Xavier the Superman   作:雑草弁士

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第13話 永遠に、さよなら

 巨大な白いRX-78-2ガンダムが、必死になって宇宙空間からイオマグヌッソ内部に戻ろうとする。だがニャアンのジフレド、マチュ君のジークアクス、シャリア中佐のキケロガ、シャア・アズナブルの赤いガンダムが即席とは思えない連携を取ってそれを許さない。

 

 

(やめろ! やめてくれ! 何を、何をララァにするつもりなんだ!)

 

(彼女を殺して、この宇宙そのものをリセットしようとする奴の言う事ではないな!)

 

 

 シャアの赤いガンダムが、バズーカを白いガンダムの頭部に放つ。その巨大さ故にバズーカを避けきれず、しかしその巨大さ故にか『現世(うつつよ)』の物でないが故か、毛ほどの傷も付かない白いガンダム。

 僕はその様子を遠隔で透視(クレアボヤンス)しながら、『シャロンの薔薇(エルメス)』の周囲に展開したエネルギー吸収ボール(あくうかんフィールド)同士を超能力(サイキック)の波動で結びつけ共鳴させる。『シャロンの薔薇(ララァ・スン)』を起点にして、周辺時空が鳴動する。

 

 

(何を、何をするつもりだ!!)

 

呼び寄せ(アポート)、さ)

 

(な!?)

 

 

 僕は一瞬だけシュウジ・イトウの思念に返答を返す。そして僕は……。時空を超えて、『向こう側の世界』に存在する、眠り夢見るララァ・スンの『本体』を、MA(エルメス)ごとこちらの世界に引きずり込んだ。

 眼前にある概念体の『シャロンの薔薇(エルメス)』と、『向こう側の世界』から僕が引きずり込んだ『MA(エルメス)』がオーバーラップする。二重写しになる。その外縁部がボヤける。

 そして二重写しになった『存在』が『一致』する。この技術は、僕の『師匠(ちょうじんロック)』が『外の世界』へと帰って行った際に用いた手法を、僕なりに再現、改変したものだ。この世界を起点に、『他所の世界』から『存在』を引き込んだり、逆に押し出したりする技術。

 

 

(貴様! あんた! 何を、何をした!?)

 

 

 シュウジ・イトウの悲鳴が響く。それはそうだろう。彼がこの世界でララァ・スンを殺し、世界をリセットできるのは、あくまでララァ・スンの『本体』が『向こうの世界』に存在し、そこでこちらの世界の事を『夢見て』いるからだ。……つまり『本体』がこちらの世界に来てしまったからには、もうシュウジ・イトウはララァ・スンを、『シャロンの薔薇(ララァ・スン)』を殺して世界をリセットできない。できやしない。

 そして半狂乱になったシュウジは、猛烈に白いガンダムを暴れ出させる。その左手、ビームサーベルを持っていない方の巨大ガンダムの手が、ニャアンのジフレドを捕えて握り潰そうとした。

 

 

(ああっ!?)

 

(ニャアン!!)

 

(!! まずい!!)

 

 

 ニャアンの悲鳴と、そしてマチュ君の悲鳴が重なる。僕も焦った思念を放った。それはそうだ。僕が『シャロンの薔薇(ララァ・スン)』本体を呼び寄せ(アポート)したのは、まだやるべき事の半分程度でしか無い。今、この場を放棄してニャアンの元に駆けつけるわけにはいかないのだ。

 中途半端なまま、この場を放棄して現地に駆けつければ、ニャアンを救う事は一時的になら叶うかもしれない。しかしこの世界そのものの特異点である、『シャロンの薔薇(ララァ・スン)』をこの不安定な状態のまま放置すれば、確実にこの世界の『終わり』に繋がる。

 だから僕は、この場を放置して駆けつける事はできない。それをやってしまっては、一時的にニャアンを救えても結局のところすべてが滅び去り、ニャアンも死ぬどころか『消える』ことになる。何か別の手段をもってして、ニャアンを救わねばならない。僕は今現在で割ける限りの意識容量を割いて、それで生成できる限り強大な光の剣(サイコスピア)を、『遠隔で』『間の距離を無視して』巨大なガンダムに投げつける。

 

 

(があああぁぁぁぁっ!?)

 

 

 シュウジ・イトウの絶叫が響き、巨大ガンダムの右手に握られていたビームサーベルが飛来する光の剣(サイコスピア)を打ち払う。僕が全力を出せていたなら、打ち払ったビームサーベルごと巨大ガンダムを完全消滅させられていたはずなのだが。

 

 

 

*

 

 

 

 だが、それだけで事足りた。

 

 

 

*

 

 

 

 ニャアンの思念が叫ぶ。

 

 

(う……。うなあああぁぁぁっ!!)

 

((((な!?))))

 

(あ、あ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーー!!)

 

 

 念動力(サイコキネシス)によるサイコバリアがジフレドの周囲に集中し、ジフレドを握りしめる巨大ガンダムの左拳を徐々に押し広げて行く。そしてこの世の物質ではないはずの巨大ガンダム左拳が、内側から炸裂する様に砕け散った。

 

 

(ニャアン!? 何!? ニャアンまで!?)

 

(う゛な゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーッ!!)

 

 

 ニャアンのジフレドが、(いかずち)を纏った。スパークがそこかしこに走り、その姿が急速に巨大化していく。ジフレドは、あっという間に巨大ガンダムと同等の大きさになった。しかし、止まらない。ジフレドは更に巨大化して行く。巨大ガンダムの大きさは数百メートルから下手をするとキロメートル単位だろう。だがジフレドの大きさはそれどころではない。

 巨大ガンダムは、必死に超巨大ジフレドの掌から逃げ惑う。だが超巨大ジフレドは逃がさない。掌だけで数キロメートルはあるソレは、先ほどとまったく逆に、楽々と巨大ガンダムを捕える。

 

 

(……嫌な……嫌な臭い。はーっ……。はーっ……)

 

 

 荒い息遣いが、思念波に乗って周囲に撒き散らされる。この超巨大ジフレドは、本物のジフレドを核にして膨張、増幅された、ジフレドの形をしたサイコバリアだ。そしてサイコバリア故に、この世ならぬ存在である巨大ガンダムの構造にも……『干渉』できるのだ。

 

 

ミシ……。メリ……。ギシギシギシ……。

 

 

(ふーっ、ふーっ……)

 

(うあ……。ぐああ……)

 

(ニャ、ニャアン! やめ、やめて! シュウジが、シュウジが死んじゃう!)

 

 

 マチュ君の悲鳴が、思念に乗って響き渡る。だがニャアンの耳には届いていない。先ほど握り潰されかけた恐怖で、完全にキレている。僕は精神感応(テレパシー)でニャアンに優しく話し掛けた。

 

 

(ニャアン……。大丈夫だ。僕はここにいる。僕がここにいる)

 

(はーっ。はーっ。ふはーっ……。え、エグザベ、しょう、い)

 

(ゆっくり深呼吸だ。そして、よく『視』て。君が右手に掴んでいるもの)

 

(あ、えっ……)

 

 

 超巨大なジフレドは、ゆっくりと右掌を開く。そこにはかなりひしゃげてはいるが、なんとか原型を保っている巨大ガンダムが存在していた。それには頭部と、左腕が無い。そして巨大ガンダムは、機体のあちこちにある傷跡からエネルギーを噴出し、その大きさをどんどん縮めて行く。

 

 

(あ、わ、わた、し……。また、また、あたまワケワカにな、って)

 

(大丈夫。まだ間に合う。間に合った。ほら、深呼吸して)

 

 

 超巨大ジフレドが、周囲にエネルギーを噴出しつつ崩れていき、その中枢部から本体のジフレドが姿を現した。シャア・アズナブルの赤いガンダムがシュウジ・イトウの白いガンダム首と左腕無しを拿捕し、動きが取れないように絡め捕る。僕は、あらためて思念波(テレパシー)を送った。ニュータイプ能力者たちにもよく聞き取れる様に、ちょっとばかり細工をして。

 

 

(ニャアン、大丈夫だ。君はシュウジ・イトウを、シュウちゃんを殺さなかった。ちゃんと止まるのが、間に合ったんだ。大丈夫、君はマチュにシュウちゃんを、返してあげたかった。そうだろう?)

 

(……うん。うん。マチュとシュウちゃんに顔向けできないこと言っちゃったけど、せめて。せめて)

 

(え、ニャアン……。わたし、に、シュウジ、を?)

 

(大丈夫。僕は『味方』だ。君も、どうにか間に合った)

 

(エグザベ少尉……)

 

(うん。……うん)

 

((((……))))

 

 

 ニャアンの思念が落ち着いて来た。僕はその場の面々に思念波(テレパシー)で話し掛ける。

 

 

(シュウジ・イトウを、『シャロンの薔薇(エルメス)』の前に連れて来てください)

 

(大丈夫なのですか、エグザベ君?)

 

(……この状態の『彼女(ララァ・スン)』を殺したら、本当の意味でララァ・スンが死ぬ事になります。シュウジ・イトウにはララァ・スンを本当の意味で殺せるわけが無い)

 

(((((……)))))

 

 

 半壊した白いガンダムを、赤いガンダムとジークアクスが挟み込むようにして、()ぶ。それを千里眼(クレアボヤンス)で『視』つつ、僕は『シャロンの薔薇(エルメス)』の周囲に、更に追加のエネルギー吸収ボール(あくうかんフィールド)を展開して行った。

 

 

 

*

 

 

 

 通信可能距離に来たので、ジークアクスからのマチュ君の声が、はっきりと聞こえる。ミノフスキー粒子の濃度は異様に濃いが、僕の超能力で粒子の挙動が制御されているので通信障害はほとんど無いも同然だ。

 

 

『ララァの声が、『シャロンの薔薇(ララァ)』から何も、聞こえない……』

 

「今、彼女は『夢も見ない』レベルで深く眠ってもらっている。つまりこの宇宙は、彼女の精神から切り離されて独立(スタンドアローン)状態になっているって事だね」

 

『……なるほど。それでかつての改造ジオン軍服姿にされていたわたしの姿が、スーツ姿に戻っているのか』

 

 

 シャアの声が聞こえる。僕はギャンを操ってジフレドの隣に立たせた。

 

 

「ニャアン、悪いけど手伝って欲しいんだ。僕は『超人ロック(ししょう)』ほど強力な超能力者(エスパー)じゃないから、『外の世界』への『(ゲート)』を開くのは流石につらいんだ。できないわけじゃないけど」

 

『わかった。同調すればいいのかな』

 

「そうだね」

 

『……何をするつもりだ』

 

 

 赤いガンダムとジークアクスに引きずられる様にしてこの場にやってきた、白いガンダムから、シュウジ・イトウの声が通信で響く。僕はそれにさらっと答えた。

 

 

「見ていれば、わかるさ」

 

 

 そして僕とニャアンは、超能力を全開にして精神を同調させた。ニャアンは先ほどジフレドを超巨大化させたことでもわかる様に、『師匠(ちょうじんロック)』のライバルとも言えたロード・レオンやライオット・アレクセイに匹敵する、惑星破壊可能レベルの超能力者(エスパー)であるし、僕は僕で『師匠(ちょうじんロック)』には流石に及ばないと思うがSクラスに充分相当する超能力(チカラ)を持っている。

 その2人が同調して超能力を行使すれば、どうなるか……。答えは、コレだ。鎮座する『シャロンの薔薇(エルメス)』の直上に空を引き裂く様にして、闇の空間が現れる。これは『(ゲート)』だ。『(ゲート)』の向こう側に、真空であるが故にまったく(またた)かない星々の輝きが見える。

 

 

『『『こ、これは!?』』』

 

「別の宇宙、僕は便宜上『外の宇宙』と呼んでいますがね。そこへの『(ゲート)』ですよ。……『向こうの世界』ではなく、ミノフスキー粒子の存在しない、ミノフスキー物理学が成り立たない、物理学が異なる似て非なる宇宙」

 

『『『『!?』』』そ、それは!?』

 

「何か? シュウジ君」

 

『それじゃあ、ララァは、ララァはその力の全てを失ってしまうことに!』

 

 

 僕は頷く。

 

 

「ニュータイプ能力者は、その能力のほとんどが呼応するミノフスキー粒子の存在に掛かっている。つまりミノフスキー粒子の存在が無い、外側の宇宙に送り込まれれば、ララァ・スンは『宇宙を創る』事も『宇宙を改変する』事もできない、ただほんのちょっと勘が鋭い程度の、低位の超能力者(エスパー)に成り下がる。

 ……何か、問題があるかい?」

 

『な!』

 

「チカラを失えば……。宇宙を創る事ができなくなれば……。『夢』を見る事ができなくなるならば……。彼女は否応なしに、『現実』に向き直る事になる。彼女の『シャア大佐』を喪なった事、もう2度と手に入れる事は叶わない事、を」

 

『『……』』

 

『それは! それはあまりにも! 待て、待ってくれ!』

 

『ね、ねえ。ねえ! エグザベ少尉、だったよね! それ、あんまりにも……』

 

「……断るよシュウジ君。ララァ・スンには同情しよう。ララァ・スンを苦しませたく無いと苦闘の日々を送って来たシュウジ君、君にも同情しよう。だけど、そこまでだ。

 君は、大事な物のためなら、他はどうだっていい、んだろう? 僕もあまり変わらないんだよ。大事な物のためならば、ニャアン、シャリア中佐、ニャアンの大切なマチュ君、コモリ少尉やラシット艦長のようなソドンの皆……。他にも幾ばくか居るけれど、せいぜいその辺だが。そのために、『シャロンの薔薇(ララァ・スン)』に今のまま存在してもらっていては、困るんだ」

 

『くっ……』

 

 

 『シャロンの薔薇(ララァ・スン専用MA)』に向き直り、僕は念を凝らす。『シャロンの薔薇(エルメスのララァ)』はふわりと浮き上がり、そして展開された『(ゲート)』へと突入してその向こうへと移動した。僕はシュウジ・イトウに問う。

 

 

「……で、君はどうする?」

 

『……僕も行くよ』

 

『『『『!?』』』』』

 

「そうか。だけど、マチュ君はどうするんだい? 本当に『どうでもいい』のかい? 『どうでもいい』と思い込んでいるだけ、じゃないのかい?」

 

『くっ……』

 

 

 ギャンの操縦席のモニターに、苦悶の表情を浮かべるシュウジの顔が映し出される。……たぶん、自分でもわかっていない。だけど、マチュ君を残したまま『外の世界』へ行ってしまっては、間違いなくシュウジ・イトウは重く、重く、後悔をするだろうね。僕はギャンの首とモノアイを、ジークアクスへと向けた。

 

 

『わたしも! わたしも行く!』

 

『な、マチュ!?』

 

『……』

 

 

 ニャアンの瞑目する姿が、ギャンのモニターと僕の脳裏に映し出される。限りない哀切の念が、伝わって来る。

 

 

「……行くなら、早くしてくれ。僕とニャアンの2人がかりでも、そう長くは『(ゲート)』を保てない。……僕はまだまだ全然、師匠(ちょうじんロック)には及ばないんでね」

 

 

 ああ、本当に。本当に僕は師匠に及ばない。こんなとき、適切な慰めの言葉も、ニャアンに贈ってやれないんだ。

 

 

『……!!』

 

 

 白いガンダムが上半身と下半身を分離させ、コクピット部分のコア・ファイターを射出する。それは一瞬で『(ゲート)』に飛び込んだ。それを追って、ジークアクスが()ぼうとして、一瞬躊躇した。マチュ君が、ニャアンに向かって叫ぶ。

 

 

『……ニャアン! 『またね』!!』

 

 

 それに対し、泣き笑いの表情でニャアンが応えた。

 

 

『ちがうよ、マチュ。わたしには判る。これは『さよなら』だよ』

 

『!! ……そっ……か。ごめん、ニャアン。ごめんね。『さよなら』!!』

 

『……『さよなら』、マチュ』

 

 

 ジークアクス……ガンダムクアックスが、『(ゲート)』の向こうへと消えた。周囲を浮遊していたエネルギー吸収ボール(あくうかんフィールド)を消滅させて、僕はギャンの操縦席(コクピット)ハッチを開放、ジフレドへと飛ぶ。瞬間移動(テレポート)したいところだったが、流石にもう疲労困憊だ。

 ジフレドのハッチを強制解放すると、そのコクピットでニャアンが膝を抱えて泣いていた。ヘルメットのシールドが、裏側から涙で曇りびしょ濡れになっている。ペットロボットのコンチ、今となっては3人で居た時代の思い出の(よすが)であるソレが、電子音を甲高く鳴り立てて、必死で慰めている。……僕は彼女の震える肩を、強く抱きしめた。




『さよなら』と言ったのを『ちがうよ、またね、だよ』と訂正するパターンはよくありますが、本作では逆に行ってみました。

あと、本作ではあえてマチュとシュウジの決着は着けさせませんでした。ミノフスキー粒子が存在せず、それ故に『解かり合う』のに言葉しか無い、『向こうの宇宙』ではない『外の宇宙』で、ニュータイプ能力の大半を封じられた少年と少女はどうやって解かり合うのか、それとも解かり合えないのか。
ミノフスキー物理学が通用しない『外の宇宙』なので、エンデュミオン・ユニットも発動しません。つまり助言者が居ないのです。それどころかミノフスキー・イヨネスコ型熱核反応炉も、内包しているミノフスキー粒子を使い尽くしたら動きません。電池が切れるまでに『外の宇宙』にいる人類の宇宙船に発見してもらわねばなりません。地味にピンチだったりします。

それと、シャアとシャリア・ブルが最後空気でした。でも彼らは大人なので、空気を読んで出しゃばらなかった事もありますが。
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