巨大な白いRX-78-2ガンダムが、必死になって宇宙空間からイオマグヌッソ内部に戻ろうとする。だがニャアンのジフレド、マチュ君のジークアクス、シャリア中佐のキケロガ、シャア・アズナブルの赤いガンダムが即席とは思えない連携を取ってそれを許さない。
(やめろ! やめてくれ! 何を、何をララァにするつもりなんだ!)
(彼女を殺して、この宇宙そのものをリセットしようとする奴の言う事ではないな!)
シャアの赤いガンダムが、バズーカを白いガンダムの頭部に放つ。その巨大さ故にバズーカを避けきれず、しかしその巨大さ故にか『
僕はその様子を遠隔で
(何を、何をするつもりだ!!)
(
(な!?)
僕は一瞬だけシュウジ・イトウの思念に返答を返す。そして僕は……。時空を超えて、『向こう側の世界』に存在する、眠り夢見るララァ・スンの『本体』を、
眼前にある概念体の『
そして二重写しになった『存在』が『一致』する。この技術は、僕の『
(貴様! あんた! 何を、何をした!?)
シュウジ・イトウの悲鳴が響く。それはそうだろう。彼がこの世界でララァ・スンを殺し、世界をリセットできるのは、あくまでララァ・スンの『本体』が『向こうの世界』に存在し、そこでこちらの世界の事を『夢見て』いるからだ。……つまり『本体』がこちらの世界に来てしまったからには、もうシュウジ・イトウはララァ・スンを、『
そして半狂乱になったシュウジは、猛烈に白いガンダムを暴れ出させる。その左手、ビームサーベルを持っていない方の巨大ガンダムの手が、ニャアンのジフレドを捕えて握り潰そうとした。
(ああっ!?)
(ニャアン!!)
(!! まずい!!)
ニャアンの悲鳴と、そしてマチュ君の悲鳴が重なる。僕も焦った思念を放った。それはそうだ。僕が『
中途半端なまま、この場を放棄して現地に駆けつければ、ニャアンを救う事は一時的になら叶うかもしれない。しかしこの世界そのものの特異点である、『
だから僕は、この場を放置して駆けつける事はできない。それをやってしまっては、一時的にニャアンを救えても結局のところすべてが滅び去り、ニャアンも死ぬどころか『消える』ことになる。何か別の手段をもってして、ニャアンを救わねばならない。僕は今現在で割ける限りの意識容量を割いて、それで生成できる限り強大な
(があああぁぁぁぁっ!?)
シュウジ・イトウの絶叫が響き、巨大ガンダムの右手に握られていたビームサーベルが飛来する
*
だが、それだけで事足りた。
*
ニャアンの思念が叫ぶ。
(う……。うなあああぁぁぁっ!!)
((((な!?))))
(あ、あ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーー!!)
(ニャアン!? 何!? ニャアンまで!?)
(う゛な゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーッ!!)
ニャアンのジフレドが、
巨大ガンダムは、必死に超巨大ジフレドの掌から逃げ惑う。だが超巨大ジフレドは逃がさない。掌だけで数キロメートルはあるソレは、先ほどとまったく逆に、楽々と巨大ガンダムを捕える。
(……嫌な……嫌な臭い。はーっ……。はーっ……)
荒い息遣いが、思念波に乗って周囲に撒き散らされる。この超巨大ジフレドは、本物のジフレドを核にして膨張、増幅された、ジフレドの形をしたサイコバリアだ。そしてサイコバリア故に、この世ならぬ存在である巨大ガンダムの構造にも……『干渉』できるのだ。
ミシ……。メリ……。ギシギシギシ……。
(ふーっ、ふーっ……)
(うあ……。ぐああ……)
(ニャ、ニャアン! やめ、やめて! シュウジが、シュウジが死んじゃう!)
マチュ君の悲鳴が、思念に乗って響き渡る。だがニャアンの耳には届いていない。先ほど握り潰されかけた恐怖で、完全にキレている。僕は
(ニャアン……。大丈夫だ。僕はここにいる。僕がここにいる)
(はーっ。はーっ。ふはーっ……。え、エグザベ、しょう、い)
(ゆっくり深呼吸だ。そして、よく『視』て。君が右手に掴んでいるもの)
(あ、えっ……)
超巨大なジフレドは、ゆっくりと右掌を開く。そこにはかなりひしゃげてはいるが、なんとか原型を保っている巨大ガンダムが存在していた。それには頭部と、左腕が無い。そして巨大ガンダムは、機体のあちこちにある傷跡からエネルギーを噴出し、その大きさをどんどん縮めて行く。
(あ、わ、わた、し……。また、また、あたまワケワカにな、って)
(大丈夫。まだ間に合う。間に合った。ほら、深呼吸して)
超巨大ジフレドが、周囲にエネルギーを噴出しつつ崩れていき、その中枢部から本体のジフレドが姿を現した。シャア・アズナブルの赤いガンダムがシュウジ・イトウの白いガンダム首と左腕無しを拿捕し、動きが取れないように絡め捕る。僕は、あらためて
(ニャアン、大丈夫だ。君はシュウジ・イトウを、シュウちゃんを殺さなかった。ちゃんと止まるのが、間に合ったんだ。大丈夫、君はマチュにシュウちゃんを、返してあげたかった。そうだろう?)
(……うん。うん。マチュとシュウちゃんに顔向けできないこと言っちゃったけど、せめて。せめて)
(え、ニャアン……。わたし、に、シュウジ、を?)
(大丈夫。僕は『味方』だ。君も、どうにか間に合った)
(エグザベ少尉……)
(うん。……うん)
((((……))))
ニャアンの思念が落ち着いて来た。僕はその場の面々に
(シュウジ・イトウを、『
(大丈夫なのですか、エグザベ君?)
(……この状態の『
(((((……)))))
半壊した白いガンダムを、赤いガンダムとジークアクスが挟み込むようにして、
*
通信可能距離に来たので、ジークアクスからのマチュ君の声が、はっきりと聞こえる。ミノフスキー粒子の濃度は異様に濃いが、僕の超能力で粒子の挙動が制御されているので通信障害はほとんど無いも同然だ。
『ララァの声が、『
「今、彼女は『夢も見ない』レベルで深く眠ってもらっている。つまりこの宇宙は、彼女の精神から切り離されて
『……なるほど。それでかつての改造ジオン軍服姿にされていたわたしの姿が、スーツ姿に戻っているのか』
シャアの声が聞こえる。僕はギャンを操ってジフレドの隣に立たせた。
「ニャアン、悪いけど手伝って欲しいんだ。僕は『
『わかった。同調すればいいのかな』
「そうだね」
『……何をするつもりだ』
赤いガンダムとジークアクスに引きずられる様にしてこの場にやってきた、白いガンダムから、シュウジ・イトウの声が通信で響く。僕はそれにさらっと答えた。
「見ていれば、わかるさ」
そして僕とニャアンは、超能力を全開にして精神を同調させた。ニャアンは先ほどジフレドを超巨大化させたことでもわかる様に、『
その2人が同調して超能力を行使すれば、どうなるか……。答えは、コレだ。鎮座する『
『『『こ、これは!?』』』
「別の宇宙、僕は便宜上『外の宇宙』と呼んでいますがね。そこへの『
『『『『!?』』』そ、それは!?』
「何か? シュウジ君」
『それじゃあ、ララァは、ララァはその力の全てを失ってしまうことに!』
僕は頷く。
「ニュータイプ能力者は、その能力のほとんどが呼応するミノフスキー粒子の存在に掛かっている。つまりミノフスキー粒子の存在が無い、外側の宇宙に送り込まれれば、ララァ・スンは『宇宙を創る』事も『宇宙を改変する』事もできない、ただほんのちょっと勘が鋭い程度の、低位の
……何か、問題があるかい?」
『な!』
「チカラを失えば……。宇宙を創る事ができなくなれば……。『夢』を見る事ができなくなるならば……。彼女は否応なしに、『現実』に向き直る事になる。彼女の『シャア大佐』を喪なった事、もう2度と手に入れる事は叶わない事、を」
『『……』』
『それは! それはあまりにも! 待て、待ってくれ!』
『ね、ねえ。ねえ! エグザベ少尉、だったよね! それ、あんまりにも……』
「……断るよシュウジ君。ララァ・スンには同情しよう。ララァ・スンを苦しませたく無いと苦闘の日々を送って来たシュウジ君、君にも同情しよう。だけど、そこまでだ。
君は、大事な物のためなら、他はどうだっていい、んだろう? 僕もあまり変わらないんだよ。大事な物のためならば、ニャアン、シャリア中佐、ニャアンの大切なマチュ君、コモリ少尉やラシット艦長のようなソドンの皆……。他にも幾ばくか居るけれど、せいぜいその辺だが。そのために、『
『くっ……』
『
「……で、君はどうする?」
『……僕も行くよ』
『『『『!?』』』』』
「そうか。だけど、マチュ君はどうするんだい? 本当に『どうでもいい』のかい? 『どうでもいい』と思い込んでいるだけ、じゃないのかい?」
『くっ……』
ギャンの操縦席のモニターに、苦悶の表情を浮かべるシュウジの顔が映し出される。……たぶん、自分でもわかっていない。だけど、マチュ君を残したまま『外の世界』へ行ってしまっては、間違いなくシュウジ・イトウは重く、重く、後悔をするだろうね。僕はギャンの首とモノアイを、ジークアクスへと向けた。
『わたしも! わたしも行く!』
『な、マチュ!?』
『……』
ニャアンの瞑目する姿が、ギャンのモニターと僕の脳裏に映し出される。限りない哀切の念が、伝わって来る。
「……行くなら、早くしてくれ。僕とニャアンの2人がかりでも、そう長くは『
ああ、本当に。本当に僕は師匠に及ばない。こんなとき、適切な慰めの言葉も、ニャアンに贈ってやれないんだ。
『……!!』
白いガンダムが上半身と下半身を分離させ、コクピット部分のコア・ファイターを射出する。それは一瞬で『
『……ニャアン! 『またね』!!』
それに対し、泣き笑いの表情でニャアンが応えた。
『ちがうよ、マチュ。わたしには判る。これは『さよなら』だよ』
『!! ……そっ……か。ごめん、ニャアン。ごめんね。『さよなら』!!』
『……『さよなら』、マチュ』
ジークアクス……ガンダムクアックスが、『
ジフレドのハッチを強制解放すると、そのコクピットでニャアンが膝を抱えて泣いていた。ヘルメットのシールドが、裏側から涙で曇りびしょ濡れになっている。ペットロボットのコンチ、今となっては3人で居た時代の思い出の
『さよなら』と言ったのを『ちがうよ、またね、だよ』と訂正するパターンはよくありますが、本作では逆に行ってみました。
あと、本作ではあえてマチュとシュウジの決着は着けさせませんでした。ミノフスキー粒子が存在せず、それ故に『解かり合う』のに言葉しか無い、『向こうの宇宙』ではない『外の宇宙』で、ニュータイプ能力の大半を封じられた少年と少女はどうやって解かり合うのか、それとも解かり合えないのか。
ミノフスキー物理学が通用しない『外の宇宙』なので、エンデュミオン・ユニットも発動しません。つまり助言者が居ないのです。それどころかミノフスキー・イヨネスコ型熱核反応炉も、内包しているミノフスキー粒子を使い尽くしたら動きません。電池が切れるまでに『外の宇宙』にいる人類の宇宙船に発見してもらわねばなりません。地味にピンチだったりします。
それと、シャアとシャリア・ブルが最後空気でした。でも彼らは大人なので、空気を読んで出しゃばらなかった事もありますが。