Xavier the Superman   作:雑草弁士

12 / 14
第12話 白いガンダムの脅威

 超感覚(ESP)の網を周囲の空間に張り巡らせ投影しながら、僕はギャンを走らせていた。そのすぐ後ろには、無人のジフレドが付き従う。

 

 

「……思念を幾つか拾えた。おおよその事情も。『向こう側』の世界とやらで、一年戦争でシャア・アズナブル大佐を白いMS(モビルスーツ)に殺されたことで暴走した、シャア大佐の恋人であるニュータイプ『能力者』の少女、ララァ・スン……。そしてシャア大佐が殺されない世界を実現するためだけに、幾多もの世界を創り、失敗するたびに滅ぼして来た」

 

「そんな……。しゅうちゃ、ん、が」

 

「ああ、そしてララァ・スンのために世界を直接的に滅ぼして来たのが、『向こう側』からやって来た少年、シュウジ・イトウ。ララァを苦しめないために、シャアの救済に失敗して苦しむララァを殺す事で、その世界を終わらせて、そして世界を最初からやり直させる」

 

 

 冗談じゃない、そっち側の事情で世界ごと滅ぼされろって言うのか。他の者たちに、僕らに、何の関係がある。ララァ・スンの境遇に同情も共感もしよう。だからって、許せる範囲を超えてるよ。自分の目的のために、イオマグヌッソで地球滅ぼそうとしたキシリアと、何が違う。いや、対象が世界そのものなだけ、より悪質だ。

 そして唐突に発生する地響き。いやここは地球の軌道上に浮かぶソーラレイ施設、イオマグヌッソだから、地響きと言うのは違うが。イオマグヌッソの根幹部が、割れつつある。拾った思念を解析した結果によれば、これはシャア・アズナブル大佐がシロウズと名を変えて、『シャロンの薔薇(バラ)』ララァ・スンを『向こう側』の世界へと強制送還するために施した仕掛けによるものだ。

 だがそれにより、この世界と『向こう側』の世界が繋がった。それは僕らの超感覚(ESP)にも強く強く感じられる。そして『向こう側』の世界から『何か』がこの世界にやって来た。何かしら、強圧的なパワーを感じる。残留思念感知(サイコメトリ)による情報収集。これは……『向こう側』の世界のMS(モビルスーツ)、RX-78-2『ガンダム』だ。

 乗っているのは、僕自身は面識が無いけれど、シュウジ・イトウか。この『白いMS(モビルスーツ)』でララァ・スンを殺し、この世界を崩壊させ消滅させてやり直しするつもり、か。

 

 

「!! キシリアさま、が……」

 

「……討たれた、か」

 

「……」

 

 

 右手で操縦桿を操作しつつ、悄然とするニャアンを左手で抱きしめる。同時に僕は、頭脳を必死で回転させた。

 千里眼(クレアボヤンス)で『視』たところ、キシリアを討ったのは赤いガンダム、その搭乗者であるシャア・アズナブルの様だ。その背後にMA(モビルアーマー)としては小さめの機体、キケロガが浮遊している。ソレからは、シャリア・ブル中佐の気配が感じられた。

 次の瞬間、キケロガから幾条ものビームが撃ち放たれ、それを赤いガンダムがぎりぎりで(かわ)す。

 

 

(私にはわかる! 貴方がジオンを率いるのは危険だ! 貴方はいつか、キシリア様のように地球に住む人類の粛清にたどりつく! 貴方のまとう虚無が、そう言っている!)

 

(未来でも見てきたような言い様だな!)

 

 

 まずいかもしれない。シャリア中佐には、まだ頼みたい仕事が山の様にあるんだ。だが中佐からの思念……。精神感応(テレパシー)で受け取った思念では、彼は死を賭して、いや死を前提にして、ニュータイプ能力者たちのために命を使い尽くそうという身勝手な覚悟が感じられる。

 一瞬、シャリア中佐とシャアの間の戦いに介入しようかという考えが浮かんだ。だがそのとき、僕の脳裏にはシュウジ・イトウの白いMS(モビルスーツ)、RX-78-2とガンダムクアックス……マチュ君のジークアクスがビームサーベルで切り結ぶイメージが映し出される。

 並列思考(マルチタスク)を最大限に展開し、僕は様々な可能性を計算した。『シャロンの薔薇(バラ)』、向こう側の世界のMA(モビルアーマー)『エルメス』、そのパイロットが目覚めるまでの予想残り時間。シャリア中佐とシャアの決着がつくまでの予想残り時間。そして何より重要度が高いのは、シュウジ・イトウの白いガンダムとマチュ君のジークアクスの戦いだ。『シャロンの薔薇(バラ)』を殺されてしまっては、少なくとも僕らのこの世界は『終わって』しまう。

 

 

「……駄目だ。全部僕だけでやるのは無理だ。くそ……」

 

「……」

 

「……シュウジ・イトウのガンダムを、少しの間だけでも制止()めていられたなら」

 

 

 

パン!!

 

 

 

「!?」

 

 

 突然ニャアンが、ぞの両(てのひら)で自分の顔を挟み込むように叩いた。高く音がして、わずかにその頬が赤みを帯びる。彼女ははっきりとした口調で、叫ぶように言った。

 

 

「エグザベ少尉! わたしが、わたしがシュウちゃんを足止めします!」

 

「!! ……頼める、かい?」

 

「はい!」

 

 

 次の瞬間、コンチごとニャアンの姿が燐光に包まれて消失する。瞬間移動(テレポート)だ。ニャアンとコンチは一瞬にしてジフレドの操縦席(コクピット)へと転移する。そしてジフレドが僕のギャンに向かって敬礼をし、もっとも近場の出口に向けてスラスターを開いた。

 僕は僕で、一拍遅れてギャンを発進させる。とりあえず目的は、シャリア・ブル中佐とシャア・アズナブルの交戦している宙域だ。中破しているMS(モビルスーツ)用エアロックから、僕は白いギャンを飛翔させた。

 

 

 

*

 

 

 

 赤いガンダムがバズーカを撃つ。グレーと紫のキケロガがそれをAMBAC(アンバック)で躱しつつMS(モビルスーツ)部分の手足の先からビームを撃ち放った。赤いガンダムはその射線を手足の間をくぐらせる様にして、ぎりぎりで躱す。

 

 

(アルテイシア様を擁立(ようりつ)する手筈は整っている!)

 

(シャリア!)

 

 

 シャリア中佐とシャアは、思念で絶叫しつつ相手に殺意を叩きつけ合う。僕としてはシャリア中佐は可能なら無傷で救いたいし、シャア・アズナブルも今しがた『使い道』を思いついたから生きたまま確保したい。……やるか。

 

 僕は、精神感応(テレパシー)を全開にして、戦い合う人に叩きつけた。ニュータイプ能力者である2人が受信しやすい様に、ミノフスキー粒子との共鳴現象も利用して。

 

 

(やめるんだ! 今そんな事をしている場合じゃない!!)

 

((!!)エ、エグザベ君!?)

 

 

 キケロガと赤いガンダムの動きが鈍る。僕はそこを狙って、2機をサイコバリアで捉え、捕えて包み込んだ。

 

 

(エグザベ君! これは君が!?)

 

(!! ……君は、何者だ!?)

 

(シャリア中佐、今は時間が無い。貴方がシャア・アズナブルを生かしておけない気持ちは重々分かる。アルテイシア……様? ああ、シャア・アズナブルの妹様なんですね)

 

((何故それを!))

 

(思考が、だだ漏れです。アルテイシア様を擁立するのに、いまさらシャアさんに出て来られても地球圏に混乱を招くだけだと言うのもわかります。シャアさんがいては、いわゆるオールドタイプの粛清、抹殺に動くであろう事も、理解しますよ。

 シャアさんの側も、不確定な未来を根拠にして殺されてはたまらないのも分かりますし、自分が、自分こそが、ニュータイプ『能力者』たちを、そして人類を、救わねば、と意気込むのも理解できなくもない)

 

 

 そして僕は、凄まじいまでの危機感を思念波に込めて、2人に語り掛ける。

 

 

(だがそんな事、言ってる場合じゃない。この『世界』そのものの危機なんだ。あの白い『向こう側の世界』のガンダム……。シュウジ・イトウの駆るあの機体が、『シャロンの薔薇(バラ)』を、それに乗るパイロット、ララァ・スンを殺してしまえば。この世界は消滅する。そしてまた一方で、『シャロンの薔薇(バラ)』の少女(ララァ)が目覚めてしまえば、それはそれでこの世界と『向こう側の世界』が危機に陥るらしい。それは看過できない)

 

((……)わたしに、いや、わたしたちに何をせよ、と? エグザベ君とか言ったね?)

 

(『シャロンの薔薇(バラ)』は、そっちは僕に考えがある。僕がどうにかする。だから、今マチュ君とニャアンが必死で制止()めている、足止めをしている、『向こう側の世界』のガンダムを足止めして欲しい。彼女たちに協力して。

 シャリア中佐、今後のシャアさんの処遇に関しては、ニュータイプ『能力者』たちの未来と共に、僕に『プラン』があります。この危機が落ち着いたら、ちゃんとお話しします。ですから今は……)

 

(……わたしは、了解した。シャリア、貴様はどうだ?)

 

(……わたしも了解です。シャア大佐、貴方の理性ではなく、エグザベ君を信じましょう)

 

 

 そして先ほどまで死にものぐるいで殺し合っていたのかが嘘の様に、MA(モビルアーマー)形態に変形したキケロガに掴まってシャアの赤いガンダムが、この場を立ち去って行く。目標はニャアンとマチュ君が死力を振り絞って戦っている、白いガンダムだ。

 だが、おそらく彼らは勝てない。あの白いガンダムは、単に『向こうの世界』から送り込まれて来た代物ではないと考えられる。僕の『感覚』からすれば、あれは『シャロンの薔薇(ララァ・スン)』がこの宇宙を生み出したプロセスを辿り、その流れに乗って生成した存在だろう。

 

 だから……。

 

 

(逃げなさい!)

 

(え!?)

 

(そのモビルスーツはこの世のものでは無い! 独りでは無理だ!!)

 

 

 あんな……『あんな事』が、起きる。『こんな事』が起こせる。白いガンダムが、スパークを纏って巨大化して行く。巨大に、巨大に。馬鹿みたいに巨大に。

 現場に到着したシャリア中佐とシャア・アズナブルも唖然とする。ニャアンとマチュ君も、驚愕の色を隠せない。だが超感覚(ESP)的にあの中で一番優れているニャアンが、僕との訓練や色々な経験で精神感応(テレパシー)的感覚が最も優れているニャアンが、一瞬で理解して全員に警告を飛ばす。

 

 

(みんな! ()けて!!)

 

(((!!)))

 

 

 全員の機体が一斉に散じるのが『視』える。キケロガが一瞬前まで存在した空間を、超絶に巨大なビームサーベルの刃が(よぎ)っていくのが『視』える。

 一方で僕のギャンは、ようやくの事で残骸の群れを回り込み、あるいは回避し、あるいは破壊して、どうにか目的の場所へと到着していた。眼前には、緑色のとんがり帽子……。MA(モビルアーマー)エルメスが鎮座している。僕の超感覚(ESP)によれば、これが目覚めるまでにはさほど時間が無い模様。

 

 

「……やるか」

 

 

 僕が乗るギャンの周囲に、黒い、黒い、漆黒のエネルギー球体が幾つも、幾つも浮かび上がる。これはエネルギー吸収ボール。瞬間移動(テレポート)ができる超能力者(エスパー)なら、誰でも作れる。空間をテレポート能力で『ひねって』作り出すモノだ。

 これには様々な使い方、使い道があるのだが、今この場で必要なのはエネルギー吸収ボールには、『亜空間フィールド』と等しい性質がある、という事なのだ。僕は作り出したエネルギー吸収ボールをエルメス、『シャロンの薔薇(バラ)』の周囲に丁寧に、緻密に、繊細に、まるで幾何学模様の様に並べて行く。

 そして僕は超能力(サイキック)波動を収束し、何本も一気に放つ。それらは別々のエネルギー吸収ボールに吸い込まれ、そして別個のエネルギー吸収ボールから再度出現、またも別のエネルギー吸収ボールへと突っ込んで行った。僕はそのまま連続して超能力(サイキック)波動を放ち、『シャロンの薔薇(エルメス)』の周囲は輝きで満ちる。

 

 ……シュウジ・イトウの叫び声が聞こえた。

 

 

(ララァ!? あんた、ララァに何をする!)

 

(シュウジ! 話を聞いて!)

 

(シュウちゃん!)

 

(僕の、僕の邪魔をしないでくれ! 僕は彼女にこれ以上傷ついて欲しくないだけなんだ! 僕の望みはただ一つ、それ以外は、それ以外はいらない!!)

 

 

 シュウジの咆哮が、宇宙に響き渡った。




『失敗した』宇宙を、『シャロンの薔薇(ララァ・スン)』をその宇宙で殺す事で消し去り、『新たな』宇宙を始めさせようとするシュウジ。しかしその『失敗した』宇宙にも生きている人はいるし、苦しみつつも前に進む人はいる。
エグザベは『シャロンの薔薇(エルメス)』を前に、何を企んでいるのか。彼はこの宇宙を、どう軟着陸(ソフトランディング)させるつもりなのか。いやもしかしたら、硬着陸(ハードランディング)するかもしれないし、着陸ソレ自体に失敗するかもですが。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。