Xavier the Superman   作:雑草弁士

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第11話 二度と近づかないでもらえるかな

 僕の乗るギャンは、一気に数千光年の瞬間移動(テレポート)で太陽系は地球の軌道上に浮かぶなんか良く知らない巨大施設内部へと出現する。そこはMS(モビルスーツ)数機が入れそうな広大な劇場であった。

 そこで僕が目にしたものは、舞台に立ってビーム銃を乱射するキシリア様、そのビームを受け止めているジフレドの掌、そしてジフレドの掌と自身の張ったサイコバリアに護られて、頭を抱え(うずくま)っているニャアンの姿だった。一瞬、頭に血が上りかける。だがその感情を抑えつけ、僕は瞬時にニャアンの傍らに瞬間移動(テレポート)する。

 

 

「ニャアン! ニャアン、僕だ!」

 

「う、う……。あ、え、えぐざ、べ、しょうい……?」

 

「ああ僕だ。……助けに来たよ」

 

 

 キシリア様は、背後に僕のギャンが出現したのに気付いていなかった模様。まあ瞬間移動(テレポート)での出現だし。彼女も頭に血が上ってたみたいだし。ただ、さすがに眼前の標的、ニャアンの傍らに僕が出現したらソレには気付いた様だ。一瞬ぎょっとして、直後ビーム銃を更に連射して来た。

 まあ、僕やニャアンのサイコバリアとジフレドの掌で、ビームはまったく通ってないんだけどね。そして焦点の合ってなかったニャアンの瞳が、急にくっきりと僕を認識する。次の瞬間、ニャアンは僕に抱き着いて来た。彼女は涙声で叫ぶ。

 

 

「えぐざべしょうい! えぐざべしょういいいぃぃぃ!! もう、もうやだあああぁぁぁ! もうやだよおおおぉぉぉ!」

 

「……」

 

「!?」

 

 

 僕は無言で、ニャアンを抱きしめて頭を撫でる。キシリア様は、ニャアンが『子供の様に』泣き喚くのを目の当たりにして、ぎょっとした様だ。ビーム銃の連射が止まる。まあ、ニャアンの表向きのイメージからは、ぜんぜん合わないからなあ。

 

 

「あのね、あのね。いおまぐぬっそをうったら、なんかいっぱいひとがしんでね。それでしんだひとのこえがひびいてきて。こわかった。きもちわるかった。さいど2のときのことおもいだして。そしたら、まちゅがおそってきて」

 

「うん」

 

「そしたら、しゅうちゃんでてきて。おっかけたら、ここにでて。しゃあってひとと、きしりあさまがいて。きしりあさまに、おこられて。そこにまちゅが。きしりあさま、まちゅにびーむうって。なんとかとめなきゃって。あたま、わけわかになって」

 

「うん」

 

「きづいたら、けんじゅううってて。もうわけわかで。きしりあさまにあたっちゃって。それで、きしりあさま、びーむうって。なんでこうなっちゃうの。もうやだ。もうやだよ」

 

「うん」

 

 

 ひたすらに、僕はニャアンの頭を撫でる。キシリア様は、信じられないものを見るかの様に僕とニャアンを見つめている。ビーム銃のエネルギーが切れたのか、それとも撃つ気をなくしたのか、気が削がれたのか、キシリア様はもう発砲していない。

 そしてニャアンはぐすぐすとしゃくり上げながら、ぐちゃぐちゃの顔で涙を流し続ける。僕は左手にポケットティッシュを取り寄せ(アポート)て、ニャアンの顔を拭き、鼻をかませた。そして僕はキシリア様に顔を向ける。

 

 

「……やってくれましたね。こんな子供に、(むご)いことを。こんな事なら僕が逃げたとき、ニャアンが貴女のためにもこちらへ残ると言っていたのを無理にでも、連れて逃げるんでしたよ。ほんとに僕は馬鹿だ。愚か者だ」

 

「わたしのために、だと?」

 

「ああ、気にしてるのはニャアンが貴女を勢いで撃ってしまった事ですか。貴女の自業自得でしょう」

 

 

 僕はニャアンが無自覚に発している精神波や、過去知(パストコグニション)残留思念感知(サイコメトリ)で、何が起こったかはほぼ理解している。

 

 

「シャリア中佐の民間協力者になってただけの女の子を、シャア大佐が連れて逃げたってだけでシャア大佐の仲間だと思い込んで。そしてその娘がまた現れたからって、殺そうと銃撃して。その娘はですね、ニャアンにとって喧嘩別れしたけど、それでも大事な大事な友達だったんですよ。大事なキシリア様が、大事な友達を撃ち殺そうとしてる。なんとか止めなきゃ。そうしてパニックになって、思わず撃っちゃった、ってだけなんですよ」

 

「……」

 

「いざというとき、躊躇(ためら)わずに撃て、って教えたのは貴女でしょう? そうやって貴女の都合の良い様にニャアンを仕向けておいて。それでその教え通りにニャアンが撃ったらそれを責めるって、なんなんです」

 

「くっ」

 

 

 血の流れる脇腹を押さえつつ、キシリア様は苛立たし気な視線を向けて来る。

 

 

「だいたい、貴女ニャアンを何だと思ってるんです。この子に兵士なんて出来るわけないでしょうが。馬鹿ですか。ああ、頭のいい馬鹿ってのは、こういうもんですか」

 

「何だと?」

 

「あのですね。ニャアンは11~12歳頃にサイド2が滅びて、プチモビでサイド2脱出して、それから天涯孤独で1人で生きて来たんです。幸いというか、ニュータイプとしての『能力』があったから、悪意ある大人とかの餌食にならなかったんですが。だけど逆説的に、そういう事情があったから孤児とかのコミュニティにも、面倒を見てくれる大人たちにも、出会う事が無かった。エレメンタリースクールも卒業することなく、就学の機会も奪われた。……彼女の精神性、11~12歳から成長できるわけ無いじゃないですか。大人びた言動は、周囲の悪意から身を護るために覚えただけですよ」

 

「!?」

 

「難民舐めないでくださいよ、ザビ家っていうスペースノイド有数の名家のお嬢様。貴女、ニャアンの事を難民って厳しい状況下に置かれながらジオン工科大目指している気概ある女傑とでも思ってたんですか? まさか、ですよ。

 何度も言いますが、難民舐めないでください。この子にそんな考え持てるような余裕あるわけないでしょう。理想とか将来とかより、目先のご飯、目先の寝床、そんな生命維持に直結してる願い、いや願いなんてもんじゃないか。死にたくないって恐怖だけです。まあそれでも生きてるだけ、難民の中では幸運な方なんですが」

 

 

 目を見開くキシリア様を、僕は感情のこもらない目で見つめる。ニャアンはぐずりながら、僕の腕にしがみついていた。

 

 

「ニャアンが欲していたのは、自由なんかじゃない。もっとそれ以前のもの。今日を生きのびられる安全、今日のご飯、単純にこれから先も生きていたいって思い。彼女を庇護してくれる、愛情。ニャアンがジオン工科大を志望していたんだって、学位取れれば永住権が貰えて、少し生きやすくなるからに過ぎません。

 だけどエレメンタリースクールも卒業してないのに、高度な知識なんて無い。絶対に解けないどころか文章の意味すらわからない問題集に感じた絶望感。貴女には分からない。それでも想像する事ぐらいはできていて欲しかった」

 

「……なるほど。わたしは随分と思い違いをしていたわけか」

 

「貴女はニャアンを娘の様に思っているのかも知れない、と仰った。だから僕は、貴女がニャアンに欠けていた、愛を与えてくれると思った。思ってしまった。……僕は、とんだ愚か者でしたよ」

 

 

 その時、どやどやと現場になっている劇場へ、多数の兵士が走り込んで来る音が聞こえる。いや、気配とか既に感知はしていたんで、分かっていたけどさ。ニャアンが身体をビクッと震わせる。僕はその頭を優しく撫でた。少しずつ、ニャアンが落ち着きを取り戻すのが皮膚感覚で感じられる。

 兵士たちを率いているのは、確かキシリア様の側近か何かのマリガンとか言う士官だ。彼は僕らを見ると、血相を変える。

 

 

「貴様!? エグザベ少尉!? 撃て、キシリア様をお守りしろ!」

 

「待て、マリガ……」

 

 

バババババババババババン!! バババババババババババン!! バババババババババババン!!

 

 

 キシリア様が、マリガンを制止しようとするが、自動小銃の連射音がその声をかき消した。ニャアンがビクッと縮こまるが、僕は彼女に可能な限り優しく語り掛ける。

 

 

「大丈夫。あたりはしないから」

 

「……うん」

 

 

 うん、僕らはジフレドが巨大な掌で護ってくれてるし。それをすり抜けて来る銃弾も、僕のサイコバリアを突破できるわけがない。だけど、ニャアンが怯えている。その事に、怒りを感じる。

 それに……。八つ当たりに近いけれど、まあ僕は自分が正義だとか思ってないし。ニャアンはキシリア様の命に従って、相手が軍人、軍属とは言え、大量の人を殺させられた。今後彼女の心が成長して、その事実をはっきり認識した時。手を汚していない者の言葉がニャアンに届くだろうか。

 僕は、極めて個人的かつ極めて自分勝手な理由で、自分の手を汚す事にした。ああ、僕はまったく師匠に及ばない。師匠の教えを、半分も活かすことができていない。

 

 

「ちょっと目を瞑ってて。すぐ終わらせるから」

 

「うん……」

 

 

 ニャアンがきつく目を閉じる。そして僕は、思念を集中した。キシリア様が驚愕の表情になる。まあ、そうか。キシリア様も、ニュータイプ『能力』の片鱗ぐらいは覚醒してたもんな。

 おそらくキシリア様からは、僕の気配が爆発でもした様に思えただろう。僕が一瞬で無数に放った、一般人には視えないサイコバレットが、マリガンたちに降り注ぐ。

 

 

「マリガン!」

 

 

 キシリア様の叫びが聞こえる。だがそれに応える声は無い。静かに、本当に何の音も無く、マリガンを始めとした兵士たちはその命を散らす。そこにあるのは、僕に命を奪われた(しかばね)の山。僕は大きく溜息を吐いた。そして僕は、言葉を紡ぐ。

 

 

「ニャアン、もう目を開けてもいいよ」

 

「うん……」

 

「エグザベ少尉、貴様……。やってくれたな」

 

「キシリア様、いえキシリア・ザビ。言いましたよね、こういう事したら『怒る』って。僕は貴女を見限りました。もう貴女なんかどうなってもいいです。今貴女をマリガンたち共々殺さなかったのは、ニャアンの心を気遣っただけです。

 わかりませんか? ニャアンが本気で貴女を殺そうとしていれば、今頃貴女はジフレドのビットのビームで消滅させられているか、ジフレドの手に潰されてミンチよりひどい状態になってるって事を。でもニャアンはそれをしないで、ひたすら貴女の撃つビームに耐えていた」

 

 

 僕はキシリアを見つめる。いつも通りの表情。いつも通りの視線。表面上はまったく普段と変わらない、いつもの僕。だけどただ唯一いつもと違うところは、全力の精神感応(テレパシー)で意図的にキシリアを威圧したところだ。抱きしめてるニャアンにそれが伝わらない様に、徹底的に指向性を持たせて、キシリアだけを威迫する。

 キシリアが息をのむ。両眼を見開く。顔面は、脇腹の銃創による苦痛のためだけではなく、だらだらと流れる汗にまみれている。今彼女は、自分の死でも幻視してるんじゃなかろうか。というか、普通の人間だったらショック死しかねない威力で思念を送り込んだし。

 ぶっちゃけた話、人間の範疇に居るなら、耐えるのは無理なんだよな。キシリアがいかに強靭な精神してるかは知らない。相手の精神読んでソレを計ることもできなくもないけど。この人の精神を読むのは正直嫌だ。苦痛だ。気持ち悪い。だったら、こうやって相手の精神破壊しかねない威力で精神波で威圧、叩き潰した方がいい。

 ああ、もうどうだっていい。この人に抱いていた好意的な感情は、もはや霧散した。もう見限った。僕は師匠ほど温厚じゃない。

 

 

「そういえば、貴女がニャアンに言った台詞、ですよね。『恨みなど晴らしてしまえば、そこで終わり』でしたか? ……いい言葉ですね。僕もサイド5(ルウム)の恨み、さっさと晴らして楽になろうかな」

 

「貴様! 何をするつもりだ!」

 

「……今のところは、何も? 何か思いついたら、実行します」

 

 

 僕は何の感情も乗せていない、空っぽな瞳でキシリアを見遣る。そして言い放った。

 

 

「あんたが生きようが死のうが、もう関係ない。知らない。気にしない。どっかで好きに生きて、好きに殺されろ。

 ……二度とニャアンに近づかないでもらえるかな」

 

「……」

 

 

 キシリアはそのまま劇場の出口の方を向いて、ゆっくりと威厳を保って歩き出す。その根性だけは物凄いな、とは思う。脇腹に銃弾で穴開いてるし。僕の精神感応(テレパシー)で威圧され、恐ろしいほどの恐怖を味わってるはずだし。

 だがキシリアは劇場から出て、僕らから視線が通らなくなると、限界を超えた様だ。血の流れる脇腹を押さえ、今の彼女にできる限界の速度で、転がる様にして逃走。脇腹の苦痛で時折よろめきながら、よたよたと走って逃げて行く。

 ニャアンはぐずぐずと泣きながら、それでもキシリアが去った方へ頭を深く下げる。僕はまたぐしゃぐしゃのビショビショになった彼女の顔を拭き、鼻をかませてあげた。

 

 

 

*

 

 

 

 今僕とニャアンは、ギャンの操縦席(コクピット)に相乗りしている。ニャアンを1人にはできなかったからだ。ペットロボットのコンチも、ニャアンについて来ている。巨大な通路を歩くギャンの後ろには、ジフレドが無人のまま、忠犬の様に付き従っていた。カッパサイコミュをニャアンが遠隔で制御し、ギャンの後ろを歩かせているんだが。

 だがその瞬間、僕の超感覚(ESP)に激烈な怖気(おぞけ)が走る。膝の上に座って僕に(すが)りついていたニャアンの身体も、硬直する。

 

 

「えぐざべしょうい……。みえ、た。これって……」

 

「なんだ、この白いMS(モビルスーツ)は。そしてこれ、『シャロンの薔薇』って言葉が脳裏に浮かびあがって来たけど。なんだ、この不安は」

 

 

 まだ終わって無い。キシリアを切り捨てて、あとはシャリア中佐と連絡取ってマチュ君とニャアンの和解の道筋付ければこれで終わるかと思っていたんだが。だが、まだ全然終わってなんかいない。終わってなんか、いなかった。僕とニャアンの目には、その冷酷な事実がはっきりと『視えて』いたんだ。




野上良太郎『二度とリュウタロスに近づかないで』

いや、これをやりたかっただけの回。あとニャアンの幼児退行というか本性が出たというか。リュウタもニャアンも子供だし。
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