしてここサイド6に、赤いガンダムが現れた、というわけだ。そこでこの僕……最新
『赤いガンダムを止められるのは、同じ力を持つガンダムクアックスのみです。エグザベ少尉』
「オメガは特殊なサイコミュです。まず間違いなく僕には使えないと思われますが」
『少尉は、フラナガン・スクール首席の才能と伺っています。でなければ、貴重なサイコミュ起動デバイスを託したりしません……。あと、これ秘密作戦なので、もろもろよろしく』
「了解、現状で出せる限りの全力を絞り出します」
そして僕は内心で呟く。
(だからと言って、できるとは思えないけれどね。僕にジークアクスに搭載されているオメガサイコミュが使えないのは、まず確実なわけだし)
この内心の思念も、間違いなくシャリア中佐は読み取っているだろう。まったく、事実上の
『大丈夫、君も……ニュータイプ、でしょう?』
「いろいろ制限はありますがね」
僕はジークアクスに
「……エグザベ少尉、ジークアクス、出撃します!」
カタパルト起動。全身に強いGを感じ、僕の乗るジークアクス……ガンダムクアックスはサイド6リーア宙域の宇宙空間へと弾かれる様に飛び出した。
「秘密作戦、か。中佐は……いや、そうか。まだ戦争は終わってない、んだな。ミノフスキー粒子をこれだけばら撒いて……」
*
僕はジークアクスをデブリに隠し、サイド6『リーア』のイズマ・コロニーを見下ろすような位置で、赤いガンダムを視認していた。
(丸見えじゃないか。隠れようともしていない……)
僕はデブリ陰からジークアクスを離脱させると、停戦信号の信号弾を撃った。次の瞬間、赤いガンダムは両肩に搭載されていたビット合計2機を切り離し、警戒の様子を見せる。停戦信号を無視した以上、やるしかない、な。
「……オメガサイコミュ、起動!」
僕はオメガサイコミュの起動デバイスを、コクピットに付属のデバイススロットに叩き込む。次の瞬間、脳裏に稲妻が走る。赤いガンダムを母機として運用される機動砲台ビットは、サイコミュによる遠隔操作だ。だからこうも……。
(読み……やすいっ!!)
ジークアクスをシザースさせ、僕は赤いガンダムのビットが撃ったビームの
そして本体のガンダムが、ビームサーベルを抜きつつこちらへ
(シャア大佐じゃない、んだな!? く!)
こちらもジークアクスの左手でビームサーベルを抜き、それでガンダムのビームサーベルを受ける。メガ粒子をビーム刃の形に形成しているIフィールド同士が干渉し合い、互いのビーム刃が崩れて効果を失う。
僕はその隙に、右手のビームライフルを赤いガンダムの左肩に照準し、撃とうとした。しかしその瞬間、ガンダムの頭部バルカンが火を
「やはりオメガサイコミュは、ロックが外れないッ!」
ビームライフルが爆発を起こす。そして僕はフルマニュアル操作でジークアクスの右脚を前に振り出した。ガンダムの腹に、こちらの蹴りが決まる。
(シャア大佐じゃないからと言って、任務のためには撃墜するわけにもいかない。どうにか鹵獲するか降伏させて、尋問しないと)
必死に機位を立て直す赤いガンダムに追い打ちをかけようとした僕だったが、その瞬間あわてて再度ジークアクスをシザース機動させた。直前までジークアクスがあった場所を、ビットのビーム2本が通り過ぎて行く。
(ビームライフルを失ったのが痛い。あれがあれば、今の一瞬の隙をついて、ビットを撃墜できていたんだが)
ビットによるオールレンジ攻撃の対処の定石は……。
「近距離の格闘戦ッ!!」
僕はジークアクスを突撃させ、ガンダムに組み付かせる。ガンダムは逃れようとバーニアを噴射。結果、互いに制御を失って、ジークアクスとガンダムはイズマ・コロニーへと突っ込んで行った。
*
ジークアクスとガンダムが突っ込んだ場所は幸いにも、この古いコロニーの整備不良で弱体化していた外壁部分だった模様だ。僕らはコロニー内部の広大な空間に放り出されていた。そのときの激突の衝撃で、僕らの機体は引き剥がされている。
だが相手はビットのビームを撃って来ない。どうやらコロニー内でビームを撃つほど無思慮な無法者ではない模様だ。
「コロニーに開いた穴からの空気の流出はぁっ!?」
いや、幸いにも空気の流出はほとんど無い。ガレキや何やらで、穴は
僕はすれ違いざまにビームサーベル2刀を抜き、それをビットに突き刺した。しまった。普通に切り払えば良かった。あまりに至近距離を通り抜けたために、突き刺ししか方法が無くなってしまったのだ。接近する前に、切り捨てる事は可能であったのに。
結果として、ビット2機と引き換えに、ジークアクスのビームサーベル2本は爆発に飲まれて
(だが、徒手空拳でも!)
そして僕は、赤いガンダムの顎をジークアクスの掌打でカチ上げる。次の瞬間、再度自分のバカさ加減に頭が痛くなった。
(機械である
更にその上、ジークアクスの操縦桿から火花が散る。
(まずい! 練習機でわかってたはずなのに!)
僕の操縦に、
だけどこの赤いガンダムは、操縦系を
僕はどうにか、制御パネルの上のスイッチ類を入れたり切ったりして、直接に機体各部のバーニアを動かし、どうにかジークアクスを軟着陸させた。試験時の操作スイッチが残っている、試作機ならでは、だ。
と、そのとき脳裏に稲妻が走る。敵意、というよりも悪意に近い。
「まずい、サイド6の軍警だ」
2機のジオン軍払い下げザクが、高速で飛行しつつこちらへ向かって来る。コロニー内部ってのは勘違いされやすいんだが、無重力だから
そして軍警のザクはマシンガンを発砲。正気か? いや、この辺は見るからに、難民が不法に居住している地域だ。ボロボロの掘っ立て小屋、プレハブ、廃ビル。そこに住んでいる人間なんて、死んだって構わないんだろうさ。くそ。
内心の苛立ちをかみ殺しつつ、僕はほぼ操縦系が死んだジークアクス周辺にザクマシンガンが着弾するのを『感じ』ながら、一般的なコロニーの構造を頭に浮かべつつ操縦桿に頼らずに両腕のマニュピレーターを操作して、『地下』への通路の入り口を開放した。
*
『地下』にあるコロニー整備用トンネルの中にジークアクスを隠した僕は、とりあえずジークアクスを応急処置するためにコクピット外へ出た。本来の操縦系が死んでいても、試作機故の各種制御スイッチ類を駆使すれば、ソドンへ戻ることも可能かも知れない。ただそれも、その制御系の配線が無事であれば、だ。
うん、配線ちょっと戦闘で切れてるんだよな。メインの制御系は厳重に装甲されてるけど、試作機故の予備配線はそれこそ組み立て中のテストとかだけしか使わない予定の代物だ。というか、取り外されてしかるべき物であって、これが残っていたのは管理側の
そういうわけで、あっちこっち切れた配線繋ぎ直そうとコクピット外へ出たんだが。
「コックピット閉じない……」
操縦系死んでるせいで、こんな悪影響まで。どうしたものか。……!? この振動!!
ゴゴオオオン!!
そして凄まじい振動と共に、緑のザクが落ちて来た。それを追って、もう1機。こちらは軍警のザクだ。軍警の青黒いザクは緑のザクを叩き伏せると、こちらへ……ジークアクスへと視線を向ける。
『そのパイロットスーツ……。ジオンがコソコソと何してんだ!』
やれやれ、秘密作戦は失敗ですよシャリア・ブル中佐。いくら僕でも、この至近距離で生身でザクマシンガンを受ける気にはなれない。切り札を切れば、どうにでもなるけれど、さ。
僕は両手を上げる。降参のポーズだ。
「降伏する。だけど官姓名と認識番号、それ以外は話せない。あとの事は、上と交渉してくれ。僕は下っ端だ。話す権限も無いし、話したら軍法会議さ。軍警なら、わかるだろ?」
『ち……。余計な事をするなよ? 今応援呼んで……』
その時だった。倒れていた緑のザクがいきなりバーニアとスラスター全開で、軍警のザクに飛び掛かったのだ。そして両者はもつれ合って倒れる。緑のザクのコクピットが開き、人影が飛び出して来る。その人影は、少女に見えた。
少女は緑のザクがこちら……ジークアクスに差し伸べた手を伝って、疾走する。そしてジャンプ。その後を、白いハロ型マスコットロボットが追っているのを、僕の目ははっきりと捉えた。その1人と1台は、ジークアクスの開きっぱなしで閉じる事のできないコクピットハッチの向こうへと跳び込んだ。
「な!」
そしてジークアクスのマスクが跳ね上がる。隠されていたカメラアイが、
「オメガサイコミュが、起動している!?」
操縦系他の損傷で開きっぱなしになっていたハッチが、音を立てて閉じた。軍警の青黒いザクが立ち上がる。
『抵抗するかあああぁぁぁ!!』
そしてザクマシンガンを発砲。ジークアクスはシールドをかざして防ぐ。いや、そんなことしなくても、ジークアクスの装甲ならザクマシンガンぐらい耐えるけど……。いや、現実逃避だ。わかってる。
突進する軍警ザク。それを高跳び選手の様な挙動で飛び越えるジークアクス。僕が操縦している間は、それなりに格闘技の達人の様な動きが出来ていたはずだ。ガンダムの顎を掌底でカチ上げた時とか。
だがあそこまで生物的な動きではない。あくまで
ジークアクスはその生物的な挙動のままに、緑のザクが取り落としたヒートホークを拾い上げると、その灼熱する刃を軍警ザクの後ろ腰に叩き込んだ。軍警ザクは一瞬で機能停止する。
そこへ響く地響き。軍警の
『よくも俺の
少女が操縦するジークアクスは、整備用トンネルの奥へ逃走して行く。新たな軍警ザクは発砲しつつ、それを追って走る。そして弾丸がどこか致命的な場所に命中したのか、エアロックの開閉機構が壊れて開き出した。
まずい、空気が流出してる。僕は急ぎ、壁の非常口へと逃げ込んで扉を閉めた。一息
だけど終わって無い。現状では使えないニュータイプの感覚に頼る意味も無い。はっきりとした足音やざわめき声や怒声、空気の揺れ動く感覚、そういった諸々が複合されて感じられる『気配』……。けっしてニュータイプの超感覚的な物が捉えた『気配』とはまったく別の意味合いの『気配』が、『彼ら』の存在を僕に教えてくれる。
やがて彼ら……。軍警の歩兵部隊が現れ、僕に銃を向ける。僕は両手を上げて、再度同じ事を言った。
「降伏する。だけど官姓名と認識番号、それ以外は話せない。あとの事は、上と交渉してくれ。僕は下っ端だ。話す権限も無いし、話したら軍法会議さ。軍警なら、わかるだろ?」
とぼけたところで、僕はジオン宇宙軍仕様のパイロット用ノーマルスーツを着用している。それにこいつらは殺気立っているし。仮に服装がそこいらの物で巻き込まれた一般人を装っても、なんだかんだで連行されるだろう。
シャリア中佐、申し訳ないんですが、あとの事はお願いします。
エグザベ君の色々改変物です。性格だけじゃないです。この変わりようには、もちろん裏もあります。
だけど今の段階では、原作からそう離れてません。しばらくその予定です。